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2014年06月30日

アベノミクス農政批判シリーズ3「見せかけの企業の農業参入 -本音は農地の転売利益が目的-」14.06.30

<増加する株式会社の農業生産法人>
 規制改革会議は、6月13日またぞろどぎつい提言をまとめた。そこにみられるのはしつこい企業の農業への参入の主張である。しかし、正確に言うと、企業の農業への参入ではない。
 今までも農業生産法人の要件は相当緩和されてきている。今回の規制改革会議では更に役員の過半が農作業に従事から役員または重要な使用人のうち一人以上が農業従事、そして構成要件の3/4以上が農業関係者や農業関係者から1/2以上等、大幅に緩和するよう提言されている。従って、今この提言が実行されれば、なおさら企業は農業に参入しやすくなる。

<40年前の過ちをまた繰り返す>
 『血迷うアベノミクス農政』(14.06.06)で例示したとおり、旧ソ連でも、あの効率一辺倒のアメリカでも雇用労働に頼る企業(的)農業は成功していない。
 日本でも、三井物産等の総合商社を中心に1970年代に「東南アジアを日本の食料基地に」という掛け声とともに次々と農業に参入したが、すべて撤退している。1980年代の土光臨調の頃、副会長の井深大ソニー会長は、日本に農業はいらないとまで言い切り、不買運動まで起こされている。しかし日本から農業はなくならず、東南アジアは食料基地にはならなかった。逆に世界に名を馳せたソニーは、昨年家電メーカーで唯一赤字に喘いでいる。栄枯盛衰は世の習いなのだ。
 それにもかかわらず、50年後の21世紀でも企業の農業参入が再び声高に主張され、過ちをまた繰り返そうとしている。

<世界でも禁止されている企業の農地所有>
 企業の農地所有については、禁止している国と禁止していない国がある。韓国は大体日本と同じで原則禁止だが、自ら農業に従事したり、執行役員の1/3が農業者の場合には許されている。
 アメリカの場合国レベルでは禁止はしていないが、穀倉地帯の中西部では原則禁止しているところも多い。例えばアイオア州は3親等以内で構成され、収入の60%以上が農業からの企業でないと農地の所有が認められない。

<日本は明治政府が地租に頼って私的所有を認める>
 よく地主制といわれるが、それが神代の時代から存在したかものではない。例えば、江戸時代は農地は全てお殿様のものであった。だから四公五民とか五公五民とか言われていた。明治政府は、土地の私有を認めて、土地への税(地租)から収入を得なければならなかった。折しもヨーロッパは市民革命の最中で、市民の私有財産権(私的所有権)が大幅に認められ始めた頃であった。特にその傾向の強かったフランスのボアソナードが日本の法制度擁立の指南役となった。従って日本では土地に対する所有権が、フランスにならって相当強く認められた。

<私有財産権が強すぎる日本>
 もともと土地は万民のものであるという考え方が、ヨーロッパ社会にはある。日本でも律令制度の頃は、何もかも国家(天皇)のものであり、国民は口分田をもらい耕作していたにすぎなかった。江戸時代には江戸幕府のものあるいは殿様のものとなったのだ。一方、ヨーロッパではその後、ワイマール憲法等で再び土地の公有が全面に出てきたのに対し、日本は明治以降の絶対的土地所有権がそのまま残されることになった。そして、いつの間にか地主に農地が集中していったのである。第二次世界大戦の頃には途中から農村で実力をつけた地主が次々に農地を買い、完全小作が3割、自小作(自分の土地と小作地の両方)が7割というような状態になってしまった。その結果、戦後の農地改革へとつながった。

<ヨーロッパは農地は使用貸借>
 農地の所有といっているが、欧米特にヨーロッパでは、所有というよりも、我々の概念からは使用貸借のようなものにすぎない。従って、農地は農業目的以外には販売されず農業をやらなくなったら、農業をやる人に自動的に行く仕組みになっている。だから、日本のような遊休農地や不耕作地は生じない。
 それからもう一つ大事なことであるが、まず農地は農地として取引されるのが原則であり、いわゆる転売利益に当たるキャピタルゲインは所有者に行かない仕組みになっている。従って所有したところでそう儲かるわけでもないので、農業をしたい企業は賃借で足りることになり、企業側からも農地所有をさせろといった要請はない。
 規制改革会議の提言は、転用規制が農地流動化の阻害要因だとし、転用利益を地域農業に還元すべきだと、奥歯に物がはさまったようなことをいっている。私は、農地の転売によるキャピタルゲインは全て地方税に行き、すべて農業振興に充てるようにすべきだと考えている。そうなると、転売利益は一切出ないので、企業にも農地所有を許してもよいことになる。その時多分ヨーロッパと同じく企業の農地所有の声は全くでなくなるだろう。

