« 2011年10月 | メイン | 2011年12月 »

2011年11月30日

アメリカの罠にはまる日本のTPP交渉-11.11.30-

 TPP問題が党内の意見集約に向けて佳境に入ったのは11月上旬。私は、毎日メルマガ・ブログを発信した。なるべく多くの皆さんに全容を理解してもらいたかったからだ。

<玉虫色の総理記者会見>
 11月11日(金)、午後8時、野田総理の記者会見は、我々党の苦心の提言をある程度踏まえた押さえたものであった。11月上旬からずっと続くドタバタの中で、私もいろいろなことに絡んでいたので、玉虫色の表現にとどまることはわかっていた。
 TPPを慎重に考える会としては、ぶっちぎりのTPP交渉参加をひとまず喰い止めたことは、大きな成果であった。もちろん不参加表明がベストであったが、それは今までの野田総理の言動からしてまさに後向きであり、政府の立場からするとできる相談ではなかった。その意味では、ギリギリの落し所である。
 私の30年間携わった農政はいつもこうしたあちら立てればこちら立たずの連続であり、足して2で割る解決しかないことばかりであった。だから、私の習性として常に落とし所を考える癖がついている。これが格好のいいことを言いっぱなしで、まとめる術を知らない元野党民主党議員と少々違うところである。
 詳細は避けるが、今回は11月8日の原案作成、9日の最終日の5時間に及ぶ大議論、修正の過程、10日のそして総理記者会見の1日延期11日の総理記者会見発言の修正過程では、私はTPP参加阻止という大目的のために必死で動いたが、一方で野田政権を大きく傷つけることのないようにも気を使った。鹿野農水相の上着脱ぎサインで誕生した野田政権、私は鹿野農水相を会長とするグループ素交会の事務局長、野田政権を支えるのが義務でもある。ところが、見渡してみると、推進派も慎重派もがっぷり四つに組んで、どうみてもどこかで妥協点を探ろうという適任者がいなかったからだ。私は、冗談を言いつつ慎重派の意見をい続けたが、いつもどうまとめるかについて一方で常に頭に入れていた。

<「ホッとした」山田会長記者会見>
 いろいろ意見はあったが、11日午後9時いつもの衆第2議員会館318号室で記者会見を開いた。上記の延長線で、私は山田会長に電話で話し、「参加表明阻止は一区切り、しかし、本当はこれから」という意味合いを込めた表明文を書いて渡したが、それを読まず「ほっとした」という発言が飛び出し、強硬派からは何だという批判をいただくことになってしまった。
 私は、不本意である点を強調しつつも、全面的参加表明を食い止めたことは「一応の成果、あとは全力を尽くしてTPPの問題点を明らかにしていく」と表明する予定だったが、チグハグになってしまった。離党と仄めかしてきた山田会長が不満ばかり言っていては、離党しなくてはならなくなる。それでは今後の本格的なTPP阻止活動に差し障りが生じる。何人もの純粋な若手議員の離党という事態を避けるためにも、私は今回の収め方しかなかったと思っている。強烈な反対派の皆さんからはお叱りを受けるかもしれないが、こうした事情を察していただくしかない。
 私は野田総理がホノルルへ発った翌12日の朝から声が出にくくなり、風邪でダウンしてしまった。1ヶ月ずっとTPPにかかり切りだった疲れがどっと出てしまったようだ。そのため、ずっと毎日続けていたメルマガ・ブログも止めざるをえなかった。
 
<許し難い執行部の「交渉参加」への誘導リーク>
 誰がやっているのか知らないが、官邸なり執行部が常に参加表明の方向に誘導する情報を大手マスコミにリークし、五大全国紙とこぞってTPP参加一辺倒の報道をしていることである。2010年10月1日の菅総理のこれこそ唐突な「TPP参加交渉検討」の所信表明に対しても、いつもは菅批判ばかりの五大紙が、こぞってTPP参加のヨイショ論調で塗り固められた。そして今の今までずっと同じことが続いている。
 11月8日、連日続けてきた総会を休み役員会でやっと最終案をまとめた。双方とも不満が残る提言文だったが、我々役員は9日夕刻の総会まで一切外に出さないことにして、まとまった原案もその場で回収した。私はこのメンバーからは絶対に漏れていないし、役員もペラペラと外に話もしていないと信じている。ところが翌9日の新聞は、例によって一斉に「党の提言にかかわりなく日本はTPP参加」と報じられた。多分、11月8日深夜に案文を手に入れた政権・与党の幹部なり執行部が意図的に情報をリークし、それに乗せられた各紙が昨秋以来の自分たちの論調に沿った我田引水記事を書いたのだろう。このため、9日の夜の最終会合は、執行部リークに腹を立てた慎重派議員が修文の意見を次々に出して再び大荒れに荒れた。

<戦前も今も繰り返す大政翼賛的新聞論調>
 10日予定の記者会見を1日延期し11日の夜の会見は慎重な言い回しになっても、12日の各紙はもっとひどい「参加表明」論調であった。食べだしたら止まらないのか、言い出したら止まらないのか、いずれにしても冷静な報道はこの1年余、全く見られなかった。異常である。
 五大紙はそんな馬鹿なと言うだろうが、戦前に満州へ進出し、国際連盟を脱退し、日独伊三国防共協定を結び、戦争に突き進んでいくのを批判もせずにヨイショしていたのと同じだ。「バスに乗り遅れるな」という風潮も、勇ましく世界へ出ていくという点も共通である。ただひたすら日米同盟関係とやらをまくしたて、対中関係の悪化に思いを馳せることがない。欧州の金融危機やオバマの通商戦略に利用されているだけだという誰にもわかる国際情勢を冷静に判断する眼を失っている。
 11日の参議院の予算委員会では、野田総理がISD条項(アメリカの投資企業が日本の制度により被害を受けた場合は国を訴えることができる)を知らないことが露呈した。何も知らないでその時の雰囲気だけでTPPを進めようとしているのは、アメリカの底力も知らずに突き進んだのと同じである。私には寧ろ恐ろしいことである。これでは先が思いやられる。

