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アベノミクス農政批判シリーズ8「何から何まで邪悪な安倍農協改革-農業・農村を混乱させるだけのアベノミクス農政-」15.02.18

<目的不明の規制改革>
 安倍内閣の特徴の一つは、言葉遊びである。三本の矢、地球儀俯瞰外交、この道しかない等々美辞麗句が並ぶが、少しも実現されない。
 2月15日の日経新聞は、一面トップで「上場企業の3割増配-車や電機、好成績で還元」と報じている。円安には大企業、特に輸出企業には恩恵をもたらし、史上最高収益を上げている。しかし、従業員の給与はアップせず、国民にトリクルダウンすることはほとんどない。その結果、都市と農村の格差をはじめとして、あらゆる格差が拡大し、地方は疲弊しきっている。あまり知られていないが、先の衆議院選挙では史上最低の投票率を記録したが、各都道府県別でみると、富の集まる東京だけは最低を免れている、投票に行く人が多かったのである。こんな所にも、日本の現状がしっかりと現れている。
 その三本目の矢富んでおらず功を奏していない。そうした中、いつの間にか規制改革の目玉に、農業・医療・雇用・エネルギーがあげられることになった。

<「全中が地域農協の自主性を損ねている」という誇大宣伝>
 そして更にごまかしの言葉が躍る。農協・農業委員会の規制を改革して、農業を成長産業に、というものである。農業所得倍増といった夢物語も語られる。農業がうまくいかないのは、農協や農業委員会が農民の自由な活動をがんじがらめにして、農業の成長を妨げているからだというのだ。こんな屁理屈はどの専門家に聞いても、どの農家に聞いても得心する者はいないであろう。まして全国農協中央会(全中)が農協法上の権限により監査をしているから、地域の農協の自主性が妨げられ、農業の停滞を招いている。という論理はあまり飛躍しすぎてある。そんな具体的事例は寡聞にして知らない。アベノミクス農政は出だしから論理矛盾し、間違っているのである。
 後述するが、世界で農政がうまくいっている国はまずない。そうした中、ヨーロッパの中山間地域の農村が限界集落などに陥らずにいるのは、政府が直接支払いといった温かい農業政策によりそこで生活していけるように手を打ってきたからである。そうした支援措置を講ずることなく、農業の停滞を農協と農業委員会のせいにして、規制改革とやらを断行すれば農業が活性化するというのは、どう考えても辻褄が合わない。

<もっともな農協・農民の疑問>
 農協や農民からは再三にわたり疑問が投げかけられているとおり、農協改革、例えば大騒ぎされている全国農協中央会の社団法人化や監査の外部化が、どうして農業所得倍増に直結するのか、という説明が全くなされていない。理由は簡単である。そんなことはありえないからである。はじめから嘘で塗り固められており、きちんと説明できることは何一つないと言ってよい。このようなデタラメが罷り通ること自体が不思議でならない。
しからばなぜ、安倍首相が施政方針演説ののっけから農協改革を大声で叫び、衆議院本会議場を一気にしらけさせるのかよく考えてみないとならない。それなりの隠された理由があるからである。表向きの理由である農業の成長産業化による農業所得倍増など、誰一人として信じる者はいない。自己陶酔して主張している安倍首相も、忠実な「ポチ」に徹する稲田朋美政調会長も私には別世界の人にしか見えない。以下、それこそ不純な動機を綴る。

<改革者としてのパフォーマンス>
 第一に、格好付けである。これは既に多くの人がよく指摘しているように、小泉元首相の猿真似である。小泉元首相は、誰も関心のなかった郵政民営化をいかにも国家の一大事のように大袈裟にまくし立て、反対する者を抵抗勢力と名付け、徹底的に叩きのめした。その姿を間近でみていたのが安倍首相である。郵政を農協に置き換え、改革者の格好付けを行って、直接関係のない都市部の有権者の支持を得んとしているのだろう。高支持率維持のパフォーマンスであり、いかにも姑息である。
 小泉首相は、郵政民営化で日本がバラ色の国になると髪の毛を振り乱して叫んでいたが、今何がよくなったのだろうか。郵便・簡保にアメリカ金融資本が入り、郵便局の末端がガタツイタだけで、何の成果もない。今回の農協改革が全く同じ結果を生むことは目に見えている。

