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TPP交渉の行方シリーズ11「国家の主権を損ねるISDSは絶対拒否すべし-ISDSで世界はアメリカ多国籍企業の管理体制下におかれる-」―13.10.21

<真正保守はTPPはTPP反対のはず>
 TPPは日本の国の形を変えてしまういかがわしい協定である。だから、保守的な考えの者こそこぞって反対するのが筋である。現に保守論客はこぞって反対している(小林よしのり⇒真正保守は反TPP・反原発が当然 -日本の保守が反TPP・反原発にならない不思議- 12.10.19 参照)。ところが、日本の伝統的文化、社会、制度をアメリカと同じものにしかねない危険なTPPを、自らもって保守とか右翼と悦に入っている安倍首相が積極的にTPPに参加するというのは大きな矛盾である。本人はそんな大矛盾に少しも気づかず、アメリカでも「軍国主義者の右翼と呼べばよい」と開き直っている。

<ISDSに反対する韓国>
 ISDSは安倍首相が、アメリカが作ったから嫌いで改憲するという日本国憲法第76条(すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する)に違反する。日本のもめ事はすべて日本の裁判所で決しなければならないのに、外国企業が関係するからといって世銀の下にある国際投資紛争解決センターの一審だけで決するというのは、まさに主権の侵害である。だからこそ先行する韓国では裁判官、弁護士が、米韓FTAが不平等条約だと問題にした。

<ISDSは新興国間の規定>
 この制度は、不安定な国に投資した企業の救済のためにあるのはよくわかる。せっかく投資したのに、政権が交代したりクーデターが起ったりして、ルールを振りかざされて経営権を奪われたら大損だからだ。念のためということだろうが、日本の結んだ13のEPAでも、フィリピンを除いてISDSが盛り込まれているし、その他の投資協定にも含まれている。それでもただの一度も紛争解決に持ち込まれたものはないという。
米豪FTAでは、豪は先進国であり新興国並みに扱われるのはもってのほかと拒否し、ISDSはない。この論理で行くと、日米間にも不必要ということになる。

<TPPはアメリカの世界改造戦略の最終到達点>
 TPPは、アメリカが1989年はじまった日米構造協議以来、自分のルールを世界中に広める膨大は計画を実行しているにすぎない。モノ造りを忘れた、あるいは不得意になったアメリカは、金融、投資、サービス、特許等で設けていかないと国がなりたたなくなり、まず87年から始まったガット・ウルグアイラウンドで新分野(サービス(GNS)、知財、海外投資)を重視して、世界のルールにしようとしたが、あまりうまくいかなかった。95年からOECDの下で始めた、MAI(多国間投資協定)もフランスの大反対により成立せず、01年から始まった中南米34か国とのFTA交渉も頓挫したままである。そこで目をつけたのがTPPなのだ。

<事前の前払いでまず最初の実利>
 日本の例でみると、まず第一の矢でTPPに入れてやるということで、入場料・頭金で自国のルールを押し付ける。BSEで30カ月の牛肉の輸入も認めさせ、かんぽに新商品を造らせず、自動車でいろいろ難癖をつけている。これだけども日本は相当変なルールを押し付けられている。
 次に、第二の矢は本番のTPPでがんじ絡めにしてくる。この計り知れない影響は、いくら警告しても推進派にはよくわかってもらえない。

<際限がないISDSが日本の政策立案を奪う>
 しかし、最もどうしようもなく悪影響があるのが、アメリカが邪魔だと気付いた日本の制度や新しく導入しようとする制度が、ことごとくISDSの対象とされるということである。この三番目の矢の問題は、際限がないということである。
 大半の人は、訴えられて賠償金を支払わされるのが困ると考えているが、賠償金はまだ序の口の問題にすぎない。深刻な問題は、ISDSの乱発により、日本国政府が新しい制度を導入するのをためらうことになることである。いわゆる委縮効果である。これが度が過ぎると、アメリカ企業の顔色を伺い、政府や議会の政策立案能力がそがれ、政府の政策遂行能力もそがれることである。つまり、日本国の外の司法権に物事を決められ、国は国際企業の前に無力化してしまうのだ。こんなことを許す政治家が保守を標榜するのは滑稽以外の何物でもない。
 第一の矢(日米TPP併行協議)で問題にされている軽自動車への優遇税制が、第三の矢(ISDS)で問題にされ、敗訴したら財務省は同種の税制を導入できなくなるのである。
 TPPを推進している官僚は、自らの政策立案の範囲をせばめられていることに気づいていない。

