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【TPP交渉の行方シリーズ28】TPA法案提出は成立の見通しとは別物-TPAを通すために焦るフロマン-15.04.21(4月-2) 

<TPA法案がやっと提出される>
 与野党の協議はさっぱりまとまらず、2月に提出すると言われていたTPA法案が延び延びになっていた。ところが4月16日、審議もしないのに公聴会を開くという変則的なスタートを切った。拙速な審議に批判が続出しているようである。けれども、ハッチ上院財政委員長(共和党)、ワイデン筆頭理事(民主党)、ライアン下院小委員長(共和党)の3人の協同提案で、且つ上院下院に同時に提出という変則的な形になっている。焦りに焦った上での急ごしらえの提出である。

<民主党の大半が反対・共和党の保守派も反対>
 よく言われているように、民主党には反対が多い。それに対して共和党には賛成が多い。但し、共和党の中でも保守派(ティーパーティー)を中心に反対も数10人いる。
 民主党の反対する理由は、TPPの雛形であるNAFTAにより、正確な数字は分からないが、アメリカの雇用が500万人ほど失わされたことが一番である。民主党の支持団体であるAFL-CIO(アメリカ労働総連盟産業別会議)は挙げて反対している。つまりTPPはオバマ大統領のいうように雇用拡大にはならずむしろ雇用損失につながることを心配しているのだ。この法案に賛成するならば、政治献金もストップすると言って強行な主張を繰り返している。
 共和党は、ISDをはじめとしてアメリカの主権を大きく損ねることを嫌っている。自由貿易どころの話ではないというものであり、極めて真っ当な理由である。
 上院議員の選挙は3分の1ずつ2年毎に行われるが、下院議員選挙は2年毎に行われる。従って下院議員の方が有権者の声に敏感である。民主党でもある程度賛成がおり、ワイデン議員は賛成だったが、地元オレゴンの労働組合等から突き上げをくらい、相当ぐらついていた。

<上院は通っても下院は通る見通しは低い>
 上院特に財政委員会は通り易いと言われている。だからといって上院自体がすんなり通るとは限らないが、共和党が54議席であり、今のところすんなり通ると見込まれている。しかし問題は下院である。2年毎に選挙が行われるので、2016年の大統領選挙と同時に全員が変わることになる。共和党は244、その内ボーナー議員をはじめとしてオバマ大統領に得点させたくない者が60くらいいる、民主党からかなりの数(30近く)の賛成がないと過半数(218)にならないが、ラーソン議員(民)によると今のところ民主党下院議員で賛成するのは10~15で止まっている。最近では2011年民主党はオバマ政権下の韓国・コロンビア・パナマのFTA実施法案には17が賛成しながら、FTAそのものには25が賛成しただけである。今度はそれを下回る可能性もある。
 このままいけば、情報公開によりひどい内容を知った共和党の方からも更に反対者が出る可能性もある。

<民主党への飴、貿易調整支援>
 アメリカ議会ではTPAを通すためにあの手この手の手段が講じられているが、その最たるものは貿易調整支援(TAA:Trade Adjustment Assistance)と言われるものである。労働者が雇用を喪失した場合に、保険、他への職業転換とそのための職業訓練を受ける手当等が支払われるもので、民主党議員に対する懐柔策であることは明らかである。2021年まで有効としているが、共和党は財政支出が嵩むためあまり乗り気でない。

<焦るオバマ大統領>
 ファスト・トラックと呼ばれる一括承認の仕組みには、過去も相当な紆余曲折がある。1998年のクリントン政権時代には与党民主党は29しか賛成せずに否決されている。2002年のブッシュ政権時には民主党は25の賛成でやっと認められたが、それも2007年失効しそのままになっている。その結果、オバマ大統領はファスト・トラックの権限を持ったことのない唯一の大統領であった。
 オバマ大統領はもともとNFTAの見直しを公約にしていたし、通過政策には熱心ではなかった。ところが、今やTPPを2期目の遺産(legacy)にしたいと,盛んにTPAを通そうとしている。

<政府挙げての議会対策>
 従って3月16日の公聴会にもフロマン代表のみならず、ルー財務長官、ビルザック農務長官の3人が出席している。農産物貿易問題があるから、ビルザック農務長官が出席するのは当然であるが、ルー財務長官は、にわかに大問題となりつつある通貨操作条項についての説明をしなければならないために出席した。
 詳細は別稿に譲るが、通貨操作条項は主としては共和党保守派に対する配慮である。前述のとおり、情報公開についても今まで頑なに拒んでいたものを、一気に公開するといった方向に転換した。TAAを含め全てTPAを通さんがためであり、アメリカ政府を挙げて議会対策をし始めている。しかし、私にはあまりに拙速で、遅きに失しているような気がするが、それでも国会決議や選挙公約もなんのその、勝手に妥協を重ねる日本政府よりも誠意がある対応である。

<アメリカの法案成立率は僅か2~5%>
 しかし、TPA法案の提出と通過は全く別物である。2014年の中間選挙で上下両院とも共和党が半数を占め、議会のねじれは解決したが、大統領と議会与党は別という日本ではあり得ないねじれが生じている。アメリカも法案の成立のためには上下両院の可決が必要なのは、日本と同じだが、オバマ政権下ではねじれがあったとはいえ、第113議会期(2013~14年)では、成立は200弱に留まり、1990年代の各議会期(2年間の成立法案400~500本)と比べると、「最も生産性の低い議会」と言われてきた。
 また、三権分立の徹底するアメリカは、法案提出権は議員にあり、毎会期1万本近く提出される。TPA法案は昨年は提出者の名をとりキャンプ・ボーカス法案と呼ばれ、今はハッチ・ワイデン法案と通称されている。ところが、提出法案に対する成立率は僅か2~5%に過ぎず、日本とは比較にならない。
 日本政府は、TPAが完全に両院を通過しなくとも、成立の見通しがつけばよいなどと軟弱なことを言い出しているが、法案を提出したからといって成立の見通しが立ったとは全く言えないことを肝に銘じないとならない。