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TPPシリーズ10.アメリカのしたたかな戦略とオバマの見え見えの打算ー11.11.9

 11日に予定されるAPECホノルル会合での、野田総理のTPP交渉への参加表明の是非に対し、民主党の意見をまとめるべく開催され続けてきた経済連携PTは、本日最終日を迎えることとなった。途中、慎重派議員の要求を受け、私も役員として昨晩とりまとめた提言案の一部に「慎重に」という更に強い一言を入れる修正を行う場面もあったが、17:30より開かれた同PTは、約5時間の議論の末、全会一致で党の提言として承認された。
 記者会見等を終えて、現在 11:20であるが、連日掲載して好評をいただいているTPPシリーズを本日もお送りしたいと思う。


 アメリカは、一旦戦略を打ちたてるとしつこくそれに向かって進む国である。
私は、以下のような大変なことがあったと考えている。

  ①丸太と製材の関税ゼロが中山間地域の疲弊をもたらしたこと
  ②余剰小麦のはけ口で、パン給食が導入され、日本の風土と隔絶した食生活が広まったこと
  ③金融ビック・バンにより日本金融システムを変えられ貸し渋りが増えたこと
  ④日米構造協議により大店法が改正され、地方商店街のシャッター通り化を招いたこと
  ⑤年次改善要望書にもられた郵政民営化を受け入れため、郵便局が混乱し、金融界にも波及が生じていること

(TPPでは日本に選択権なし)
 TPPの交渉参加で、上記のようなことが国際協定の枠組みの中でじわじわと押し付けられる突破口になるのは確実である。財界等の推進派は、日本経済の活性化の突破口などというが、そんなものよりも違う突破口になってしまうのだ。もちろん、アメリカに学ぶことも多く、日本はそれをいいとこどりしてきた面もたくさんある。いくら強制させられたとはいえ、一応どれを取り入れるか選択権があったのだが、TPPに入るとあればいいけど、これはダメと言い出せなくなり、他の国も皆賛成しているのだからといって、有無を言わせられず押し付けられることになる。だから私は大反対なのだ。「TPPを慎重に考える会」となっているが、私は慎重どころではなく「大反対」なのだ。
 アメリカが動き出す時には、きちんとした背景があり、戦略がある。自ら世界を変えられる力があるのだ。そこが外交上もずっと受け身な日本とは異なる。それではアメリカはなぜTPPを持ち出してきたのかについて検証してみる。

(物づくりを忘れたアメリカ)
 長期的視点から見るとアメリカはもうずぼらな国になり下がり、自ら物を生産すると能力は衰えてしまっている。アメリカの貿易収支の面でいうと、稼げるのは農産物(269億ドルの黒字)と工業製品では武器輸出関連のものしかなく、あとは金融サービス(1,363億ドル)で黒字になっているだけである。したがって、アメリカは、ウルグアイ・ラウンドの頃から新三分野(投資(TRIM)、金融サービス(GATS)、知的財産)でアメリカの有利なルールを作ることを目的としている。しかし、これがうまく行けばいくほど、自ら汗して働くことを忘れ、マネーゲーム等で儲けるようになり、ますます没落することに繋がっているのではないかと思っている。

(没落するアメリカのしたたかな金融・投資戦略)
 アメリカはOECDでまず先進国間で投資の自由化を試みたが、同じ事を試みたが、1998年10月、ジョスパン仏首相が参加を取りやめ、各国もフランスに同調し失敗している。ドーハ・ラウンドでもアメリカはWTOのTPIM協定で、投資の自由化を推進しようとしたが進んでない。同じことを米州自由貿易地域(FTAA)でやろうとしたが、南米諸国の反発を買い、やはり実現しなかった。各国ともアメリカの金融支配に明らかにNOを突きつけているのだ。
 さて、問題のTPPであるが、2008年2月4日、シュワブ通商代表が最初に、P4と投資及び金融サービスに関する交渉を始めると発言している。つまり、もともとP4協定になかったものを、投資と金融に興味を示して、TPPに入ろうとしたのは明らかである。そして、2009年11月14日の日本での発言につながった。
 TPPは、価値観の同じアングロ・サクソン諸国・旧英連邦諸国なり弱小国を引き連れて、アメリカに都合のいいルールを作り、あわよくば無防備な日本を引っ張り込もうという魂胆が透けて見えてくる。