<雇用労働に向く畜産と施設園芸>
 ここで私が問題提起したいのは、日本では畜産業への企業の参入が少ないことである。肥育牛については、ある程度面積が必要だが、耕種農業ほどではない。それに対し、酪農、養豚、採卵鶏、ブロイラーについては広大な農地を所有する必要ない。従って本当に企業が農業への参入を図るとするなら、畜産にこそどんどん参入していいはずである。なぜならば、畜産は毎日餌をやり、酪農なら毎日乳を搾り、ということで常に仕事があることから、雇用労働に馴染むからである。
 同じことが施設園芸、特に軟弱野菜等にもある程度言える。人工的管理技術が完成したキノコ栽培は、ホクトと雪国マイタケに代表されるように、企業が成功を収めている。このように今後は施設園芸で企業の参入が増大していくに違いない。

<企業参入がない畜産>
 6月18日の農林水産委員会の質問の折、農林水産省に畜産への企業参入の事例を聞いたが、ろくな統計も持ち合わせていなかった。私がネットを通じて探したところ、イトーヨーカ堂が岩手の遠野牛に参入し、居酒屋チェーンの和民が北海道に牧場を有しているぐらいである。それに対し、農地所有につながる耕種農業の分野では、今回の提言を契機に虎視眈々と農地所有を目的とした農業参入を狙っている。
 農業への企業参入を妨げているのは、農地の所有の規制だとよく言われるが、真っ赤な嘘でしかない。最も企業経営に相応しい畜産に企業参入がないのは、ついて回る農地の転売利益という旨味がないからである。日本の畜産は、外国の穀物を輸入して、畜産農家がそれを肉や卵や牛乳に変えているだけの加工畜産であり、穀物価格が上がったら、すぐに赤字に転落してしまう。だから参入しようとしない。こうした企業の参入分野の違いから企業が農業への参入といいつつ、本当の目的が何かは透けて見えてくる。

<農地所有が目的の農業参入>
 耕種農業は、畜産以上にもっと儲けが少ない。それでも企業が農業参入や農地所有に固執するのは、農地を投機の対象としかみていないからである。経済的にみておかしいのは、ただでさえ儲からない農業を、日本の高い農地を買って採算が合うはずがないことである。本当に農業を経営する気があるなら、今でも農業生産法人化し農地を借りていくらでも可能なのだ。農地を所有しなければ本当の経営ができないというのは詭弁でしかない。

<預託という現代の小作>
 実際畜産の世界では、これまた詳細は省くが、「預託」といった方法が猛然とした勢いではびこっている。元牛を買う財力のない零細な農家が、大企業にあてがわれた子牛に、ただ餌をあげ太らせることにより労賃をもらい、利益は企業経営にいくというやり方である。その意味では、前述と異なり畜産への企業のいびつな参入が進んでいるのである。私は2010年、宮崎県で発生した口蹄疫の現地対策本部長として、この実態を初めて知った。
 今企業に農地所有を認めたら、明治以降と同じように20~30年後には日本の農地の大半は21世紀の新たな地主となる企業の手に渡り、農家のものではなくなってしまっているだろう。そして、上記の理由により日本の牛の大半も農家のものではなくなっているだろう。
 規制改革会議の提言は、これこそ『血迷うアベノミクス農政』で述べたとおり「国際家族農業年」(2014年)や「国際協同組合年」(2012年)の精神からズレた、時代錯誤なものと言わねばならない。

