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アメリカの罠にはまる日本のTPP交渉-11.11.30-

 TPP問題が党内の意見集約に向けて佳境に入ったのは11月上旬。私は、毎日メルマガ・ブログを発信した。なるべく多くの皆さんに全容を理解してもらいたかったからだ。

<玉虫色の総理記者会見>
 11月11日(金)、午後8時、野田総理の記者会見は、我々党の苦心の提言をある程度踏まえた押さえたものであった。11月上旬からずっと続くドタバタの中で、私もいろいろなことに絡んでいたので、玉虫色の表現にとどまることはわかっていた。
 TPPを慎重に考える会としては、ぶっちぎりのTPP交渉参加をひとまず喰い止めたことは、大きな成果であった。もちろん不参加表明がベストであったが、それは今までの野田総理の言動からしてまさに後向きであり、政府の立場からするとできる相談ではなかった。その意味では、ギリギリの落し所である。
 私の30年間携わった農政はいつもこうしたあちら立てればこちら立たずの連続であり、足して2で割る解決しかないことばかりであった。だから、私の習性として常に落とし所を考える癖がついている。これが格好のいいことを言いっぱなしで、まとめる術を知らない元野党民主党議員と少々違うところである。
 詳細は避けるが、今回は11月8日の原案作成、9日の最終日の5時間に及ぶ大議論、修正の過程、10日のそして総理記者会見の1日延期11日の総理記者会見発言の修正過程では、私はTPP参加阻止という大目的のために必死で動いたが、一方で野田政権を大きく傷つけることのないようにも気を使った。鹿野農水相の上着脱ぎサインで誕生した野田政権、私は鹿野農水相を会長とするグループ素交会の事務局長、野田政権を支えるのが義務でもある。ところが、見渡してみると、推進派も慎重派もがっぷり四つに組んで、どうみてもどこかで妥協点を探ろうという適任者がいなかったからだ。私は、冗談を言いつつ慎重派の意見をい続けたが、いつもどうまとめるかについて一方で常に頭に入れていた。

<「ホッとした」山田会長記者会見>
 いろいろ意見はあったが、11日午後9時いつもの衆第2議員会館318号室で記者会見を開いた。上記の延長線で、私は山田会長に電話で話し、「参加表明阻止は一区切り、しかし、本当はこれから」という意味合いを込めた表明文を書いて渡したが、それを読まず「ほっとした」という発言が飛び出し、強硬派からは何だという批判をいただくことになってしまった。
 私は、不本意である点を強調しつつも、全面的参加表明を食い止めたことは「一応の成果、あとは全力を尽くしてTPPの問題点を明らかにしていく」と表明する予定だったが、チグハグになってしまった。離党と仄めかしてきた山田会長が不満ばかり言っていては、離党しなくてはならなくなる。それでは今後の本格的なTPP阻止活動に差し障りが生じる。何人もの純粋な若手議員の離党という事態を避けるためにも、私は今回の収め方しかなかったと思っている。強烈な反対派の皆さんからはお叱りを受けるかもしれないが、こうした事情を察していただくしかない。
 私は野田総理がホノルルへ発った翌12日の朝から声が出にくくなり、風邪でダウンしてしまった。1ヶ月ずっとTPPにかかり切りだった疲れがどっと出てしまったようだ。そのため、ずっと毎日続けていたメルマガ・ブログも止めざるをえなかった。
 
<許し難い執行部の「交渉参加」への誘導リーク>
 誰がやっているのか知らないが、官邸なり執行部が常に参加表明の方向に誘導する情報を大手マスコミにリークし、五大全国紙とこぞってTPP参加一辺倒の報道をしていることである。2010年10月1日の菅総理のこれこそ唐突な「TPP参加交渉検討」の所信表明に対しても、いつもは菅批判ばかりの五大紙が、こぞってTPP参加のヨイショ論調で塗り固められた。そして今の今までずっと同じことが続いている。
 11月8日、連日続けてきた総会を休み役員会でやっと最終案をまとめた。双方とも不満が残る提言文だったが、我々役員は9日夕刻の総会まで一切外に出さないことにして、まとまった原案もその場で回収した。私はこのメンバーからは絶対に漏れていないし、役員もペラペラと外に話もしていないと信じている。ところが翌9日の新聞は、例によって一斉に「党の提言にかかわりなく日本はTPP参加」と報じられた。多分、11月8日深夜に案文を手に入れた政権・与党の幹部なり執行部が意図的に情報をリークし、それに乗せられた各紙が昨秋以来の自分たちの論調に沿った我田引水記事を書いたのだろう。このため、9日の夜の最終会合は、執行部リークに腹を立てた慎重派議員が修文の意見を次々に出して再び大荒れに荒れた。

