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TPP交渉の行方シリーズ6「年内早期妥結という第3のごまかし-狂ってほしい恐ろしいシナリオ-」 13.09.26

<日本の参加で交渉促進>
 日本のTPPへの参加は、アメリカを除けばどこの国も反対はなく、カナダとメキシコはむしろ日本の参加に驚いて慌てて参加を決めている。2国はNAFTAで相当アメリカに痛めつけられていたこともあり、TPPには二の足を踏んでいた。しかし、日本市場でアメリカだけが有利になっては困るため、渋々の参加だった。アメリカ以外の10カ国は、日本がアメリカの強引な主張に対して歯止めをかけてくれると期待したのだ。
 ところが、日本の交渉姿勢は明らかに期待に反してしまったようだ。まだたった2回(18、19回)の全体会合しか参加していないが、アメリカのお先棒を担ぐような従順な交渉姿勢ばかりだからだ。秘密交渉とやらで、全容はよくわからないが、少なくとも、私がブルネイで接したNPOの大半はTPPに疑問を持ったグループであり、日本があらゆる分野でもっとしっかりした主張を展開してくれると思っていたのに、という意見が大半を占めた。

<アメリカに左右される交渉期間>
 ウルグアイラウンドの時も今のドーハラウンドの時もいつもそうだが、首脳が集まるサミットやAPECの共同宣言ではいつも交渉の促進が謳われ、「年内妥結」といった文言が盛り込まれた。今回も、サンクトペテルブルクのG20の折、日米首脳会談でオバマ・安倍会談が行われ、TPP交渉の年内妥結が強調された。年内妥結などありえず、2〜3年続く交渉の中でルール作りに参加できるという触れ込みで参加したにもかかわらず、安倍首相がオバマ大統領に対して直接、期限について早々とアメリカに白旗を掲げたのである。
今までのTPPがらみの数々の妥協の中でこの方針転換は最も許し難い妥協である。日本はこれでほとんど敗北しかないというのに。日本のマスメディアは、この政府の見通しの狂いと安倍首相の変節にはほとんど何の論評もない。
 国際交渉といっても国内政治の延長にあり、特にアメリカの国内政治に振り回されることが多い。2012年は大統領選挙の年であり、日本のTPPの参加の件はほとんど進展がなかった。オバマ再選が決まり、13年に2期目が始まるとすぐに日本の参加が動き出した。そして今は再び2014年の中間選挙に向けてオバマ政権が功を焦り、今年中の妥結を急いでいる。

<豪腕フロマンの腕力>
 フロマンUSTR代表は、オバマの大学時代の同級生で広報担当の補佐官として政府入りしており、たびたびマスコミにも登場していた。それが今回何かと非力とあまり評判のよくなかったカーク代表の後を受けてUSTR代表に就任した。オバマは気心の知れた友に重要な仕事を託したに違いない。
 私もすべてのUSTR代表が頭に浮かぶわけでもないが、URの頃のヤイター(後の農務長官)、ヒルズ(女性)、日米通商摩擦真っ盛りの頃のカンター、バシェフスキー(女性)が印象的である。男性の場合は大半が押しの強い者が就いている。普通は主催国が議長を務めるのに、今回のブルネイ会合ではフロマンが議長となり、閣僚会合をとりしきった。フロマンはブルネイへ行く前に日本に立ち寄り、甘利TPP担当相とも会い、年末妥協への強い意向を明らかにしている。アメリカは必死で今年中にまとめようとしていることが肌に伝わってくる。
 「TPP阻止国民会議」(かつての「TPPを考える国民会議」)がずっと付き合っているNZのケルシー教授は、ブルネイ会合まではそう簡単にまとまらないと予測していたが、ブルネイ会合でのフロマンの交渉態度を見て、アメリカの本気に気付き、下手をすると本当に年内にまとまるかもしれないと言い出した。

<日本はただ署名するだけの終わるおそれ>
 日本が、7月の18回のマレーシア会合から参加したのは、TPPはそう簡単にはまとまらないと踏んだからである。それが一転急遽まとまりそうな気配になってきた。これでは、もう内容が決まってしまった衛生植物検疫(SPS)、労働、電子商取引(Eコマース)、貿易円滑化、貿易の技術的障害(TBT)、電気通話サービスの6分野等については何も意見を言えず、ただ署名して加盟するだけとなってしまう。
 それに対し、知的財産権(IPR)、競争の国営企業(State-Owned Enterprise: SOE)環境等、また決着がついてない分野については、思惑どおり日本の意見といろいろ言うことができ、うまくいけばルール作りに参加できることになる。しかし、いかんせん年内の合意では短すぎて何もできない。

