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放射能汚染による初めての農産物の出荷制限・作付制限-11.04.30-

 原発事故のあとすぐに頭をよぎったのが、放射能に汚染された農産物のことである。私は事故の翌日の3月12日土曜日に、直ちに担当者に対応を命じた。ところが、13日日曜日夕方の何回目かの対策本部会合で、厚生労働省と連絡が取れずにまだ何も進んでいないということが知らされた。

<第一に体内被曝を抑え、第二に風評被害防止>
 こうした措置は一義的には厚生労働省の所掌だが、こんな緊急事態にはそんなことは言っていられない。国民の体内被曝を抑えることが第一、それから生産者のことを考えて風評被害を防ぐ必要がある。そのためには汚染されて危険な農産物は絶対市場に出回らせず、その代わり市場に出て店頭に並んでいるものは安全と消費者に分かってもらうしかない。厚生労働省を動かし、速やかに対応していかなければならない。

<設けられていなかった規制値(基準値)>
 いろいろな食品安全基準があるが、放射能汚染ということが予想されたにも関わらず、厚生労働省も食品安全委員会もこの基準は作っていなかった。ここにも「原発安全神話」がはびこっていたのだ。
事務方同士では話が進まないので、政務二役が連絡をとり合い事を進めた。筒井農林水産副大臣も岡本厚生労働政務官も食の安全議員連盟の仲間であり、小宮山・大塚両厚生労働副大臣も電話で通ずる仲である。緊急時の対応は、まさに政治主導が働いた。

<勘所のいい大臣の号令>
 3月15日、16日と続けて、官邸の原子力対策本部会合では鹿野大臣から基準値の早期認定を強く主張していただき、枝野官房長官(原子力災害対策特別措置法担当)、蓮舫消費者担当大臣、細川厚生労働大臣の四関係閣僚会合で大筋を決められ、本格的対応が始まった。

<日本の消費者は世界一放射能に敏感>
 食品の安全性について各国民はかなり違った行動をとる。例えばアメリカ国民は、BSEや遺伝子組み換え(GMO)にはあまり関心がなく、O-157には非常に関心が高い。イギリス国民は、BSEで科学的医学に不信を持ち、GMOには拒否反応を示す。日本人の場合は、世界で最も食の安全に敏感な国民であり、特に放射能には拒否反応が強い。放っておいても風評被害は確実に予想される。
 規制値を設けていなければ北関東なり東北の野菜はすべて拒否されて、市場や店頭はてんやわんやになる可能性がある。逆に、放射能汚染度合い等の情報をすべて公開し、規制値を上回るものは市場に出さず、市場に出ているものは安全だということを徹底すれば、日本の優れた消費者はいつか分かってくれるという自信があった。

<前広に汚染野菜・原乳の出荷制限>
 もたもたしていると大騒ぎになるので、早ければ早いほどよかった。ようやく両省の話がつき、JCO事故後の2000年に原子力安全委員会がこういう場合の「めやす」として作っていた「飲食物摂取制限に関する指標」の数値を暫定規制値として使うことになった。チェルノブイリ原発の後の輸入基準としては370ベクレル/kgという数値があったが、それとは別に定められた国際基準に沿って認められたものである。ただ今回は、何事も原子力災害対策特別措置法(原対法)に基づく内閣総理大臣指示で行わないとならなかった。そこで3月19日(土)に私が官邸に出向き、最終調整を行った。

<初の出荷制限>
 こうしてやっとのこと、市場が動き出す3月21日(休日の月曜日)には暫定規制値を公表し、規制値より高く汚染されたものは出荷を制限するということにした。福島・茨城・群馬・栃木のホウレンソウ、カキナの葉物野菜は降下した放射性物質が葉に付着しやすく規制値を超えていた。福島と茨城の原乳も出荷制限となった。農産物の産地表示は一般に都道府県名であり、都道府県単位とした。これだと被害もそれほどないのに何で出荷制限するのかという問題が生じるのはわかっていたが、地域ごとの検査体制も整えられず、きめ細かな仕組みは無理だった。ともかく急ぐ必要があり、どのみち当初は相当の買い控えが予想されたことから、県単位とし、解除はきめ細かくすることを考えていた。

<東電による損害賠償>
 その一方で自らの責任がないのに出荷できなくなった農家に迷惑をかける訳にはいかず、その損失は全面的に補償するということを同時に進めていた。こうした被害に対しては、原子力損害賠償法(原賠法)により、一に東京電力、二に政府が補償することになっている。酪農家は餌だけ与え原乳は出荷できず捨てなければならず、経費がかかって収入がないため当座でも困る。そのため仮払いの必要があり、農業関係金融機関のつなぎ融資の仕組を設けた。

