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『EUの農業交渉力』(農村漁村文化協会、2000年10月)

(1) 「毎日新聞」(2000年12月24日)

書評者が選ぶ2000年『この3冊』 - 京都大学名誉教授経済学 伊東光晴

ガットのウルグアイ・ラウンドへの交渉にOECDに籍をおいていた人がとらえ、切り込んだ研究。フランスのしたたかさがよくわかる。日本も学びたい。


(2) 「農林水産図書資料月報」(2001年1月号)

(京都大学大学院農学研究科教授  加賀爪優)

本書の著書、篠原孝氏は、ガット・ウルグアイラウンドの交渉が大詰めを迎えた時期(1991年7月から1994年7月までの3年間)に、パリのOECD日本政府代表部に勤務し、現地のお膝元から交渉の成り行きを具に観察してきた。著者はそれ以前から農林水産省の各部局で、常に何らかの形で国際交渉に関与してきた経歴を持っている。本書は、その経験に基づいて書き下ろされたものである。それ故、類書を見ない臨場感に溢れる内容となっている。

……著書によれば、本書の目的は、「ウルグアイ・ラウンドの交渉におけるEUの動きを明らかにするとともに、その間の共通農業政策(CAP)改革の動きを追うことである」。また本書の特徴は、ガット事務局の膨大な資料に依拠し、克明に整理した図表を使っていること、交渉過程の中心人物をクローズアップしていることである。

……EUの巧みな交渉術を持ち上げる余り、わが国の交渉姿勢に対しては、硬直的で、決まりかけたルールを四角四面に受け止め、防戦に徹するのみと、評価を下している。わが国に対する厳しい論調はこれにとどまらない。産業界、マスコミ、国民性までに及んでおり、フランスとの対比を強調する形でことあるごとに辛辣な注釈が加えられている。それだけに本書にかける筆者の意気込みがひしひしと感じ取られ、読者に殊の外アピールする度合いを増している。

……EUのウルグアイ・ラウンド農業交渉の巧妙さが、見事に浮き彫りにされ、まるで推理小説のように登場人物の性格、発言内容とその狙いおよび効果に至るまで劇的に描写され、極めて迫力がある割には、それからの教訓としてまとめられている事項がやや月並みすぎる印象を受ける。

しかし最後の土壇場(1993年12月の前半2週間)の駆け引きの攻防を実に40ページ以上にわたって詳細に追跡している描写は圧巻である。これは冒頭で指摘したように、現場で数年にわたって定点観測してきた筆者にしかできない離れ業である。交渉の裏にある各国の陰謀めいた腹のうちと凌ぎ合いについて、推理小説を思わせるようなタッチで描写されている。若干探りすぎではないかと思われる程の生々しさではあるが、制度の理論的説明に終始した堅苦しい研究者の書物とは一味違うユニークな書物である。今後のWTO交渉の行方を探る上で必読の書であり、ぜひ一読をお薦めしたい。