« 2013年08月 | メイン | 2013年10月 »

2013年09月28日

TPP交渉の行方シリーズ8「TPPが国政を決める -国家の主権・徴税権も奪うTPP-」 13.09.28

<「非適合措置」という見慣れない用語>
 私はかなりTPPを追いかけてきたが、いかんせん協定条文の内容がわからなかった。これがWTOだと、事務局長案なりアメリカ案なりが示され、誰でも承知するところとなるが、TPPはそれがない。微妙な2国間交渉もいろいろ交渉経過が明らかにされないことがよくあるが、マルチの会合は交渉内容が漸次明らかにされることが多い。一国で詳細記者会見したら一挙に世界中に広まるご時世だからだ。
 今は急にnon-conforming measures(非適合措置)が眼に触れるようになった。いまだよくわからないが、投資、金融サービス分野でも基本的に自由化しろということになっているが、国内法の規制についてあるならそのリストを通達して委任を受けておかないとならないようだ。詳細は私にもようわからないが、かつてアメリカが多国間投資協定(MAI)で主張し、とり入れられなかったといわれている。
 こんなバカな制度であるとは知らなかったが、すぐ疑問が生じてくるのは、今後、日本で新しい制度や政策を導入する時に、いろいろTPPとの整合性を気にしなければならなくなることである。予想されるのは、外国の多国籍企業に少しでも差し障りのある制度はできなくなってしまうということだ。明らかに国の政策を縛り続けることになり、主権の侵害になる。

<11年製自動車重量税へのアメリカの難癖を予想>
 11年秋、私はTPPと原発について本を執筆中だった。毎夜24時まで議員会館で執筆を続け、防災センターからの電話(施錠してない部屋の在室確認)の前に宿舎に帰るという生活を続けていた。そしてTPPが11月14日のAPECホノルル会合で一段落してからは、一段とピッチをあげていた。
 そうした中、消費税を中心とする12年度税制改正の議論も活発化していた。TPPに関する会合(「経済連携PT」)では、いつも一番前の指定席(?)に座り、必ず1回は発言していたことから、他の会合では発言はなるべく控えることに決めていた。従って、ほぼ全部出席していた「社会保障と税の一体改革」の会合でも、12月末の総理が参加した時以外は基本的に発言しなかった。
 ところが、進行役が、ラウンドテーブルで各人の意見を求めたため、私も発言せざるをえなくなった。そして、その時の話題の自動車二税(取得税と重量税)をTPPに絡めて以下のような発言をした。

● 今、皆さん、自動車税について、なごやかにかつ熾烈な議論をしている(笑)。しかし、TPPに参加したら、こんな議論は無視してアメリカやTPPに税制まで決められてしまうかもしれない。関税ゼロというのは、せっかく小村寿太郎たちの先達が苦労して回復した関税自主権を失うことだ。くしくも1911年から丁度100年目にあたる。
● アメリカは必ずや自動車重量税はアメリカの大型車を差別する税制だといって文句をつけてくる。我々は、軽自動車は環境負荷も少ないし、地方の劣悪な道路では軽自動車しか走れないため、税を軽くしているだけのことなのに、アメリカは税制まで同じにしろと言ってくる。関税自主権どころか、国家の徴税権までTPPに奪われることになる。まさに主権の放棄である。

<アメリカへの「倍返し」提案>
 これに対して、進行役は、自ら何でもいいから一人ずつ意見をと求めながら、私のまともな意見に対して「来年度の税制改正について議論をしているので、それ以外のことについては発言を慎みください」とちゃちゃを入れた。私の発言がいつものとおり冗談っぽく話したこともあり、数人がクスクス笑いをした。
 シンガポール(600cc以下から、3000cc以上で5段階)、マレーシア(1800cc未満から2500cc以上4段階)、ベトナム(2000cc未満から3000cc以上の3段階)、ブルネイ(1700cc未満から3500cc以上の5段階)等でも、排気量が多くなるにつれて税額が上がる仕組みである。日本は、0.5t以下から3t以上の6段階の重量税であり、排気量と重量の違いはあれ、基本となる考え方は同じである。環境に優しい社会の実現には、このような税制のほうに理がある。
 日米TPP並行協議の中で、私の予言どおり、関税自主権どころか国の独自の権限である徴税権にすら注文をつけられ、軽自動車の優遇税制が問題にされている。日本はTPPの環境分野の会合において、逆に上記4か国と結託して、CO2の排出量に応じて累進的に課税する共通税制を提案するぐらいの気概を持つべきなのだ。日本が世界共通のルール作りに参加するというお題目は、こうした分野でこそ実現すべきことなのだ。今は、アメリカの勝手な要求に対する「倍返し」こそ必要である。