<「参加表明先送り」の本当の姿>
 事実はどうか。
 総理記者会見の中ほどに「TPP参加に向けて関係国との協議に入る」とあり、結論は「さらなる情報収集に努め、十分な議論を経た上で、TPPの結論を得ていこうと思う」となっている。単純明快に言えば「TPPには今とても参加するとは言えない。今までと同じく関係国から情報を集め、国民に情報を開示して十分に議論を経た上で参加の是非を決める」であり、TPPへの参加表明ではなく、あくまで事前協議なのだ。総理の記者会見で言ったことを端的にまとめよという試験問題だとすれば、五大紙の論調は0点のはずだ。
 昨年の横浜APECではオブザーバー参加を認められたTPP9か国会合なのに、今回はまとめの段階ということもあるだろうが、会議にすら入れてもらってない。各国とも日本をきちんとした参加国とは認めていない。
 私は、慎重に考える会の抵抗、そして党の提言が結局は門前払いを喰らうであろう野田外交の救い道を開いてやっていると思っている。最近やっと一般的にも明らかにされているが、最大の関門であるアメリカ議会の承認は最低90日前の通告が必要であり、その前の事前予備の交渉にも2~3か月かかる。つまりどんなに早くても6か月位は、すなわち2012年の5月ぐらいまでは9か国の仲間には入れてもらえないのだ。
 カークUSTR代表は来年12月までに合意すると言っている。今の状態では、1年間の交渉でいつも推進派が言っている「ルール作りに参加」など出来るはずもない。日本の意向など反映できるはずもなく、決まったルールを押し付けられるだけだ。

<すぐに突きつけられた無理難題>
 その問題の事前交渉だが、カーク代表はすぐさまBSE牛肉、保険、自動車用関連の規制の3つを前提条件にあげてきた。17日には、マランティス次席代表が訪日している。それと政府は何も動いていないと、またまた情報隠しをする。何度も強調してきたが、1989-90年の日米構造協議の際はアメリカの産業界なり国民は日本の膨大な貿易黒字にカンカンに怒っており、それを受けた議会・政権もあれこれ注文をつけてきたし、日米間には緊張感が漂っていた。しかしTPPについては「日本が入りたければ入ったらいい」「入ってほしいけど、まあ自由にどうぞ」といった程度なのだ。自動車業界等はそもそも日本のTPP入りに明確に反対している。従って日本がノコノコ入っていくのは入水自殺のようなものだ。
 予想されることはTPPになど全く無関心だった業界自体が、日頃の不満を事前交渉にどっさり持ち込むことである。BSE牛肉の例のように食品安全のルールもアメリカと同じに変えられてしまい、日本人の健康を大きく損ねることになってしまう。国民に生命と財産を守るのが国家の最重要な役割だというのに、それを放棄せんというのがTPP入りなのだ。「守るべきは守る」と野田総理は何回も言っているが全く準備もできておらず交渉前から妥協せんとしているようではとても突っぱねられまい。 
 
<危険な空回り外交>
 こうしたあやふやな対応がすぐさま露呈した。米側が「野田総理が『すべての品目・分野を交渉のテーブルにあげる』と発言」と記者会見しホームページに掲載したのだ。早速、日本側が抗議するや一応、米側は二国間会議の場では発言がなかったことに認めるものの、聞きおくだけで削除していない。
 追い打ちをかけるように、日本テレビが枝野経産大臣の取材の折、ファイルの中の「野田総理は出発直前にTPP参加を表明」、「すべての品目・分野を交渉のテーブルにあげる」の発言要領を映し出していた。更に、18日(金)のNHKニュースウォッチ9に出演した山口外務副大臣は「トーキングペーパーを渡していたので、それをもとに米側が発言」と言出した。つまり、政府は参加に向けて事前着工し、暴走し始め、歯止めがかからなくなっているのだ。繰り返すが軍部の暴走と同じなのだ。今、輸出輸出と叫ぶ経済界が軍部と同じことを当事者が気づいていない。危険極まりないことなのだ。

<税もTPPで決められ危うくなる国家主権>
 今政府・与党の関心は来年の予算編成や税制改正に向けられている。税制では自動車関連税制が俎上にのぼり、自動車重量税と取得税の廃止が自動車業界から出され、その配分を受けている地方自治体が大反対するせめぎ合いが続いている。都市部は車がなくとも生活出来るのに対し、地方は車なしでは暮らしが成り立たず、我が長野県は1000人当たり自動車台数が885台と全国1位である。つまりこの税金はほとんど地方が払っているので、その分が地方に戻ってくる仕組みとなっている。極めて合理的な考えである。
 私は、この場でTPPに絡めて以下の発言をした。「今、和気あいあいかつ喧々諤々税制の議論をしているが、我々は、今TPPで関税自主権を失おうとしている。TPPに入ってしまうと、5年後は、自動車重量税もTPPの外交の場で議論され政権・与党税調の役割はなくなっているかもしれない。つまりアメリカから車体の大きい自動車重量税はアメリカ車を差別するひどい税であり、即刻廃止すべきと言われ、TPPの交渉の場で税も決められ、こんな議論をしなくてもよくなっているかもしれないのだ。」
一瞬、シーンとなったが、司会の事務局長が「今年の税制に無関係の発言は控えて下さい」と余計な事を言った。しかし、現にかつて日米自動車交渉の俎上にのぼったこともあるのだ。何しろ日本がアメリカから輸入している乗用車はわずか1万台、それに対し日本からの輸出が152万台、このあまりの差にアメリカが怒って当然である。「アメリカ車だけ重量税を3分の1にしろ、さもないと、アメリカで日本車だけ3倍取るぞ」という話になっていく。TPPはかくして国家主権の放棄につながっていく。
 11月24日、我々の要求により、TPPについてはじめて総理の直接の説明を聴く両院議員懇談会が開かれた。しかし総理や経産相の上記の日米の喰い違いや、いかがわしいペーパーについての弁明は言訳にすぎず、何ら納得のいく話ではなかった。今度は、山田会長はすぐさま不満の記者会見を開いた。
 国民の生活どころか、国のかたち存在すら危うくしかねないTPPはこれからもっと注視していかねばならない。