<名を必要とするオバマののっぴきならない事情>
 こうした中で、日米双方にとって都合のいい筋書きがみえてくる。2月下旬の安倍訪米時のニセ共同声明と同じく、日米双方で都合のいい決着の説明ができるシナリオである。
 7月のマレーシア会合後、マレーシアは29章のうち14章はほぼ合意に達したと表明している。合意された部分だけでさっさと妥結し、関税(市場アクセス)、知的財産、政府調達、国営企業(SOE)、環境等の難題は先送りする、いわゆるEarly Harvest(早期決着)である。
 オバマ政権は、組織的盗聴や財政の崖で下がってしまった支持率を回復し、中間選挙を優位に進めるためには、景気をよくし雇用を拡大しなければならない。その手段として輸出拡大できるTPPを相当宣伝しており、TPP交渉の妥結を一つの成果として、遅くとも14年前半に大々的に示さなければならない。オバマは、9月13日のAPEC最高経営者サミットで講演し「輸出が10億ドルふえるごとにアメリカの国内で5000人雇用が生まれる」と述べ、TPPを急がんとしている。
 となると、TPPでアメリカのルールを一挙に押し付けようとした当初の目論見を諦めなければならなくなる。今は実(TPP加盟国のルールをアメリカに合わせる)よりも名(交渉の妥結)が必要になってきたのである。
 そのためオバマは、APECの前にマレーシア等アジア諸国を歴訪し、TPP交渉の妥結を自ら迫る予定であり、APEC(10月7、8日 インドネシア バリ)では、TPPの首脳会議も開き議長を務めるとも言われている。その直前(10月4、5日)にTPP閣僚会合も予定され、首席交渉官も参加することになっている。今年のAPECはTPP一色であり、アメリカは力の入れ方がいつもと違う。フロマンUSTR代表は、8月21日の共同記者会見で、APEC首脳会合は、年内妥結に向けた重要な一里塚だと意気込んでいる。
 アメリカの思惑どおりに進めるには、アメリカの強引な交渉態度を改める以外にないが、日本と比べ格段にうるさい議会や関係団体の調整がうまくいくかは誰もわからない。

<日本の第3の嘘妥結>
 一方、日本は、TPPに参加しないという嘘だらけの選挙公約、そして2月の何も実体のないニセの空虚な共同声明を一応守る形にしないと、地方や農民から厳しい指弾を受けることになってしまう。特に最大の詐欺、5品目の関税撤廃の除外である。こんなことはほぼ認められないことは誰の眼にも明らかである。そこで、関税撤廃が先送りされるという都合のいい決着が浮上してくる。甘利TPP担当相は、年内合意にはいくつかの細かいことは後回しにしても、10月のAPEC会合までに大枠合意が必要であると予防線も張っている。この大枠合意には市場アクセス(関税)は含まれないのだ。
 この場合は、見せかけの名(撤廃はなかった)をとるために実(他の交渉分野での有利なルール)を捨てるのである。幸いにして、交渉に参加できたのに秘密交渉を理由にほとんど内容を開示しないため、TPPの恐ろしい内容は国民の大半は知らないでいる。そんなところで妥協しても政権に傷はつかない。それよりも関税交渉を先送りし、それで5品目の例外は死守したと、再びインチキ喧伝をしたほうが得だということになっていく。

<Early Harvestに欺かれる日本のマスコミ>
 9月に入り、問題の米豪2カ国の関税オファーも行われて関税交渉も本格化した。揉めている分野の中間会合が各地で精力的に行われた。アメリカの強い意向により、首席交渉官会合も9月18日‐21日にワシントンで開かれ、最終調整が行われることになった。そして、難題の関税交渉も同時に行われた。しかし、決着がつかない分野が多く残り、今年中にまとめるとしたらEarly Harvestしかないだろう。
 そして、2月の日米共同声明と同じく、日本側は日本の都合のいいように喧伝し、アメリカはアメリカの都合のいいように記者発表するのだ。アメリカはともかく、日本の五大紙をはじめとするマスコミは再び、アメリカの要求を拒否しきった立派な交渉、見事な政権と絶賛するのだろうか。
 かくして農民は再びだまされ、一方TPPが密かに徐々に日本の主権を侵していくのである。この恐ろしいシナリオがどこかで狂うことを願うしかない。