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TPP交渉の行方シリーズ1「TPPの貿易部分は2国間協定の寄せ集め -アメリカのご都合主義だけがまかりとおる-」 13.09.18

<掛け声だけの意欲的自由貿易協定>
 年内の交渉妥結を急ぐアメリカが、ITC(国際通商委員会)の日本からの輸入関税をゼロにした場合の評価が提出されてからでないと関税オファーができないとして、ブルネイ会合では何も提出しなかった。また、オーストラリアも9月7日の総選挙を控えていることを理由に提出を遅らせた。9月20日以降やっとこの2つの農業大国との関税交渉が行われることになったが、日本の問題の5品目の行方は杳としてわからない。
 関税交渉というのは、ガットやWTOでも2国間でも、それぞれの国が提案をしてお互いに譲り合って合意に辿り着くのがルールである。TPPでも他の分野は全加盟国の協定となるが、関税だけは2国間で動かすことになっている。
 そして、WTOでは、1か国に対して下げた関税は、全加盟国に対しても下げられることになっている。最恵国待遇と呼ばれ、内外無差別等と同じく国際貿易のいわば基本的なルールである。

<TPPは2国間協定の寄せ集めにするつもり>
 ところが、TPPでは、2国間でまとまった関税引き下げ撤廃の約束は、その2国間にとどめ、他には適用しないかもしれないというのだ。例えば、日本とアメリカで自動車の関税を今並行協議で日本が呑まされる2.5%関税の維持も、日米間だけで適用され、他の国は日本が関税ゼロ(撤廃)を勝ち取るならそれでかまわないというものだ。つまり、平気でアメリカ優遇を許すものだ。カナダ、メキシコ等がアメリカに同調し、シンガポール、オーストラリア等が反対している。日本を例にとると米を守るためには、シンガポールにはゼロでも、ベトナムやアメリカ、オーストラリアには例外扱いにしないとならない。自動車で攻める側に立つとアメリカが2.5%なら、他の国も一律2.5%にした方が有利である。
 こんなことをしたら、他の国は黙っていまい。ベトナムは今の74%、マレーシアは10%をそのまま維持することを主張してくるだろう。もっともな主張であり、日本も受け入れざるを得なくなる。
 一般的には守るほうからいうと2国間がよく、攻めるほうからみると統一がよいとみられている。
 その結果、TPPはWTOのルールを踏みにじるとんでもない貿易協定となっていく。

<WTOの原則を踏みにじるアメリカの戦略>
 この件は、かねてからアメリカが米豪FTAで砂糖を例外にしていることを楯に、既存のFTAがある国同士はTPP全体の協定にかかわらず先行する2国間FTAを踏襲するという都合のいい主張をしているが、その延長上にある、もっとひどいものである。
 いろいろ事情がある品目については、2国間同士に任せると、否が応でも強引なアメリカの要求を呑まされる他の11か国が不利になってくる。アメリカは他にベトナムとは履物と繊維製品、NZや豪とは乳製品で問題を抱えている。こうした微妙な品目は勝手に2国間でねじ伏せて関税撤廃の例外を勝ち取りながら、他のルールはあまり各国に理解されていないうちに多国間で押し切るという勝手な交渉戦略のようである。これでは多国間協定にする意味がない。ここでもアメリカにちょろまかされている。
 こうしたアメリカのいつものご都合主義に対し、経団連、日本商工会議所から、開催は各国バラバラでなく統一すべしという要求がでてくるのは当然である。そもそも関税ゼロを謳い文句にして始まったのがTPPなのに、これでは完全な羊頭狗肉である。
 high-level(高水準)、ambitious(野心的)、comprehensive(総合的)といった、TPPの美辞麗句は詐欺だったとしか言いようがない。

<WTOも危惧するアメリカ主導の勝手なルール作り>
 停滞を続けるWTOドーハ・ラウンドの最中に、WTO事務局長が8年間務めたラミーからアゼベド(ブラジル)に替わった。朝日新聞(9月8日)によると、退任するラミーは、いわゆるBRICSの台頭により先進国が市場開放して貧しい新興国が緩い約束で豊かになるというWTOの従来のパターンが崩れたことがWTO交渉停滞の原因としつつ、その新興国の声が日米欧の地域間、二国間の交渉で届かないことが問題だだと指摘している。ENAの優等生→仏財務省→EU官房長という実務者ラミーは、日本がTPP、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、日中韓FTA、EUとのEPAの4つのメガFTAにかかわっており、役割が重大であり、貿易ルールの世界共通化の責任をとるべきだというメッセージを残している。しかし、現実はアメリカへの追従一途であり、ラミーの期待には何一つ応えていない。
 9月9日の就任会見で新興国の新事務局長アゼベドは、TPPとTTIP(米EU貿易投資促進協定)の2つの貿易関連交渉がWTOに代わる貿易ルールの構築になりかねないと警戒感を示している。新旧2人のWTO事務局長のアメリカ主導による異質な貿易ルールの乱立への警告は当然のことである。
 これに対し、フロマンUSTR代表は、9月11日、ジュネーブの報道機関に向けたビデオ会議で平然とTPP等の合意内容が事実上のグローバル・スタンダードになると応じている。しかし、世界のルールはアメリカが作るものではない。

<当初の目的から大きく外れるTPPの貿易協定>
 P4(シンガポール、ブルネイ、チリ、NZのTPPは、関税ゼロで始まっている。小国は一国で国民に必要なものを賄えないことから、お互い得意分野を補完し合う形で始まった極めて合理的なルールである。例えば、シンガポールは食料生産はほとんどできないが、工業製品は中継基地として何でも手に入る。それに対し、NZやチリは国民に必要な工業製品をすべて賄うことはできないが、農業生産はお手の物である。それぞれの国が足りない物を融通し合うには関税ゼロが一番好都合である。
 そこにアメリカがちょっかいを出して、相当何でも自国で賄える大国が介入した。大国にもそれぞれ得手不得手があるが、不得手な物の関税をゼロにしたら、不得手な産業は消えてなくなる。大国同士で関税ゼロなどどだい無理な話なのだ。NZのグローザー外国貿易相が、上記の歪んだ関税の扱いに不快感を表し、「アメリカが我々の設定した高い水準のルールに合わせてくれればよい」との原点を主張するとのはもっともなことである。