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TPP交渉の行方シリーズ12「TPP関税(市場アクセス)交渉に関連した農産物関税基礎知識―西川発言を検証する―」13.10.22

 政治的ショーともいえるAPEC首脳会合(バリ、10/7,8)は、オバマ大統領も欠席したため、関税(市場アクセス)交渉は予想通り(?)先送りされた。もし、本当に年内妥協にするとしたら、残された期間は30~40日しかなく、いまだかつてない突貫作業が強いられる。
 私は、かねてから木材の関税ゼロ(1951年丸太、1961年製材)により、林業・山村の崩壊が始まり、限界集落が生まれたと指摘し、農産物関税ゼロにより地方が限界市町村ばかりになると警告してきた。10月2日の日比谷野外音楽堂集会で、石破幹事長は重要5項目を絶対死守すると宣言したが、その舌の根も乾かないうちに、西川公也自民党TPP対策委員長は、10月6日バリで重要5項目をえり分けて一部の加工品はゼロにする作業が必要だと発言した。自民党は3回目の大嘘で、聖域をなし崩しにする魂胆である。
 今回は関税関係の基礎資料をお届けする。

1.<緒についたばかりの関税交渉>
  まず、バンダルスリブガワン(ブルネイ)、ワシントンで行われた関税交渉を整理しておく(カッコ内は推測)。バリ島のAPEC随行のTPP首席交渉官会合・閣僚会合・首脳会合の詳細は公表されず、具体的進展があったかどうかは全く不明。しかし、ほとんど具体的な調整は進展せず、先送りされたのではないか。
(1) ブルネイでは6か国に関税オファーしただけ(相手国は不明なるも、日本がEPAを結んでいる国にEPAそのままの税率をオファーしたものとみられる)
(2) (相手国は少しも評価せず、一応聞きおいただけ)
(3) アメリカとオーストラリアはブルネイでは関税オファーせず
(4) ワシントンでは、11か国すべて交渉を開始
(5) 豪、NZ、シンガポール、チリの4ヶ国は100%関税ゼロをオファー
(6) バリのAPEC担当関係会合、首脳会合で決着することはなく、その後の会合に先送りされる。

2.<関税交渉の対立点>
(総論)
(1) 各国別の関税表にするか(日、米、加)、統一した関税表にするか(豪、シンガポール、NZ)
(2) 既存のFTAの国同士の関税はそのままにする(米)、すべてゼロにする(豪)
(3) 大枠合意に何を含めるか、きちんとした工程表を作るか、2国間交渉に任せるか
(4) 12月の年内妥協(米、日?)。それではまとまらないので、大枠合意のみで後は先送り(マレーシア、ベトナム、メキシコ、日?)
(5) 関税撤廃の例外を認める(日、米、加、マレーシア)。認めない(豪、NZ、チリ、シンガポール)
(6) 原産地規則で域外(例:中国)原料を使った製品をどう扱うか。アメリカは域外を除外、ベトナムは除外せず(例:ベトナムが中国産の布で衣類を作りアメリカに輸出)

(各論)他国の主なセンシティブ品目
(1) アメリカ:砂糖(→豪)、乳製品(→NZ)、自動車(→日)、衣類・履物(→ベトナム)
(2) カナダ:乳製品(→豪・NZ)、卵・鶏肉(→米)

   3.<先行する他国のFTAの現状>
(1) 米豪FTAでは、米96%関税撤廃、残りは砂糖、シロップ等。豪は99.9%で、例外は中古車に対する従量課税
(2) 米韓FTAでは、米99.2%、韓98.2%(米関係16タリフラインのみ例外)で数年後は関税撤廃
(3) 中韓FTAは第7回交渉で90%の関税撤廃に同意
(4) EUは、チリとのFTAで90%台前半、韓国とのFTAで90%台後半の関税撤廃
(5) 日本は、TPP参加国11ヶ国のうち、米・豪・NZ・加の4か国(いずれも農産物輸出国)とのEPAなく、他の7か国とはEPAあり。

4.<TPPに関連した日本の農産物関税の現状>
(1) 日本の関税品目 9018品目(タリフライン)
(2) うち農産物 834品目、鉱工業品(皮革製品、酒類)95品目(全品目の1%弱)計929品目は関税を撤廃したことなし
(3) 日本の13ヶ国との既存EPAの自由化率84.4% ~ 88.4%(フィリピン)で大半が80%台。最も高い自由化率は88.4%のフィリピン
(4) 従って、日本にとって90%台なり、95%や98%はかなり高いハードル

