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TPP交渉の行方シリーズ18「TPPは商業都市国家のルールにすぎず -日本をシンガポールにしてはならず-」 14.5.28

<肌に合わないシンガポール>
 TPP閣僚会合が13年12月と14年2月と2回続けてシンガポールで開かれた。私は、その前のブルネイとバリ島には民主党を代表して行ったが、シンガポールの2回の会合には行かなかった。今回は久方振りの出張となった。シンガポールは初めてではないが、何年振りか何回目かもはっきりと記憶に残っていない。完璧な近代的都市だが、私の趣味から遠く離れた代物である。
 そこにもってきて、私がずっと大反対し続けているTPPが、ひょっとして大妥結で協定が成立してしまう恐れもあり、気の重い出張でしかない。おまけに、交渉団の激励・監視といっても、我々が高い旅費をかけて来ているというのに、例の秘密交渉を盾にさっぱり情報は流さず、どんな交渉状況かほとんど知ることが出来ない。5/17~20のシンガポール出張はイライラがつのるばかりの3日間であった。

<TPPは商業国家のルールにすぎず>
 そもそもTPPは、食料にしろ他の生活必需品にしろ、自国ではほとんど自賄いできない国、つまり何でも海外に頼らなくてはならないシンガポールのような国にしか適用できない協定なのだ。一大消費都市(国家)には、関税などないほうがいいに決まっている。なぜなら、生産者は少なく、住民(国民)全体が消費者にすぎないからだ。チリとNZは農業国だが、同じように工業製品をまともに自賄い出来る国ではない。農産物を関税ゼロで輸入してもらえ、工業製品は、シンガポール経由で関税ゼロで輸入できるなら、こんなに都合いいことはない。だから2004年に、シンガポール、ブルネイ、チリ、NZ間で関税ゼロの自由貿易協定(P4によるTPP)が成立したのである。
 そこに目をつけたアメリカが、2008年に投資、金融、労働、環境を加えることを条件に加入したことから、TPPを巡る混乱が始まった。1億を超す人口を抱える普通の国、日本にとってもTPP加入は問題ばかりで全く迷惑千万な話なのだ。

<歴史の浅い国>
 東西42Km、南北23Kmしかない小さなシンガポール島。人口540万の都市で人口密度はモナコに次いで世界第2位。国語は形式的には憲法でマレー語となっているが、英語(50%)が共通語で行政語に使われる。中国語(32%)、マレー語(12%)、タミール語(3.3%)が第二言語として使われ、授業でも平等に扱われる。宗教も仏教(33%)、キリスト教(18%)、イスラム教(15%)、道教(11%)、ヒンズー教(5%)と多い。人種的には中国人が77%を占め、以下マレー系(14%)、インド系(7.9%)と、典型的な多民族、多宗教、多言語の国際都市で、日本とは正反対に位置する。
 歴史も浅い。マレー半島の先っぽのジャングルに東インド会社のスタンフォード・ラッフルズが上陸したのは1819年。1867年イギリス直轄の植民地となり、1942年日本軍の占領により昭南市、45年に英に戻り、63年マレー連邦として独立。65年マレーシアから独立して大統領を元首とする共和国となり現在に至っている。初代リー・クアンユー首相が31年間務め、国家の礎を造り上げた。

<近代的封建国家>
 失業率は低く、国民所得も高く、治安も良い。政治面で建国以来一貫して人民行動党が安定与党であり、強制的な国家資本主義体制により政情が安定している。今はリー・クアンユーの息子リー・シェンロンが首相であり、日本の世襲政治が少々ひどくなっているような気もしないではない。建国50年弱で、やっと3代目という長期政権の続く国でもある。5月22日に軍事クーデターが起こったタイなどと比べるとそれこそ安心した投資先国である。

<物づくりはなく仲介で生きる国>
 古くから東西貿易の要衝にあたり、アジアの一大流通拠点として、海運産業や航空産業が発達した。チャンギ国際空港は世界一のハブ空港といわれ、シンガポール航空は、国の最大の企業となっている。世界中の多国籍企業がアジアの拠点となる支店を置き、特に金融センターとして重きをなしている。
 しかし、シンガポールは、いってみれば全て物を横から横へ流すことで成り立っている商業都市に過ぎず、普通の国とは言えない面がある。農業も皆無に近く、第三次産業が際立ついびつな虚業都市(国家)である。日本が大切にする「物づくり」からはかけ離れ、金と物の仲介をすることから生ずる「上まえ」をはねて生きている、極めて脆弱な都市(国家)である。
 だから日本のEPAの相手としてはこんな都合のいい国はない。2002年最初の相手国となった。今回の関税を巡る日・シンガポールの二国間会談でも、チョコレートの関税ぐらいしか問題になっていない。つまり、日本の困るものを輸出していないのであり、金融、流通、観光と、要するに「他人のふんどし」で相撲をとっている国なのだ。