<オーストラリアで現実化するISDSの弊害>
 この件で有名なのは巨大タバコ企業フィリップ・モリス社が、タバコの箱に印刷する健康への警告を不満として、ウルグアイとオーストラリアで、この規制は投資に悪影響を及ぼし、利益を損ったとして国内で訴えていた。しかし、2012年オーストラリア連邦最高裁判所は、規制は正当なものであり、公衆衛生に係わる規制なので、フィリップ・モリス社は賠償を受けられないという判決を下した。すると、フィリップ・モリス社は、豪香港二国間投資協定におけるISDSを通じて、数10億ドルの補償を求めて、投資紛争解決国際センターに提訴した。今後どうなるかしかと見届けなければならない。

<アメリカの企業は勝訴、アメリカ政府は敗訴なし>
 ISDSのはしりは、NAFTA(北米自由貿易協定)である。今まで(2013年初)米加墨ともそれぞれ(5件ずつ計45件提訴されている。そのうち米の企業が提訴したのが29件、加15件、墨1件とアメリカ企業は2/3も訴えている。そのうち投資家が勝訴したのは7件で、全てアメリカの企業である、アメリカ政府が敗訴しているのは一度もない。訴訟になれた(訴訟社会の)アメリカ企業がISDSをフル活用していることがうかがえる。また、2011年以来450件のISDSの訴訟が報告されているが、大半が企業が新興国を訴えているものである。
 政情が不安定で、海外から投資してもらえない発展途上国は、ISDSで裏打ちしないと投資してもらえないおそれがあり、投資の促進のためには必要かもしれない。しかし、先進国同士では不必要である。

<新興国がこぞって反対するISDS>
 ISDSは、マレーシア、ベトナムが大反対し、シンガポールもブルネイも組している。政権が労働党から自由党に代わったオーストラリアはあまり反対しなくなったとの情報もあるが、一方で貿易協定にISDSは組み入れない方針だとも言われている。新興国は裁判になどで争わず、安定した政府を造り、インフラを整え、国民の教育を高め、社会制度を安定させてことに意を注ぐのが先であろう。
 アメリカのFTAを拒否した、ボリビア・エクアドル、ベネズエラ等は、投資協定を破棄し、国際投資紛争解決センターの枠組みから離脱した。アルゼンチンは、補償金の支払いを拒否したという。他の分野でもそうだが、先進国(アメリカ)対新興国の対立構図は、ドーハ―ラウンドと変わらない。そして、彼らは必死で理不尽な大国アメリカと闘っているのである。日本こそアメリカと闘うべきなのだ。

<ISDSこそ絶対拒否すべし>
 ISDSに、国の身を任すのはあまりに危険である。逆に言うと、TPPに任せ、ISDSに任せていたら、社会の安定というなによりも大切な国の基盤を失い、国が衰退していってしまう。
 日本社会あるいは日本の企業社会を、アメリカの濫訴社会代えられてはたまらない。こうしたことからも日本はやはりTPPには入るべきではなく、アメリカに対してISDSは絶対に拒否すべきである。
 
 そうした中、暫定予算の不成立により一部の国家機関が閉鎖されてオバマ大統領がTPP首脳会合に出席できなかったのは、TPPの前途多難を象徴しているかもしれない。超大国アメリカ政府の不始末(政府の債務上限認定も規制と言えば規制である)により、会合どころではなく世界全体のビジネスが迷惑を蒙った。これこそ他11か国がISDSで賠償を請求してもよいことかもしれない。しかし、国家公務員に給与を支払えない国は、外国企業などにはビタ一文支払えないのは自明の理である。私のいつもの嫌味な皮肉である。