5.<西川発言、安倍内閣のTPP対応の問題点>
 (自民党・政府の一連の動き)
・10/6 西川TPP対策委員長がバリで、586項目を選り分けて、ある程度妥協していく準備をしないとならない旨発言。その際586品目以外にも重要な項目があり、それも合わせて検討が必要と付言。
・10/8 甘利TPP担当相は、自民党がコメなど「重要5項目」について関税撤廃・削減が可能か検討作業に入ることについて触れ、「党の作業を見守り、しっかり意思疎通を図りたい」と述べ、政府として党と連携する姿勢を示した。
・10/10 自民党TPP対策委員会、経済連携本部合同会議で、「重要5項目」を細分化した586品目について、11月中旬をめどに関税撤廃可能な品目があるか判断し、関税の必要性を検証することを決めた。安倍首相も、与党の作業を見守りたいと発言。

 (国内での問題)
×① 重大な公約違反で有権者・国民を愚弄している
×② 本来政府が妥協するのを止めるのが役割であるところ、先に妥協案を仄めかすのは異例。
    政府・与党の役割が逆転し、今後の政策決定が妥協に向けてなし崩しになるおそれ大。
×③ 農家・地方の不安が更に増大し、農業後継者が農業から離反していく恐れ
×④ 加工品・調整品は今のところ輸入が少なくとも、今後、低関税(ゼロ)に乗じて輸入が拡大し、悪影響が拡大する恐れあり。(例:米調整品と分類して米粉として利用)

 (国際交渉上の問題)
×① 日本が譲歩し始めたというシグナルを出してしまい、今後の交渉に不利
    (⇔アメリカは、国有企業についてマレーシア・ベトナムに譲る用意が出来ていても、一切妥協の方向は示していない。最後の切り札にするつもり)
×② 影響の少ないものは、それほど輸入が増えないもので同義であり、見かけ上自由化率を高めても実益が少ないため、各国は満足せず
×③ 仮に、各国ごとに自由化(関税ゼロ)品目を変えたとしても(例:農業生産のほとんどないシンガポールには100%関税ゼロ)、抜け穴の迂回輸出(入)が予想され影響大。従って原産地規制にも目を光らせる必要あり。

6.<西川発言に関連した農産物関税の現状>
(1) 日本は、5項目(米、小麦・大麦、肉(牛肉・豚肉)、乳製品、砂糖)は586品目(別表参照)で、6.5%、それ以外の項目は93.5%、従って聖域をすべて守ると93.5%の自由化率。
(2) その他に関税を撤廃したことのない農産品等は、こんにゃく3、雑豆16、水産品91、合板34、その他(繭、生糸、落花生、鶏肉、パイナップル、トマトピューレ・ペースト、植物性油等)104と計248品目あり、これを586品目と合計すると834品目となる。これをすべて聖域とすると自由化率は92.5%。
(3) 更に鉱工業品95品目も関税を撤廃したことがなく、これを加えると929品目となる。これらすべてを除くと、自由化率は89.7%となる。
(4) 仮に95%の自由化率にするとしたら、451品目しか守れず、聖域のうち135品目は関税ゼロにしないとならない。96%だと225品目を関税ゼロにしないとならず、98%だと180品目しか守れず406品目を関税ゼロにしないとならない。

(別表)日本の重要5項目の品目数"PDF


7.<公約違反も逃げの体制に入った政府・自民党>
 10月21日予算委員会のTPP絡みの質問で、自民党の白々しい言訳が明らかになった。
 私はパネルで、西川発言は「公約違反か?」と示したが、次の大串さんがTPPを重点的に質問するので甘利TPP担当相に質問をし、安倍総理への追及は彼に残しておいた。
 ところが、大串質問に対する安倍総理の答弁は、ごまかしの連続だった。総務省に提出した自民党の公約は「守るべきは守り、攻めるべきものは攻める」だけで、「農林水産分野の重要5品目の聖域の確保」は、J-ファイル(総合政策集)にすぎず公約ではないというのだ。つまり、5項目(品目)に当たる586品目の関税をえり分けてゼロにするものがあってもよいというのだ。
 国民も農民もそんな技術的なことは関知していない。国民に自民党のお歴々が語り、日米共同声明で仰々しく公約破りをして、アメリカの認めた聖域は守ると約束してきたのである。
 これこそ唖然茫然である。私はTPP特別委員会で質していくべきことを強調して、この件の質問を終えた。