2011年11月11日

TPPシリーズ11.党内TPP議論をまとめる-11.11.10-

(最前の列での皆勤賞)
 TPPを10回に分けてお届けした。私はこの1ヶ月TPP三昧で、自宅にもそれほど帰っておらず、夜遅くまで第一議員会館719号室で、翌日の会合の勉強、そして深夜まで原稿書をするという生活を続けてきた。
 23回に及ぶ、経済連携PTの会合は、いつも同じ一番前の席に陣取り、皆勤賞である。自主的な「TPPを慎重に考える会」の会合も一番前の同じ席であり、定位置とみなされ、少々遅れて行っても、私の席はそのまま空けられていた。他のどの会合よりも優先した。TPPが大問題と考えたからである。発言は2回か3回に1回にとどめることにし、あまり出しゃばらないようにした。

(発言しない篠原?)
 ただ、皆勤が裏目にでたこともある。会場が映し出され、私が一番前に座っているのがテレビに映る。熱心な有権者、支持者の皆さんが目ざとく私を見つける。そこまではいいのだが、山田正彦慎重に考える会の会長、あるいはいつも大声をたてる同僚議員等がテレビに映し出されるのに、私がさっぱり映らないので、「篠原さんは一番前にいるけど、何にもしゃべらないんかい」と言われてしまった。これらの人は、冒頭のテレビの撮りでだけ発言する人であり、私はルールを守り、発言機会が与えられてから発言しているだけなのだ。
 長い会合なので、いろんな発言をしたけれども、資料を特別出して発言したのは、丸太の関税ゼロ、製材の関税ゼロ、その影響による中山間地域の疲弊、限界集落が問題。それから、日米構造協議の結果、大店法が改正になり、大規店舗、スーパーコンビニが自由に進出できるようになり、地方の商店街がシャッター通り化していったこと。

(内容の濃い慎重派意見、底の浅い推進派意見)
 10月28日からは議員間協議になり、賛成派、反対派入り乱れての議論になった。しかしながら、推進派の皆さんはときたましか来ず、勉強していないので発言が少なかった。当然のごとく慎重派の発言が多くなり、学習した結果内容も濃くなっていった。ただ、残念なのは、こんな大事な議論に全く足を向けない議員が多いことである。政権与党2年目にして堕落が始まってしまっている。これでは与党も長く続くまい。

(歪んだ)報道)
 11月8日には、議員間の集団討議も終え、役員間で最終提言案をとりまとめた。私は役員の一員(幹事)として、とりまとめにはそれなりに汗をかき、そしてこれを11月9日に最終討議に提示しようとしたところ、報道がいろいろあり、混乱に拍車をかけた。まず、昨日11月9日の朝。絶対に外に出ないように心掛けていた役員案が、全部は載らなかったけれども、少なくとも2紙には明らかにペーパーが渡っているような書き方だった。また、我々の予定していたこととは違う「首相に一任」つまり、我々は何も首相を縛るような提言はしないと言うようなことを書かれてしまった。極秘案が渡った党幹部か、関係省大幹部か、総理かが参加表明できるという報告に誘導しようとしているのは明らかである。一所懸命50時間も議論してきた我々に対する冒涜であり許し難い。
 9日夕刻に開かれた最後のPT会合で、役員間の案を提示して了解を得ようとしたが、上記の新聞記事について、誰がこんなことを喋ったのかということから始まり、3時間半たっても意見が続出だった。次々に改善点が指摘され収拾がつかなくなり、9時15分から30分をもらって再び役員会を開くことになった。ところがそれが1時間かかり、10時15分に再開され、やっとのことで了承された。皮肉なことに(我々にとっては好都合なことに)、総理にTPP参加表明をさせたいと世論誘導を図ったのと逆の方向の、「慎重」にという言葉が強く打ち出された。

(当然の一日先送り)
 ところが、今日11月10日の報道も、私からすると心外な報道になっていた。慎重という立場が多く、それを踏まえた判断にするようにということにも関わらず、「野田総理は参加表明」と一斉に書かれていた。私は、1日前の記者会見で、そんな風になるはずがないと言っていたけれども、朝刊を見て唖然茫然である。しかし、世の中正しい方向に動く。政府与党三役会議で、党PTの提言を尊重すべしということになり、一日記者会見を見送ることになった。

(執行部のあてがはずれた最初の結論)
 執行部の思い通りの提言にまとまらなかった、最初の調査会なりPTの会合になった。私は民主党のためにもこれは本当によかったのではないかと思っている。なぜならば、民主党のPTはすべて執行部の思い通りになるので、賛成の人は出席しなくなり、反対の人だけが出席するということが続いたからだ。これを機に、賛成の人、反対の人、両方が来てお互いに勉強しあって議論をし、物事が決まっていくような風土ができればと思っている。そうなると民主党議員の質も高まる。