<人までも横流しする国>
 シンガポールには2年間の兵役義務もあり、きちんとした規律も身に付き、かつ皆が英語が話せるので、国際企業でも通用する人材が育つ。しかし、あまりの競争に疲れてか、晩婚化少子化が日本より進行している。
 540万人の人口のうち永住者は384万人であり、3分の1近くの156万人は今日の仕事のためだけの仮住いの地としか考えていない。金・物だけでなく、今や人も自由に横から横へ流れていくようになっている。
 生まれた所で成長し、そこで仕事をし、一生付き合える隣人・友人とともに老い、その地で終える人たちが大半を占める国こそ、幸せな国といえるのではないだろうか。それにもかかわらず、日本は介護・建設と外国人労働力に頼り始め、国が研修制度とやらで抜け穴造りに加勢している。ひょっとすると50年後の東京・大阪は世界有数の国際都市となり、外国人が数百万人に増えている可能性もある。それで日本がより住みやすい国になっていればよいが、混乱を極める国(都市)になっている気がしてならない。

<効率追求の果てに原発ゼロ>
 食料もエネルギーも自給率がほぼゼロに近い。水も4割をマレーシアからの給水に頼っている。当然原発などはない。原発事故が起きたら全員が国外退去しないとならないからだ。効率を最大限に追求しているにもかかわらず、原発に手を染めていない。原発は高くつき、危険すぎ、国を滅ぼすからである。その結果、発電は専らガス発電である。日本は、この原発禁止姿勢こそ見習うべきである。
 失業率も2%未満、家は高層アパートの8~9割が公社(HOB)の所有であり、所得に応じて1~5部屋と徐々に住み替えていく。日本のような土着性はかなり低く、隣同士の付き合いは生まれにくい。3部屋のアパートを買っても2000~3000万円で、誰でも手に入るという。また、借りると月10万円前後である。
 男女共働きが多いことから、外食が多いこともあり外食費もそれほど高くなく、タクシーも小さな街のせいか、かなり乗っても10ドル未満である。つまり表面的には暮らしやすい国である。

<Fine(美しい、罰金) countryの皮肉>
 ゴミのポイ捨てが禁止され、ガムも禁止されている。夜も安心してジョギングができると自慢する。国民がそれを律義に守っていることに感心する。フリーダムハウスによると、世界197ヶ国中の自由度は152位と不自由な国にランクされる。(ちなみに日本は42位)
 きれいな国で「Fine country」ともいわれるが、Fineが「美しい」の他に、「罰金」という意味もあり、皮肉が込められている。国家としての一体感に欠ける寄せ集まりの国は、アメリカもそうだが、規則・罰金で律しないと秩序が保てないのだろう。しかし、日本はそれほどギチギチやらなくとも、夜のジョギングも可能である。どちらが住み良い国か明らかである。

<東京・大阪を独立商業都市国家にしたらよい>
 安倍首相は、日本の厚い岩盤規制を打ち砕くドリルの刃となり、日本を世界で一番ビジネス活動のしやすい国にするという。その有効な手段の一つがTPPだというのだ。つまり、日本をシンガポールや香港と同じ国にせんとしているようだ。
 安倍政権は、国家戦略特区などと称して都合のいいことだけを「つまみ喰い」しようとしているが、それほどシンガポールのような国にしたいというならば、東京・大阪等を独立都市国家として分離独立させたらよい。ただ、その時に残った本家の日本は、大都市のために原発を受け入れたり、安く水や食料を供給し続けることに躊躇するかもしれない。

<ホッとする日本を後世に引き継ぐ>
 シンガポールは、緑に囲まれた20階建てのマンションの立ち並ぶ整然とした街である。自然を演出し、植物園、野鳥園、水族館のあるセントーサ島という一大リゾート地があり、巨大カジノリゾート施設も開業した。しかし私には、窮屈で面白みがない無味乾燥な町でしかない。暖か味のある街並み、水と戯れた川、いつも見上げた山といった故郷のにおいがどこにもないからである。
 日本には、京都も奈良もある。我が地元の長野のようにきれいな山並みもある。こうしたことに安堵する人の方が多いはずである。都会にいてもどこかにほのぼのとした佇まいや人情味の伝わる風情がなければならにないのではないか。つまりシンガポール「三丁目の夕日」が少しも感じられない国なのだ。
 こんなことを考えながら、このブログを書いていたら、眼下に成田近辺の水田が見えてきた。日本に戻ったとホッとし、日本に生まれてよかったと安堵する瞬間である。TPPで日本をシンガポールのような国にしてはならないとますます決意を強くした。