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2015年2月27日

集団的自衛権シリーズ3 安倍首相は父安倍晋太郎外相の中東外交を学ぶべし -積極的平和主義(自衛隊派遣)より創造的外交(和平外交)を- 15.02.27

<イラン経済制裁に参加しなかった日本>
 1979年、イランの過激派学生によるアメリカ大使館人質事件が発生した。カーター大統領は軍事力による救出作戦を命ずるも失敗、これがために国民の不興をかい1980年の選挙でレーガンに敗れ1期しか大統領を務められなかった。世界はアメリカの要請によりこぞってイランに経済制裁をしたが、日本は三井グループが大型石油プラント工事を継続し、石油は生命線だとして、イラン(石油の輸入先の15%を占める)から、ただ一国平然と石油を輸入し続けた。アメリカが呆れて激怒することになった。

<巧妙だった安倍晋太郎外相の中東外交>
 悪く言えば当時は、日本は国際政治問題、なかんずく軍事問題には疎かったともいえる。よく言えば、日本はベトナム戦争でも動かず、海外に自衛隊を出すことなど考えられない自制のきく国家だった。もちろん中東でもどこでも手を汚しておらず、そこには世界に誇れる平和を希求する古きよき日本の姿があった。戦後の日本が築き上げてきた反戦平和、経済重視、国際協調路線を堅持し、アメリカとも一線を画した外交を展開していたのである。
 この後の中東外交で、日本は独自の平和外交を展開し、世界をアッと言わせたのである。時の外相は安倍晋太郎、安倍首相の父君である。我々は今、崩れかけた日本の中東外交を立て直すためにも、安倍晋太郎外交のおさらいしなければならない。

<紛争の種を蒔くアメリカ>
 1980年、イラン・イラク戦争が勃発、それが長期化し結局1988年まで続くことになった。この時に前述の事情からアメリカは敵(イラン)の敵イラクを援助したのである。そして他の西側諸国はもちろんソ連もイラク支援で追随した。これがフセイン大統領をのぼせ上らせてしまった。イラクの軍事国化も、もとはといえば、アメリカの武器援助から始まっている。つまり後の、大量破壊兵器というニセの口実によるイラク空爆の種はアメリカ自身が蒔いている。アメリカは世界の警察官の前に紛争(戦争)仕掛け人でもある。

<ラフサンジャニ訪日の成果>
 アメリカ大使館人質事件を契機にイランと他の国々の関係は冷え切っていた。しかし、日本は前述のとおり、アメリカの顰蹙を買いながらも、イラン・イラク双方とも関係は良好だった。
 そうした中、安倍晋太郎外相(以下「晋太郎外相」と称する)の下、三宅和助中近東アフリカ局長が中心となり、最高指導者ホメイニ師やラフサンジャニ国会議長を通した和平工作が展開された。1986年7月にラフサンジャニが来日直前、レバノンに大きな影響力を持つシリアのアサド大統領と会い、ヒズボラと接触し、レバノンの人質解放について話し合ったとみられる。来日と同時に多くの人質の解放が報じられた。イラン・イラク戦争の中、アメリカに気兼ねもそれほどすることもなく、中曽根首相も晋太郎外相もラフサンジャニと精力的に和平に向けた会談を持った。
 1988年、イランはイラクとの停戦に応じ、1989年ラフサンジャニは大統領となった。晋太郎外相が行った日本の中東平和外交が功を奏したのである。日本の地道な中東和平外交、すなわちイランへの働きかけが大きな契機となったといわれている。

<テロ国家とも等距離外交した安倍晋太郎外相>
 この頃は、日本赤軍以外中東で殺害された日本人も人質となった日本人もいなかった。これは他の先進国と異なり、イラン・イラクの戦争でも中立を貫きすべての中東諸国と等距離外交をしてきたことによるものである。当時西側先進諸国は、シリア、リビア、イランの3ヶ国とPLOはテロに関係しているとして敵視していた。それに対し、日本はこれらの国々とも友好関係を保ちつつ中東和平に貢献するとともに、日本の成長に必須の石油を確保する、という二兎を追う外交を巧妙に展開していた。当時「創造的外交」と呼ばれていた。
 こうした中東和平外交は、晋太郎外相の紛争当事国イラン・イラク同時訪問に始まり、ヨルダン、シリア、サウジアラビアを歴訪と多角的に行かれた。今のようにアメリカに追随する対米一辺倒外交ではなく、アラブ諸国の中に入り込み、全方位外交を展開していたのである。このような大胆な晋太郎外交はパフォーマンスの上手な中曽根首相の陰に隠れて目立たなかったが、着々と効果をあげつつあった。