2014年06月15日

TPP交渉の行方シリーズ19「 TPPが国家主権を侵すことに気付いたアメリカ議会 」―TPAはアメリカ議会を通る見込みなし―

  オバマ大統領の来日前に、2組のアメリカ議会の国会議員団との懇談の機会があり、目黒雅叙園で開催された会合では、いつものとおり“NO!TPP”バッジと“Stop TPP”ネクタイで完全武装した私のまわりに数人の議員が集まった。
    「日本でTPPに反対している国会議員がいるとは知らなかった」
    「どういう理由で反対しているのか」
    「このバッジとネクタイはどこで手に入るのか」等々
  日本でも2010年10月1日に菅首相が突然TPPに言及した時までTPPの何たるかを知る人は僅かであり、国会議員も大半が内容を承知していなかった。
  交渉内容を秘密にする守秘協定とやらがあり、いまだもって内容が明らかにされていない。アメリカも数年遅れでやっとTPPへの関心が高まりつつあるようだ。ところがさすが三権分立が徹底している民主主義の国である。TPPのいかがわしさにいち早く気づき、拒否反応が日本の議員たちをはるかに凌ぐ勢いで広まっている。

<Fast Trackが交渉を左右>
  異口同音に述べた結論は、議会がTPPの交渉を政府に授権する Fast Track(追い越し車線、早期一括採決方式、現在はTPA(貿易促進権限法)とよばれている)は絶対通さないということである。
  NAFTAやWTOが関税を超える諸々の国内法に影響を与えるようになると、アメリカ議会が、Fast Trackを与えなくなった。議会の立法権を侵害することに気付いたからである。最近20年間で認められたのは、ブッシュ政権(2002-7年)の貿易協定にだけである。かつてはあくまで関税の引き下げなり非関税障壁に限られていたが、近年は知的財産権や投資や環境まで協定の内容が広がり、そう簡単にはFast Trackを認めなくなった。つまり立法府が決めることに国際協定が先に口を挟むことは許さないということである。

<共和党はTPPが国家主権に抵触すると拒否反応>
  日本ではISDS(投資者国際紛争解決)ばかりが国家主権を損なうと問題にされてきたが、アメリカはその他の分野での国際協定もままならんということでは、はるかに先をいく。TPPは、特許、著作権、食の安全、政府調達、財政規律、人の移動、医療制度、エネルギー政策、環境規制、労働規制など広範に及ぶ。これらは、そもそも議会で制度が作られるべきなのだ。民主党は、これらが消費者セーフガードを裏口から崩し、医薬品を高価格に押し上げ、国民生活を脅かすことを憂いている。一方、共和党は国家主権に抵触し、憲法問題を引き起こすと問題視している。TPPはとてもUSTRの役人に任せておける問題ではないということだ。

<議会が次々とオバマに書簡を送りTPAに反対>
  そこに、600社の大企業にはTPP協定の内容を相談しているというのに、肝心の議会には梨の礫である。ますます怒るのは当然のことである。議会は業を煮やし、次々と大統領にTPAを通さないと書簡を送りつけた。
  13年末、オバマの与党である民主党の下院議員201名のうち151名がTPAを支持しないと表明した。
また、30名の共和党議員もオバマに反対の書簡を送っている。共和党はどちらかというと自由貿易推進だが、何かと敵対的なオバマに権限を与えないとしている。
  14年1月、一部の有志議員によりTPAが議会に提出された。1か月のうちにほとんどの下院民主党議員が反対を表明した。また、上院の審議採決の鍵を握るリード上院内総務は、TPAを上院で採択するつもりはないと表明した(私の質問に対し甘利TPP担当相は、日本でいうと石破幹事長のような要職にあると答弁)。一方、日米牛肉・柑橘交渉で名を馳せた上院の提出者のボーカス上院議員(モンタナ、共和党)は、中国大使に転出し、TPAの推進力を失った。そして、後任の貿易小委員長は、議会により強い権限があるTPAを自ら作りたいと表明した。
  もちろん、関係業界はすさまじいロビー活動を展開しているが、共和党の右派ティーパーティのロン・ポール上院議員をはじめとする共和党議員はますますTPA反対を強めている。また、世論調査でもアメリカ人の大半は、NAFTAのような貿易協定(TPP等)には反対している。

<振り回されるだけの日本>
  米韓FTAは、政府間では07年に成案を得られていたが、アメリカ議会は承認せず、牛肉や自動車等の再交渉が行われた。韓国が更に妥協を重ねて発効したのは12年2月と、署名から5年も要している。国会の手続きや方法がかなり変わったアメリカを相手とする国際交渉は、いつもアメリカに振り回される。こうしたことから、TPPが政府間で成立しても、個々の条文がアメリカ議会にいろいろチェックされ、相当修正させられ、それをもとに再交渉を強いられるおそれがある。
  従ってアメリカの国会議員にいわせると、アメリカ議会が権限を与えていない相手とよく交渉して全く無駄だということになる。11月の中間選挙の対立を回避するためか、どう楽観的にみても成立は早くて年末である。悲観的にみると。仮に政府間(交渉担当者レベル)で合意が成立し署名しても、アメリカ議会が通す見込みは皆無という見方もある。