<攻めの姿勢の全く見られない経済団体・政府>
 日本の経済界は、アジアの成長を取り込めとTPP参加への大合唱だった。しかし、ブルネイではそんな熱気はほとんど感じられなかった。8月27日の利害関係者(ステークスホルダー)会合への参加者は、日本が初参加ということもあり115人の出席者のうち46人が日本人で、大半が農業関係団体だった。2部屋に分かれ、1部屋は知的財産だけに充てられていたが、日本の発言はなし。アメリカがTPPを活用しようとして多くの業界団体を送り込んでいるのに対し、日本の経済界は口先だけのことが露呈していた。
 私は、一般の会合のほうが早く終わったので、知的財産の会合にも出席したが、アメリカの勝手な提案に対するNPOの反対理由が理路整然と発表されていた。アメリカがあの手この手で特許権や著作権で他国から金をむしろとるという話を聞いたら、とてもTPPには入れないというのが実感である。

<一に国内の中間層、二に近隣諸国>
 マレーシアの野党議員は、「マレーシアはTPPによってアメリカ市場が獲得できると喧伝されたが、マレーシアにはむしろ中国、タイ、インドネシアの近隣のアジアの巨大経済圏がより重要だ。アジアは大変な貧困と格差に苦しんでいるが、もしマレーシアの25%の貧困層が中流階級に変わることができれば、アメリカ市場を超える巨大市場になる」とTPPへの参加に反対した。
 これを日本にあてはめると、アメリカより近隣の東アジア、特に中国・韓国・台湾であり、更に外国よりもむしろ日本の中間層の需要を拡大したほうが経済は活性化するということである。
 得体の知れないTPPにうつつを抜かすよりも、じっくり腰を据えた国内経済政策と近隣諸国との経済外交のほうがずっと大切なのだ。それをTPPだ原発輸出だと外に目が向き、国連でもアメリカでも、アメリカにおべっかを使い、中国・韓国を刺激し続ける演説をしていてはアベノミクスもうまくいかなくなるのではなかろうか。

2013年09月27日

TPP交渉の行方シリーズ7「TPPの足下が揺らぎ始めたアメリカ -今のアメリカはまともに交渉する相手ではない-」 13.09.27

<アメリカが投資・金融・労働・環境にこだわる理由>
 アメリカは日本と違って確固たる戦略を持って事に当たる国である。一旦決めたらしつこいぐらいに同じ道を突き進む。今、イラクにしたことを再びシリアにしようとしているのが一例である。民主主義国の旗手として世界の警察官の役割を演じ続けているのだ。
 通商・貿易分野では、自由貿易を超え、アメリカのルールを押し付けて世界を自国の都合のいいように動かす方針をひたすら追求し続けている。自由貿易を標榜しつつ、実態はアメリカによるがんじがらめの管理貿易であり、世界のルールのアメリカ化である。そこで目をつけたのがTPPであり、2008年、シュワブUSTR代表(女性)は、投資・金融・労働・環境も加えてくれればTPPに入りたい、と話を持ちかけた。そして、お互いに補完し合う小国の協定が、とんでもない協定に衣替えしていった。海外投資と金融は、アメリカの金融資本がやりたい放題にできるルール作りであり、労働と環境は、ソーシャル・ダンピングとエコダンピングを理由に新興国の輸入制限ができやすいようにという目論見があった。

<①州議会も反発し始めたISDS>
 オーストラリアが既にアメリカの思惑を感じ取り、米豪FTAからISDSを除外している。危険性を察知したからであり、今タバコ会社フィリップモリスがオーストラリアのタバコ規制について、本社が豪政権を訴えられないため、オーストラリアの会社が訴訟を起こしている。
 そして、足下のアメリカの州議会が、州政府がISDSの対象になることの危険に気付き、反旗を翻しつつある。なぜならば、アメリカは文字通り合衆国であり、細かい規制は州政府に任せられている。それをいちいち多国籍企業に難癖をつけられて、世銀の下の国際仲裁センターの一審だけで有罪にされてはたまらないからだ。幸いにして、今のところ州政府が訴えられたケースはないが、今後十分に予想されることである。

