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【TPP交渉の行方シリーズ26】 山岸一雄「大勝軒」社長に見る日本の美風 -TPPで日本の食をアメリカ化されてはたまらない- 15.04.19

<ファーストフードの席巻は許さず>
 私は「TPP絶対反対」で相変わらず「NO!TPP」バッジと「STOP TPP」ネクタイを締めて活動をしている。よく例に出すのは、このまま放っておくと日本の味が失われ、ほとんどの食堂が全国チェーンの食堂になってしまうということである。それも日本の全国チェーンならまだしも、マクドナルド、デニーズ、ケンタッキー・フライドチキンに代表されるように、アメリカのファーストフードに席巻されてはたまらない。

<竹馬の友が拒絶反応を示したアメリカの外食>
 1977年の年末、私の中学の同級生2人がアメリカ留学中の私を頼って遊びに来たが、最後にもうアメリカの食堂にいくのは嫌だと言い出した。味も合わなかったようだが、チップの関係があったり、何よりも嫌だったのは「wait to be seated」ということで、入口で待たされ、ウェイターかウェイトレスに席へ連れて行かれることだった。まずい上に「ヘイ、いらっしゃい」「ありがとうございました。またどうぞ」という掛け声もなく、つまらないというのだ。最後のディズニーランド近くのホテルでは2人ともゴネて外出せず、母から私への土産として預かってきた野沢菜をハサミで切って酒の肴にして過ごす羽目になった。優しい二人は、せっかくの母の土産を食べてしまったことを母には内緒にしておいてくれと懇願した。

<アメリカのファーストフード>
 もうその当時からアメリカは全国チェーン店の味もそっけもない店ばかりになっていたのである。味も画一的な上に、「おもてなし」の精神が全く欠けていた。マクドナルドは接客マニュアルが徹底しており、「次何にいたしますか」といったロボット的対応はできるが、心の通うようなことなど会話は望むべくもない。14年7月には、中国の取引工場で期限切れ鶏肉の使用が発覚し、アジアを中心に売り上げが減少した。その後、異物混入も相次いで表面化したため、日本マクドナルドは、15年の赤字が380億円となることを明らかにし、131店舗を閉鎖すると発表した。日本では今後拒否反応がますます激しくなるだろう。一度失った信頼はなかなか取り戻せないものだ。

<故郷の誇り山岸一雄大勝軒社長>
 その正反対が山岸一雄大勝軒社長の生き方である。私には面識がなかった。しかし、私と同じ小学校の区域、中野市壁田で生まれ、隣りの山ノ内町で育ち、穂波中学卒業後東京へ行き、ラーメン屋で修業し独立。つけ麺を考案し、東池袋で大繁盛することになった。その独特の味で弟子を100人つくり、「暖簾分け」をした。キャノンの御手洗富士夫会長等多くのファンをとりこにした独特のレシピも平気で公開した。何事につけ故郷を依怙贔屓することもあるが、それ以上に私はこうした山岸社長の生き様に共鳴し、親近感を持ち続けてきた。

<TPPに対峙する山岸社長の日本式生き方>
 大勝軒の成功もTPPを推進する産業競争力会議や規制改革会議の手になると全く違った展開になる。まず、つけ麺のスープの味で特許を取り、全国チェーンを築き上げ、世界に日本の和食の味を輸出することになる。
 ところがラーメンの神様は、全く真逆の生き方をした。自分の味が広まってほしいと思ったのだろう。秘密にして自分だけ富を得ることになど興味がなく、レシピを公開し、次々と弟子を造っていった。地元紙「北信ローカル」に、掲載された幼馴染みの宮入廣司さんの追悼の記は、山岸さんがガリ版刷りの学級新聞を放課後に先生に代わって作り、みんなをまとめていこうとするリーダーシップのある人だった、と伝えている。
 御弟子さんたちに惜しみなく自分の極意を伝えた。みんなが幸せになるように考えていたのだろう。80余年の天寿を全うし、先日行われた通夜には、そうした弟子たちのラーメン店の幟(のぼり)が50本以上立ち並んだという。

<信州流・フランス流対アメリカ流>
 山岸社長は北信州で育まれた日本人の優しい精神を持ち続けた人だったのであり、アメリカの押し付けるグローバリゼーションなどには見向きもしなかったのだ。暖簾分けという日本の美風をそのまま守り続けたのである。
 ちなみにフランス人の三ツ星レストランは有名だが、当然のごとく三ツ星レストランのチェーン店はない。味はその店のものであり、その時のものである。アメリカのアングロサクソン流が世界の標準からずれているのである。和食が世界文化遺産となった今、我々は日本流を貫き日本の味文化を守り育てることに意を注がなければならない。

<個人企業が消えていく!>
 世間では、日本人から企業家精神(enterpreneurship)が失われているとよく言われている。例えば、流通業界では、スーパー、コンビニが席巻し、個人営業の小さな八百屋、魚屋、肉屋、呉服屋、雑貨屋等の○○屋が次々と消えていった。
 かくしてまずは横から横へ物を流す流通業界から個人経営が消え、次に外食、そして製造業に及んでいく。最も大規模が相応しくない農業の世界でも、ひたすら規模拡大を求める財界農政が暴走している。
これでは食の世界でもどこでも起業家精神が発揮できまい。気が付いてみたら、世界を股に展開する多国籍企業だけの世界が待っているかもしれない。食の世界くらいはどこの店も独特の味と雰囲気があり、カウンターの向こうにいるおじさんと世間話をしながら食事をし、「またおいで下さい」と言われて帰りたいということだ。

<TPPから日本の食を守る>
 2012年に米韓FTAが発効後、 韓国政府も食堂こそ小企業、個人営業に向いているので、中小企業の育成業種として支援しようとした。韓国風焼肉屋くらいは残そうとする政策に対して、アメリカが米韓FTA違反だとクレームを付けたのである。

<沈みゆく大国アメリカにみる病恨>
私は最近、『ルポ 貧困大国アメリカ』で08年に日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した堤未果氏の力作『沈みゆく大国アメリカ』(堤未果、集英社新書)を一気に読み上げた。オバマケアが保険業界と医薬品業界の儲けにつながるように作り上げられ、それがアメリカを根底から腐らせている。そして次の標的は日本であり、TPPをきっかけにして、日本の医療界になだれ込んでくると警告を発している。
 そしてその中に食品をめぐる恐ろしい話も紹介されている。
 フードスタンプというアメリカ独特の低所得者向けの福祉政策がある。これが人道支援、生活保護の為と、受給要件を緩めて低所得者だけでなく中流にまで拡大された。これで利益を得たのはファーストフード業界、加工食品企業、ウォルマート、そしてカード手数料の入るウォール街の銀行だった。ただ、『ファーストフードが世界を喰いつくす』がとっくの昔に多国籍外食産業の凄まじい強欲さを指摘していた。

<日本とアメリカを同じにしてはならない>
 14年に発表されたハーバード大学公衆衛生大学院の報告によると、過去12年でアメリカ国内貧富の格差は、収入格差でなく栄養格差に行き着いたという。いわゆるジャンクフードが主食化した低所得者層の栄養状況や健康状態は悪化の一途を辿っている。おまけに病気になっても無保険で、ろくな治療が受けられないアメリカは、もう沈みゆく国でしかないというのが結論である。
 日本がTPPを受け入れ、このままアメリカ化していくと、日本には二度と山岸一雄社長のような人が生まれなくなってしまい、食の世界もセブンイレブンやローソンまがいばかりになってしまうのではないかと危惧している。