<議会を無視、大企業ベッタリのUSTRに愛想をつかす議会>
  USTRはもともと政府(行政)の暴走をチェックするために議会の手足となるべく設けられた組織だが、今は完全に政府の一組織に組み込まれてしまっている。そこに例の秘密交渉である。議会が交渉権限を持ち、かつFast Trackがなく政府が交渉権限を与えられていないというのに、議会に交渉中の協定案を全く開示していない。13年夏以降さすがに一部の議員には知らされるようになったというが、その閉鎖体質は是正されていない。民主主義の原則からはずれる異例の秘密交渉である。
  前述の151名の書簡に対する回答もなく、多くの質問は無視されている。功を焦るフロマンは、議会に対し口先だけの言訳をし、NAFTAの後1710億ドルの赤字になったにもかかわらず、黒字になったと虚報告し、議員を激怒させている。

<バレると困るひどい内容だから秘密交渉にする以外なし>
  なぜここまで秘密にするのか、理由は明らかである。いとも簡単に労働者を解雇でき、環境規制が緩やかになり、それこそ大企業にだけ向いた協定内容が知れたら、協定が大反対され成立しなくなってしまうからである。国民にも議会にも正々堂々と誇れる内容ならば、情報を開示してこんなによい内容であり、もうひと押しこの点を入れ込もうとしているなど、いくらでも開示できるはずである。ところが、4月末の日米交渉のように(よくわからないが)とんでもない妥協をし、公約や約束事を破っているとしたら、日本政府もとても怖くて開示できなくなる。日米ともに秘密にしておくのが一番よいことになる。つまり、悪事がバレたら困るから秘密交渉にしているのである。

<早く気付け日本の保守>
  私は拙著「TPPはいらない」でも、労働絡みで、日本の労働者保護法制がズタズタに引き裂かれると警告を発し、連合こそTPPに反対するべきだと主張した。ここにきてTPPを先取りする形で雇用法制の改悪に走る安倍政権の正体がようやく露呈し、労働界も今あわて始めている。ちょっとずつ秘密がバレだし、日本もやっとひどい内容に気付き、連合もやっと動き出した。遅きに失した感がある。
  今、集団定自衛権の議論の真盛りである。文芸春秋は日本の保守、特に安倍首相の保守性を取り上げている。アメリカの保守 共和党は、国家の主権を侵すとTPPに反対している。真正保守だからである。「真正保守は反TPP・反原発が当然 -日本の保守が反TPP・反原発にならない不思議- 12.10.19」で指摘したが、本家の保守ならTPPに大反対しなければならない。
  そして、美しい日本の国土を汚し、愛する国民の健康を蝕む原発には絶対反対しなければならない。それを保守新聞読売、産経も同じように矛盾した主張に気付かない。この極めて重要な点を見逃して、軍事面の抽象的論争に明け暮れる日本の保守は偽物でしかない。
  日本の議会もアメリカ議会のように、国家主権を侵すTPPに反対していかなければならない。

2014年06月06日

アベノミクス農政批判シリーズ2「血迷うアベノミクス農政 -規制改革会議提言は支離滅裂-」14.06.06

<TPPから目をそらすための7500円への減額>
 農政改革は突然始まっている。昨年13年秋、TPP交渉がうまくいかないことから目をそらすためであろう。突然農業者戸別所得補償による米作農家への直接支払いを、10㌃あたり1万5千円から7千5百円に引き下げることを決定した。農家は行方の分からないTPP交渉より、実害のあることに愕然とした。
 一見大胆だが何のことはない、ただ直接支払いの単価を下げるだけもので、不信をかっているTPPから目をそらすためなのは明らかである。そして数年後に「減反を廃止」し、自主的な生産調整に任せると打ち出し、安倍政権の農政大改革と銘打っている。ところが、それを担う全国農協中央会から法律的な指導や調整の権限を奪おうとしている。全く整合性のとれないニセ政策である。