(飛び入りクローズアップ現代で出演)
 一日延びたトバッチリも突然やってきた。慎重に考える会の会合から出てきたところ、NHKの記者から突然、「クローズアップ現代」に出て欲しいという要請があり、役員会等で激論を戦い合わせた相手の近藤洋介議員と一緒に出ることになった。これも内輪話になるが、古川国家戦略担当大臣が、野田総理の記者会見を受けて出演する予定だったが、それが出来なくなり、我々二人にお鉢が回ってきた。それを終えて、もう一箇所に寄り今帰ったところである。(11月10日午後10時30分)

(野田総理のこだわりの元)
 11日(金)に、総理がどのように記者会見されるか定かではない。私は素直に読めば、党の提言を取り入れて、参加見送りとは言わないでも、慎重に対処し、予備的なプロセスぐらいに留めるのが一番妥当だと考えている。
 しかし、クローズアップ現代で、国会でTPPという言葉を初めて使った質疑をしたのは、2008年11月28日外務委員会で野田総理自身であったことをはじめて知った。こうしたことから野田総理はどうもTPPに思い入れがあるようである。だから、かなり前のめりの発言が出てきてしまっているようである。

 いずれにせよ、11日は民主党、あるいは野田政権の大きな分かれ目でもあり、日本の社会がどうなっていくかということを決する分岐点になるかもしれない。

2011年11月10日

TPPシリーズ10.アメリカのしたたかな戦略とオバマの見え見えの打算ー11.11.9

 11日に予定されるAPECホノルル会合での、野田総理のTPP交渉への参加表明の是非に対し、民主党の意見をまとめるべく開催され続けてきた経済連携PTは、本日最終日を迎えることとなった。途中、慎重派議員の要求を受け、私も役員として昨晩とりまとめた提言案の一部に「慎重に」という更に強い一言を入れる修正を行う場面もあったが、17:30より開かれた同PTは、約5時間の議論の末、全会一致で党の提言として承認された。
 記者会見等を終えて、現在 11:20であるが、連日掲載して好評をいただいているTPPシリーズを本日もお送りしたいと思う。


 アメリカは、一旦戦略を打ちたてるとしつこくそれに向かって進む国である。
私は、以下のような大変なことがあったと考えている。

  ①丸太と製材の関税ゼロが中山間地域の疲弊をもたらしたこと
  ②余剰小麦のはけ口で、パン給食が導入され、日本の風土と隔絶した食生活が広まったこと
  ③金融ビック・バンにより日本金融システムを変えられ貸し渋りが増えたこと
  ④日米構造協議により大店法が改正され、地方商店街のシャッター通り化を招いたこと
  ⑤年次改善要望書にもられた郵政民営化を受け入れため、郵便局が混乱し、金融界にも波及が生じていること

(TPPでは日本に選択権なし)
 TPPの交渉参加で、上記のようなことが国際協定の枠組みの中でじわじわと押し付けられる突破口になるのは確実である。財界等の推進派は、日本経済の活性化の突破口などというが、そんなものよりも違う突破口になってしまうのだ。もちろん、アメリカに学ぶことも多く、日本はそれをいいとこどりしてきた面もたくさんある。いくら強制させられたとはいえ、一応どれを取り入れるか選択権があったのだが、TPPに入るとあればいいけど、これはダメと言い出せなくなり、他の国も皆賛成しているのだからといって、有無を言わせられず押し付けられることになる。だから私は大反対なのだ。「TPPを慎重に考える会」となっているが、私は慎重どころではなく「大反対」なのだ。
 アメリカが動き出す時には、きちんとした背景があり、戦略がある。自ら世界を変えられる力があるのだ。そこが外交上もずっと受け身な日本とは異なる。それではアメリカはなぜTPPを持ち出してきたのかについて検証してみる。

(物づくりを忘れたアメリカ)
 長期的視点から見るとアメリカはもうずぼらな国になり下がり、自ら物を生産すると能力は衰えてしまっている。アメリカの貿易収支の面でいうと、稼げるのは農産物(269億ドルの黒字)と工業製品では武器輸出関連のものしかなく、あとは金融サービス(1,363億ドル)で黒字になっているだけである。したがって、アメリカは、ウルグアイ・ラウンドの頃から新三分野(投資(TRIM)、金融サービス(GATS)、知的財産)でアメリカの有利なルールを作ることを目的としている。しかし、これがうまく行けばいくほど、自ら汗して働くことを忘れ、マネーゲーム等で儲けるようになり、ますます没落することに繋がっているのではないかと思っている。

(没落するアメリカのしたたかな金融・投資戦略)
 アメリカはOECDでまず先進国間で投資の自由化を試みたが、同じ事を試みたが、1998年10月、ジョスパン仏首相が参加を取りやめ、各国もフランスに同調し失敗している。ドーハ・ラウンドでもアメリカはWTOのTPIM協定で、投資の自由化を推進しようとしたが進んでない。同じことを米州自由貿易地域(FTAA)でやろうとしたが、南米諸国の反発を買い、やはり実現しなかった。各国ともアメリカの金融支配に明らかにNOを突きつけているのだ。
 さて、問題のTPPであるが、2008年2月4日、シュワブ通商代表が最初に、P4と投資及び金融サービスに関する交渉を始めると発言している。つまり、もともとP4協定になかったものを、投資と金融に興味を示して、TPPに入ろうとしたのは明らかである。そして、2009年11月14日の日本での発言につながった。
 TPPは、価値観の同じアングロ・サクソン諸国・旧英連邦諸国なり弱小国を引き連れて、アメリカに都合のいいルールを作り、あわよくば無防備な日本を引っ張り込もうという魂胆が透けて見えてくる。