<②拙速妥協を懸念しだしたアメリカの経済団体>
 14年秋の中間選挙での勝利のために、TPP年内妥結という名に傾き始めたオバマ政権に対し、関係団体から実を捨ててはならないと反発が出始めている。全米商工会議所は、8月23日、ブルネイのTPP閣僚会合に合わせて、安易な妥協はせずにTPPの当初の目的達成すべしと釘をさしている。特に製薬業界団体PHARMAは、長期的なしっかりした協定にすべきと主張している。また、全く逆に国内の競争力のない繊維や靴業界からはベトナムに妥協しないように、要請を受けている。更に、マレーシアや国内の反タバコは団体に妥協して各国のタバコ規制を容認し、ISDSの対象にしないという妥協案に対しては、16もの農業団体やタバコ業界等の関係団体から連名でNOを突きつけられている。更に、9月18日から始まった、首席交渉官会合に対しても、「中身の濃い会合に向けて努力するよう」書簡を送りつけているという。
 このように身動きとれない状況の中で、アメリカはますます硬直的になりつつあるようだが、アメリカが柔軟性を示さない限り会合は進展せず、年内妥結はありえなくなる。難航するすべての分野はアメリカが絡んでいるからだ。フロマン(USTR)代表もオバマ政権は大きなジレンマを抱えており、TPPについてもシリアへの軍事介入発言のふらつきと同時のブレが見られるのかもしれない。

<③情報公開もせず透明性に欠ける交渉に対して消費者団体の反対も本格化>
 アメリカでは前から格差問題が顕在化し、「ウォールストリートを占拠せよ」というデモが全国展開された。今回、USTRビル前で、かねてから「TPP阻止国民会議」が共闘しているパブリック・シチズンがTPP反対デモを行った。食の安全等が脅かされることを懸念しているからである。日本の主婦団体や消費者団体と同じことがアメリカにもやっと広まりつつある。
 アメリカは何かにつけ、日本の仕組み自体を情報公開せず透明性に欠けると批判してきた。そして大袈裟にそれが非関税障壁だとも難癖をつけている。しかし、公明正大で透明なアメリカ式の仕組みをTPPにしようとしているというのに、そのプロセスの秘密主義(透明性欠如)は見事というしかない。欧米ではdue process(正当な手続き)を経ない決定は無効なはずなのに、何という自己矛盾だろうか。こんなやり方でできる協定がまともなはずがない。そこの欺瞞性に消費者団体も後述の労働界も州議会も苛々し始めたのである。

<④お膝下の外食チェーン労働者のストライキ>
 世界を席巻する多国籍企業といっても、金融資本による企業支配は一般の日本人の目に見えてこない。そうした中で最も身近に感じ、毎度接するのは多国籍外食チェーンである。
 外食チェーンの大半は日本同様非正規雇用で成り立っており、雇用が不安定なうえに低賃金である。日本では「名ばかり管理職」の長時間労働が問題になったが、本家のアメリカでもいわゆる「ブラック」ぶりが白日の下に晒され、マクドナルドから始まったストが、約300万人いるとされる従業員に徐々に広まりつつある。今、TPPの「労働」の分野でいわゆるソーシャル・ダンピングが槍玉にあげられているが、新興国の劣悪な労働条件による不当に安い製品の輸出を問題にする前に、お膝元の低賃金を見直す必要に迫られている。これもまたアメリカの矛盾なのだ。
 アメリカではAFL-CIO(米労働総同盟産別会議)が、労働者の保護法制をないがしろにするTPPに大反対している。USTRは当初から交渉に必要な情報を入手するため600人(社)からなるアドバイザー制度があり、有力議員と並んで極秘文書も見られることになっている。しかし、この中に労組は入っていない。労働力の流動性を高めるといったきれいごとの下、労働者を単なるモノとして扱う非道な内容がバレてしまうからである。

<アメリカのTPP交渉こそが「国営企業」支援>
 アメリカは国際交渉において、自国の法律をそのまま協定の案文にし、一企業の主張をそのまま国の要求にしてくる国である。
 アメリカはまた、ほとんど政治はワシントンで、かつ、企業団体のロビィスト中心に行われている特別な国である。篠原流の嫌味を言わせてもらうならば、国際交渉において一企業(例えばアフラック)の要求を国の要求としてくるアメリカこそ、企業を強烈に援助しているのであり、慎まなければならないのではないか。つまり平たく言えば、アメリカの多国籍企業こそアメリカの政府お抱えの国営企業であり、他国のことを言えた義理かということなのだ。もう一つ言えば、国営企業と指弾される日本郵政は、逆に日本国政府がアメリカの理不尽な要求に晒されているのに少しも守ってくれない。
 ただ、日立、東芝、三菱重工のために安倍首相が原発輸出のセールスをして歩く姿をみると、こっちこそ国営企業ではないかと疑いたくなってくる。