<小泉首相のイラク派遣で日本もテロの標的に>
 30年前の晋太郎外相時代(1982~86年と4年も連続して務めた)は、前述のとおり中東イスラム諸国の間で、日本は友好国と考えられていた。アラブ諸国でも戦争に加担することなく手を汚していないので、少なくともテロの対象とはならなかった。ところが、2003年小泉首相がイラクに自衛隊を派遣した時から様相は一変した。いくら武器は使わないといっても、アメリカに手を貸す国のレッテルを貼られてしまった。
 これは外交上から大転換だった。それ以降、日本人はアラブ諸国で人質にされたり、殺害されたりするケースが多くなった。2004年4月、バクダットで2回続けて日本人人質・拘束事件が発生し、10月には、とうとう殺害まで起きてしまった。その後も、イラン・イエメン・アフガニスタンと日本人が狙われ、13年1月には、アルジェリアのイナメナスのガスプラントが武装集団に襲撃され、日本人10人を含む37人が死亡している。

<安倍首相外交が安倍晋太郎外交とひっくり返す愚>
 そして、それを更に悪化させているのは安倍首相である。14年12月19日にはジャーナリストの後藤健二氏がイスラム国に拘束され、家族に身代金まで要求されているのを知りながら、中近東を訪問し、対テロのため2億ドルの援助を約束した。これを見ていたイスラム国は、すぐさま反応し、一連の露骨な脅しにみられるとおり日本はイスラム国から敵視されることになった。イスラム国は日本に2億ドルの要求をし、それを拒否するや後藤氏と湯川遥菜氏は殺されてしまった。
 安倍首相は病に犯されながら必死で展開した父君晋太郎外相の中東外交を、秘書官として間近で見ていたはずである。父君のこの働きと比べると、安倍首相の今回の中東歴訪は、訪問国は似通っていても結果は雲泥の差である。
 積極的平和主義とは、自衛隊を海外に派遣し平和を勝ち取るということであり、軍事的介入主義といえる。創造的外交は、真意は不明だが仲介役として平和を創り出すという意味合いだろう。現代に合せると、ネタニヤフ・イスラエル首相との良好な関係を活かして、イスラエルとアラブ諸国の仲介をして、平和構築のために汗をかくことである
 それを安倍首相は日本の貴重な居場所、立ち位置をなくすような真逆のことをしているのです。安倍首相は、どうも一世代超えた祖父、岸信介首相への思い入れが強すぎるが、実は岸首相こそアメリカべったりの外交を正そうとした人であり、義理の息子晋太郎もそれをしかと引き継いでいたのである。安倍首相は、尊敬する祖父に追い着き、超える為には、父晋太郎外相の軌跡こそ見習わなければならない。

2015年2月23日

しのはら孝「2015年 中高国政報告会」のお知らせ

 春寒の候、皆さまには益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 日頃は、篠原孝と民主党の政治活動に格別のご支援を賜り、心より厚く御礼申し上げます。
 さて、新しい年を迎え、下記のとおり中野市で「国政報告会」を開催いたします。
 今回は、特別講師に亀井静香衆議院議員をお迎えし、講演いただく予定です。
 つきましては、大勢の皆様にご参加いただき、新年の活動を力強くスタートさせたいと願っておりますので、ご友人知人をお誘い合わせの上、ご来臨の栄を賜りますようご案内申し上げます。
 なお、講演会のみのご参加もお待ちしております。

1. 日時 : 2015年3月1日(日)
       講演会 17:00~
       懇親会 18:40~
2. 場所 : アップルシティーなかの
       長野県中野市吉田519 TEL.0269-26-1122
3. ゲスト: 亀井 静香 衆議院議員
http://www.kantei.go.jp/jp/kan/meibo/daijin/images/kamei.jpg

