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形(なり)振り構わぬ譲歩で何も得られなかった事前協議 13.04.27

<理不尽な妥協にやっと批判の目を向けた日本のマスコミ>
 4月12日、政府は、日本のTPP交渉参加について日米合意が成立したと全紙が一斉に報じた。そしてやっと安倍政権のあまりに軟弱な交渉姿勢に批判的な論調も見られ始めた。
 2010年10月に菅首相が突然TPPを言い出してから、ただただ盲目的にTPPを礼賛してきた5大紙だが、毎日と朝日は明らかに、日本の交渉姿勢を問題にし始めた。つまり、それだけトンチンカンな交渉をしているということである。
 毎日は、「交渉力強化が必要だ」として、交渉力に不安を残す、真に守るべき聖域をえり分ける、農業の構造改革などの国内対策も忘れてはならない等、極めてまっとうな見解を述べ、最後は、政府が交渉力を向上させ、議論を主導することを期待すると結んでいる。 
一方、朝日は「意義と原則を見失うな」で、車の関税の撤廃を最大限後ろ倒しするなど、早くも米国ペースになっている、国民の安全にかかわる規制をいたずらに緩和するなど、不透明で理不尽な合意をしないように釘をさしていきたい、と注文を付けている。
 ところが、日経「これからが国益を高める本番だ」、読売「TPP交渉の勝負はこれから」、産経「攻めの姿勢で国益を拡げよ」と同じような言葉で、相変わらずの一方的イケイケドンドン大政翼賛報道を繰り返している。

<史上最低の妥協をしたTPP事前交渉>
 ハネムーン期間(政権に就いてから3ヶ月)過ぎたというのに70%を超える高支持率は、何かと不満をたれる傾向の強い日本では珍しいことである。それに乗じての大急ぎの「俄か外交」である。案の定、日本は譲って譲って譲りまくり、やっとのことで合意に漕ぎ着けた。その譲歩振り、形振り構わぬ妥協振りは前代未聞である。3月2日付ロンドンエコノミストが「日本では政府とメディアが一緒になって過大評価している」と皮肉った、日米共同声明のごまかしが早くも露呈したのである。つまり、意味があったのは5品目(正確には種類で関税番号の品目でいうと840品目)の農産品の例外(除外)ではなく、アメリカの主張を書いた第3パラグラフ(段落)だけだったのである。日本の気にする農産品の除外は何一つ約束されていないのに、アメリカの自動車関税の維持だけが約束させられている。
 日本が入りたいという意思表示をし、アメリカは入れてやるがその前に自動車や保険だけでなく、その他の非関税措置もなくせと、いつものとおり高圧的条件を突き付けてきたのだ。日本には残されたカードはなく、アメリカが畳み込んで無理難題を出してくる構図である。日本の通商外交史上、これほど屈辱的な交渉はないといってよい。

<まだましだった20年前のヒルズ要求>
 折しも、日経の3月の「私の履歴書」には、日米通商摩擦が最高潮に達したころのヒルズUSTR代表が登場していた。私が役人時代にかかわったことが書かれていたので、毎日楽しみに読むとともに、後にコピーで熟読した。
あの頃、つまり20年前のアメリカには大国としての矜持があったことがよくわかる。スーパー301条(日本の不公正な貿易態度が改められない場合に関税を300%にする)やクロス・リタリエーション(問題となっている品目でなく、他の品目に報復関税をかける)等、ドンパチ火花が散った。アメリカの世論調査では、アメリカ人が崩壊したソ連よりも日本が脅威だと感じ始めていることを示した。

