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TPP交渉の行方シリーズ23 アメリカの尊大な要求 -通貨操作と証明(サーティフィケーション)- 14.11.06

<疲れる2泊5日の強行軍>
 10月25日から27日まで3日間にわたり、TPP閣僚会合が開催され、私は民主党の代表として25日と28日の夜行便でシドニーを往復した。28日は朝6時に成田着、10時に外務・農水連合審査で日豪EPAの審議の質問に立つという強行スケジュールだった。

<時間の無駄の閣僚会議>
 閣僚会合自体は、例の秘密保持とやらで、進展したのかしないのか、どこが問題となっているのか少しも分からない。通り一辺倒の共同記者会見が開かれ、簡単なペーパーが1枚配られただけである。国民を馬鹿にした会合であり、これでまとまったから承認を、と言われても誰しもその気になれないのではないか。内容を全く知らされず、議論の余地もなく、まして修正などあり得ないというなら、きっぱりと拒否するしかない。私はこの非民主的な、言ってみれば皆が蔑む北朝鮮的進め方には絶対に承服できない。
 TPP及びその関連の交渉で、ますますアメリカの手前勝手な要求が目につき始めている。最近明らかになった2つを警告のために明らかにしておきたい。

1. 通貨操作
<最初は中国・韓国が標的>
 一つは、currency manipulation or intervention (通貨操作)である。この用語は、中国がかつての日本を凌ぐ対米貿易黒字を続け始めた数年前から、アメリカのシンクタンク、議員が使い始めた。
 通常は、輸出が増え貿易黒字が貯まれば、その国の通貨は高くなり輸出が抑えられる。それをそうならずにいるのは、その国が通貨を安くしてわざと輸出しやすい環境を作っている証拠だ。だからそういう国には相殺関税等の制裁措置を講じてよいという、一見もっともな理屈である。日本の具体的事例にあてはめるとすれば、安倍政権の誕生とともに1ドル75円だったものがみるみる円安となり、1ドル110円前後になっている。おかげで日本の輸出が増え、自動車や家電メーカー(ソニーを除く)は史上最高の収益を上げている。日本円の対ドルレートが75円から100円に下がったとすると、関税が25%下がったと同じであり、輸出しやすくなる。これが意図的な操作により行われたのだから、それを相殺すべく25%の関税をかけてもいいのではないかということである。

 かつて対中国あるいは対韓国に造り上げられた理屈が、今TPP交渉の中で日本に向けられている。今の標的は明らかに日本である。そして、この主張の先頭に立っているのが、ミシガン州第9選挙区、すなわちデトロイトを選挙区とするサンダー・レビン下院議員である。1931年生まれで83才、連続当選を重ね、The Ways and Means Committee の重鎮で、弟カール・レビンは上院議員でもある。

<大物レビン下院議員も質疑にシドニー入り>
 この点については、別稿で詳述するが、今回このレビン下院議員が、1週間後の11月4日に投票日であるというのにシドニーに来るという情報を入手したので、日本を発つ前から、面会を申し込んでおいた。そして30分ほど意見交換することができた。しかし、この問題に直接触れることはなかった。

<スーパー301条の再来>
 日本のマスメディアでは農産物の関税撤廃の話ばかりが報道されるが、もう一つ自動車についての熾烈な交渉が行われている。アメリカは日本がコメについて例外とするなら、アメリカの2.5%(乗用車)と25%(トラック)の関税継続を主張しているらしい。
 それではなかなか通りそうもないため、屁理屈をつけて日本の自動車、その他の国のアメリカへの輸入が増えて困っている輸入品を狙って、いくらでも高関税をかけられる制度を考えていたようだ。こうなると1980年代の日米通商摩擦時代さんざん物議を醸したスーパー301条を思い出される方が多いと思う。日本のあまりに凄まじい輸出洪水に手を焼いたアメリカが、難癖をつけて輸入に歯止めをかけようとしたのである。そして、cross – retaliation (全く関係のない品目に制裁を科す)とやらで、名古屋の小さい電機工具メーカー「マキタ」が槍玉に挙げられ300%の高関税をかけられている。その悪夢の再来である。