<アメリカが虎視眈々と狙う農協の100兆円>
 第二にちらつくにはアメリカの影である。これも郵政改革と符合する。
アメリカは日本構造協議以来、日本に定着している仕組みを壊し、アメリカの都合のいいように変える戦略を取り出した。それが年次改革要望書等でしつこく突っ込まれ続けている。極め付きは14年6月、在日米国商工会議所(ACCJ)がまとめたJAグループの組織改革の意見書である。そして、一連の提言はまさしくこれに沿っている。つまり、アメリカの思うつぼ、言いなりなのだ。
 郵貯、簡保の約300兆円に対して、農協貯金約90兆円と共済約300兆円。これをアメリカの手の出せる民間金融市場に吐き出させたいのである。全中を巡る攻防に目が奪われている中で、信用事業(金融)と共済事業(保険)の分社化という郵便局の分社化と同じ悪巧みが脈々と進められんとしている。
この二つの事業のあがりで営農指導事業を行い、経済事業の赤字も補っているのである。それを稼いでいる事業を分社化したら農協は潰れてしまう。ほくそえむのはアメリカの金融関係者だけであろう。私はなぜ「日本を守る」ことに熱心な安倍首相が、実は日本を「安く売り、潰す」ことに熱心なのかさっぱり理解できない。13年10月21日の予算委質問で、私が安倍首相を保守ではないと追及した所以である。

<鎧の下に見える企業の農地所有>
 第三の卑しい狙いは、企業の農業参入、なかんずく農地の所有である。
これについては別途詳述するが、今の農業をめぐる規制改革の究極の目的がここにあるような気がする。このことは、マスコミに大きく取り上げられる農協改革に隠れることなく、しゃあしゃあと進行する農業委員会の大改悪をみれば一目瞭然である。
 まずとってつけたように地域農協(単協)を持ち上げている。利益の上がる農産物を○○商事の儲けのタネにしたいのである。だから協同組合である全農を株式会社化して○○商事と同列にし、自ら参入せんとしているのだ。このまま進むと各地の金になる銘柄品だけを○○商事が買い取り、他は全く扱わないあこぎな商売が罷り通ることになる。零細農家が一生懸命生産するその他大勢の農産物は全く相手にされなくなる。パソコンを駆使できたり、経営の才能がある農家が直接販売業を行う中、農協はそうしたことのできないごく普通の中小農家、高齢農家の農産物を集積して販売し、協同組合の役割を果たしているのである。
 そして、最後は320兆円も内部留保した金の行き先としての農地の所有である。これを許したら、日本中の優良農地は企業の手にわたり、前述と同じくコストの合わない中山間地の農地は放棄され、日本の美しい国土は見るも無惨な姿になってしまうであろう。つまり、銘柄農産物も優良農地も企業につまみ食いされるだけに終わることになる。

<反TPPの動きを封じる>
 第四に差し迫った動機として、反TPPの動きを封じるといった卑しい目的もある。秘密交渉とやらで、全容が全く明らかにされないまま進むTPPから目をそらしたいのだ。日本のマスコミはまんまとそれに乗せられ、TPPの内容を掘り下げた報道が全くみられない。全中も自らの足下を突つかれて、TPPどころの話ではない。かくして、何かと注文のうるさい農業団体の動きを牽制し、今やこの目的はほぼ達成されたといってよい。しかし今後の農村や地位社会の行く先はまっくらやみである。
 いずれにしても、農協改革を必要とするまともな理由は見当たらない。今回の農業規制改革は邪悪である。