<日本人読者向けの格好よすぎる履歴書>
 それでも、日本はアメリカが教えた自由貿易を守るべきと正論をそれなりに返しつつ、妥協の途を探った。私の担当する農林水産業の分野は、いつも「関税」の標的となり、次々と外国産が日本を席巻しつつあった。
 「私の履歴書」は、本音が出っぱなしの赤裸々なものもあるが、きれいごとの自慢話に終わるつまらないものも多い。ヒルズについても後者の典型であり、共和党の仕えた大統領をやたら褒めちぎり、アメリカの主張をいかに和らげたかを随所に書いている。つまり日本の読者に格好をつけているのである。アメリカが保護主義的なあまりに恥ずかしくて主張しないような要求もしていたことが行間から読み取れる。従って私は「?」をつけながら読んだ。
 しかし、今のアメリカにはそんな余裕はない。今や20年前に倍加した勝手な要求ばかりである。圧倒的に実利があるのは、普通2.5%、トラック25%の関税を、ひょっとすると日本の除外関税があるかぎり、継続できるという約束をとり付けている。とんでもない法外な入場料である。

<形振り構わぬ勝手な要求>
 一方日本の道路事情や高いガソリン代からみて、アメリカの大型車などそんな売れるはずがない。日本に売り込みたいなら小回りが効き、燃費効率のいい小型車がいいことがすぐにわかる。それをせずに、売れない理由を日本の税制や環境基準のせいにして難癖をつける。そんな理不尽な要求は、アメリカの自動車産業界のためにも厳然と拒否すべきものを、経済産業省は、どうせ売れないのだからと高を括って妥協した振りをする。日本の検査なし輸入が型式ごとに2000台だったものを5000台にするという。型式が何種類かは国民はよく知らない。ただ、アメリカ車の輸入自体が1万台に達しないのであり、どうせ空枠なのだろう。どういう妥協で、国民にどういう影響が出るのかよくわからないが、多分マランティスUSTR代表代行が、関連業界の説得やアメリカ議会に向けて、日本からこんなに妥協を勝ち取ったという得点稼ぎのために引っ張り出しただけなのだろう。

<立派な石原維新代表の食の安全死守要求>
 はじめての党首討論で、石原維新の会代表は、遺伝子組み換え食品の表示で譲ることはまかりならんとかねてからの主張をぶつけた。安倍首相は食の安全分野では絶対主張を貫けと命じた、と答えた。是非のその通りにしてほしいが、BSE牛肉では全く逆で、やはり譲りに譲っている。
 しかし、もう日本の空気を汚し、日本人の体をむしばむ排気ガスを出す車、安全基準も何のその、あちこちで突然ぶつかるかもしれない車の輸入を約束しているのである。自由貿易協定の名が泣く、管理貿易、不自由貿易協定になっているのだ。

<予想されるアメリカの言訳>
 アメリカ一国に対してこのどうしようもない譲歩である。本番の多国間のTPP交渉の中で日本が主張を貫ける確率はもっともっと低くなる。多分アメリカからは、5つの農産品の除外についても、アメリカは理解したが他の国が納得してくれなかったという言訳を用意しているだろう。ほとんど除外を認められない恐れがある。そして、他の分野でも次々とアメリカのルールをそのまま押し付けられ続けるのが落ちだろう。

<嘘の上塗り、農家所得倍増目標>
 一方、国内ではまたぞろとんでもない嘘公約を口に出し始めた「農家所得倍増目標」である。衆議院選の公約の大嘘に恥じているのだろう。必死でその埋め合わせをしようとしているのはわからないでもない。それにしても調子に乗り過ぎである。予算委の質問でも述べたが、虚業の為替相場や株式相場はアベロ(舌)ノミクスで踊っても、実業の典型である農業は口先では動かない。それを具体的な政策を示すことなく、いきなり所得倍増である。私は、是非農家の所得が倍増してほしい。しかし、再び農家を裏切ることは目に見えている。多分、賢明な有権者は、こんな浮ついたスローガンだけの公約は信じないだろう。
 TPP交渉への参加は、事前交渉からして大きく国益を損なっている。これでは本番が思いやられる。日本の主張が通らなかったら直ちに撤退するしかない。