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TPP交渉の行方シリーズ4「先行き不透明な米議会のTPP承認 -遅れるTPA(貿易促進権限法)の成立-」 13.09.21

<国会議員の勝負はTPPの国会承認>
 日本では国際交渉は政府の役割であり、政府に任されている。法律は議員立法もできるが、議員外交はあくまで側面援助であり、国対国の交渉は政府のすることである。TPPのような重要なものについて、国会議員が事前にあれこれ注文をつけているだけなのだ。だから、野田政権も安倍政権も、与党なり国会議員の意見など無視してTPPの交渉を進めても制度上は問題にならない。ただ、最後は国会の承認が必要であり、実質上了解を得つつ進めなければならないだけだ。
 今、安倍政権がTPP交渉参加を認め、現に交渉中となると我々国会議員、特に野党議員にできることは、批准を求められた時に反対すること以外に残されていない。

<ユニークなアメリカの外交>
 ところが、完全な三権分立の国アメリカでは、憲法第1条第8節第3項により、なんと外交も議会に権限があり、政府は授権されない限り交渉にも当たれないし、承認も得られないという仕組みになっている。ただ、その権限を与えられると議会は細部について意見を言えず、ただ承認するかしないかだけを後で決めるだけである。いわゆるFast Track(一括承認)である。USTRはそれでも議会の眼を盗んで勝手なことをする政府へのチェック機関として議員の側に立って働く機関としてできたものなのだ。
 今まで、ウルグアイラウンド(UR)でも何でも、このアメリカ議会の政府への授権の期限がいつか(例えばURの最初の期限は90年12月)で各国の交渉が左右されてきた。

<ボーカス(牛肉)対レビン(自動車)の対立構図>
 しかし、今回は重要な交渉というのに、授権法が07年7月に失効したまま、TPPも慣習で政府が議会に90日前に通告して交渉に入っているだけなのだ。
 この点を心配した日米牛柑交渉(1988年決着)の頃から名を馳せてきたボーカス上院議員(財政委員会委員長)が、ファスト・トラックの入ったTPA(Trade Promotion Authority 貿易促進授権法)を6月までに成立させようとしたが、今のところ進展していない。モンタナ州(牛肉の大生産地)が選挙区で引退を表明しているボーカスは正論を吐いているが、ミシガン州選出のレビン下院歳入委員会筆頭理事(民主党)等の自動車議員が反対している。それぞれの地元を意識しての対立である。日本もアメリカも地元の産業のために汗をかくのは同じだ。共和党はそもそもTPAに反対している。
 アメリカは、EUとのTTIP(貿易投資連携協定)も進めている。このため、2つの大きな交渉の進展を望む8つの経済団体(全米商工会議所、米国ファーム・ビューロー連盟等)が、9月4日、TPA 法案の年内可決を書簡で上記議員に要請した。
 TPAがない今は、政府は議会や団体の要求のがんじがらめに合い身動きとれず、柔軟な妥協ができなくなっている。そして、これが交渉の進展を妨げていると思われる。

<議会承認を得られないまま空中分解する恐れ>
 TPPは、何もオバマ政権が是が非でも成立させなければならないものではない。もともとオバマはFTAには賛成していなかった。それを経済のテコ入れにやむを得ず一つの手段としてTPPに目をつけただけなのだ。このままあやふやな政権運営が続けば、TPAも通らずTPPが審議の際に修正を求められたり、棚晒しにされるおそれもある。アメリカにとっては不利な協定はないほうがましだからだ。
 実利は日米(TPP)並行協議で着実に得ているし、TPPは日米間になくてはならないものではないからである。盗聴問題、財政問題に加えてシリア問題が大きくのしかかり、オバマ政権も四苦八苦している。国際連盟を提唱したものの入らず、環境問題に火を付けたものの京都議定書には入らないという我が儘な大国である。TPPも同じ目にあうかもしれないということも念頭においておかなければならない。
 こんな状況の下、アメリカ政府はTPAなしにはTPPは承認されないことから、いつも議会との関係を気にしなければならず、強硬姿勢が崩せずにいる。そしてこのことが交渉の進展を妨げている。だから、私は、今でも日本も妥協の連続はやめ、国益に反すると判断したときは、さっさと交渉から撤退するのがベストだと思っている。

<日本ではTPPに党議拘束をかけず>
 仮に協定が年内妥結しても、日本も日本の仕組みの中でじっくりと協定内容を精査して、国益に反するとして拒否するなり、問題点の修正を求めていく必要がある。
 イギリスではEC加盟もイラク派遣も党議拘束なしだったし、政治家の識見で判断されるべき典型的な重要案件だからだ。最近でもシリアへの軍事介入の動議を否決(賛成272、反対285)した8月29日の臨時議会では、キャメロン政権の内閣のうち10人は投票していなかったことが判明し問題になっている。イギリス下院は定数650のうち保守党が364議席を占め、通常なら余裕の可決のはずだった。英議会は、イラクのニセ大量破壊兵器の教訓から、シリアの化学兵器の使用を理由とする軍事介入には良識を見せ大量造反したのである。
 採決に当たり、イギリスにならい、大きく意見が割れる重要な外交案件については、党で物事を決めるのではなく個人個人に任せられるべきだと考えている。

 日本の国のかたちを変えてしまう恐れのある歪んだ協定の是非絶対に党議拘束をはずすべきである。そして、選挙公約との整合性を国民の前に明らかにし、次の選挙で有権者の審判を受けるのだ。これが民主主義である。