<農業者戸別所得補償の目指した緩やかな生産調整からの脱却>
 民主党農政も、生産調整はもともと廃止する方向で考えていた。麦、大豆、なたね、飼料作物、その他一旦輸入に任せ切って捨てた他の作物も回復することによって自給率も向上させていけば、自ずと生産調整も不必要になっていく。その点では民主党農政と何も大きく変わることはない。ただ、農家を混乱させ、いかにも大胆な改革ということを演出しているだけである。

<安保法制懇は専門家だけで「空疎な」議論を排したと開き直る>
 それから、始まったのが二つの歪んだ、産業競争両会議や規制改革会議による農政提言である。5月14日に規制改革会議の農業ワーキングチームによる提言が公表された。
 安保法制懇は、普通の審議会と異なり全く同じ意見の人たちだけを選んで議論をしている。このことについては、私は予算委員会で指摘をしたところ、安倍首相は「空疎な議論を排すために専門家だけで議論した」と開き直り答弁をしている。

<専門家のいない「デタラメな」議論ばかりの産業競争力会議・規制改革会議>
 産業競争力会議は安倍首相を議長に、財務相や経済相等関係大臣が入っているが、林農相はメンバーではない。他の民間議員にも、こちらも農業関係者は一人もいない。そして、分科会である農業ワーキンググループには、新浪剛史(ローソン代表取締役社長CEO)、秋山 咲恵(サキコーポレーション社長)の2人だけで、農業の専門家は誰もいない。
 規制改革会議も農業関係者らしいといえるのは、浦野光人 ニチレイ相談役だけである。
さすが、専門家を加えて「農業ワーキングチーム」中心に議論しているが、やたら財界寄り(?)の農政論を振りかざす学者や日本の平均とはいえない企業的農家など、これまた偏ったメンバー構成である。
安倍首相の言葉をもじると、産業競争力会議は、専門家以外の空疎な議論を超えて「デタラメ」この上ない議論をしているとしか言いようがない。

<中央会の農政活動をやめさせたい安倍政権>
 特徴的なことは、農業委員会と農協中央会に対して同じ性格のものが散見されることである。
その一つが全国団体の廃止(中央会制度の廃止、全国農業会議制度の廃止)である。何のことはない農政提言活動をやめろということである。市町村の農業委員会や地域農協は存在してもいいが、その全国団体は地方の自主性を損うので、必要ないというのだ。農業委員会法には行政庁への建議の義務があるが、これを削除するとなると、農家人口は急激に減少している中、ますます農民の声が政府に届かなくなってしまう。
 6/4の農水委で明らかになったが、規制改革会議では、中央会の廃止がまともに議論されたこともなく、突如提言に入れ込まれたという。また県レベルの中央会についても何も議論されていないのに、廃止の方向だという。まさに専門家がいないだけでなく、審議自体が行われずいきなり提言が出てくる「デタラメ」な手続きしか経ていないのだ。

<何でも民間という狂った価値観に惑わされる日本>
 アメリカは長年に及ぶ年次改革要望書において、相互扶助のための組合といったことを認めず、全て民間にせよと要求してきている。協同組合というものの意味を全く理解しておらず、考え方が根本的に違うのだ。地域が寄り添い、関係者がお互いに助け合うなどというのはまかりならんというのだ。その一つ、例えば山岳会の遭難救助のための共済制度や小中学校の教職員共済制度等日本にはいろいろ互助組合があるが、その存続自体を認めずすべて民間の保険会社にやらせろというのだ。TPPもこの延長線上にある。
 小さな農家が一人一人で売ることはむずかしいので、それを肩代わりし販売するのが農業協同組合である。その上部団体である全農だけを株式会社にするというが、それならば、地域の農協も県の経済連も株式会社にさせないと辻褄が合わない。利益を追求するあまり、中山間地域は真っ先に切り捨てられるのは目に見えている。
 農林中金をメガバンク、JA共済連を大手保険会社、そして全農を商社と同じようにしようとしているのである。まともな論ではない。JAの総合事業等の廃止、准組合員の利用規制等いずれも協同組合の本質と農業の現場からかけ離れたものである。地域を支えるといった協同組合精神は吹き飛んでいる。