(アジア金融通貨危機にこりた東南アジア諸国)
 この魂胆をちゃんと知っているのは東南アジア諸国である。1997年ヘッジファンドの空売りにより、タイ、インドネシア、韓国等は相当酷い通貨金融危機に見舞われている。フィリピンにも影響し、日本にもトバッチリが来て、日本債券信用銀行や日本長期信用銀行が経営破綻をきたし、外国資本の手にわたるキッカケとなった。だからこれらのアジアの国々はTPPを冷ややかな目で見ている。
 ベトナムは対中国との関係があり、アメリカのバックアップが必要という特殊な事情がある。忘れてならないのは、シンガポール、ベトナム、マレーシア等いずれもGDPに占める貿易の依存度は100%を超える国である。韓国(80%)や日本(15%)と比べると、圧倒的に貿易に依存した国だから、TPPに入ったほうが得なのだ。つまり各国の事情により入るか入らないか決めているのである。そういう点からすると、日本の入る事情は全くはっきりしない。

(カナダ・メキシコも南米も総スカン)
 そして、他の国で言えば、NAFTAのカナダとメキシコが何故入らないか。2ヶ国は、例のISD条項によりアメリカの企業から訴えられ、賠償金を払わざるを得なくなるなどして、アメリカ金融資本の横暴にすっかり嫌気がさしている。
 韓国では、10月の選挙で野党や無党派に支援されて当選した朴元淳ソウル市長が、韓国では毒素条項といわれるISD条項の見直し等を含める懸念を表明し、今や2012年4月の総選挙の争点となっている。今、日本で信を問うのは、原発もあるし消費税もあるが、TPPこそ選挙で問うべき大問題なのだ。
 NAFTAの後、自由貿易地域を、メルコスール4カ国(アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ)等南米にまで広げようとしていたが、反米でなるチャベス・ベネズエラ大統領等が反対し、頓挫してしまった。

(オバマ再選の最後の拠り所TPP)
 あちこちにソッポを向かれ、焦ったオバマ政権が急成長するアジア市場に目を付けTPPに飛びついたともいえる。2010年1月の一般教書演説において、jobという言葉を20回も使い5年間で輸出を倍増し、200万人の雇用をつくり、失業問題を解決するという国家輸出戦略を打ち出し、大統領再選に向けて動き出したのだ。

 オバマ大統領は、上院時代3件のFTAのうち1件(オマーン)しか賛成していないし、選挙公約でNAFTAの見直しやドーハ・ラウンドへの環境や労働に関する議論の追加を主張していた。批准を待つだけのコロンビア、パナマ、韓国のFTAにももともと乗り気ではなかったし、TPPへの関与は、はじめてのFTAに関する意思表明だった。
 オバマ大統領にとってTPPは、2011年11月12,13日の生まれ故郷ホノルルのAPEC会合の政治的目玉として一番重要だと考えているに違いない。

(少ない経済的効果)
 景気回復もできず、雇用問題も9%を超える失業率が続き、中間選挙では民主党が完敗している。そして、窮余の策が輸出拡大であり、成長著しいアジア市場の獲得を狙っているのである。ただ、アメリカの輸出依存度は7~8%と日本の半分程度であり、冷え込んだアメリカの景気浮揚にはそれほど働くとは思えない。本音は、あくまで選挙向けのポーズである。そんなことになんで日本が付き合わなければならないのか。誰が考えても損な相談である。