<次々に決められていく新しいルール>
 こうして市場や店頭での大混乱は避けられた。先手必勝であり、3月21日の夕方には、流通団体等の関係団体に対して、政府が出荷制限したもの以外は市場が受け取り拒否等してはならないという通達を出した。尚且つ22日には流通業界、小売業界の皆さんに集まっていただきその旨を要請した。
予想されたとおり、風評被害は相当なものとなったが、JCO事故の時のように東京の市場が茨城県産の野菜の入荷を拒否するといったことは起こらなかった。

<海の魚にも広がる汚染>
 その後検査が進むにつれ、他のものも汚染されていることがわかり、福島の場合はキャベツ、ブロッコリー等も制限されることになった。7日(木)には魚のイカナゴにも広がった。魚には半減期8日のヨウ素の規制値は定められていなかったが、野菜と同じ規制値とした。4月28日には、セシウムも規制値を超えた。海は広く速やかに希釈され、魚はそれほど汚染されないと思われていた。
 ところが、東電は4月21日に少なくとも4700テラベクレルと年間限度の2万倍に相当する汚染水が流出したとあと出しで明らかにした。海は世界につながっており、猛批判を受けることは間違いない、日本は、汚染水の海への流出も厳しく押さえていくのが国際的責務である。

<徐々に整備されていく解除ルール>
 その後、出荷制限解除についても概ね3週間連続で規制値を下回った場合に解除されることになった。また、都道府県単位ではなく市町村等の地域ごとに制限や制限解除ができるようにした。このあたりになると、ほとんど役人ベースで話が進み、我々政務三役は前面に出なくともよくなる。私は、本件も政治主導と事務方の連携の見本ではないかと思う。
 第一回目の解除が、4月8日に福島県会津地方の7市町村で生産された原乳と群馬県産のホウレンソウ、カキナについて行なわれ、今は福島の葉野菜と原木しいたけと茨城の北部のホウレンソウの出荷制限を残すだけとなっている。
 徐々に一連のルールが定着し、市場に出ているものは安全と消費者に認められるようになった。オイシックスのアンケートによると、77%の人が規制値以下であれば購入すると答えている。これも予想通りである。後手後手に回る原発の対策の中では、この出荷制限についてはそこそこうまく行ったのではないかと思う。

<難しい作付制限ルール>
 降下する放射性物質の付着による農作物の汚染は一時的である。それに対し、半減期の長いセシウム(30年)やストロンチウム(29年)による土壌の汚染は長期間に及び、そう簡単には解除できない。
稲については長年の研究成果により、土壌中の放射性セシウムの10%を吸収してしまうこと(移行係数ないし指標0.1)がわかっている。従って、穀類のセシウムの規制値が500ベクレル/kgなので、10倍の5000ベクレル/kgに汚染された土壌で栽培した米は、もとから出荷できないことになる。

<避難区域にある作付制限区域>
 そこで4月8日に、稲については5000ベクレル/kg以上に汚染された土壌での作付を制限することに決めた。翌週に各地の土壌調査結果が明らかになった時点で地域を指定することにした。ところが、官邸がその元となる避難区域等の決定に手間取り、延び延びになった。22日にやっと原発事故に伴う「警戒区域」、「計画的避難区域」、「緊急時避難準備区域」が決められたところ、5000ベクレル/kgを上回る地域はすべてこれらの区域内にあったことから、そのまま稲の作付制限対象地域とし、約7000戸、1万ha(5万t分)が作付けできない。
 他の作物については稲と同じ知見がないこともあり、今回、作付制限は設けられていないが、収穫後の検査で規制値を超えた場合は出荷制限される。(ブログでは報告順が逆になったが、こうした知見を有するウクライナに研究者等を送り情報収集させることにした。)

<必要な食品安全庁>
 折衝の過程でわかったことだが、官邸も厚労省も規制値を設けて出荷制限することに、農林水産省が反対すると勘違いされていた。事実は最も積極的に今回の措置を進めたというのに、誠に心外なことであった。厚労省は省庁統合により大きくなり過ぎており、年金、介護、医療に大わらわで、食品安全行政は二の次になってしまっているとみられる。
 今回のように、緊急を要する放射能がらみの食品安全行政を素早く遂行していくにも、やはり世界と同じに、食品安全行政を一括して担当する(Single agency)ようにしていかないとならない。世界はBSEやGMOの対応で既に農業生産担当部局に一元化が行われているが、日本は未だにバラバラである。民主党がマニフェストに食品安全庁の設立を挙げているのは、まさに当然であり、我々はこの実現を急がないとなるまい。