4. 会費(懇親会ご参加の方) : 3,500円 (講演会のみご参加の方は不要です)
5. 申込締切 : 2月25日(水)まで

お問合せ・お申込み
しのはら孝事務所(民主党長野県第1区総支部)
長野市若里4-12-26宮沢ビル2F
TEL 026-229-5777
FAX 026-229-5727

2015年2月18日

アベノミクス農政批判シリーズ8「何から何まで邪悪な安倍農協改革-農業・農村を混乱させるだけのアベノミクス農政-」15.02.18

<目的不明の規制改革>
 安倍内閣の特徴の一つは、言葉遊びである。三本の矢、地球儀俯瞰外交、この道しかない等々美辞麗句が並ぶが、少しも実現されない。
 2月15日の日経新聞は、一面トップで「上場企業の3割増配-車や電機、好成績で還元」と報じている。円安には大企業、特に輸出企業には恩恵をもたらし、史上最高収益を上げている。しかし、従業員の給与はアップせず、国民にトリクルダウンすることはほとんどない。その結果、都市と農村の格差をはじめとして、あらゆる格差が拡大し、地方は疲弊しきっている。あまり知られていないが、先の衆議院選挙では史上最低の投票率を記録したが、各都道府県別でみると、富の集まる東京だけは最低を免れている、投票に行く人が多かったのである。こんな所にも、日本の現状がしっかりと現れている。
 その三本目の矢富んでおらず功を奏していない。そうした中、いつの間にか規制改革の目玉に、農業・医療・雇用・エネルギーがあげられることになった。

<「全中が地域農協の自主性を損ねている」という誇大宣伝>
 そして更にごまかしの言葉が躍る。農協・農業委員会の規制を改革して、農業を成長産業に、というものである。農業所得倍増といった夢物語も語られる。農業がうまくいかないのは、農協や農業委員会が農民の自由な活動をがんじがらめにして、農業の成長を妨げているからだというのだ。こんな屁理屈はどの専門家に聞いても、どの農家に聞いても得心する者はいないであろう。まして全国農協中央会(全中)が農協法上の権限により監査をしているから、地域の農協の自主性が妨げられ、農業の停滞を招いている。という論理はあまり飛躍しすぎてある。そんな具体的事例は寡聞にして知らない。アベノミクス農政は出だしから論理矛盾し、間違っているのである。
 後述するが、世界で農政がうまくいっている国はまずない。そうした中、ヨーロッパの中山間地域の農村が限界集落などに陥らずにいるのは、政府が直接支払いといった温かい農業政策によりそこで生活していけるように手を打ってきたからである。そうした支援措置を講ずることなく、農業の停滞を農協と農業委員会のせいにして、規制改革とやらを断行すれば農業が活性化するというのは、どう考えても辻褄が合わない。

<もっともな農協・農民の疑問>
 農協や農民からは再三にわたり疑問が投げかけられているとおり、農協改革、例えば大騒ぎされている全国農協中央会の社団法人化や監査の外部化が、どうして農業所得倍増に直結するのか、という説明が全くなされていない。理由は簡単である。そんなことはありえないからである。はじめから嘘で塗り固められており、きちんと説明できることは何一つないと言ってよい。このようなデタラメが罷り通ること自体が不思議でならない。
しからばなぜ、安倍首相が施政方針演説ののっけから農協改革を大声で叫び、衆議院本会議場を一気にしらけさせるのかよく考えてみないとならない。それなりの隠された理由があるからである。表向きの理由である農業の成長産業化による農業所得倍増など、誰一人として信じる者はいない。自己陶酔して主張している安倍首相も、忠実な「ポチ」に徹する稲田朋美政調会長も私には別世界の人にしか見えない。以下、それこそ不純な動機を綴る。