<強欲なアメリカ>
 アメリカはTPA(貿易促進権限法)ができ、TPPが批准され一件落着しても、次々に新しい要求を出してくるだろう。例えば、あれだけ郵便局が国営企業で平等な競争条件でないと批判しておきながら、アフラックの保険を郵便局で扱わせることを勝ち得て平然としている。それでもまだ満足しておらず、かんぽには新しい保険をやらせないように主張している。まさに恥も外聞もなく、ただひたすら自国の「利」だけ求める現金すぎる国であり、とても日本がまともに相手をする国ではない。
 こんな国と交渉するには、じっくりと腰を据えてしぶとくやる以外にない。それを7月下旬に途中参加して12月妥協では、まじめでおしとやかな(?)日本は何も得られずに終わってしまうのがオチである。
 TPP交渉からはやはり一日も早く脱するのが得策である。

2013年09月26日

TPP交渉の行方シリーズ6「年内早期妥結という第3のごまかし-狂ってほしい恐ろしいシナリオ-」 13.09.26

<日本の参加で交渉促進>
 日本のTPPへの参加は、アメリカを除けばどこの国も反対はなく、カナダとメキシコはむしろ日本の参加に驚いて慌てて参加を決めている。2国はNAFTAで相当アメリカに痛めつけられていたこともあり、TPPには二の足を踏んでいた。しかし、日本市場でアメリカだけが有利になっては困るため、渋々の参加だった。アメリカ以外の10カ国は、日本がアメリカの強引な主張に対して歯止めをかけてくれると期待したのだ。
 ところが、日本の交渉姿勢は明らかに期待に反してしまったようだ。まだたった2回(18、19回)の全体会合しか参加していないが、アメリカのお先棒を担ぐような従順な交渉姿勢ばかりだからだ。秘密交渉とやらで、全容はよくわからないが、少なくとも、私がブルネイで接したNPOの大半はTPPに疑問を持ったグループであり、日本があらゆる分野でもっとしっかりした主張を展開してくれると思っていたのに、という意見が大半を占めた。

<アメリカに左右される交渉期間>
 ウルグアイラウンドの時も今のドーハラウンドの時もいつもそうだが、首脳が集まるサミットやAPECの共同宣言ではいつも交渉の促進が謳われ、「年内妥結」といった文言が盛り込まれた。今回も、サンクトペテルブルクのG20の折、日米首脳会談でオバマ・安倍会談が行われ、TPP交渉の年内妥結が強調された。年内妥結などありえず、2〜3年続く交渉の中でルール作りに参加できるという触れ込みで参加したにもかかわらず、安倍首相がオバマ大統領に対して直接、期限について早々とアメリカに白旗を掲げたのである。
今までのTPPがらみの数々の妥協の中でこの方針転換は最も許し難い妥協である。日本はこれでほとんど敗北しかないというのに。日本のマスメディアは、この政府の見通しの狂いと安倍首相の変節にはほとんど何の論評もない。
 国際交渉といっても国内政治の延長にあり、特にアメリカの国内政治に振り回されることが多い。2012年は大統領選挙の年であり、日本のTPPの参加の件はほとんど進展がなかった。オバマ再選が決まり、13年に2期目が始まるとすぐに日本の参加が動き出した。そして今は再び2014年の中間選挙に向けてオバマ政権が功を焦り、今年中の妥結を急いでいる。