<理事や委員の選び方まで注文をつける思い上がり>
 理事の見直しも振るっている。農協の理事に民間経営者などを入れなければならないと提言している。これは経団連の役員に消費者を入れろと言っているのに等しい。地域の自主性の妨げになる中央会は廃止すると言いつつ、新たに誰を理事に選ぶかタガをはめるというは自己矛盾でしかない。理事は組合員により自主的に選ばれているのだ。協同組合というのはそういうものなのだ。
 農業委員会も公選制をやめ、市町村長が選任しろという。通常はまともな市町村長が大半だろうが、突飛な市町村長も多い。やはり皆の意見できめなければならない。

<相変わらずの「企業の農地所有」要求>
 競争力会議は、日本の競争力を高めていくと謳っている。たった日本のたった1.5%しか占めていない農業の規制をなくし、どうやって経済全体を活力あるものに出来るのだろうか。それを規制改革の対象を農業、医療、雇用に偏っているのは血迷っているような気がしてならない。
 また中央会制度の廃止等が農業者の所得は上による地域活性化の3本柱の一つというのは、あまりにも中央会の力を過大評価(?)しているのではないか。目標である農家所得の増大には、もっとほかの農政こそ優先されるべきである。
 企業の農地所有を求めて、農業生産法人の要件緩和を言い出すに及び、我田引水振りが極限に達する。後述するように世界の農政改革に、企業の農地所有など出てくることはまずありえない。もともと禁止されている国が多いが、その前に農地の借地で十分やっていけるからだ。日本の企業がここまで農地所有に抱泥するのは、農業経営に乗り出すとは名ばかりで、実は土地転がしや産廃施設への転用等悪意を持っていると断ぜざるをえない。他の国にはそんな要求は一切ない。高額の農地の購入代金に匹敵する収益は上げにくいからだ。
 大半の者は気付いていないが、高邁な理想の下に作られた農地中間管理機構は、農業に参入した企業に、散々集積型農業を行い、農地をズタズタにして逃げ出された時の尻拭いをさせられる可能性が高い。

<家族農業こそ農業の本流>
 今年(14年)は国際家族農業年であるが、政府は行事を何もしていない。国会でも2回追及しているが全く反応がない。世界中が、農業はやっぱり家族農業であると、その良さを見直していこうという年なのである。
 企業農業の見本は皮肉なことに共産主義国家の、旧ソ連のコルホーズ・ソホーズ、中国の人民公社と全て失敗している。いやアメリカにあるではないかといわれるが、正確には存在していない。そもそも日本と同じく企業の農地所有が許されていないからだ。カルフォルニア・フロリダの柑橘農業等にメキシコ人の低賃金労働者(チカーノ)が雇われ、劣悪な労働条件の下で働かされている。農業労働には季節性があり、バスで移動させられ定住もままならない。まさに「ブラック農業」である。
 国際家族農業年に、あろうことに企業の農業参入や農地の所有が農業の改革の根本などと、浮世離れした農政論議をしている国は日本だけである。企業に農地を持たせたら、投機に使われ、買占めが始まるに違いないからであり、世界は認めていない。自ら耕し、汗をかく者が農家であり、農業経営者なのだ。そして彼らを支援するのが政府の役目なのだ。

<国際協同組合年の意義がわからない規制改革会議>
 もう一つ12年は、国際協同組合年であった。これまたいろいろな問題を身近な協同組合で取り組んでいかなければならないという考えを、世界が理解し始めたということである。特に介護などはお金だけでは解決できず、身近な人々に頼る協同組合で相互に助け合うことが必要なのだ。農業や農政の素人ばかりの産業競争力会議と規制改革会議の委員・議員に、国連の定める「年」の意義を少しは理解しているのだろうか。日本農業は中央会制度をいじったところで大きく変わるはずがない。農政の本質に関わる提言をなぜできないのだろうか。
 そういう点では、私は安倍農政は方向が間違っているとしか思えない。家族農業に見向きもせず、協同組合による助け合いをないがしろにして、何でも競争原理で民間がよく、株式会社にすればよいというのだ。こうした考え方に立つ規制改革会社の報告は、世界の潮流と全くかけ離れた提言である。国際協同組合同盟(ICA)が、日本の農協と家族農業を脅かす改革と、グリーン会長の談話という形で見解を表明している。