(アジア金融通貨危機にこりた東南アジア諸国)
 この魂胆をちゃんと知っているのは東南アジア諸国である。1997年ヘッジファンドの空売りにより、タイ、インドネシア、韓国等は相当酷い通貨金融危機に見舞われている。フィリピンにも影響し、日本にもトバッチリが来て、日本債券信用銀行や日本長期信用銀行が経営破綻をきたし、外国資本の手にわたるキッカケとなった。だからこれらのアジアの国々はTPPを冷ややかな目で見ている。
 ベトナムは対中国との関係があり、アメリカのバックアップが必要という特殊な事情がある。忘れてならないのは、シンガポール、ベトナム、マレーシア等いずれもGDPに占める貿易の依存度は100%を超える国である。韓国(80%)や日本(15%)と比べると、圧倒的に貿易に依存した国だから、TPPに入ったほうが得なのだ。つまり各国の事情により入るか入らないか決めているのである。そういう点からすると、日本の入る事情は全くはっきりしない。

(カナダ・メキシコも南米も総スカン)
 そして、他の国で言えば、NAFTAのカナダとメキシコが何故入らないか。2ヶ国は、例のISD条項によりアメリカの企業から訴えられ、賠償金を払わざるを得なくなるなどして、アメリカ金融資本の横暴にすっかり嫌気がさしている。
 韓国では、10月の選挙で野党や無党派に支援されて当選した朴元淳ソウル市長が、韓国では毒素条項といわれるISD条項の見直し等を含める懸念を表明し、今や2012年4月の総選挙の争点となっている。今、日本で信を問うのは、原発もあるし消費税もあるが、TPPこそ選挙で問うべき大問題なのだ。
 NAFTAの後、自由貿易地域を、メルコスール4カ国(アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ)等南米にまで広げようとしていたが、反米でなるチャベス・ベネズエラ大統領等が反対し、頓挫してしまった。

(オバマ再選の最後の拠り所TPP)
 あちこちにソッポを向かれ、焦ったオバマ政権が急成長するアジア市場に目を付けTPPに飛びついたともいえる。2010年1月の一般教書演説において、jobという言葉を20回も使い5年間で輸出を倍増し、200万人の雇用をつくり、失業問題を解決するという国家輸出戦略を打ち出し、大統領再選に向けて動き出したのだ。

 オバマ大統領は、上院時代3件のFTAのうち1件(オマーン)しか賛成していないし、選挙公約でNAFTAの見直しやドーハ・ラウンドへの環境や労働に関する議論の追加を主張していた。批准を待つだけのコロンビア、パナマ、韓国のFTAにももともと乗り気ではなかったし、TPPへの関与は、はじめてのFTAに関する意思表明だった。
 オバマ大統領にとってTPPは、2011年11月12,13日の生まれ故郷ホノルルのAPEC会合の政治的目玉として一番重要だと考えているに違いない。

(少ない経済的効果)
 景気回復もできず、雇用問題も9%を超える失業率が続き、中間選挙では民主党が完敗している。そして、窮余の策が輸出拡大であり、成長著しいアジア市場の獲得を狙っているのである。ただ、アメリカの輸出依存度は7~8%と日本の半分程度であり、冷え込んだアメリカの景気浮揚にはそれほど働くとは思えない。本音は、あくまで選挙向けのポーズである。そんなことになんで日本が付き合わなければならないのか。誰が考えても損な相談である。

(長期的には中国牽制)
 もう一つ重要な背景は、中国への牽制という覇権争いである。国産空母建造や次世代ステルス戦闘機「殲-20」開発など軍備増強が目立つ中国は、一方で2010年ASEANとFTAを発効させていることになった。2011年5月22日には、菅・胡・李の三者会談で、日中韓のFTAの研究が進められることになった。もともとは鳩山総理が東アジア共同体を強調し、小沢元代表が数多くの親派を連れて中国詣でを繰り返すのにいらいらしているアメリカが焦り、自らの存在感を向上させんとするのは自然である。
 日本は中国の海洋侵出などには厳然と対処する必要があるが、安全保障でアメリカのお世話になっているし、同盟国だからといって、TPPのような広範な分野においてアメリカに組する必要はない。

(始まったアメリカの先制攻撃)
 私は、日本が交渉に参加を表明した途端、BSEの規制の緩和等無理難題を言って、結局日本は入れないようにして、日本をのけ者にするのではないかと考えている。そう思っていたら、11月8日、ボーカス上院財政委員長がカークUSTR代表に対して、日本市場には自動車や牛肉を含む農産品、保険、医療などさまざまな分野で深刻な障壁があり、日本が市場開放に向けてTPPの高い基準を満たす意思があるか慎重に確認するよう要請する書簡を発出した。もう門前払いの徴候がみられる。
 経済界は日本の輸出増に期待を寄せるが、オバマ大統領の狙いは、演説のとおりアメリカの輸出倍増と200万人の雇用機会の拡大であり、アメリカの輸入増など考えていない。2010年11月 横浜のAPEC総会で「巨額の貿易黒字がある国は輸出での不健全は依存をやめ、内需拡大をとるべきだ。いかなる国もアメリカに輸出さえすれば、経済的に繁栄できると考えるべきではない」と何も隠さず正直に意図をぶちまけている。それにもかかわらず、日本の輸出を増やすTPPなどどうして言えるだろうか。

(日本の恩は報われず)
 ところが、日本がいくらポチよろしく尾っぽを振ってTPP交渉に参加してオバマ再選を助けたとしても、うまくいかない可能性のほうが高い。その場合、次の共和党新大統領は、日本の一時の情け心に恩義など全く感じないだろう。
 大統領再選の道具のために、日本の国の形まで変えてしまうようなTPPを推進するというのは、あまりにもお人好しであり、こんな明々白々なことに気が付かない日本の政治家がいるとしたら、願い下げである。

