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近くて遠い国、韓国 ―韓EU FTAの波紋と日本の突然のTPP参加検討 -10.10.29-

<突然の慌しい韓国出張>
韓国がEUとのFTAの正式署名をし、来年の7月から米の16品目(関税分類)を除いて10年以内に関税ゼロにして自由化されることになった。韓国は膨大な農業予算を使って、農業政策を講じながらチリ、米国、EU等と次々にFTAを締結してきた。この関係で、鹿野大臣から私は、突然9・10・11の三連休の間の韓国出張を命じられた。
韓国も9・10の土日は休みなので、日本の連休の11と12の2日間で行ってきたが、12日の夜大事な会合があるため、実質的には1日半という本当に忙しい出張であった。

私は、長らく国際関係の仕事をしているが、韓国とは縁が無く、30年間の農林水産省の勤務の間、ついに一度も韓国に出張することはなかった。国会議員になってから日韓米議員交流会で、これまた慌しい一泊二日の韓国出張があったが、どうも韓国とは縁遠いようである。
 韓国では5人、正確にいうと5つのグループの皆さんからじっくり話を伺った。韓牛協会、韓国農協中央会、FTAを推進した梨花女子大学教授、私が最後に勤めた農林水産政策研究所長のカウンターパートにあたる韓国農村経済研究院の院長、そして最後は韓国農林食品部の第一次官である。ビックリしたことに、全員が「韓国は農業が大事だ。しかし、今のところ国益のためにある程度我慢している」穏やかな答だった。そして一番反対していいはずの農協中央会から「今、対策が講じられているので当面静かにしている」という傍観振りだった。これが正直意外だった。

<日韓、本物の双子>
韓国の農業の現状を見ると日本と瓜二つである。ウルグアイラウンドの頃は、2カ国揃って、米は自由化出来ないと言うことを行っていたので“Ugly Twin”(醜い双子)というあだ名がついていた。その双子ぶりは相変わらずである。
自給率が韓国は最近10年間で53%から44%に減っている。ただ一昨年は米の大豊作で48%に上がったというが、自給率の低落傾向は変わらない。90年と比べると、農地面積は211万ha.から178万ha.と減り、農家人口は177万戸から120万戸と減り、65歳以上の農業従事者は高齢化している。何もかもが瓜二つで、まさに本物の双子といえる。

<韓国の危険な試み>
違いは、両国のFTAに対する態度である。韓国は、盧 武鉉政権の頃から、舵を大きく切ったようにみえる。つまり、韓国はある意味では、香港・シンガポールの延長線上の国でいいと決断したのかもしれない。日本と違って人口は4000万ほどで国内市場は限られている。北朝鮮という危うい隣国を抱えている。そうした中でのやむにやまれない方向転換かもしれないが、非常に危険な試みであると思う。

<韓国FTA36% 日本16%>
チリとのFTAが最初であった。日本とも似ている。失礼であるが、あまり影響の大きくない国である。しかし、その後が違っていた。アメリカとのFTA交渉に入り、なんと2007年には米の16品目を除き、合意にこぎ着けている。そして次がEUである。従って、大きな貿易相手国の中では、日本と中国を除き、貿易の36%がFTAの範囲に入るという突出振りである。ちなみに日本は最近のインドまで12カ国と結んでいるが、FTAの範囲は16%にすぎない。

<米国の突然のTPP参加検討宣言>
 米国はまさか韓国とFTAを結べるなどとは思っていなかったのであろう。政府は署名したが議会の承認が得られないまま棚晒しである。自動車工業界やその他の工業界が韓国製品の大量の輸入を恐れ、承認しようとしていない。オバマ大統領は、この11月中旬、日本のAPECの前に開かれる韓国ソウルでのG20前には承認を得たいとは言っているが、雲行きは怪しいものである。
その一方で、オバマ大統領は中間選挙もあり、昨年秋に輸出を倍増させると宣言し、あまり関心のなかったTPP(環太平洋経済連携協定)に参加すると宣言し、10年3月から交渉を始めている。そして、日本にもこれが波及した。10月1日、臨時国会の菅総理の所信表明演説に突然「TPP交渉等への参加を検討し、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を目指す」という文言が入った。

<党内の根回し、調整不足>
これを押し進めるべきだと主張する朝日新聞の社説は、TPPという名前に馴染みが無かったことから、“太平洋FTA”という珍妙なタイトルで社説を書いた。それほどTPPは知られていなかったのだ。もちろん鳴り物入りでスタートした民主党の政調部門会議では、どこの部門会議でもただの一度も議論されたことが無い。部会できちんと議論が行なわれたうえで政策が決定されていた、自民党政権ではありえないことである。当然、何も知らされていなかった党内にも波紋が広がった。根回し、調整の欠如は否めない。
慌しい日程であったが、帰ってきた日には予算委員会が開かれており、翌日13日には宮腰光寛議員の質問を受けることになった。この詳細についてご関心のある方は、衆議院のビデオライブラリーでご覧いただきたいが、私は見てきたことを素直に説明した。

<韓国農業界の漠然とした不安>
韓国は満足しているかということについても、3つの観点から不安を持っていると答えた。一つ目は、農村経済研究院の研究者が計算した数字であるが、影響を受ける値が小さすぎるということ。二つ目はまだ実際に自由化されていなくて対策が講じられているが、実際自由化された場合にはその2倍から3倍の予算が必要であること。三番目は規模拡大・競争力の強化ということで必死に取り組んでいるが、いくら拡大したところで、米国、オーストラリアと抗していけることにはならないのではないかという、日本でも当然提起される疑問である。それからTPP推進派に嫌味に聞こえたかもしれないが、韓国はTPPに入る気持ちは毛頭なく、二国間で自由が利き、例外ももてるFTAでいくという戦略を持って取り組んでいる。

<9カ国に増えたTPP交渉国>
TPPはこれまた失礼にあたるが、シンガポールやブルネイといった小国、4カ国(他にNZ、チリ)が全ての物品の関税を10年以内にゼロにすると約束して協定を結ぶという自由化度の高い協定である。ブルネイに酒、タバコ、小火器とかいう宗教上の例外はあるがほとんど例外は認められていない。そこに米国、オーストラリア、ベトナム、ペルーの4カ国が加わり、最近マレーシアが加わって9カ国が2ヶ月に1回交渉を始めている。

<理屈のない日本のEPA・FTA>
日本はというと、つい最近インドとのEPAの合意にこぎ着け、12カ国と結んだが、貿易量の16%にしか達しない。私は3年間の外務委員会の間に、この点についても質問し、稲田朋美さんや野党時代の菅直人さんばりのきつい汚い言葉(?)で「日本は結びやすい国とだけしか結んでいない。何の哲学も無いということで、『入れ食いEPA、ダボハゼFTA』ではないか」と安直な姿勢を批判した。
それは今も変わっていない。日本の貿易相手国で、1番の中国、2番の米国とはEPA・FTAを結べず、近隣の韓国とも結んでいない。ところが、財界が来年7月から韓国の自動車・家電製品との競争力を失ってしまうと衝撃を受けたのが韓EU・FTAである。なぜかというとそれぞれ10%、14%の関税が日本製品にはかけられるのに対して、韓国製品はゼロになるからである。そして、FTAの遅れを一気に取り戻そうとしたのが、突然のTPP交渉への参加の検討である。あちこちから拙速すぎるとの反対意見が沸騰しているのは仕方あるまい。
私は、APEC(11月13.14日)の首脳会合に向け、農林水産副大臣としてこの問題にかかり切りである。