(長期的には中国牽制)
 もう一つ重要な背景は、中国への牽制という覇権争いである。国産空母建造や次世代ステルス戦闘機「殲-20」開発など軍備増強が目立つ中国は、一方で2010年ASEANとFTAを発効させていることになった。2011年5月22日には、菅・胡・李の三者会談で、日中韓のFTAの研究が進められることになった。もともとは鳩山総理が東アジア共同体を強調し、小沢元代表が数多くの親派を連れて中国詣でを繰り返すのにいらいらしているアメリカが焦り、自らの存在感を向上させんとするのは自然である。
 日本は中国の海洋侵出などには厳然と対処する必要があるが、安全保障でアメリカのお世話になっているし、同盟国だからといって、TPPのような広範な分野においてアメリカに組する必要はない。

(始まったアメリカの先制攻撃)
 私は、日本が交渉に参加を表明した途端、BSEの規制の緩和等無理難題を言って、結局日本は入れないようにして、日本をのけ者にするのではないかと考えている。そう思っていたら、11月8日、ボーカス上院財政委員長がカークUSTR代表に対して、日本市場には自動車や牛肉を含む農産品、保険、医療などさまざまな分野で深刻な障壁があり、日本が市場開放に向けてTPPの高い基準を満たす意思があるか慎重に確認するよう要請する書簡を発出した。もう門前払いの徴候がみられる。
 経済界は日本の輸出増に期待を寄せるが、オバマ大統領の狙いは、演説のとおりアメリカの輸出倍増と200万人の雇用機会の拡大であり、アメリカの輸入増など考えていない。2010年11月 横浜のAPEC総会で「巨額の貿易黒字がある国は輸出での不健全は依存をやめ、内需拡大をとるべきだ。いかなる国もアメリカに輸出さえすれば、経済的に繁栄できると考えるべきではない」と何も隠さず正直に意図をぶちまけている。それにもかかわらず、日本の輸出を増やすTPPなどどうして言えるだろうか。

(日本の恩は報われず)
 ところが、日本がいくらポチよろしく尾っぽを振ってTPP交渉に参加してオバマ再選を助けたとしても、うまくいかない可能性のほうが高い。その場合、次の共和党新大統領は、日本の一時の情け心に恩義など全く感じないだろう。
 大統領再選の道具のために、日本の国の形まで変えてしまうようなTPPを推進するというのは、あまりにもお人好しであり、こんな明々白々なことに気が付かない日本の政治家がいるとしたら、願い下げである。

(20年前と比べアメリカの圧力はなし)
 よくアメリカの圧力というけれども、今、日本に対してTPPに入れという政界や産業界の圧力はほとんどない。日米通商交渉が盛んに行われた1980年代は、アメリカは本当に怒っていた。毎年、日本の貿易黒字が500億ドルから700億ドルになり、アメリカにとっては耐えられなかった。したがって、産業界も怒り、政治家も国会の前で日本製品をハンマーで叩き割るといったようなパフォーマンスもみられた。他の産業に高関税をかけるクロスリタリエーションとか、あるいは勝手に輸入制限したりする、スーパー301条とかが連日新聞を賑わしていた。それに比べると、今はそうした動きはほとんどない。
 他の東南アジア諸国、カナダ、メキシコ、南米諸国と違い、ただ一国あたふたしているのは、日本である。アメリカの強い要望と勘違いし、せっせとTPP騒ぎを大きくしているのである。野田政権の10月以降のTPP前のめりは自作自演の劇場政治でしかない。

<日本だけが「入水自殺」するのか>
 その一方で、アメリカから農産物の輸入が拡大し、地方農村は更に疲弊し、医療や金融サービスも大打撃を受けることになる。こんな筋書きが見えているのに、なぜ立派な経済学者や日本の国益を考えて政策をいうマスコミも気付かないのだろうか。私には不思議でならない。一刻も早く、TPPには参加しない宣言を出すべきである。