(20年前と比べアメリカの圧力はなし)
 よくアメリカの圧力というけれども、今、日本に対してTPPに入れという政界や産業界の圧力はほとんどない。日米通商交渉が盛んに行われた1980年代は、アメリカは本当に怒っていた。毎年、日本の貿易黒字が500億ドルから700億ドルになり、アメリカにとっては耐えられなかった。したがって、産業界も怒り、政治家も国会の前で日本製品をハンマーで叩き割るといったようなパフォーマンスもみられた。他の産業に高関税をかけるクロスリタリエーションとか、あるいは勝手に輸入制限したりする、スーパー301条とかが連日新聞を賑わしていた。それに比べると、今はそうした動きはほとんどない。
 他の東南アジア諸国、カナダ、メキシコ、南米諸国と違い、ただ一国あたふたしているのは、日本である。アメリカの強い要望と勘違いし、せっせとTPP騒ぎを大きくしているのである。野田政権の10月以降のTPP前のめりは自作自演の劇場政治でしかない。

<日本だけが「入水自殺」するのか>
 その一方で、アメリカから農産物の輸入が拡大し、地方農村は更に疲弊し、医療や金融サービスも大打撃を受けることになる。こんな筋書きが見えているのに、なぜ立派な経済学者や日本の国益を考えて政策をいうマスコミも気付かないのだろうか。私には不思議でならない。一刻も早く、TPPには参加しない宣言を出すべきである。

2011年11月08日

TPPシリーズ9.TPPの経済的メリット、デメリット-11.11.8

<まちまちの関係各省影響計算>
 TPPで各省庁の意見が真っ向から対立したが、TPPの影響試算がまちまちであった。
農林水産省は、TPPに参加した場合、農業で4.1兆円、関連食品産業を合わせると、7.9兆円の損失になり、340万人の雇用が減るという数字を出した。それに対して経産省は、不参加の場合は、20年後に輸送機器と家電と機械工業の大輸出産業でもって、GDPで10.5兆円の減になり、雇用は84.2万人が減ってしまう計算した。内閣府は、TPPに参加した場合、GDPの増加は2.4~3.2兆円、しなければ6~7000億円の減という見積もりを出していた。大きく各省庁の計算が違っている。

<経済的メリットが小さすぎて出せなかった経産省>
 農林水産省の計算は、内外価格差をもとに単純計算しただけのものだが、経産省の試算は、輸出比率の減を誇大に見せようとして、本来TPP不参加とすべき仮定を変えている。

 まず、仮定のごまかしその1が、TPPだけではメリット(あるいはデメリット)が小さすぎるので、わざと日本がEUとも中国ともEPAを締結しなかった場合としている。EUも中国もTPPに無関係なのに、この2国を入れなかったら数字が大きくならないからだ。
2番目に韓国との差だが、これまた今の米韓FTA、EU韓FTAでは差が小さすぎるので、わざと中韓FTAが結ばれた場合としている。TPPとFTAの比較もおかしいが、それは譲るとして、締結した米、EUとのFTAでなく、今後どうなるかわからない中国とのFTAも締結し、日本は結ばないとして差を大きくしようとしているのだ。
 3番目が、他の2府省が、今現在で計算しているのに、わざと2020年に日本産品が米国・EU・中国において市場シェアを失うことによる関連産業を含めた影響を計算して過大にみせている。
これはとりも直さず、TPPのGDPへの影響があまりにも小さいために、上記の3つの仮定をせざるを得なかったのだろう。それにしても、仮定がすぎる。経済学者の野口悠紀雄は、TPPによる輸出増はたった0.4%と断じている。こんな数字など、為替レートの変動ですぐ吹っ飛んでしまうことは度々述べたとおりである。

<具体的メリットなし>
 2011年10月24日の経済連携PTで経団連の意見を聞く際に用意されたペーパーは、はっきりいってお粗末だった。たった1枚で、下半分が農政についての提案だった。肝心のTPPがなぜ経団連にとって必要かということは箇条書きで抽象的に書かれていただけであった。TPPに参加しないと日本は世界の孤児になるとか大仰なことを言っているわりには、少しも熱意が感じられなかった。具体的メリットがないのだろう。こんなことで日本社会をぐちゃぐちゃにされてはたまらない。


 推進論者の論調は、新聞の6段ぐらいのインタビュー記事や社説は見つけても、著書がほとんどない。つまりは、一冊の本にするには論理矛盾が多すぎ、また牽強付会にやろうとしてもろくなメリット数値を示せなかったのであり、とても書物にできないからであろう。例えば、大胆な金融緩和によってインフレにし、景気をよくしなければならないといった経済学者、評論家が、明らかにデフレを招くと思われるTPPに賛成するとおかしなことになる。
 また、TPPに参加するかしないかは、私が繰り返し述べているように、多国間構造協議をアメリカの圧力で行うものであり、内容が多岐にわたる。あまりに分野が広く、節度ある学者や評論家はとても適当な推進論をぶてないからだ。

<利益は国民に均霑化せず>
 メリットとして、一つ上げられるのは、TPPにより輸出企業が儲かった場合、それが、トリクルダウンして他のところに転化するということ。ところが、ほとんどそうなっていないのではないか。失われた20年の間も、一時期輸出が伸びて、輸出企業は相当業績が上がっていたはずである。例えば、一部上場のトップ30社ぐらいは、それでもって内部留保を相当溜め込んでいる。輸出企業はぼろもうけしたのだ。しかし、その配当や役員報酬は増えたけれども、従業員の給与は上がっていない。なおかつ、長期的な投資、研究開発のような投資には、お金を向けていない。そして企業合併をくり返し、あるいは余ったお金を外国に投資するなど、日本の成長にはほとんど寄与していないのではないか。TPPに仮に入ったとしてもまた、こういうことを繰り返すことになり、日本国民がメリットを受けるということはそれほどないのではないか。