<豪腕フロマンの腕力>
 フロマンUSTR代表は、オバマの大学時代の同級生で広報担当の補佐官として政府入りしており、たびたびマスコミにも登場していた。それが今回何かと非力とあまり評判のよくなかったカーク代表の後を受けてUSTR代表に就任した。オバマは気心の知れた友に重要な仕事を託したに違いない。
 私もすべてのUSTR代表が頭に浮かぶわけでもないが、URの頃のヤイター(後の農務長官)、ヒルズ(女性)、日米通商摩擦真っ盛りの頃のカンター、バシェフスキー(女性)が印象的である。男性の場合は大半が押しの強い者が就いている。普通は主催国が議長を務めるのに、今回のブルネイ会合ではフロマンが議長となり、閣僚会合をとりしきった。フロマンはブルネイへ行く前に日本に立ち寄り、甘利TPP担当相とも会い、年末妥協への強い意向を明らかにしている。アメリカは必死で今年中にまとめようとしていることが肌に伝わってくる。
 「TPP阻止国民会議」(かつての「TPPを考える国民会議」)がずっと付き合っているNZのケルシー教授は、ブルネイ会合まではそう簡単にまとまらないと予測していたが、ブルネイ会合でのフロマンの交渉態度を見て、アメリカの本気に気付き、下手をすると本当に年内にまとまるかもしれないと言い出した。

<日本はただ署名するだけの終わるおそれ>
 日本が、7月の18回のマレーシア会合から参加したのは、TPPはそう簡単にはまとまらないと踏んだからである。それが一転急遽まとまりそうな気配になってきた。これでは、もう内容が決まってしまった衛生植物検疫(SPS)、労働、電子商取引(Eコマース)、貿易円滑化、貿易の技術的障害(TBT)、電気通話サービスの6分野等については何も意見を言えず、ただ署名して加盟するだけとなってしまう。
 それに対し、知的財産権(IPR)、競争の国営企業(State-Owned Enterprise: SOE)環境等、また決着がついてない分野については、思惑どおり日本の意見といろいろ言うことができ、うまくいけばルール作りに参加できることになる。しかし、いかんせん年内の合意では短すぎて何もできない。

<名を必要とするオバマののっぴきならない事情>
 こうした中で、日米双方にとって都合のいい筋書きがみえてくる。2月下旬の安倍訪米時のニセ共同声明と同じく、日米双方で都合のいい決着の説明ができるシナリオである。
 7月のマレーシア会合後、マレーシアは29章のうち14章はほぼ合意に達したと表明している。合意された部分だけでさっさと妥結し、関税(市場アクセス)、知的財産、政府調達、国営企業(SOE)、環境等の難題は先送りする、いわゆるEarly Harvest(早期決着)である。
 オバマ政権は、組織的盗聴や財政の崖で下がってしまった支持率を回復し、中間選挙を優位に進めるためには、景気をよくし雇用を拡大しなければならない。その手段として輸出拡大できるTPPを相当宣伝しており、TPP交渉の妥結を一つの成果として、遅くとも14年前半に大々的に示さなければならない。オバマは、9月13日のAPEC最高経営者サミットで講演し「輸出が10億ドルふえるごとにアメリカの国内で5000人雇用が生まれる」と述べ、TPPを急がんとしている。
 となると、TPPでアメリカのルールを一挙に押し付けようとした当初の目論見を諦めなければならなくなる。今は実(TPP加盟国のルールをアメリカに合わせる)よりも名(交渉の妥結)が必要になってきたのである。
 そのためオバマは、APECの前にマレーシア等アジア諸国を歴訪し、TPP交渉の妥結を自ら迫る予定であり、APEC(10月7、8日 インドネシア バリ)では、TPPの首脳会議も開き議長を務めるとも言われている。その直前(10月4、5日)にTPP閣僚会合も予定され、首席交渉官も参加することになっている。今年のAPECはTPP一色であり、アメリカは力の入れ方がいつもと違う。フロマンUSTR代表は、8月21日の共同記者会見で、APEC首脳会合は、年内妥結に向けた重要な一里塚だと意気込んでいる。
 アメリカの思惑どおりに進めるには、アメリカの強引な交渉態度を改める以外にないが、日本と比べ格段にうるさい議会や関係団体の調整がうまくいくかは誰もわからない。

<日本の第3の嘘妥結>
 一方、日本は、TPPに参加しないという嘘だらけの選挙公約、そして2月の何も実体のないニセの空虚な共同声明を一応守る形にしないと、地方や農民から厳しい指弾を受けることになってしまう。特に最大の詐欺、5品目の関税撤廃の除外である。こんなことはほぼ認められないことは誰の眼にも明らかである。そこで、関税撤廃が先送りされるという都合のいい決着が浮上してくる。甘利TPP担当相は、年内合意にはいくつかの細かいことは後回しにしても、10月のAPEC会合までに大枠合意が必要であると予防線も張っている。この大枠合意には市場アクセス(関税)は含まれないのだ。
 この場合は、見せかけの名(撤廃はなかった)をとるために実(他の交渉分野での有利なルール)を捨てるのである。幸いにして、交渉に参加できたのに秘密交渉を理由にほとんど内容を開示しないため、TPPの恐ろしい内容は国民の大半は知らないでいる。そんなところで妥協しても政権に傷はつかない。それよりも関税交渉を先送りし、それで5品目の例外は死守したと、再びインチキ喧伝をしたほうが得だということになっていく。

