« TPP交渉の行方シリーズ4「先行き不透明な米議会のTPP承認 -遅れるTPA(貿易促進権限法)の成立-」 13.09.21 | メイン | TPP交渉の行方シリーズ6「年内早期妥結という第3のごまかし-狂ってほしい恐ろしいシナリオ-」 13.09.26 »

TPP交渉の行方シリーズ5「薬の特許強化で日本の医療制度が崩壊するおそれ -物造りを忘れた大国アメリカの悪あがき-」 13.09.25

 9月18日-21日にワシントンで首席交渉官会議が開かれた。日本の関心の高い市場アクセス(関税)分野はもちろんのこと、知的財産権を巡るアメリカ対新興国の対立は、当分解決しそうにない、その一つの特許権について触れてみる。

<薬で儲けをたくらむアメリカ>
 アメリカは物づくりできなくなった国である。URでは新分野と称されるGNS(サービス)、知的財産権、海外投資についてアメリカ流のルールをはめ込もうとしたが、あまりうまくいかなかった。イギリスが世界の工場から金融にシフトしていったのと同じ途を歩み始めたのである。大国は次々と交替していきそれほど長くは続かないと、モデルスキー・ワシントン大学教授が『世界政治における長期サイクル』(1987年)で示したが、そのとおり歴史は動いている。覇権大国にお金がたまり、働かないで食っていけるようになると没落が待っているのだ。
 その後アメリカは、投資協定(MAI)をOECD諸国内でまとめようとしたが、フランスの反対にあい失敗した。それではと手をつけたのがP4諸国によるTPPだった。物づくりを忘れつつあるアメリカは、少しでも大国の地位を保つために必死で悪あがきをしているようにみえる。

<研究開発投資への報酬と世界人類への貢献の狭間>
 そこでじわじわと他国を縛ろうというのが知的財産権の強化である。世界中から優秀な人材を集めるアメリカは特許の点では抜きん出ている。これをもとに優位を保とうというのである。
 新しい発見や技術革新にお金がかかり、その投資に見合う利益が必要なことは十分に理解できる。長年の研究開発投資でやっと物にした成果を、そう簡単に真似られてはたまらない。少なくとも再び新しい研究開発投資ができるくらいの利益は返してもらわないと元が取れない。しかし一方で新しい発見なり技術革新がよりはやく世界に広まり、皆が恩恵を受けることも必要である。この接点をみつけるのがなかなか難しい。

<特許や著作権に対する抵抗三題>
 近年の人間のつくり出した特許なり著作権なりの知的財産権への見返りは、自然に考える各方面から根源的な挑戦を受けている。国防交渉の協定案できめると、その部分は括弧書き(Bracket)にして残すことが行われる。知財部分は何と300もあり、ブルネイではそれを少なくするために議論を始めたところ、逆に増えてしまったという。条文に強制力を持たせようとするアメリカとなるべくゆるくしようとする新興国の対立も先鋭化している。
 一つは中国に典型的に見られる特許権の侵害である。いい物を真似てどこが悪いという理屈である。
 二つ目は、URの時からある過度な特許権による新興国の惨状である。例えばエイズの特効薬はかつて100万円だったが、ジェネリック薬品が造られるようになり10分の1近くに減り、たくさんのエイズ患者が助かることになった。こうしたことから、かねてより食料(種等)と医療のようなBHN(Basic Human Need、基本的に人間に必要なもの)については、特許の例外とすべきという考えである。
 三つ目は、二つ目と似ているかもしれないが、日本にある「隣百姓」というものである。農業は隣の百姓の真似をすることによって広まっていき、今も農業界では先進地視察で自由に農業生産システムを誰にも教えて広めている。江戸時代、青木昆陽のサツマイモは3年間で日本中に広まったという。ここには技術やノウハウの独占などいう考えはない。私はこのほうがむしろ自然ではないかと思う。世の中に役立てば発見者や発明者の望外の喜びなのだ。このことは世界的作家の本(著作権)についてもいえることだ。

<アメリカのどきつい特許戦略>
 ところが、アメリカは上記の特許に向けた根本的問題など屁のカッパで、薬の特許や医療関連の特許でなんとかあぶく銭を儲けて続けるルールを確立せんとして欲張っている。
 一つは、特許期間を長くして簡単にできるジェネリック薬品を造れないようにすること。二つには、薬品のデータの保護期間(10年)を長くすること。三つには、基本特許をもとにした改善もすべて元の特許にいれてしまい、新しい工夫からも特許料をとること。四つには、各国の薬価決定にアメリカの薬品企業代表も入れて、薬価を高くすること等といった都合のいい主張である。当然マレーシア等の新興国は大反対することになる。
 ところが、日本のだらしない薬品企業は、アメリカの軍門に下ったのか、アメリカの薬品企業と同一歩調をとっている。9月22日の東京新聞は、先進国とマレーシア等の新興国を分けて後者には基準を強める提案を日米共同で提案していると報じられている。小手先の妥協であり、世界の利益にはならない。
 しかし、日本でも地方の小さな薬局は、安いジェネリック薬品がはやくできることを願っている。このほうが庶民にとってはいいことなのだ。

<薬九層倍の高齢国日本を餌食にせんとするアメリカ>
 アメリカの主張が取り入れられると日本の医療はかなりメチャクチャにされることが予想される。
 「薬九層倍」といってもともと薬は高くても仕方ない、いや高い薬のほうがよく効くという、日本人独特の考えがある。従ってジェネリック薬品も23%ぐらいしか占めておらず、先進国では最低のクラスである。従ってここが狙い目となり、アメリカはもともと平気で高い薬価を押し付けてくる。
 その結果、日本の医療費は高い薬代でますます高くなり、国民皆保険制度を
ぐらつかせるもとになるかもしれない。これが見えるので日本医師会もこぞってTPPに反対するのである。
 アメリカは団塊の世代が高齢者入りし、ますます高齢化が強まる日本こそ有望な市場と考えている。老人のほうが病気になりやすく、薬も多く服用するからである。そして貯蓄率の高い勤勉な団塊の世代は、自らの健康維持には余念がなく、貯めたお金をまずは高額な医療費に充当すると踏んでいるのだ。
 他にも医療機器とそれを使った手術もすべて特許にからめて、手術費からも少しでもくすねようとしているらしい。
 これらすべて非人道的としかいえないことである。せっかくの医療技術を、お金をたくさん払えなければ使えないというのは、何のための研究開発か意味がわからない。
 このあたりで特許についての根本的考え方の変革が必要である。