<改革者としてのパフォーマンス>
 第一に、格好付けである。これは既に多くの人がよく指摘しているように、小泉元首相の猿真似である。小泉元首相は、誰も関心のなかった郵政民営化をいかにも国家の一大事のように大袈裟にまくし立て、反対する者を抵抗勢力と名付け、徹底的に叩きのめした。その姿を間近でみていたのが安倍首相である。郵政を農協に置き換え、改革者の格好付けを行って、直接関係のない都市部の有権者の支持を得んとしているのだろう。高支持率維持のパフォーマンスであり、いかにも姑息である。
 小泉首相は、郵政民営化で日本がバラ色の国になると髪の毛を振り乱して叫んでいたが、今何がよくなったのだろうか。郵便・簡保にアメリカ金融資本が入り、郵便局の末端がガタツイタだけで、何の成果もない。今回の農協改革が全く同じ結果を生むことは目に見えている。

<アメリカが虎視眈々と狙う農協の100兆円>
 第二にちらつくにはアメリカの影である。これも郵政改革と符合する。
アメリカは日本構造協議以来、日本に定着している仕組みを壊し、アメリカの都合のいいように変える戦略を取り出した。それが年次改革要望書等でしつこく突っ込まれ続けている。極め付きは14年6月、在日米国商工会議所(ACCJ)がまとめたJAグループの組織改革の意見書である。そして、一連の提言はまさしくこれに沿っている。つまり、アメリカの思うつぼ、言いなりなのだ。
 郵貯、簡保の約300兆円に対して、農協貯金約90兆円と共済約300兆円。これをアメリカの手の出せる民間金融市場に吐き出させたいのである。全中を巡る攻防に目が奪われている中で、信用事業(金融)と共済事業(保険)の分社化という郵便局の分社化と同じ悪巧みが脈々と進められんとしている。
この二つの事業のあがりで営農指導事業を行い、経済事業の赤字も補っているのである。それを稼いでいる事業を分社化したら農協は潰れてしまう。ほくそえむのはアメリカの金融関係者だけであろう。私はなぜ「日本を守る」ことに熱心な安倍首相が、実は日本を「安く売り、潰す」ことに熱心なのかさっぱり理解できない。13年10月21日の予算委質問で、私が安倍首相を保守ではないと追及した所以である。

<鎧の下に見える企業の農地所有>
 第三の卑しい狙いは、企業の農業参入、なかんずく農地の所有である。
これについては別途詳述するが、今の農業をめぐる規制改革の究極の目的がここにあるような気がする。このことは、マスコミに大きく取り上げられる農協改革に隠れることなく、しゃあしゃあと進行する農業委員会の大改悪をみれば一目瞭然である。
 まずとってつけたように地域農協(単協)を持ち上げている。利益の上がる農産物を○○商事の儲けのタネにしたいのである。だから協同組合である全農を株式会社化して○○商事と同列にし、自ら参入せんとしているのだ。このまま進むと各地の金になる銘柄品だけを○○商事が買い取り、他は全く扱わないあこぎな商売が罷り通ることになる。零細農家が一生懸命生産するその他大勢の農産物は全く相手にされなくなる。パソコンを駆使できたり、経営の才能がある農家が直接販売業を行う中、農協はそうしたことのできないごく普通の中小農家、高齢農家の農産物を集積して販売し、協同組合の役割を果たしているのである。
 そして、最後は320兆円も内部留保した金の行き先としての農地の所有である。これを許したら、日本中の優良農地は企業の手にわたり、前述と同じくコストの合わない中山間地の農地は放棄され、日本の美しい国土は見るも無惨な姿になってしまうであろう。つまり、銘柄農産物も優良農地も企業につまみ食いされるだけに終わることになる。

<反TPPの動きを封じる>
 第四に差し迫った動機として、反TPPの動きを封じるといった卑しい目的もある。秘密交渉とやらで、全容が全く明らかにされないまま進むTPPから目をそらしたいのだ。日本のマスコミはまんまとそれに乗せられ、TPPの内容を掘り下げた報道が全くみられない。全中も自らの足下を突つかれて、TPPどころの話ではない。かくして、何かと注文のうるさい農業団体の動きを牽制し、今やこの目的はほぼ達成されたといってよい。しかし今後の農村や地位社会の行く先はまっくらやみである。
 いずれにしても、農協改革を必要とするまともな理由は見当たらない。今回の農業規制改革は邪悪である。

