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TPP交渉の意外な展開と結末 ―日米ともに嘘で塗り固められる交渉過程―13.06.04

 5月29日、久方ぶりにTPPに関する国際シンポジウムが開催された。メインゲストはいつもおなじみのニュージーランドのジェーン・ケルシー教授、アメリカのNPOパブリックシチズンのロリ・ワラック弁護士、3人目は韓国から初めて参加の金鐘佑弁護士の3人である。
 2人の元気な女性は、私はもうすでに2回3回お会いし話も聞いている。最近の展開について話を聞いた。日本側のシンポジウムのパネラーは、榊原英資、孫崎 享、原中勝征(前日本医師会会長)、なかなかな豪華メンバーで、私も末席に名を連ねた。参議院の講堂、300人を超える大聴衆の中での3時間であった。

<日本の嘘>
 ここでの内容は、細部にわたるので省くが、明らかになったことは日本でもアメリカでも騙しが行われているということである。日本では自民党の公約「聖域なき関税撤廃という条件がある限りTPPには反対」に対して、安倍総理がオバマ大統領と聖域なき関税撤廃という条件はないということが分かったのでTPPの交渉に参加していいという、まことしやか嘘で公約破りをした。それにも関わらず、それを大きく宣伝し、日本のマスコミは騒ぎ立てた。これについては3月2日のロンドンエコノミストは、Spin and Substance (詐欺・だましと実体)というタイトルでレポートをまとめたとおり、アメリカは何ら評価していないことを明らかにした。日本の政治家とマスコミだけがことさら大きく報じている。
 その後の事前協議で、日本はアメリカの自動車関税の最大限の期間の維持、新しい簡保の新商品は造らない、非関税障壁を検討課題の要求をことごとく呑まされている。それに対して、5品目(米、麦、肉(牛肉・豚肉)、乳製品、砂糖)の例外など何一つ約束されていない。まさにインチキが横行している。

<アメリカの嘘>
 一方、アメリカではどうか。日本向けとアメリカ向けの都合のいい2つの報告が造られていたことは公然の事実である。これは外交にはままあることではある。アメリカ側には、日本は喜んでTPPに参加する。そして、例外なく全品品目を俎上に載せると言ったということになっている。「TPPを考える国民会議」の訪米団(原中、山田正彦、舟山康江、首藤信彦等)は、衆参両院の農林水産委員会でのTPP反対決議を米国議員に示したところ、米側はびっくりしていたという。USTRは我々は日本をやり込めたと盛んに議会に甘いお土産を突き付けているようである。そもそもUSTRというのは、行政府があまりにも横暴なことをするので、議会側の要求を聞くように設けられた役所である。あまり知られていないが、オバマの行政改革案では、USTRは潰れる運命になっている。

<焦るUSTRがTPPを使って巻き返し>
 日本経済新聞の3月の「私の履歴書」は、私が現役の農林水産省の役人で、国際関係に係わっていたころのUSTR代表であったカーラ・ヒルズのものであった。懐かしく思い出しながら読んだが、退屈なたぐいの私の履歴書であった。私の履歴書は、非常に率直で面白いものと、自分の自慢話ばかり、きれい事だけを並べたつまらないものに分かれるが、ヒルズは完全に後者に属する。その中で、ヒルズ自身が自分が代表であったころにはUSTRは、アメリカの役所の中で最も人気の高い役所の一つであったが、今や最も人気の無い役所の一つになっている、と嘆いている。オバマ政権はカーク代表だったが、ほとんど日本では知られていない。それだけ通商問題が重要ではなくなっていることの証拠なのかもしれない。そのためUSTRは組織の存亡をかけて、自らの仕事を過大に売り込んでいるのが透けて見えてくる。

<意味のない90日ルール>
 私は、首藤モデレーターの要請に基づき、最初のパネルディスカッションの口火を切った。そのために敢えてわかっていることだけれども「アメリカの90日ルールについて、今一体どうなっているのか。議論はしているのか」ということを聞いた。
 実は、議論など全く行われていない。90日ルールというのは、アメリカの独特の三権分立の制度から来ている。なぜかよくわからないが、外交交渉権限はなんと議会に属している。大きな交渉をするときには、議会が行政府にしばらく権限を与える法律を制定しなければ交渉が出来ないことになっている。それがウルグアイラウンドの時のファストトラックである。その期限が決められていて、その権限の期間が過ぎると行政府は交渉権限を失うことになっている。ところが今それが切れて、その後TPA(Trade Promotion Authority 貿易促進法)があったが、それも失効している。つまり、今アメリカ政府は議会から何の権限も与えられていないことになる。しかし、あたかも従来委どおり与えられて、90日間の議会への通告の後、交渉権限が認められることを当然のこととしている。

<アメリカ議会が交渉そのものを認めないおそれ>
 アメリカの場合、交渉権限を与えるかどうかの時に議論するのであって、一旦与えた以上交渉結果で、一括して認めるか認めないかしか採決できないようになっている。
 このことからすると、恐ろしい結果が待ち受けているかもしれない。アメリカ議会はこんな交渉権限をアメリカ政府に与えたことはないといって、突っぱねて交渉をさせないということも考えられる。また下手な交渉結果になった場合は、そもそもこんな交渉権限与えていないから、承認するもしないもないといって突っぱねられる可能性があるということだ。

<7月24日まで条文案を読めない日本>
 それから、ケルシー教授とワラック弁護士の報告から、また新しい問題が浮かび上がってきた。USTRがアメリカ議会に通告してから90日目は7月23日。次回マレーシア会合で、24、25と2日間だけ日本向けに会議が延長されることになっている。
 8割がたが成案を得られているという。ところが膨大な条文を、その日にならないと日本の交渉担当者が見ることが出来ないというのだ。何の準備もできずに2日間だけで、何の議論ができるのだろうか。これではみすみすサインだけをするために入るようなものである。ワラック弁護士は、「どうして日本が入っていくのか不思議である」と述べている。

<交渉期間延長の可能性は少ない>
 その後、10月のAPECの会合があり、12月に交渉妥結の会合を持つというのが今の筋書きである。日本からするともっと交渉を長引かせてほしいというのがねがいだろう。しかし、他の今の交渉参加国は、日本が新規参入したからといって交渉の妥結を長引かせることはまかりならんと共同歩調をとっている。日本は交渉に参加すると言っているけれども、何も実質的な交渉参加をさせてもらえず、ただサインするだけで終わる可能性が強い。こうした中で、5品目について除外・例外を勝ち取る事とか、食の安全について日本のルールをTPPのルールにするといったことは、ほとんど出来ない絵空事にしか過ぎないのではないかと考えられる。
 TPPの内容が日本の実情に合わないことはもちろんではあるが、このTPP交渉そのものが大きく間違っているような気がしてならない。