<検証すべきNAFTA(北米自由貿易協定)後のメキシコ>
 我々は、ここで過去の自由貿易協定の結果を検証してみる必要がある。
地域協定の一つである北米自由貿易協定(NAFTA)が1994年に成立して17年経った。これが一つの典型であるが、アメリカ、カナダ、メキシコはどうなったか。日本のTPP推進派の書物や論壇には一つも登場しない。理由は、少なくともメキシコにとっては惨憺たる結果になっているからだ。
 アメリカからメキシコへのトウモロコシの輸出は3倍に急増した。アメリカの農産物の3分の1は輸出されており、国内補助金がそのまま輸出補助金と同じ役割を果たしている。零細なメキシコ農民はトウモロコシ生産ができなくなり、アメリカからメキシコへの大豆、小麦、豚肉、牛肉等の輸出も急増した。そのため、農地を手放し密入国する者も増え、一旦、米国の多国籍企業の製造業に雇われたものの更に安価な労働力の国に工場が移転され、リーマン・ショック時には50万人が職を失っている。
 NAFTAは、結局のところ、独占と集中をもたらしただけで、メキシコには製造業の成長も雇用の拡大もなく、全く逆の結果しか生まなかった。勝者は、メキシコ市場を手にしたアメリカの多国籍企業だけだったのだ。

<数%の関税引き下げよりも為替変動の影響大>
 アメリカはTPPを輸出を倍増する梃子にしようとしているのであって、輸入を増やすつもりはない。そして輸出先として一番期待が持てるのは、現交渉参加8カ国ではなく他ならぬ日本なのだ。オバマ大統領は「巨額の貿易黒字のある国は輸出への不健全な依存をやめ、内需拡大策をとるべきだ」と言っている。
 昨今のドル安の放置(?)も、輸出戦略の一環だ。さらに言えば、今や日本メーカーの自動車などは半分以上(66%)が、アメリカの現地生産で関税は無関係である。アメリカは高関税のうちに現地工場を作らせ、雇用の拡大を確保し、その後にドル安にして、輸出攻勢をかけることを考えているに違いない。

<景気浮揚にはTPPより財政出動が先>
 日本の景気をよくするためには、まず日本のデフレを脱却しなければならない。そのためにやるべきことはなにか。TPPで輸出を増大することではない。TPPで関税ゼロにすると更に安価な輸入が増え、デフレが加速する。正解は、公共投資の拡大なり、大型減税であり、大規模な量的緩和であり、内需振興なのだ。それを今日本は増税しようとし、はたまた、TPPで関税をゼロにしようとしているのである。どこかネジが曲がっている。
 通貨当局日銀と財務当局財務省とが協力し、日銀が国債の買い取り枠を増やし、同時に政府が財政出動と減税をすれば、日本のデフレを終わらせることができる。そうすればTPPによる輸出に依存しなくて済む日本ができ上がるはずである。経済界はなぜこの声を上げないのだろうか。
 日本の経済の活性化には、やはり国内経済の需要を拡大し、成長路線に繋げることであり、対外的に見れば円安にすることである。長期的には、それによって税が増え、名目GDPも成長し、財政が健全化することになるのではないか。このことを忘れてTPPだけに固執し、日本の社会システムを変え、またまた混乱させるというのは、金融財政政策として賛成できない。

TPPシリーズ8.韓国と日本の大きな違い-11.11.7

(したたかな韓国、出遅れる日本)
 財界、経産省、外務省はなにかにつけて韓国のFTAを絶賛・推奨し、だから日本はTPPに入らなければいけないと言う。いわゆる「韓国脅威論」である。何を言っているのか、私は理解に苦しむばかりである。百歩譲って韓国を見本とするなら、米等重要品目を例外とするEPA・FTAをEUやアメリカと結べばいいのであって、関税ゼロを前提とするTPPなどは全く方向が違っていることである。
 日本の財界は、韓国の米・EUとのFTA締結という矢継ぎ早の自由貿易への転換に浮足立っている。EUとの関税 自動車10%、薄型液晶14%は大きいかも知れないが、それ以前に韓国には追い越されているのだ。2010年にトヨタは欧州で初めて販売台数で現代に追い抜かれているし、世界最大の市場中国でも現代に及ばない。関税をゼロにすればいいというほど単純ではない。

(貿易依存度のバカ高い韓国)
 それよりも何よりも、日本と韓国の違いは国の大きさである。人口は、日本は、1億2700万人、韓国は、4000万人強、約3分の1である。また、韓国のGDPは10,145億ドルと日本の5分の1強にすぎない。韓国は小さい国内市場だけでは生きていけず、グローバル化が必要なのだ。そして、国民がある程度その考えを受け入れていることだ。
 次に違うのは輸出依存度が、韓国は43%(GDPに占める輸出入総額は82%)なのに対し、日本はわずか11%にしか過ぎない。日本より低いのは、アメリカ(7%)とブラジル(10%)ぐらいしかない。韓国はWTO交渉が停滞する中、日本やアメリカのように国内市場だけで成長できる国ではないことから、2国間のFTAに活路を求めたのだ。
 日本は加工貿易立国であるといわれてきたが、実は違う。日本の成長は確かに一時は輸出が支えたこともあったけれども、基本的には団塊の世代を中心とする内需が支えたのである。これは三種の神器なり、3Cなりを国民がこぞって買い、内需を拡大することによって、日本の産業界を潤わせてきたことを考えると一目瞭然である。日本は幸いなことに、大国になり過ぎたのであり、韓国の5倍のGDP5.5兆ドルの国が輸出拡大を図るとすれば嫌がられるのは当然である。米議会が米韓FTAは許しても日米FTAをおいそれと認めることはあるまい。その延長線上で、私は米議会が日本のTPP入りをすんなりと認めるとは思えない。
 となると、日本もまたぞろ外需すなわち輸出に頼るのではなく、今度こそ内需拡大で日本を活性化していくべきなのだ。それも乗用車とか家電製品といった特定の製造業に偏りすぎず、食品産業や木材産業等の地場産業の振興に努めるとともに、介護、医療、教育といった新しい需要に向けていくしかないのだ。これらの新しい分野にこそ、新しい雇用の場なのに、TPPに入り、介護や医療の分野まで外国に開放せんとするのは、愚かとしかいいようがない。

