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TPP交渉の行方シリーズ3「TPPで奮闘する小国マレーシア -アメリカのみならず韓国にも翻弄される大国日本-」 13.09.20

<活躍する英語圏NPO>
 我々部外者には協定案文が少しも明らかにされない。しかし、「TPPを考える国民会議」や「TPPを慎重に考える会」がずっと共闘し続けてきたアメリカのNPOパブリックシチズンやNZのケルシー教授は、あらゆるチャンネルを通じて案文の入手にも力を注ぎ、いまや相当の数の協定条文がNPOを通じて公然と世界に出回っている。そのいくつかは私も聞き、目にしたが、やはりすべて英語でのやりとりとなり、英語が母国語のNPOの独壇場となる。
 そこに今回マレーシアのNPOが加わっており、その背後にマレーシアの心ある国会議員もいることがわかった。その一人がアンワール議員だった。初めて知ったが、20年間君臨したマハティールの座を脅かしたことから、1998年に礼状なしに逮捕・拘束され、2008年に再び同性愛行為で逮捕されたマレーシアの元副首相の娘である。他に医者でタバコ規制のISDSの対象除外を主張するモーリィ・チャ氏。ジュネーブに本拠を置き、マレーシアや母国オーストラリアでも活動するサンヤ・スミス弁護士。みな女性だったが、TPPの危険性に気付き必死で食い止めようとするのが肌に伝わってきた。

<マレーシア版田中真紀子の訪日>
 アンワール議員は8月28日に昼食会で他の議員とともに意見交換したばかりでなく、31日には首藤信彦元衆議院議員とともにマレーシアの自宅にまで出向き意見交換する機会を得た。更に、10月1日にはTPP阻止国民会議主催の「TPPを考える国民会議」(衆議院第一議員会館国際会議室:10~17時)に来てもらい、日本の関係者にマレーシアの動きを紹介してもらい、意見交換もする予定である。なるべく多くの方々に参加していただき、理性的なマレーシア版田中真紀子のTPPへの危惧に耳を傾けてもらいたいと思っている。

<与党の横暴が続くマレーシア政界>
 ルック・イースト政策に代表されるようにマハティール元首相は大の日本贔屓だった。しかし、前述のアンワールのいいがかり逮捕(?)にみられるようにワンマンだった。マレーシア国内でも功罪が半ばしており、アブドゥラ、ナジブと続くマハティール後継政権への国民の批判も強かったが、与党連合「国民戦線(BN)」が13年5月の総選挙を勝ち抜き政権を維持している。あわや政権交代という期待もあり、投票率は85%と史上最高となった。得票率は野党「人民連盟」が50.87%とBNの47.38%を上回り、本当は与党が負けていたのだ。ただ、与党(BN)はボルネオ島のサバ、サラワク両州で大勝したこともあり、222議席のうち133議席を占めることができ、辛うじて政権を維持できただけにすぎない。
 マレーシアでも多くの政党があるものの、ほぼ二大政党制に近づいている。BN有利の恣意的区割等により、やっと政権の座を保ったのが実情である。
 そうした国内政界事情もあり、またすぐ近くということもあってか、マレーシアからは与野党合同の超党派議員団がブルネイに押しかけていた。

<TPPに毅然とした態度で臨むマレーシア>
 ブルネイ会合中の8月23日にはムスタバ貿易相「国有企業に関する提案は深刻な困難を伴う」と異例の声明を出した。TPP への対応も、こうした与野党伯仲の中で定まっていない。マレー人優遇策(ブミプトラ)があり、また事実、石油開発や自動車生産など国有企業が成長を支えてきたからである。これには元々社会主義国で7000の国有企業を抱えるベトナムも同調している。
 また、ブルネイ会合中の8月20日、マハティール元首相は「(TPPは)マレーシアのような小さな国土を植民地化するアメリカの企てに過ぎない」と首都クアラルンプールで講演した。また、中国の不参加にも「中国抜きの経済圏の一部となるように求めている」と疑問を提示した。国益を考え、自国の文化・社会を守ろうとする保守派はTPPに反対するのが当然なのだ。
 ただ、危惧されるのは、APEC前のオバマのマレーシア訪問でナジブ首相がいきなり大妥協するかもしれないことが気がかりである。

<安倍、甘利、茂木と妥協の連鎖が続く日本>
 これにひきかえ、安倍内閣は日本の国益無視のアメリカのご機嫌伺いのオンパレードである。1番バッターは甘利担当相のTTP反対派は徐々に静まりつつあり、対処することは可能だ(毎日新聞8月29日)という発言。本人は否定しているが、よく自民党議員が黙っているものだ。続いて4番バッターの安倍首相のG20での年内妥結容認発言。これで日本はルール作りへの参加はなく、既に決まった協定にただ署名するだけしかなくなった。そして、茂木経産相は、自動車でフロマンUSTR代表の日本の外国車シェア6%に対しアメリカは40%という発言に怯え、並行協議でズルズル後退しっぱなしである。日本の経済界のおそれる、かつての悪夢輸入割合の数値目標が突きつけられるかもしれないからだ。
 日本がルール作りの主導権を握るとか、新興国とアメリカの橋渡しをするといった参加前の大言壮語した交渉力の披瀝はどこにも見つけられない。

<日本を意識してまた急に動いた韓国>
 韓国は常に日本を意識して政策を打ち立て外交も行う。李明博前大統領の突然の竹島上陸も11年11月の野田前首相のAPEC参加発言がきっかけだったことは、ブログで紹介した。今度も日本がTPPにこだわっている間に巨大市場中国とのFTA交渉を急ぎ、関税撤廃を90%にすることで合意したと発表した。この自由化割合は、アメリカの99.8%、EUの99.6%と比べると低いが、2国間であり、韓国の農産物、中国の工業製品というセンシティブ品目は自由に例外にできたからである。深層には、日本に先んじて中国市場をものにすること(韓国ではこれを「経済市場」の先専と称している)を優先したのである。
 そして返す刀で、TPPに参加することもありうるという変則的ジョブを打ってきた。米韓FTAでのISDS条項への反発、農業への悪影響、格差の拡大等の難問を抱える韓国が日本の後追いをするとはとても思えないが、アメリカにばかり擦り寄る日本への中韓共同での強烈な一撃である。
 かくして「アジアの成長」という掛け声で始まった日本のTPP参加は、韓国に先取りされていくばかりである。

<米問題も抱えるマレーシア>
 韓国にとってもマレーシアにとっても米は日本と同じく食料自給の観点からもないがしろにできない重要な農産物である。貪欲なアメリカは小国マレーシアの米にまで難癖をつけているようだが、マレーシアは補助金漬けのアメリカの米など輸入しないと突っぱねている。前述のブミプトラ政策といい、いろいろな問題があったにもかかわらず、3回目からTPP交渉に参加した。ブルネイで関係者に直に接触してみたが、7月の第18回会合をコタキナバルで主催したこともあるのだろう。いろいろな分野で積極的発言をしていることが分かった。
 TPP交渉に参加してみたものの、とんでもない代物であることがわかり、今その改善に全力を挙げているのである。私はマレーシア側との意見交換で、今日本がマレーシアを見習い「ルック・イースト」外交をすべきだと冗談を言うしかなかった。
 日本は参加前からも相当いかがわしさが分かっていたはずだし、現に参加して参加してもっとその酷さが分かったはずなのに、いつまで唯々諾々とアメリカに追従ばかりするのであろうか。