<Early Harvestに欺かれる日本のマスコミ>
 9月に入り、問題の米豪2カ国の関税オファーも行われて関税交渉も本格化した。揉めている分野の中間会合が各地で精力的に行われた。アメリカの強い意向により、首席交渉官会合も9月18日‐21日にワシントンで開かれ、最終調整が行われることになった。そして、難題の関税交渉も同時に行われた。しかし、決着がつかない分野が多く残り、今年中にまとめるとしたらEarly Harvestしかないだろう。
 そして、2月の日米共同声明と同じく、日本側は日本の都合のいいように喧伝し、アメリカはアメリカの都合のいいように記者発表するのだ。アメリカはともかく、日本の五大紙をはじめとするマスコミは再び、アメリカの要求を拒否しきった立派な交渉、見事な政権と絶賛するのだろうか。
 かくして農民は再びだまされ、一方TPPが密かに徐々に日本の主権を侵していくのである。この恐ろしいシナリオがどこかで狂うことを願うしかない。

2013年09月25日

TPP交渉の行方シリーズ5「薬の特許強化で日本の医療制度が崩壊するおそれ -物造りを忘れた大国アメリカの悪あがき-」 13.09.25

 9月18日-21日にワシントンで首席交渉官会議が開かれた。日本の関心の高い市場アクセス(関税)分野はもちろんのこと、知的財産権を巡るアメリカ対新興国の対立は、当分解決しそうにない、その一つの特許権について触れてみる。

<薬で儲けをたくらむアメリカ>
 アメリカは物づくりできなくなった国である。URでは新分野と称されるGNS(サービス)、知的財産権、海外投資についてアメリカ流のルールをはめ込もうとしたが、あまりうまくいかなかった。イギリスが世界の工場から金融にシフトしていったのと同じ途を歩み始めたのである。大国は次々と交替していきそれほど長くは続かないと、モデルスキー・ワシントン大学教授が『世界政治における長期サイクル』(1987年)で示したが、そのとおり歴史は動いている。覇権大国にお金がたまり、働かないで食っていけるようになると没落が待っているのだ。
 その後アメリカは、投資協定(MAI)をOECD諸国内でまとめようとしたが、フランスの反対にあい失敗した。それではと手をつけたのがP4諸国によるTPPだった。物づくりを忘れつつあるアメリカは、少しでも大国の地位を保つために必死で悪あがきをしているようにみえる。

<研究開発投資への報酬と世界人類への貢献の狭間>
 そこでじわじわと他国を縛ろうというのが知的財産権の強化である。世界中から優秀な人材を集めるアメリカは特許の点では抜きん出ている。これをもとに優位を保とうというのである。
 新しい発見や技術革新にお金がかかり、その投資に見合う利益が必要なことは十分に理解できる。長年の研究開発投資でやっと物にした成果を、そう簡単に真似られてはたまらない。少なくとも再び新しい研究開発投資ができるくらいの利益は返してもらわないと元が取れない。しかし一方で新しい発見なり技術革新がよりはやく世界に広まり、皆が恩恵を受けることも必要である。この接点をみつけるのがなかなか難しい。

<特許や著作権に対する抵抗三題>
 近年の人間のつくり出した特許なり著作権なりの知的財産権への見返りは、自然に考える各方面から根源的な挑戦を受けている。国防交渉の協定案できめると、その部分は括弧書き(Bracket)にして残すことが行われる。知財部分は何と300もあり、ブルネイではそれを少なくするために議論を始めたところ、逆に増えてしまったという。条文に強制力を持たせようとするアメリカとなるべくゆるくしようとする新興国の対立も先鋭化している。
 一つは中国に典型的に見られる特許権の侵害である。いい物を真似てどこが悪いという理屈である。
 二つ目は、URの時からある過度な特許権による新興国の惨状である。例えばエイズの特効薬はかつて100万円だったが、ジェネリック薬品が造られるようになり10分の1近くに減り、たくさんのエイズ患者が助かることになった。こうしたことから、かねてより食料(種等)と医療のようなBHN(Basic Human Need、基本的に人間に必要なもの)については、特許の例外とすべきという考えである。
 三つ目は、二つ目と似ているかもしれないが、日本にある「隣百姓」というものである。農業は隣の百姓の真似をすることによって広まっていき、今も農業界では先進地視察で自由に農業生産システムを誰にも教えて広めている。江戸時代、青木昆陽のサツマイモは3年間で日本中に広まったという。ここには技術やノウハウの独占などいう考えはない。私はこのほうがむしろ自然ではないかと思う。世の中に役立てば発見者や発明者の望外の喜びなのだ。このことは世界的作家の本(著作権)についてもいえることだ。