<政治と行政の劣化現象>
 安倍政権は思い上がりが甚だしく、自民党は傲慢になり過ぎている。私が農林水産省の政務三役だったら、こんなメンバーで何が議論できるかと内閣府なり官邸に怒鳴り込んでいき、是正させているだろう。また、現役の農水省の官僚だったら、体を張って徹底的にこのような愚かな提言に修正を迫っていただろう。しかし、そのような動きが与党の中からも農水省幹部からも見られないのが不思議である。
 官邸主導の内閣人事局による初人事に怖れをなしての沈黙だとしたら、日本も行政もとことん腐りつつあると言わねばなるまい。TPPで農民の不安をかき立てた上に、デタラメなアベノミクス農政で日本農業を沈没させられてはたまらない。No TPPバッジとStop TPPネクタイに加えて「Save 農協」(農協を救え)の何かをまといたくなった。

アベノミクス農政批判シリーズ1「傲慢なり安倍官邸(自民党)、哀れで悲しき全国農協中央会 -農業界のTPP反対に対し、農協解体で恫喝する安倍官邸の驕り-」 14.06.06

<TPP反対集会から野党議員を締め出す愚>
 5月14日、何回目かのTPP反対集会が日比谷野外音楽堂で開催された。私は、そこにいつもどおり出かけて行った。ところが、会場に着くと、旧知の全中幹部が「いやいや、与党だけですみません。会場の長野県の場所にご案内しますから」といって、壇上には上がらせなかった。そういえば、日本農業新聞で、全中主催の集会が報道されるのに、私に案内が来ないのは不思議だなあとは思っていた。
 この日は、昼休みにすぐ近くの航空会館で長野県農協中央会主催の長野県選出全国会議員団との会合が開かれ、その直後に前述の反対集会が開かれた。私の秘書は、私と同様何事にも前向き(?)である。長野県農協中央会からの案内には、「14:30から日比谷野外音楽堂で国民集会が開催されますので、参加につきましてご配慮願います」と書いてあった。秘書は、「配慮」を「絶対に遅刻せずに来てほしい」と受取り、私の予定に入れた上、絶対に遅れないようにと注意していたのである。

<出元は安倍官邸か?>
 このような会合に与党議員だけというのは前代未聞である。例えば、5月27日農業委員会会長が集まる会合が日比谷公会堂で開かれている。全議員に招待状が送られ、出席している国会議員の名前が次々呼ばれ、手を挙げる光景が繰り返された。これは、国土交通省関係の会合がよく開かれる砂防会館でも同じである。それを現下の大きな課題であるTPPの反対集会だけが、いびつな形になっている。
 安倍官邸が傲慢にも与党しか呼んではいけないと命令しているのではないか。タイトルに(自民党)としたのは、自民党が圧力をかけたにしても、ルーツは安倍官邸にあるという意味合いである。思い上がりの甚だしい安倍政権は、農政改革やTPP交渉でも集団的自衛権にみられる強引なやり方を始めたのである。

<三本目の矢の目玉TPPへの焦り>
 その根底には2つの理由があると思われる。
 1つは、鳴物入りで始めたTPP交渉がうまくいっていない。嘘に嘘を塗り固め、2回にわたって騙している。つまり12年の選挙において「絶対にTPP交渉に参加しない」といって295議席を確保し、舌の根も乾かない2月にオバマ大統領との直談判で、5項目の聖域は、絶対守ると約束をとりつけたとして、TPP交渉に参加した。ところが、米・麦・砂糖はそこそこ約束を守れても、牛肉・豚肉、乳製品に関してはベタおりらしい。当然のことだが、農民や農業団体から、「これでは約束が違う。公約違反であり国会決議違反だ」と反対されており、このままいったらTPP交渉はとても妥結できない。
 アベノミクスの代表的政策「三本目の矢」、経済政策の目玉が何もない。第一弾の薬の通信販売・インターネット販売の解禁だけではどうしようもない。そこで超目玉になってきたのが、ふわっとしてわけのわからず、さしたる効果がないと思われるTPPである。TPPへの期待感だけで、高支持率も高株価も維持しようという悪い魂胆が見え透いている。安倍官邸は全中がその大事なTPPに絶対反対していることに対して、イライラが高じているのであろう。

