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TPP交渉の行方シリーズ7「TPPの足下が揺らぎ始めたアメリカ -今のアメリカはまともに交渉する相手ではない-」 13.09.27

<アメリカが投資・金融・労働・環境にこだわる理由>
 アメリカは日本と違って確固たる戦略を持って事に当たる国である。一旦決めたらしつこいぐらいに同じ道を突き進む。今、イラクにしたことを再びシリアにしようとしているのが一例である。民主主義国の旗手として世界の警察官の役割を演じ続けているのだ。
 通商・貿易分野では、自由貿易を超え、アメリカのルールを押し付けて世界を自国の都合のいいように動かす方針をひたすら追求し続けている。自由貿易を標榜しつつ、実態はアメリカによるがんじがらめの管理貿易であり、世界のルールのアメリカ化である。そこで目をつけたのがTPPであり、2008年、シュワブUSTR代表(女性)は、投資・金融・労働・環境も加えてくれればTPPに入りたい、と話を持ちかけた。そして、お互いに補完し合う小国の協定が、とんでもない協定に衣替えしていった。海外投資と金融は、アメリカの金融資本がやりたい放題にできるルール作りであり、労働と環境は、ソーシャル・ダンピングとエコダンピングを理由に新興国の輸入制限ができやすいようにという目論見があった。

<①州議会も反発し始めたISDS>
 オーストラリアが既にアメリカの思惑を感じ取り、米豪FTAからISDSを除外している。危険性を察知したからであり、今タバコ会社フィリップモリスがオーストラリアのタバコ規制について、本社が豪政権を訴えられないため、オーストラリアの会社が訴訟を起こしている。
 そして、足下のアメリカの州議会が、州政府がISDSの対象になることの危険に気付き、反旗を翻しつつある。なぜならば、アメリカは文字通り合衆国であり、細かい規制は州政府に任せられている。それをいちいち多国籍企業に難癖をつけられて、世銀の下の国際仲裁センターの一審だけで有罪にされてはたまらないからだ。幸いにして、今のところ州政府が訴えられたケースはないが、今後十分に予想されることである。

<②拙速妥協を懸念しだしたアメリカの経済団体>
 14年秋の中間選挙での勝利のために、TPP年内妥結という名に傾き始めたオバマ政権に対し、関係団体から実を捨ててはならないと反発が出始めている。全米商工会議所は、8月23日、ブルネイのTPP閣僚会合に合わせて、安易な妥協はせずにTPPの当初の目的達成すべしと釘をさしている。特に製薬業界団体PHARMAは、長期的なしっかりした協定にすべきと主張している。また、全く逆に国内の競争力のない繊維や靴業界からはベトナムに妥協しないように、要請を受けている。更に、マレーシアや国内の反タバコは団体に妥協して各国のタバコ規制を容認し、ISDSの対象にしないという妥協案に対しては、16もの農業団体やタバコ業界等の関係団体から連名でNOを突きつけられている。更に、9月18日から始まった、首席交渉官会合に対しても、「中身の濃い会合に向けて努力するよう」書簡を送りつけているという。
 このように身動きとれない状況の中で、アメリカはますます硬直的になりつつあるようだが、アメリカが柔軟性を示さない限り会合は進展せず、年内妥結はありえなくなる。難航するすべての分野はアメリカが絡んでいるからだ。フロマン(USTR)代表もオバマ政権は大きなジレンマを抱えており、TPPについてもシリアへの軍事介入発言のふらつきと同時のブレが見られるのかもしれない。