2015年2月10日

TPP交渉の行方シリーズ25・兼 アベノミクス農政批判シリーズ7「TPPを格好付けに悪用する日米首脳 -可哀相なのはTPPの中身を何も知らされない国民-」15.02.10

<無責任な御用委員>
 ここ数日、日本農業新聞や全国紙も含めマスコミは農協改革一色である。いつの頃からか農業所得倍増という夢物語が語られ出した。そのためには農政改革が必要であるとされ、いつの間にか農業規制改革にすり替わり、規制改革会議では農業・雇用・医療が目玉となった。その中で農協や農業委員会の改革が叫ばれ、今や農協改革が圧倒的な関心を呼んでいる。
 よく言われているように、全国農協中央会(全中)を法律上のものから一般社団法人にすることが、なぜ規制改革になり農業所得倍増に結びつくのかさっぱりわからない。農協の監査を公認会計士等の外部監査に任すということが、どれだけ農協の改革に役立つのかというのもよくわからない。安倍政権に都合よい人たちばかりが委員となり、立派に期待に応えて政府の方針どおりの答申・提言をまとめている。安倍政権下の御用委員の跋扈は目に余る。農協界から反論があるように、農協の業務全体の監査も行われるので、プロである全中に任せた方が良いという理屈もわからないでもない。しかし、私からするといずれにせよ些細なことである。そんなことにうつつをぬかしている場合ではない。問題はその陰で、国民には何も知らされずにTPP交渉が進展していることである。

<農協改革をよそに秘かに進められる危険なTPP>
 私は何度も言っているが、TPPは何も農産物貿易だけが問題なのではない。他にも大問題が目白押しである。外国の私企業が国を訴え国際投資紛争解決センターで決せられるISD条項は、国家の主権を踏みにじる。また、TPPは日本の伝統文化を無視したアメリカのルールを次々と押し付けるツール(手段)になってしまう。私はこれこそ日本社会を根本から覆す最も危険なことではないかと思っている。
 農協改革に関心を向けられる中で、TPPがこっそり秘密裏に進められている。ところが、こちらの方は、さっぱり見えてこない。

<餌食にされる農産物関税の引き下げ>
 他の分野はどのような内容になっているのかボヤッとしていてわからない。しかし、交渉に入る条件として関税ゼロということが言われたため、TPPというと農産物関税問題ということにされてしまっている。他にも大きな問題が山ほどあるにもかかわらず、農産物関税を槍玉に上げてシングル・イシュー化し、他の重要なことをその間に進めようという悪い魂胆があるのかもしれない。
 驚いたことに「何もなかった」「何も進展がない」と言っていた昨年4月のオバマ訪日時交渉で、日米二国間で相当いろいろな提案がなされていたことが明らかになった。この点でも日本政府は大嘘をついていたことになる。つまり秘密交渉というのは、とりもなおさず国民を騙しての交渉ということになる。
 
<農業規制改革は成長戦略の目玉とならず>
 農協改革については、安倍首相は能弁である。問題となった中東歴訪の際も、わざわざ羽田空港で農協改革についてインタビューを受けている。闘う首相を演出せんとする一種の「やらせ」である。外国に行っている間に農協改革を進めるというのも、各国を歴訪している間に、いつの間にか解散ムードが定着したのと同じ臭いがしてくる。いかにもずるいやり方である。
 しかし、安倍首相はTPPについては国会では質問されたりした時以外は決して語ろうとしない。私が察するに本音はあまり好みではないのであろう。
 当初、薬品のインターネット販売ということが大きく喧伝された。その後、成長戦略とされる3本目の矢は具体的なものが何一つ見えてこない。そこに顔を出してきたのが出てきたのが農業、医療、雇用についての規制改革である。日本は規制があるがために経済成長が妨げられているのであろうか。世界で一番ビジネスをやりやすい環境を造るというのが安倍首相のふれこみであるが、日本が規制だらけの国であるとは日本人も思っていないし、外国も思っていない。まして農業などは各国特々の事情があり、いろいろな保護もなされているし、農産物について関税がゼロなどということはWTOも何一つ言っていない。ここに論理的な無理がある。