<23(18)勝6敗から2(0)勝28敗へ大揺れする参議院一人区>
 2つ目は、うがった見方になるが、民主党を一旦は支持した農業界に対する報復があるかもしれない。07年参議院選挙に大敗し、退陣のきっかけとなったことについては相当恨みに思っているようだ。安倍首相は政権復帰してからも、参議院選挙に勝たなければ死んでも死にきれないと発言している。
 07年の選挙は、非自民23(民主18)、自民6という惨憺たる結果だった。民主党自体も忘れているが、これは農業者戸別所得補償に期待した農民が、民主党に投票してくれたからである。かつて、自民党の金城湯池と言われたのが、農村が多い参議院地方区の一人区であり、例えば01年の選挙は、非自民2(民主0)だった。それが10年には非自民12(民主12)、自民17となり自民が復調し、13年にはまた非自民2(民主0)、自民28と01年並みに戻ってしまった。靖国神社といい参議院選大勝利という、安倍首相は思いを遂げたのである。強運の人と言わねばなるまい。

<安倍首相の執念深い仕返し>
 敬愛する池田元久(元民主党衆議院議員、元NHK政治部記者)は、07年参院選を「篠原君、日本の農民が真っ先に民主党に政権を獲ってほしいというシグナルを送ってくれた。かつ政策で選んでくれたのが07年の選挙で、珍しい選挙だった」と分析した。私には気付かなかったが、これが的を射ているのかもしれない。
 民主党政権下では、公約どおり農業者戸別所得補償を実行に移し、それが今、自民党農政に受け継がれている。TPPが俎上に上がってからも、農村地域を選挙区とする議員を中心に必死でその阻止に動いてきた。野田政権もしきりに交渉に入りたがったが、少なくとも我々民主党が与党の間は、入れさせなかった。
 そういう意味では、恨み骨髄に達しているのが、07年に自分を退陣に追い込んだ農民であり、その司令塔の全国農協中央会である。安倍首相は、口では「ハッと息を呑むような美しい田園風景は守らなければならない」と農業に対し情緒的賛辞を述べつつも、いつか懲らしめてやろうという執念深い魂胆があるのかもしれない。つまり、自らを発掘してくれた小泉首相の、敵をわざと作って世間受けする強硬姿勢を演出する方法である。一種の目くらましであり、正攻法とはいえないあこぎなやり方である。

<農政に与野党なし>
 悲しいのは、野党をTPP反対集会から締め出すという安倍政権のそれこそ理不尽な要求を、おめおめ受け入れる全中である。党派性を超えて農家のために尽くさなければならない全中のすることではない。そもそも農政では、国内農業を大切にという点で与野党の差がないのは世界共通である。それが、一党の言うことをそのまま聞き、集会に与党しか呼ばないというのは考えられないことである。自民党と公明党の集会ではないのだ。
 もともと60年に及ぶ自民党長期政権のために、日本の業界団体のほとんどは全て自民党を支持となっている。これがそもそもおかしいのだ。そして、これに風穴を開けられたのが、前回の政権交代であった。我々民主党はただの一度も野党自民党・公明党を集会に呼んではならないなどと全中に注文をつけたことなどない。当然のことである。もし、自民党(農林議員)が、この何とも言いようがない愚かな与党だけの集会を命じているとしたら、責任与党とはいえない。そして、卑屈なことをする安倍官邸は、衆銀に295議席もありながら、懐の狭い政権でしかない。

<中央会いじめを誘発する愚かな行動>
 与党議員しか呼ばないという卑屈な全中は、とても全農民の代表であるとは思えない。かねてから現場との距離感が問題にされてきた。規制改革会議であれこれいわれることは、先刻承知の事であり、与党への擦り寄りがその典型かもしれない。その挙句、中央会制度廃止等農協解体につながる答申を出されようとしている。哀れを感じざるをえない。つまり、安倍官邸は目障りな農政運動や農政要望をしてはならないという強圧的姿勢を打ち出したのである。
 都道府県の農協中央会が、当然だが与野党問わずに集会に出てほしいとしている中で、その上部団体である全中のみ時代錯誤な対応をしている。これでは「地域の自主性をそぐからいらない」という、まさに存在理由を否定される理由を地で行っている。長野県農協中央会をはじめとする地方の声を踏みにじって、与党にだけなびいている姿はまさに批判のとおりであり、この卑屈な態度をまず改めなければならない。どのような政権だろうと、農民の声に謙虚に耳を傾け、農業協同組合の精神に則して活動することが求められているのである。
 もし、こうした常識はずれの対応を続けるとしたら、中央会制度廃止という声が出ても自業自得としか言えまい。安倍官邸には「驕る平家は久しからず」と警告し、全中には猛省を促したい。