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TPPシリーズ9.TPPの経済的メリット、デメリット-11.11.8

<まちまちの関係各省影響計算>
 TPPで各省庁の意見が真っ向から対立したが、TPPの影響試算がまちまちであった。
農林水産省は、TPPに参加した場合、農業で4.1兆円、関連食品産業を合わせると、7.9兆円の損失になり、340万人の雇用が減るという数字を出した。それに対して経産省は、不参加の場合は、20年後に輸送機器と家電と機械工業の大輸出産業でもって、GDPで10.5兆円の減になり、雇用は84.2万人が減ってしまう計算した。内閣府は、TPPに参加した場合、GDPの増加は2.4~3.2兆円、しなければ6~7000億円の減という見積もりを出していた。大きく各省庁の計算が違っている。

<経済的メリットが小さすぎて出せなかった経産省>
 農林水産省の計算は、内外価格差をもとに単純計算しただけのものだが、経産省の試算は、輸出比率の減を誇大に見せようとして、本来TPP不参加とすべき仮定を変えている。

 まず、仮定のごまかしその1が、TPPだけではメリット(あるいはデメリット)が小さすぎるので、わざと日本がEUとも中国ともEPAを締結しなかった場合としている。EUも中国もTPPに無関係なのに、この2国を入れなかったら数字が大きくならないからだ。
2番目に韓国との差だが、これまた今の米韓FTA、EU韓FTAでは差が小さすぎるので、わざと中韓FTAが結ばれた場合としている。TPPとFTAの比較もおかしいが、それは譲るとして、締結した米、EUとのFTAでなく、今後どうなるかわからない中国とのFTAも締結し、日本は結ばないとして差を大きくしようとしているのだ。
 3番目が、他の2府省が、今現在で計算しているのに、わざと2020年に日本産品が米国・EU・中国において市場シェアを失うことによる関連産業を含めた影響を計算して過大にみせている。
これはとりも直さず、TPPのGDPへの影響があまりにも小さいために、上記の3つの仮定をせざるを得なかったのだろう。それにしても、仮定がすぎる。経済学者の野口悠紀雄は、TPPによる輸出増はたった0.4%と断じている。こんな数字など、為替レートの変動ですぐ吹っ飛んでしまうことは度々述べたとおりである。

<具体的メリットなし>
 2011年10月24日の経済連携PTで経団連の意見を聞く際に用意されたペーパーは、はっきりいってお粗末だった。たった1枚で、下半分が農政についての提案だった。肝心のTPPがなぜ経団連にとって必要かということは箇条書きで抽象的に書かれていただけであった。TPPに参加しないと日本は世界の孤児になるとか大仰なことを言っているわりには、少しも熱意が感じられなかった。具体的メリットがないのだろう。こんなことで日本社会をぐちゃぐちゃにされてはたまらない。


 推進論者の論調は、新聞の6段ぐらいのインタビュー記事や社説は見つけても、著書がほとんどない。つまりは、一冊の本にするには論理矛盾が多すぎ、また牽強付会にやろうとしてもろくなメリット数値を示せなかったのであり、とても書物にできないからであろう。例えば、大胆な金融緩和によってインフレにし、景気をよくしなければならないといった経済学者、評論家が、明らかにデフレを招くと思われるTPPに賛成するとおかしなことになる。
 また、TPPに参加するかしないかは、私が繰り返し述べているように、多国間構造協議をアメリカの圧力で行うものであり、内容が多岐にわたる。あまりに分野が広く、節度ある学者や評論家はとても適当な推進論をぶてないからだ。