<戦前も今も繰り返す大政翼賛的新聞論調>
 10日予定の記者会見を1日延期し11日の夜の会見は慎重な言い回しになっても、12日の各紙はもっとひどい「参加表明」論調であった。食べだしたら止まらないのか、言い出したら止まらないのか、いずれにしても冷静な報道はこの1年余、全く見られなかった。異常である。
 五大紙はそんな馬鹿なと言うだろうが、戦前に満州へ進出し、国際連盟を脱退し、日独伊三国防共協定を結び、戦争に突き進んでいくのを批判もせずにヨイショしていたのと同じだ。「バスに乗り遅れるな」という風潮も、勇ましく世界へ出ていくという点も共通である。ただひたすら日米同盟関係とやらをまくしたて、対中関係の悪化に思いを馳せることがない。欧州の金融危機やオバマの通商戦略に利用されているだけだという誰にもわかる国際情勢を冷静に判断する眼を失っている。
 11日の参議院の予算委員会では、野田総理がISD条項(アメリカの投資企業が日本の制度により被害を受けた場合は国を訴えることができる)を知らないことが露呈した。何も知らないでその時の雰囲気だけでTPPを進めようとしているのは、アメリカの底力も知らずに突き進んだのと同じである。私には寧ろ恐ろしいことである。これでは先が思いやられる。

<「参加表明先送り」の本当の姿>
 事実はどうか。
 総理記者会見の中ほどに「TPP参加に向けて関係国との協議に入る」とあり、結論は「さらなる情報収集に努め、十分な議論を経た上で、TPPの結論を得ていこうと思う」となっている。単純明快に言えば「TPPには今とても参加するとは言えない。今までと同じく関係国から情報を集め、国民に情報を開示して十分に議論を経た上で参加の是非を決める」であり、TPPへの参加表明ではなく、あくまで事前協議なのだ。総理の記者会見で言ったことを端的にまとめよという試験問題だとすれば、五大紙の論調は0点のはずだ。
 昨年の横浜APECではオブザーバー参加を認められたTPP9か国会合なのに、今回はまとめの段階ということもあるだろうが、会議にすら入れてもらってない。各国とも日本をきちんとした参加国とは認めていない。
 私は、慎重に考える会の抵抗、そして党の提言が結局は門前払いを喰らうであろう野田外交の救い道を開いてやっていると思っている。最近やっと一般的にも明らかにされているが、最大の関門であるアメリカ議会の承認は最低90日前の通告が必要であり、その前の事前予備の交渉にも2~3か月かかる。つまりどんなに早くても6か月位は、すなわち2012年の5月ぐらいまでは9か国の仲間には入れてもらえないのだ。
 カークUSTR代表は来年12月までに合意すると言っている。今の状態では、1年間の交渉でいつも推進派が言っている「ルール作りに参加」など出来るはずもない。日本の意向など反映できるはずもなく、決まったルールを押し付けられるだけだ。

