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TPP交渉の行方シリーズ8「TPPが国政を決める -国家の主権・徴税権も奪うTPP-」 13.09.28

<「非適合措置」という見慣れない用語>
 私はかなりTPPを追いかけてきたが、いかんせん協定条文の内容がわからなかった。これがWTOだと、事務局長案なりアメリカ案なりが示され、誰でも承知するところとなるが、TPPはそれがない。微妙な2国間交渉もいろいろ交渉経過が明らかにされないことがよくあるが、マルチの会合は交渉内容が漸次明らかにされることが多い。一国で詳細記者会見したら一挙に世界中に広まるご時世だからだ。
 今は急にnon-conforming measures(非適合措置)が眼に触れるようになった。いまだよくわからないが、投資、金融サービス分野でも基本的に自由化しろということになっているが、国内法の規制についてあるならそのリストを通達して委任を受けておかないとならないようだ。詳細は私にもようわからないが、かつてアメリカが多国間投資協定(MAI)で主張し、とり入れられなかったといわれている。
 こんなバカな制度であるとは知らなかったが、すぐ疑問が生じてくるのは、今後、日本で新しい制度や政策を導入する時に、いろいろTPPとの整合性を気にしなければならなくなることである。予想されるのは、外国の多国籍企業に少しでも差し障りのある制度はできなくなってしまうということだ。明らかに国の政策を縛り続けることになり、主権の侵害になる。

<11年製自動車重量税へのアメリカの難癖を予想>
 11年秋、私はTPPと原発について本を執筆中だった。毎夜24時まで議員会館で執筆を続け、防災センターからの電話(施錠してない部屋の在室確認)の前に宿舎に帰るという生活を続けていた。そしてTPPが11月14日のAPECホノルル会合で一段落してからは、一段とピッチをあげていた。
 そうした中、消費税を中心とする12年度税制改正の議論も活発化していた。TPPに関する会合(「経済連携PT」)では、いつも一番前の指定席(?)に座り、必ず1回は発言していたことから、他の会合では発言はなるべく控えることに決めていた。従って、ほぼ全部出席していた「社会保障と税の一体改革」の会合でも、12月末の総理が参加した時以外は基本的に発言しなかった。
 ところが、進行役が、ラウンドテーブルで各人の意見を求めたため、私も発言せざるをえなくなった。そして、その時の話題の自動車二税(取得税と重量税)をTPPに絡めて以下のような発言をした。

● 今、皆さん、自動車税について、なごやかにかつ熾烈な議論をしている(笑)。しかし、TPPに参加したら、こんな議論は無視してアメリカやTPPに税制まで決められてしまうかもしれない。関税ゼロというのは、せっかく小村寿太郎たちの先達が苦労して回復した関税自主権を失うことだ。くしくも1911年から丁度100年目にあたる。
● アメリカは必ずや自動車重量税はアメリカの大型車を差別する税制だといって文句をつけてくる。我々は、軽自動車は環境負荷も少ないし、地方の劣悪な道路では軽自動車しか走れないため、税を軽くしているだけのことなのに、アメリカは税制まで同じにしろと言ってくる。関税自主権どころか、国家の徴税権までTPPに奪われることになる。まさに主権の放棄である。

<アメリカへの「倍返し」提案>
 これに対して、進行役は、自ら何でもいいから一人ずつ意見をと求めながら、私のまともな意見に対して「来年度の税制改正について議論をしているので、それ以外のことについては発言を慎みください」とちゃちゃを入れた。私の発言がいつものとおり冗談っぽく話したこともあり、数人がクスクス笑いをした。
 シンガポール(600cc以下から、3000cc以上で5段階)、マレーシア(1800cc未満から2500cc以上4段階)、ベトナム(2000cc未満から3000cc以上の3段階)、ブルネイ(1700cc未満から3500cc以上の5段階)等でも、排気量が多くなるにつれて税額が上がる仕組みである。日本は、0.5t以下から3t以上の6段階の重量税であり、排気量と重量の違いはあれ、基本となる考え方は同じである。環境に優しい社会の実現には、このような税制のほうに理がある。
 日米TPP並行協議の中で、私の予言どおり、関税自主権どころか国の独自の権限である徴税権にすら注文をつけられ、軽自動車の優遇税制が問題にされている。日本はTPPの環境分野の会合において、逆に上記4か国と結託して、CO2の排出量に応じて累進的に課税する共通税制を提案するぐらいの気概を持つべきなのだ。日本が世界共通のルール作りに参加するというお題目は、こうした分野でこそ実現すべきことなのだ。今は、アメリカの勝手な要求に対する「倍返し」こそ必要である。

<攻めの姿勢の全く見られない経済団体・政府>
 日本の経済界は、アジアの成長を取り込めとTPP参加への大合唱だった。しかし、ブルネイではそんな熱気はほとんど感じられなかった。8月27日の利害関係者(ステークスホルダー)会合への参加者は、日本が初参加ということもあり115人の出席者のうち46人が日本人で、大半が農業関係団体だった。2部屋に分かれ、1部屋は知的財産だけに充てられていたが、日本の発言はなし。アメリカがTPPを活用しようとして多くの業界団体を送り込んでいるのに対し、日本の経済界は口先だけのことが露呈していた。
 私は、一般の会合のほうが早く終わったので、知的財産の会合にも出席したが、アメリカの勝手な提案に対するNPOの反対理由が理路整然と発表されていた。アメリカがあの手この手で特許権や著作権で他国から金をむしろとるという話を聞いたら、とてもTPPには入れないというのが実感である。

<一に国内の中間層、二に近隣諸国>
 マレーシアの野党議員は、「マレーシアはTPPによってアメリカ市場が獲得できると喧伝されたが、マレーシアにはむしろ中国、タイ、インドネシアの近隣のアジアの巨大経済圏がより重要だ。アジアは大変な貧困と格差に苦しんでいるが、もしマレーシアの25%の貧困層が中流階級に変わることができれば、アメリカ市場を超える巨大市場になる」とTPPへの参加に反対した。
 これを日本にあてはめると、アメリカより近隣の東アジア、特に中国・韓国・台湾であり、更に外国よりもむしろ日本の中間層の需要を拡大したほうが経済は活性化するということである。
 得体の知れないTPPにうつつを抜かすよりも、じっくり腰を据えた国内経済政策と近隣諸国との経済外交のほうがずっと大切なのだ。それをTPPだ原発輸出だと外に目が向き、国連でもアメリカでも、アメリカにおべっかを使い、中国・韓国を刺激し続ける演説をしていてはアベノミクスもうまくいかなくなるのではなかろうか。