<③情報公開もせず透明性に欠ける交渉に対して消費者団体の反対も本格化>
 アメリカでは前から格差問題が顕在化し、「ウォールストリートを占拠せよ」というデモが全国展開された。今回、USTRビル前で、かねてから「TPP阻止国民会議」が共闘しているパブリック・シチズンがTPP反対デモを行った。食の安全等が脅かされることを懸念しているからである。日本の主婦団体や消費者団体と同じことがアメリカにもやっと広まりつつある。
 アメリカは何かにつけ、日本の仕組み自体を情報公開せず透明性に欠けると批判してきた。そして大袈裟にそれが非関税障壁だとも難癖をつけている。しかし、公明正大で透明なアメリカ式の仕組みをTPPにしようとしているというのに、そのプロセスの秘密主義(透明性欠如)は見事というしかない。欧米ではdue process(正当な手続き)を経ない決定は無効なはずなのに、何という自己矛盾だろうか。こんなやり方でできる協定がまともなはずがない。そこの欺瞞性に消費者団体も後述の労働界も州議会も苛々し始めたのである。

<④お膝下の外食チェーン労働者のストライキ>
 世界を席巻する多国籍企業といっても、金融資本による企業支配は一般の日本人の目に見えてこない。そうした中で最も身近に感じ、毎度接するのは多国籍外食チェーンである。
 外食チェーンの大半は日本同様非正規雇用で成り立っており、雇用が不安定なうえに低賃金である。日本では「名ばかり管理職」の長時間労働が問題になったが、本家のアメリカでもいわゆる「ブラック」ぶりが白日の下に晒され、マクドナルドから始まったストが、約300万人いるとされる従業員に徐々に広まりつつある。今、TPPの「労働」の分野でいわゆるソーシャル・ダンピングが槍玉にあげられているが、新興国の劣悪な労働条件による不当に安い製品の輸出を問題にする前に、お膝元の低賃金を見直す必要に迫られている。これもまたアメリカの矛盾なのだ。
 アメリカではAFL-CIO(米労働総同盟産別会議)が、労働者の保護法制をないがしろにするTPPに大反対している。USTRは当初から交渉に必要な情報を入手するため600人(社)からなるアドバイザー制度があり、有力議員と並んで極秘文書も見られることになっている。しかし、この中に労組は入っていない。労働力の流動性を高めるといったきれいごとの下、労働者を単なるモノとして扱う非道な内容がバレてしまうからである。

<アメリカのTPP交渉こそが「国営企業」支援>
 アメリカは国際交渉において、自国の法律をそのまま協定の案文にし、一企業の主張をそのまま国の要求にしてくる国である。
 アメリカはまた、ほとんど政治はワシントンで、かつ、企業団体のロビィスト中心に行われている特別な国である。篠原流の嫌味を言わせてもらうならば、国際交渉において一企業(例えばアフラック)の要求を国の要求としてくるアメリカこそ、企業を強烈に援助しているのであり、慎まなければならないのではないか。つまり平たく言えば、アメリカの多国籍企業こそアメリカの政府お抱えの国営企業であり、他国のことを言えた義理かということなのだ。もう一つ言えば、国営企業と指弾される日本郵政は、逆に日本国政府がアメリカの理不尽な要求に晒されているのに少しも守ってくれない。
 ただ、日立、東芝、三菱重工のために安倍首相が原発輸出のセールスをして歩く姿をみると、こっちこそ国営企業ではないかと疑いたくなってくる。

<強欲なアメリカ>
 アメリカはTPA(貿易促進権限法)ができ、TPPが批准され一件落着しても、次々に新しい要求を出してくるだろう。例えば、あれだけ郵便局が国営企業で平等な競争条件でないと批判しておきながら、アフラックの保険を郵便局で扱わせることを勝ち得て平然としている。それでもまだ満足しておらず、かんぽには新しい保険をやらせないように主張している。まさに恥も外聞もなく、ただひたすら自国の「利」だけ求める現金すぎる国であり、とても日本がまともに相手をする国ではない。
 こんな国と交渉するには、じっくりと腰を据えてしぶとくやる以外にない。それを7月下旬に途中参加して12月妥協では、まじめでおしとやかな(?)日本は何も得られずに終わってしまうのがオチである。
 TPP交渉からはやはり一日も早く脱するのが得策である。