<アメリカのどきつい特許戦略>
 ところが、アメリカは上記の特許に向けた根本的問題など屁のカッパで、薬の特許や医療関連の特許でなんとかあぶく銭を儲けて続けるルールを確立せんとして欲張っている。
 一つは、特許期間を長くして簡単にできるジェネリック薬品を造れないようにすること。二つには、薬品のデータの保護期間(10年)を長くすること。三つには、基本特許をもとにした改善もすべて元の特許にいれてしまい、新しい工夫からも特許料をとること。四つには、各国の薬価決定にアメリカの薬品企業代表も入れて、薬価を高くすること等といった都合のいい主張である。当然マレーシア等の新興国は大反対することになる。
 ところが、日本のだらしない薬品企業は、アメリカの軍門に下ったのか、アメリカの薬品企業と同一歩調をとっている。9月22日の東京新聞は、先進国とマレーシア等の新興国を分けて後者には基準を強める提案を日米共同で提案していると報じられている。小手先の妥協であり、世界の利益にはならない。
 しかし、日本でも地方の小さな薬局は、安いジェネリック薬品がはやくできることを願っている。このほうが庶民にとってはいいことなのだ。

<薬九層倍の高齢国日本を餌食にせんとするアメリカ>
 アメリカの主張が取り入れられると日本の医療はかなりメチャクチャにされることが予想される。
 「薬九層倍」といってもともと薬は高くても仕方ない、いや高い薬のほうがよく効くという、日本人独特の考えがある。従ってジェネリック薬品も23%ぐらいしか占めておらず、先進国では最低のクラスである。従ってここが狙い目となり、アメリカはもともと平気で高い薬価を押し付けてくる。
 その結果、日本の医療費は高い薬代でますます高くなり、国民皆保険制度を
ぐらつかせるもとになるかもしれない。これが見えるので日本医師会もこぞってTPPに反対するのである。
 アメリカは団塊の世代が高齢者入りし、ますます高齢化が強まる日本こそ有望な市場と考えている。老人のほうが病気になりやすく、薬も多く服用するからである。そして貯蓄率の高い勤勉な団塊の世代は、自らの健康維持には余念がなく、貯めたお金をまずは高額な医療費に充当すると踏んでいるのだ。
 他にも医療機器とそれを使った手術もすべて特許にからめて、手術費からも少しでもくすねようとしているらしい。
 これらすべて非人道的としかいえないことである。せっかくの医療技術を、お金をたくさん払えなければ使えないというのは、何のための研究開発か意味がわからない。
 このあたりで特許についての根本的考え方の変革が必要である。

2013年09月21日

TPP交渉の行方シリーズ4「先行き不透明な米議会のTPP承認 -遅れるTPA(貿易促進権限法)の成立-」 13.09.21

<国会議員の勝負はTPPの国会承認>
 日本では国際交渉は政府の役割であり、政府に任されている。法律は議員立法もできるが、議員外交はあくまで側面援助であり、国対国の交渉は政府のすることである。TPPのような重要なものについて、国会議員が事前にあれこれ注文をつけているだけなのだ。だから、野田政権も安倍政権も、与党なり国会議員の意見など無視してTPPの交渉を進めても制度上は問題にならない。ただ、最後は国会の承認が必要であり、実質上了解を得つつ進めなければならないだけだ。
 今、安倍政権がTPP交渉参加を認め、現に交渉中となると我々国会議員、特に野党議員にできることは、批准を求められた時に反対すること以外に残されていない。