(韓国の危険な試み)
 韓国は、盧武鉉政権の時の1997年の財政危機を契機に2004年チリとのFTAを皮切りに、通商国家体制に大きく舵を切った。李明博政権はそれを引き継いで加速させている。日本と違って人口は4000万ほどで国内市場は限られている。北朝鮮という危うい隣国を抱えている。そうした中でのやむにやまれない方向転換かもしれないが、非常に危険な試みであると思う。
 EUとのFTAが2011年7月発効、アメリカとのFTA交渉も2007年には米の16品目を除き、牛肉、豚肉等の重要品目の関税撤廃も受け入れ、合意にこぎ着けている。韓国はかなりアメリカに妥協していて、今後のTPPを占う参考になることが多い。例えば、郵政の保険関係では、新商品を販売しないと約束し、特区内での自由診療拡大、営利病院の許可を明文化している。日本が今、何の情報もなくTPPに入ったら、すぐさま同じ要求を突きつけられ、受け入れざるをえなくなる可能性が強い。
 アメリカは外交交渉においては、本当にしつこい勝手な国である。次々と新たな要求を出してくる。2009年1月オバマ大統領は「米韓FTAについて見直しが必要」と発言。韓国は「再交渉はあり得ない」と主張したが、事実上再交渉させられた。その結果、韓国産乗用車に対するアメリカの関税撤廃時期の5年先延ばし、米国産乗用車に対する韓国の安全・環境基準の緩和という妥協を強いられている。日本のTPPに入ればなんとかなるという楽観主義者には、この際限なきアメリカの要求はどう映るのだろうか。

(羨ましく映る韓国をじっくり観察)
 延び延びになっていた米議会の米韓FTA実施法の承認も済み、両国が目指す2012年1月の発効に一歩近づいた。しかし、一方で、韓国の批准となるとそう楽観視できない。韓国内には妥協しすぎの政府に対し、野党は反発を強めている。今まで韓国がどれだけ妥協したか国民には明らかにしていないようだが、やはり、政治は一寸先もよくわからない。
 2011年10月26日のソウル市長選で野党連合が支持した無所属候補朴元淳が当選、一度は農畜産業の追加補償策などで妥協が成立したが、毒素条項(ISSID)すなわち投資家が不利益を受けた際には、相手国を訴えることができることに対し、韓国に不利な「毒まんじゅう」と反発している。やっと危険性に気付き始めた野党民主党は、FTA問題は4月の総選挙で国民の意見を聞いてから処理すべきだと越年論議も辞さない構えとなっている。医療や食品の安全性等について、アメリカの要求を相当のまされたことが明らかになれば、激しい韓国の民衆が大騒ぎしてくる可能性もある。BSE牛肉を危険にだとして小・中学生まで参加して100万人デモをする国なのだ。
 日本は韓国の先行をうらやまし気に見ているが、ことはそう簡単に進みそうにない。やっとTPPの全容に気づいた農業関係者の不安も高まっている。日本は焦ってTPP交渉に入る前に、韓国がどうなるかじっくりと見極める必要がある。

(日本がTPPに現を抜かす間に韓中が接近中?)
 TPP推進論者が、二言目にはアジアの成長を取り込む必要があるというが、TPPは中国も韓国も入っておらず、ASEANの主要国も全く入っていない。ベトナムはあまりの中国進出に恐れをなして、かつてあれだけ痛めつけられたアメリカにすり寄っているにすぎない。他のASEAN諸国は、胡散臭い目で見ているのだ。中国はアメリカへの対抗上TPPを無視、韓国は米韓FTAで精一杯で、今更関税ゼロが原則のTPPなどにかまける余裕はない。
 しかし、中韓二ヶ国は北朝鮮をはさんではいるものの隣国に等しい。普通に考えるならば急接近してもおかしくない。日本は中韓と三ヶ国のFTAについて共同研究中だが、そんな呑気なことをいっておられないかもしれない。もしも、本当にアジアの成長を日本に取り込みたいなら、中韓とこそFTAを締結していくべきなのだ。三ヶ国ともアメリカのように押して押して押しまくり、次々と青天井の要求をしてくるようなえげつない国ではない。お互いの痛みを分かち合える国である。
 受け身の盲目的TPP入りではなく、前向きに東アジアの仲間造りをしていくべきなのだ。韓国は、似た構造の日本とのFTAは難しいが、中国となら補完関係を作れると踏んでいるはずである。日本はむやみやたらにアメリカに追随するのではなく、近くの隣人を大切にしていくべきなのだ。日本は中国をとるかアメリカをとるかの二者択一で、単純にアメリカになびいているようだが、韓国は北朝鮮もあり、アメリカと同盟関係を維持しながら、中国とも接近をすることは間違いない。それが大国の狭間にある小国の生きる唯一の道なのだ。
 日本も韓国にならい、米中両国と平等につきあっていくべきであろう。

 1  |  2  | All pages