<利益は国民に均霑化せず>
 メリットとして、一つ上げられるのは、TPPにより輸出企業が儲かった場合、それが、トリクルダウンして他のところに転化するということ。ところが、ほとんどそうなっていないのではないか。失われた20年の間も、一時期輸出が伸びて、輸出企業は相当業績が上がっていたはずである。例えば、一部上場のトップ30社ぐらいは、それでもって内部留保を相当溜め込んでいる。輸出企業はぼろもうけしたのだ。しかし、その配当や役員報酬は増えたけれども、従業員の給与は上がっていない。なおかつ、長期的な投資、研究開発のような投資には、お金を向けていない。そして企業合併をくり返し、あるいは余ったお金を外国に投資するなど、日本の成長にはほとんど寄与していないのではないか。TPPに仮に入ったとしてもまた、こういうことを繰り返すことになり、日本国民がメリットを受けるということはそれほどないのではないか。

<検証すべきNAFTA(北米自由貿易協定)後のメキシコ>
 我々は、ここで過去の自由貿易協定の結果を検証してみる必要がある。
地域協定の一つである北米自由貿易協定(NAFTA)が1994年に成立して17年経った。これが一つの典型であるが、アメリカ、カナダ、メキシコはどうなったか。日本のTPP推進派の書物や論壇には一つも登場しない。理由は、少なくともメキシコにとっては惨憺たる結果になっているからだ。
 アメリカからメキシコへのトウモロコシの輸出は3倍に急増した。アメリカの農産物の3分の1は輸出されており、国内補助金がそのまま輸出補助金と同じ役割を果たしている。零細なメキシコ農民はトウモロコシ生産ができなくなり、アメリカからメキシコへの大豆、小麦、豚肉、牛肉等の輸出も急増した。そのため、農地を手放し密入国する者も増え、一旦、米国の多国籍企業の製造業に雇われたものの更に安価な労働力の国に工場が移転され、リーマン・ショック時には50万人が職を失っている。
 NAFTAは、結局のところ、独占と集中をもたらしただけで、メキシコには製造業の成長も雇用の拡大もなく、全く逆の結果しか生まなかった。勝者は、メキシコ市場を手にしたアメリカの多国籍企業だけだったのだ。

<数%の関税引き下げよりも為替変動の影響大>
 アメリカはTPPを輸出を倍増する梃子にしようとしているのであって、輸入を増やすつもりはない。そして輸出先として一番期待が持てるのは、現交渉参加8カ国ではなく他ならぬ日本なのだ。オバマ大統領は「巨額の貿易黒字のある国は輸出への不健全な依存をやめ、内需拡大策をとるべきだ」と言っている。
 昨今のドル安の放置(?)も、輸出戦略の一環だ。さらに言えば、今や日本メーカーの自動車などは半分以上(66%)が、アメリカの現地生産で関税は無関係である。アメリカは高関税のうちに現地工場を作らせ、雇用の拡大を確保し、その後にドル安にして、輸出攻勢をかけることを考えているに違いない。

<景気浮揚にはTPPより財政出動が先>
 日本の景気をよくするためには、まず日本のデフレを脱却しなければならない。そのためにやるべきことはなにか。TPPで輸出を増大することではない。TPPで関税ゼロにすると更に安価な輸入が増え、デフレが加速する。正解は、公共投資の拡大なり、大型減税であり、大規模な量的緩和であり、内需振興なのだ。それを今日本は増税しようとし、はたまた、TPPで関税をゼロにしようとしているのである。どこかネジが曲がっている。
 通貨当局日銀と財務当局財務省とが協力し、日銀が国債の買い取り枠を増やし、同時に政府が財政出動と減税をすれば、日本のデフレを終わらせることができる。そうすればTPPによる輸出に依存しなくて済む日本ができ上がるはずである。経済界はなぜこの声を上げないのだろうか。
 日本の経済の活性化には、やはり国内経済の需要を拡大し、成長路線に繋げることであり、対外的に見れば円安にすることである。長期的には、それによって税が増え、名目GDPも成長し、財政が健全化することになるのではないか。このことを忘れてTPPだけに固執し、日本の社会システムを変え、またまた混乱させるというのは、金融財政政策として賛成できない。