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TPP交渉の行方シリーズ22 日米のみが妥協を急ぐTPP ―TPPを政局の道具にする日米両国首脳― 14.09.19

<アメリカは中間選挙の目玉に間に合わず>
 09年秋オバマ大統領500億ドルの輸出増により、200万人の雇用創出をするという名目の下、突然TPPを推進し出した。それまでNAFTAをはじめとする自由貿易協定に関心を示さないばかりか、むしろ否定的だったオバマが、ただ一つ雇用の創出のためにTPPに飛びついたといってよい。
 しかし、その後は雇用情勢も小康状態を保ち、失業率は高まることはなく、むしろ改善が進んでいる。まして、今は好景気が続いている。その意味では、TPPにしがみつく理由は減っている。つまり、TPPによる雇用創出が中間選挙の目玉にはなりにくくなっている。
 ところが、さしたる経済政策がないオバマは、日本を巻き込んだ多国間の経済連携協定をまとめたことを、オバマ政権そのもののレガシー(遺産)にせんとしている。逆に言えば、シリア・ウクライナと軍事面での対応は、いま一つの感があり、8年間の政権の業績の一つとして、TPPが重要になってきている。
 こうした政治的背景から、フロマンUSTR代表は、11月のAPEC会合までに、日米閣僚間会合で早期決着を図らんとしている。それに対し、日本側は、甘利TPP担当相が「まずは実務担当者でまとめないとならない」と拒否反応を示している。細かいこと(例、農産物関係のいわゆる方程式合意)を決めるには、政治レベルでいくら決着しても本来の決着にならないからである。
 外交の舞台は、時の政権が国威を発揚して国民(有権者)の関心を買うことに利用される。11月のAPECはオバマ大統領にとっても安倍首相にとっても、いわば人気取りの好機なのだ。TPPを両首脳の点数稼ぎに使われてはたまらない。

<TPPを経済成長の期待感をつなぎとめる道具に使う安倍首相>
 TPPが日本の経済成長に不可欠をいう理由は根拠を失っている。秘密交渉で内容が明らかにされておらず、詳細は不明のままだが、明示的な関税の撤廃ですら、GDPアップへの貢献はごくわずかでしかない。それどころか、問題の「地方」はますます疲弊してしまう。それにもかかわらず、農業関係者や医療関係者が猛反対する中で、TPPを推進するのは、株高を維持するために他ならない。
 アベノミクスは、この言葉自身もさることながら、美辞麗句が続く。三本の矢は、第一の矢の金融緩和が成功し円安で輸出型企業に有利となり、こうした優良企業を中心に日本株を買う外国人投資家が日本の株高を支えている。
 しかし、第2の矢、財政出動の効果はいま一つであり、日本の地方はさっぱり元気になっていない。よくいうトリクル・ダウンが生じていないのだ。不満が貯まってきたので、とってつけたように「地方創生相」を新設し、地方の活性化を図らんとしているが、こんな付け焼き刃ではとても追い着かない。
 更に第三の矢は、農業、医療、雇用等の分野での規制改革というが、もともとGDPの1.5%は占めない農業をいくら活性化したところで、GDPへの貢献なり日本経済全体には効果が薄い。これ以上の持続的成長が見込めないとなると、めざとい外国人投資家が日本から去ってしまう。これをつなぎとめるためには、TPPで更に日本経済が活発化するというぼやっとした期待感が必要となってくる。
 もとをただせば、安倍政権は何一つ政策を実行するでもなく、まして法案を通したわけではないのに、政権交代ということだけで円安・株高を誘発した。つまり、口先あるいは雰囲気だけで動き出したのである。今また、過剰な期待感をもたせ続けるためにTPPを使っているのである。いまやもっと言えば、もうTPPしか残っていないといってよい。
 TPPの効果は、TPP交渉が妥協・国会の承認、そして、国内での法制化まで数年かかる。東京オリンピックの2020年までは、期待感を継続できないまでも、数年間はTPPで経済活性化できる、と日本国民を騙せることになる。
 かくして、日米両首脳が、国民騙しの競演でTPPを悪用しているのである。