<すぐに突きつけられた無理難題>
 その問題の事前交渉だが、カーク代表はすぐさまBSE牛肉、保険、自動車用関連の規制の3つを前提条件にあげてきた。17日には、マランティス次席代表が訪日している。それと政府は何も動いていないと、またまた情報隠しをする。何度も強調してきたが、1989-90年の日米構造協議の際はアメリカの産業界なり国民は日本の膨大な貿易黒字にカンカンに怒っており、それを受けた議会・政権もあれこれ注文をつけてきたし、日米間には緊張感が漂っていた。しかしTPPについては「日本が入りたければ入ったらいい」「入ってほしいけど、まあ自由にどうぞ」といった程度なのだ。自動車業界等はそもそも日本のTPP入りに明確に反対している。従って日本がノコノコ入っていくのは入水自殺のようなものだ。
 予想されることはTPPになど全く無関心だった業界自体が、日頃の不満を事前交渉にどっさり持ち込むことである。BSE牛肉の例のように食品安全のルールもアメリカと同じに変えられてしまい、日本人の健康を大きく損ねることになってしまう。国民に生命と財産を守るのが国家の最重要な役割だというのに、それを放棄せんというのがTPP入りなのだ。「守るべきは守る」と野田総理は何回も言っているが全く準備もできておらず交渉前から妥協せんとしているようではとても突っぱねられまい。 
 
<危険な空回り外交>
 こうしたあやふやな対応がすぐさま露呈した。米側が「野田総理が『すべての品目・分野を交渉のテーブルにあげる』と発言」と記者会見しホームページに掲載したのだ。早速、日本側が抗議するや一応、米側は二国間会議の場では発言がなかったことに認めるものの、聞きおくだけで削除していない。
 追い打ちをかけるように、日本テレビが枝野経産大臣の取材の折、ファイルの中の「野田総理は出発直前にTPP参加を表明」、「すべての品目・分野を交渉のテーブルにあげる」の発言要領を映し出していた。更に、18日(金)のNHKニュースウォッチ9に出演した山口外務副大臣は「トーキングペーパーを渡していたので、それをもとに米側が発言」と言出した。つまり、政府は参加に向けて事前着工し、暴走し始め、歯止めがかからなくなっているのだ。繰り返すが軍部の暴走と同じなのだ。今、輸出輸出と叫ぶ経済界が軍部と同じことを当事者が気づいていない。危険極まりないことなのだ。

<税もTPPで決められ危うくなる国家主権>
 今政府・与党の関心は来年の予算編成や税制改正に向けられている。税制では自動車関連税制が俎上にのぼり、自動車重量税と取得税の廃止が自動車業界から出され、その配分を受けている地方自治体が大反対するせめぎ合いが続いている。都市部は車がなくとも生活出来るのに対し、地方は車なしでは暮らしが成り立たず、我が長野県は1000人当たり自動車台数が885台と全国1位である。つまりこの税金はほとんど地方が払っているので、その分が地方に戻ってくる仕組みとなっている。極めて合理的な考えである。
 私は、この場でTPPに絡めて以下の発言をした。「今、和気あいあいかつ喧々諤々税制の議論をしているが、我々は、今TPPで関税自主権を失おうとしている。TPPに入ってしまうと、5年後は、自動車重量税もTPPの外交の場で議論され政権・与党税調の役割はなくなっているかもしれない。つまりアメリカから車体の大きい自動車重量税はアメリカ車を差別するひどい税であり、即刻廃止すべきと言われ、TPPの交渉の場で税も決められ、こんな議論をしなくてもよくなっているかもしれないのだ。」
一瞬、シーンとなったが、司会の事務局長が「今年の税制に無関係の発言は控えて下さい」と余計な事を言った。しかし、現にかつて日米自動車交渉の俎上にのぼったこともあるのだ。何しろ日本がアメリカから輸入している乗用車はわずか1万台、それに対し日本からの輸出が152万台、このあまりの差にアメリカが怒って当然である。「アメリカ車だけ重量税を3分の1にしろ、さもないと、アメリカで日本車だけ3倍取るぞ」という話になっていく。TPPはかくして国家主権の放棄につながっていく。
 11月24日、我々の要求により、TPPについてはじめて総理の直接の説明を聴く両院議員懇談会が開かれた。しかし総理や経産相の上記の日米の喰い違いや、いかがわしいペーパーについての弁明は言訳にすぎず、何ら納得のいく話ではなかった。今度は、山田会長はすぐさま不満の記者会見を開いた。
 国民の生活どころか、国のかたち存在すら危うくしかねないTPPはこれからもっと注視していかねばならない。