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憲法96条改正論議の矛盾 -安倍首相のTPPに次ぐ勇み足- 13.5.14

 私は昨年憲法審査会の委員となり、今年も引き続き所属している。毎週木曜日午前中に必ず2時間から3時間、章ごとに審議が行われている。他の委員会と違って政府側に質問するのではなく、最初に各党の担当が公式見解なり代表的見解を述べた後、各委員が名札を立てて自分の意見を述べるという形で淡々と進められてきている。
 そして、5月9日(木)には、最近特にクローズアップされてきている9章「改正」、条文でいうと「第96条改正の手続きその公布」について、初めて本格的な議論が行なわれた。 
 私の記憶では、これまでも様々な分野について議論してきているが、この96条についてこれだけ集中的に議論したことはなかったと思う。いつもより多くのTVカメラが揃い、いつもは空席の目立つ自民党の席も埋まっていた。マスコミも世間もある程度注目していたのである。そこで、私もそろそろ憲法改正問題についてメルマガ・ブログをまとめなければならないと思っていた。そうした折、私の発言がNHKのニュースウォッチ9でそこそこ取り上げられたので、今日はじめて憲法議論について報告することにした。

<要件緩和賛成は自・維・み、反対慎重は民・公・共・社・みどり>
 憲法改正については、9条を中心にいろいろ議論のあるところではあるが、自民党あるいは安倍政権が突然96条の3分の2の発議要件がきついので、先行して2分の1に改正しようと言い出した。理由は、そもそも日本で60年以上憲法改正が行なわれなかったのは、衆参各院の3分の2以上の賛成で発議し、国民に提示してその承認を経なければならないとされていることが原因だというのだ。2010年5月に国民投票法がやっとできたものの、一度も発議されたこともなければ、国民投票に付されたこともない。
 党でいうと、自民党、維新の会、みんなの党は、要件を緩和し2分の1にすることに大賛成。それに対して、共産党、社民党、みどりの風は反対。相当反対に近い中間が民主党と公明党である。もちろん民主党の中でも、ごく少数の人たちが自民党と同じ考えの持ち主もいる。逆に賛成する3党にも反対の人がいる。憲法問題はそれぞれの価値観、考え方がもろに出てくる問題なのだ。

<常識的な民主党の主張>
 民主党の考えは極めて常識的で、3分の2のきつい要件というのは、仕方のないことであり、今どこを改正するかというこの議論もなしに、手続きだけを先行して改正するのは好ましくないというものである。ごく一部に96条先行改正賛成者もいるが、強烈な憲法改正論者の前原誠司議員ですら先行改正には異を唱えている。一部に尤もらしく、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義といった大原則は3分の2が必要だが、内閣とか国会と言った統治機構の問題等、2分の1でいいのではないかと言う人もいる。しかし後述するように憲法改正に変な小細工は不要である。
 本件について、ごく少数の保守をもって任じる民主党議員が賛成しているが、海江田代表がきっぱりと96条先行改正には反対していくと明言している。民主党としては珍しいことである。

<3分の2の多数は本当にそんなに困難か>
 私はもしも他の条文とともにこの改正手続きも2分の1にする改正案が、3分の2の多数で発議されるなら、それはそれで正当な手続きであり仕方がないことだと思う。しかし、今のようなどうも改正しにくいから、与党が多数の議席を持っている時に一気に要件を2分の1に緩和して、あとで何でも簡単に改正できるようにしようというのは、邪道としかいいようがない。
 自民党なり多くの議員の賛成の理由として以下のようなことをあげる。
 国民の中に憲法改正をすべきだという人が半分以上いるのに対して、それができないのは衆参両院の3分の2以上の賛成というのがあるからである。それに加えて、今の選挙制度では、3分の2以上の安定多数を獲れる政党というのはなかなか出てこない。
 ところが、今現に安倍政権下の与党は自公両党で3分の2を超え、維新の会とみんなの党もいれたら裕に3分の2を超える。そうした中での都合のいい議論であり、どこかおかしい。