<経済成長への期待感の為に使われるTPP>
 こうした中、安倍首相は、その好みではないTPPを巧みに利用している感がある。安倍首相はTPPを、経済成長という期待感を抱かせるための道具と考えているとしか思えない。もっと言えば安倍内閣はもともと期待感だけでもっている内閣にすぎない。ところが、経済対策がうまくいかず、経済も景気も良くならないために、2度目の10%への消費増税も、先送りしなくてはならない羽目に陥っている。安倍政権ができてから、本当に実現したものはあまりない。
 そして最後の拠り所はTPPである。TPP協定ができ、これが発効されれば1年後あるいは3年後には景気は上向く、という期待感を繋ぎとめておくための手段に使われるのである。

<オバマの遺産(レガシー)への固執>
 オバマ政権は、1期目ではアメリカの皆健康保険制度(オバマケア)が実施されている。多分、業績として残るものであろう。ところが中間選挙を経て、上院も下院も多数を占めた共和党が大反対しており、ひっくり返される可能性もある。
 ところが、2期目は半分を過ぎた時点で、何一つ目立った政策が実行されていない。レームダック状態といわれている中一定条件の下、不況移民を3年間強制法を免除する、移民法の改正や、カナダからの石油パイプラインの敷設等の難問を抱えている。これらについては拒否権を発動するとまで言い、共和党との対決姿勢を明らかにしている。
 しかしTPPについては全く逆で、TPA(貿易促進権限)をどうしても通してほしいと共和党に秋波を送っている。TPPを完成させ、オバマ政権の遺産(レガシー)にしたいと言っているのだ。つまり、結局オバマ大統領もTPPを自分の格好づけに使おうとしている点で安倍首相と似たりよったりなのだ。
 結果として、日米両国なかんずく、特にアメリカが大統領選に入る前の決着を急ぎ始めている。だからアメリカからは、カナダが農産物関税についてグズグズ言っているので、カナダを外すべきだという声も聞こえてきている。一方では日本の農産物関税が高いのにそれを維持しようとしているので、日本を外してもいいということまで言い出し始めている。

<日本から祭りが消える>
 これも何回も繰り返し述べてきているが、アメリカの狙いは関税の引き下げにあるのではない。日本のシステムを根底から変えて、アメリカのようにしてしまうことにある。これは、日米構造協議以来のアメリカの姿勢であり、その後も年次改革要望書という形で日本に突きつけられている。郵政改革もそのような文脈のなかで押し付けられてきたものである。
 私はこうした一連の流れの中で、日本社会を最も変えたもののひとつが大規模店舗規制法の撤廃ではないかと思っている。このために全国各地に郊外のスーパー、ショッピングセンターができ、商店街は次々に潰れていっている。このままいくと日本の小さな祭りの大半は消えてしまうことになる。全国各地の小さな祭りや村祭りは神社を中心に農民が行っており、街のお祭りは商店街がお金を出し、人も出し客を呼び込む形で行われてきた。それが農村は消滅寸前であり、商店街がシャッター通り化してしまって、祭りの担い手がいなくなって消えつつある。これでは観光化された大きな祭りが残るだけとなり、日本の庶民が支えてきた小さな村や町の伝統文化が消えていってしまう。

<地方の味も消えていく>
 食堂なども次々に消え、大きな道路の脇には全国チェーンの味もそっけもない店が続くだけである。私が約30年前にアメリカへ留学した時は、日本がこんなまずい食堂しかない国ではなくて良かったと安堵していたものが、今まさに私が忌み嫌ったアメリカと同じようになっている。小さなラーメン屋で、顔馴染みのおじさん、おばさんのいるラーメン屋の味を楽しむことができなくなり、全国画一的なレストランばかりになっている。
 食堂などは各地方に合った、それぞれの個人経営で行われているのが健全なのだ。それを、みな画一化し、全国展開する企業に牛耳られる世の中にしてはならない。TPPを締結していくと、全国展開する日本企業ならまだしも、日本中がアメリカの大きな企業の支店だらけになってしまう恐れがある。これを憂いているのである。

 農協改革の大騒ぎの陰でこっそり進むTPPのことの方がもっと心配である。