<外貨準備保有国が通貨操作国>
 それでは何をもって通貨操作というのか。どうも上記の安倍首相の口先介入は入らないらしい。変換レートを決めているのはあくまで外国為替市場であり、安倍首相の一言の意味のほどは証明できない。それでは合理性に欠けるという声が聞こえてくる。ところがアメリカのシンクタンク、議員、業界はそれほどやわではない。何と外貨準備を多く抱える国が自動的に為替操作国と認定されるというとんでもない基準である。
 少しでも貿易黒字を抱える国が、政府がいざという時のために外貨を保有しているのがケシカランというのである。そうした意図的な保有がなければ、その外貨が市場に出回っていけば、その国の通貨が下がるのに、国が保有して抱え込んでいること自体が通貨操作だというのだ。いってみれば、これは貿易相手国が少しでも貿易黒字を貯めたら、すぐにアメリカにドルを還流しろという脅しである。アメリカの恐るべき高圧的態度である。

2. サーティフィケーション(認証)
 次が、Certification(認証)である。
<国家主権を浸食するISD>
 ISD又はISDS。(Investor-Style Dispute Settlement投資家国家間紛争解決)は、TPPのひな型、米韓FTAで大問題になった。裁判官、弁護士、法律学者等の法曹界は主権侵害であるとネットで自ら意見を述べ、一部の弁護士は表に出て強硬に反対した。2012年初、勢いのあった野党民主党はオバマ大統領と上下両院議長に再交渉すべきとか、自分たちが政権をとったら廃止するとかいう手紙を直接送りつけた。その中で1番問題にされたのはISDである。
 我が国の衆参農林水産委員会決議にもISDは認めるべきでない、という一項目が入っている。

<事後チェックするISD>
 別ブログ(TPP交渉の行方シリーズ11「国家の主権を損ねるISDSは絶対拒否すべし-ISDSで世界はアメリカ多国籍企業の管理体制下におかれる-」2013.10.21)で詳しく述べたので詳述は避けるが、簡単に言うとTPPができた後にアメリカの企業が各国の制度が企業活動を妨げているという理由で国を訴えることができる制度である。大訴訟社会のアメリカから何回も訴えられると、いつの間にか日本のルールがアメリカのルールに同化されていくことになる。そして、日本のまじめな官僚も、アメリカの顔色をうかがって日本に必要な制度や政策を打てなくなってしまう。かくして、日本の実体に合わないルールばかりがはびこり、日本の経済・社会が混乱し活力を失っていく。

<事前に渡すサーティフィケーション>
 ところがこのサーティフィケーションは、いってみればアメリカによる事前審査である。TPP協定に署名し、さらには協定自体が発効していても、アメリカ議会にここがおかしいと指摘されたらその相手国が、そんなことはない(たとえばアメリカ製品がその国の市場で急激にマーケットシェアを獲得)と証明しなければ、その国に対して協定上の特権(関税撤廃など)を認めないというもの。アメリカ議会が対象国の制度をチェックして、協定を阻害しアメリカ製品・サービスの市場参入を拒否しているような制度(例えば地産地消政策)は変更をせまるというようなものであり、国家主権の侵害の程度は、ISDをはるかに上回る。
 つまり、TPPないしアメリカは、国を国と認めず、すべてアメリカの制度にすべしというものである。私が、アメリカは日米構造協議以来、自国の制度を押しつけ続けており、TPPがそれにとどめを刺す協定だと主張する所以である。TPPに入れば、日本はもう経済面では独立国とはいえなくなってしまう。そういう国が集団的自衛権だとか靖国神社といってもどうにもならないのだ。これが、私が真正保守こそ全力を挙げてTPPに反対しなければならないと主張する所以でもある。

<TPPに係るムダをやめよう>
 TPPはもう放棄する以外に、日本が独立を保ち、日本のよき伝統文化を守っていく途は残されていない。多くの人たちが、どうしてこんな大切なことに気がつかないのか、私は不思議でならない。
 今後どうなるのかと思っていたら、APECの開催される11月10、11日前、8,9日にまたTPP閣僚会議を開くという。シドニーには、これが最後の交渉になるかもしれないと、日本から全ジャーナリスト150名の2/3に及び106名の記者が同行したが、彼等もがっかりして帰国したに違いない。TPPは中国包囲網を作るためのものだと言われているのに、その中国でしゃあしゃあとTPPの閣僚会合や首脳会合を開くというのだから、相当無神経であり、中国に対して失礼である。アメリカという国はどこまでも尊大である。