<ユニークなアメリカの外交>
 ところが、完全な三権分立の国アメリカでは、憲法第1条第8節第3項により、なんと外交も議会に権限があり、政府は授権されない限り交渉にも当たれないし、承認も得られないという仕組みになっている。ただ、その権限を与えられると議会は細部について意見を言えず、ただ承認するかしないかだけを後で決めるだけである。いわゆるFast Track(一括承認)である。USTRはそれでも議会の眼を盗んで勝手なことをする政府へのチェック機関として議員の側に立って働く機関としてできたものなのだ。
 今まで、ウルグアイラウンド(UR)でも何でも、このアメリカ議会の政府への授権の期限がいつか(例えばURの最初の期限は90年12月)で各国の交渉が左右されてきた。

<ボーカス(牛肉)対レビン(自動車)の対立構図>
 しかし、今回は重要な交渉というのに、授権法が07年7月に失効したまま、TPPも慣習で政府が議会に90日前に通告して交渉に入っているだけなのだ。
 この点を心配した日米牛柑交渉(1988年決着)の頃から名を馳せてきたボーカス上院議員(財政委員会委員長)が、ファスト・トラックの入ったTPA(Trade Promotion Authority 貿易促進授権法)を6月までに成立させようとしたが、今のところ進展していない。モンタナ州(牛肉の大生産地)が選挙区で引退を表明しているボーカスは正論を吐いているが、ミシガン州選出のレビン下院歳入委員会筆頭理事(民主党)等の自動車議員が反対している。それぞれの地元を意識しての対立である。日本もアメリカも地元の産業のために汗をかくのは同じだ。共和党はそもそもTPAに反対している。
 アメリカは、EUとのTTIP(貿易投資連携協定)も進めている。このため、2つの大きな交渉の進展を望む8つの経済団体(全米商工会議所、米国ファーム・ビューロー連盟等)が、9月4日、TPA 法案の年内可決を書簡で上記議員に要請した。
 TPAがない今は、政府は議会や団体の要求のがんじがらめに合い身動きとれず、柔軟な妥協ができなくなっている。そして、これが交渉の進展を妨げていると思われる。

<議会承認を得られないまま空中分解する恐れ>
 TPPは、何もオバマ政権が是が非でも成立させなければならないものではない。もともとオバマはFTAには賛成していなかった。それを経済のテコ入れにやむを得ず一つの手段としてTPPに目をつけただけなのだ。このままあやふやな政権運営が続けば、TPAも通らずTPPが審議の際に修正を求められたり、棚晒しにされるおそれもある。アメリカにとっては不利な協定はないほうがましだからだ。
 実利は日米(TPP)並行協議で着実に得ているし、TPPは日米間になくてはならないものではないからである。盗聴問題、財政問題に加えてシリア問題が大きくのしかかり、オバマ政権も四苦八苦している。国際連盟を提唱したものの入らず、環境問題に火を付けたものの京都議定書には入らないという我が儘な大国である。TPPも同じ目にあうかもしれないということも念頭においておかなければならない。
 こんな状況の下、アメリカ政府はTPAなしにはTPPは承認されないことから、いつも議会との関係を気にしなければならず、強硬姿勢が崩せずにいる。そしてこのことが交渉の進展を妨げている。だから、私は、今でも日本も妥協の連続はやめ、国益に反すると判断したときは、さっさと交渉から撤退するのがベストだと思っている。

<日本ではTPPに党議拘束をかけず>
 仮に協定が年内妥結しても、日本も日本の仕組みの中でじっくりと協定内容を精査して、国益に反するとして拒否するなり、問題点の修正を求めていく必要がある。
 イギリスではEC加盟もイラク派遣も党議拘束なしだったし、政治家の識見で判断されるべき典型的な重要案件だからだ。最近でもシリアへの軍事介入の動議を否決(賛成272、反対285)した8月29日の臨時議会では、キャメロン政権の内閣のうち10人は投票していなかったことが判明し問題になっている。イギリス下院は定数650のうち保守党が364議席を占め、通常なら余裕の可決のはずだった。英議会は、イラクのニセ大量破壊兵器の教訓から、シリアの化学兵器の使用を理由とする軍事介入には良識を見せ大量造反したのである。
 採決に当たり、イギリスにならい、大きく意見が割れる重要な外交案件については、党で物事を決めるのではなく個人個人に任せられるべきだと考えている。

 日本の国のかたちを変えてしまう恐れのある歪んだ協定の是非絶対に党議拘束をはずすべきである。そして、選挙公約との整合性を国民の前に明らかにし、次の選挙で有権者の審判を受けるのだ。これが民主主義である。

 1  |  2  | All pages