<諸外国との比較>
 もう一つ、96条の要件緩和論で出てくるのが、諸外国の憲法改正の回数(米6、仏27、独59、伊16、加19、韓9)との差である。日本がゼロというのは異常であり、その原因をすべてきつい要件(これを「硬性憲法」といい、簡単に改正できるものを「軟性憲法」という)のせいにしている。
 確かに、発議を議会の過半数としている国(加、伊、デンマーク、スイス、豪、仏、アイルランド等)が多い。しかし、カナダは州議会の3分の2の承認、イタリアは3ヶ月以上隔てた2回ずつの議決、デンマークは総選挙を挟んだ2回の議決等、一般の法律よりも常にきつい要件を課している。イタリアとデンマークは、議会に世論等に流されない冷静な判断を求めるための工夫、すなわちある程度時間をおくことが求められている。そして、大半が日本と同じく国民投票というもう一つハードルを設けている。
 日本と同じ3分の2以上という国は、米、西、韓、独等である。アメリカは合衆(州)国なので州議会の4分の3以上の承認を必要としている。ユニークなのはスペインで、全面改正や国の基本原則、国王に関する改正等は両議院の3分の2以上で、総選挙をはさんで2回ずつの議決を求める一方、そうしたもの以外は単に5分の3以上というゆるい要件にしている。
 国際比較でみるならば、日本は平均よりもややきつい要件となっていることは事実である。

<重要度により要件を分けるのは複雑すぎる>
 いつも一回ぐらいは発言しているが、今回は注目すべき課題であり他の委員もいろいろ意見があるだろうから、遠慮しようと思っていた。しかし、議論を聞いているうちに発言したくなってしまった。私の言った意見は簡単明瞭である。
 前文から始まって、最後の条文103条の句点まで同じ憲法である。条文なり章でもって改正の手続きに違いを持たせ、「章差別」をするのはよくない。もし重要性により分けるとしても、どれが一体憲法の根幹と言えるのか不明確である。スペインでは、もともと憲法そのものに改正要件の違いが書いてあるという。日本が今からそんな区別をするのは、技巧に走り過ぎである。

<国民が憲法改正を望まなかったのか本当の理由>
 次に、もし自民党がいうように、半分以上の国民が憲法改正を望んでいるにも関わらず3分の2の規定がきつすぎて改正できなかったとするならば、国会議員の怠慢である。なぜなら国会議員は国民の声を聞いて、政策を企画立案し実行するのが仕事なのに、それをしてこなかったことになるからだ。憲法が改正されなかったのは、どこをどういうふうに変えてほしいという国民の強い声がなかったからである。
 世論調査では、半分以上の国民は憲法改正に賛成しているというが、それは「憲法を改正してもいいよ」と言っているだけであって、それを我々国会議員だけで「いや、憲法のどこそこの条文を改正しなくてはならない」と発議するのはおせっかい政治であり、むしろ控えるべきではなかろうか。国民の声を反映と口々に述べた自民党は、そのさえたる制度である住民投票について頑なに否定的態度を取り続けているのであり、この姿勢と大きく矛盾する。つまりこじつけの理屈でしかない。
 TPP断固反対という公約で12年末総選挙を乗り切り、嘘だらけの日米共同声明で国民の騙し、今度は、96条改正ならいいという世論操作を始めている。その結果、TPPに次ぐ2つ目の大きな勇み足になりつつある。

<悲しい保守の劣化>
 私が霞が関で仕事を始めた頃は、自民党にも今思うときら星のごとき重厚な、ハト派の政治家が活躍していた。後藤田正晴、野中廣務であり、ちょっと下がると河野洋平、加藤紘一、亀井静香、古賀誠である。今、現職は亀井静香だけである。そして、「改憲マニア」ともいうべきオタク保守政治家ばかりが目につくようになった。残念ながら民主党にもTPPに賛成し、原発を推進するトンチンカンなニセ保守チラホラみられる。( 真正保守は反TPP・反原発が当然 -日本の保守が反TPP・反原発にならない不思議- 12.10.19
土を滅ぼし食料生産力を失う文明は滅亡する-塩類集積と放射能汚染の類似性- 12.10.25
アメリカはいつも、利己的(利国的?)遺伝子だらけ -アメリカに遠隔操作される原発政策から脱し、非核4原則に徹する- 12.11.7

<9条改正につながる大問題>
 今回、憲法論議の一つの中に96条問題というのが大きくクローズアップされたことは確かである。昔からの9条改正論者である小林節慶大教授にも、「立憲主義を無視した邪道」だと反対され、石破幹事長等の発言にみられるとおり今週(5月13日以降)は急にトーンダウンし始めている。勇み足に気づき始めたからであろう。
 私は、各党内にもいろいろな意見もあるのだが、これこそ党議拘束なしにすべきこと、また無効投票を少なくするために賛成の箇所に○印のハンコを押すという意見を述べた。
 共産党の笠井亮委員が指摘するとおり、自民党の主張の陰には大問題の9条改正が隠れている。私はかねてから9条について考えていることがあるが、別の機会にまた報告することにする。