<アメリカの農業団体の攻勢と日本の統一地方選挙という事情>
 TPPについて最も強硬な全米豚肉生産者協会(NPPC)は、13年4月に差額関税制度の撤廃を求める書簡を出し、14年8月14日には、それをオバマ大統領に突き付けている。
 9月8日、米(1位 39%)、加(2位 22%)、メキシコ(4位 6%)、チリ(5位 4%)、豪の5か国の養豚業界団体が、TPP交渉で豚肉関税の撤廃を求める公開書簡を発表した。9日に開かれた日米農産物関係実務者協議に合せたものである。日本が関税撤廃に応じない場合は、日本抜きでTPPの早期妥結を主張しているが、大お得意の日本が入らなかったら、意味がないのを承知で脅しないし揺さ振りをかけている。
 全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)は、同じく一貫して関税撤廃を要求しているが、「日本外し」といった非現実的な主張はしていない。
しかし、いずれにしても関税がゼロでないと満足しないのは明らかであり、それでは日本の公約違反、国会議決違反になる。日本からせっかく知恵を絞って関税の引き下げ幅と期間とセーフガードを組み合わせた、いわゆる方程式合意を目指しても、中間選挙を控えたアメリカはとても譲れない。日本も米価が予想以上に下がり、農村が青色吐息なのに、農産物関税ゼロなどにしたら、地方再生はすぐ吹き飛んでしまう。そして、統一地方選と近づく総選挙に大きな影響を及ぼすことになる。

<アメリカの最後の見せかけの妥協に備える>
 アメリカは、あらゆる国と付き合っている。蓄積された交渉術は日本の予想をはるかに超える。また、もともとかなり歪んだ訴訟社会であり、これまた法外な要求を平気ですることに何の罪の意識も持たない人たちだらけである。アメリカの農業団体の主張は、いわば本意でない「脅し」であり、より好都合な妥協を引出すための手段でしかない。例えば、カナダとメキシコは2011年11月APECホノルル会合で、日本がTPP交渉に入ると宣言すると、慌てて交渉入りしたのである。どこもかしこも日本が入ってTPPなのだ。それを一番承知しているのはアメリカである。
 そこで予想されるのは、交渉の最終段階で、アメリカ側があっと驚く妥協をして「利」を得ようとすることである。さっぱり痛みがないのに、実利を求めて最後は下りて妥協した振りをすることである。これに日本がまんまとひっかかり「大きな成果」だと勘違いして交渉を成立させることである。
 妥協の得意な(?)西川農相には、くれぐれも下手な妥協をしないように釘をさしておかなければならない。

<日米交渉の様子見を続ける他の10ヶ国>
 今頃になって、日豪EPAの関税は、TPPの下でのアメリカと日米交渉で関税が下がったら、それに合わせると尤もなことが言われ出した。そんなことは当たり前の話である。アメリカだけにおいしい思いをされてはたまらない。少なくとも農産物輸出国は、アメリカが頑張って日本の関税を下げ、あるいは撤廃してほしいと催促しているのだ。そしてそれが他国にもそのまま適用される。
 日本の立場は決してよくない。もともと交渉の入口が関税ゼロなのであり、それを交渉に入ってから猶予してほしいというのは虫がよすぎるのだ。
13年2月の日米(インチキ)共同声明でアメリカが聖域を認めるということで交渉に入ったが、そもそもそこが間違いなのだ。この面からも、日本は撤退が筋である。

<官邸に踊らされる哀れな農水省>
 9月19日(金)、この原稿をまとめている時に「官邸が妥協を指示したため、農水省、全中は大慌て」という一報が入ってきた。確かめたが定かではない。
 しかし、農水省の後輩が本当に可哀想になる。農水省の役人は皆、農山漁村、農民・漁民のことを思って仕事をしている。主要5品目の関税をゼロになどしたら、日本の地方は限界市町村だらけになってしまうことは皆よく知っている。そんなことはしたくない。しかし、そこに官邸が、みせかけの改革ポーズをとり、高株価を維持せんがため、TPPは絶対まとめろと圧力をかけてくる。本来なら、農林水産省を中心に、必死の抵抗をしてしかるべきだが、大臣は甘利TPP担当相に「大変前向きな方(?)」と歓迎される西川公也氏である。役人は所詮宮仕え、農林水産大臣の命令には逆らえないし、官邸の指示となると尚更である。
 私もかつて少々農産物交渉に係わったことがあるが、省一丸となって日本の農業・農村を守るためのものであった。それが今はできない体制になっている。
 こうした中、我が国の農業・農村がやっていけるように、農水省の後輩たちに全力を尽くしてほしいとエールを送る以外にない。