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【TPP交渉の行方シリーズ33】TPA法案の行方を予測する- 下院の踏ん張りで是非否決してほしい‐15.04.28(4月-7)

<個人個人の議員が賛否を決められるアメリカ議会>
 共和党は上院下院ともに多数を占め、オバマをレイムダック状態に追い込んでいる。しかし、大統領の権限は強大であり、2年間拒否権等を押さえつつ共和党の政策を実現していこうとしている。そのためには、TPPを2期目のLegacy(遺産)にしようとしているオバマ大統領にまずは恩を売っておくという打算が働いている。マッコーネル共和党院内総務は、中間選挙直後にTPA法案への支援を約束している。
 アメリカは日本と比べて議会には民主主義が定着している。何よりも大きな違いは『党議拘束』がないことである。各議員が自分の価値観、見識に基づいて賛否を決められるのだ。だから、与党民主党のオバマ大統領がいくらTPA法案を通してほしいと願っても、下院の民主党議員の大半が反対し、逆に共和党議員のほうが賛成するという変則的な形になっている。
 アメリカの場合は党の締め付けがないかわりに、次の選挙の前に新聞等で法案への賛否をきちっと報告され、それを元に有権者が投票で判定を下すことになる。だから議会はダイナミックになっていく。

<4月下旬のアメリカ議会の動き>
 こうしたことからTPA法案TPPをめぐるアメリカ議会はかつてないほどの緊張状態におかれている。以下、時系列で追ってみる。

 4/16 
・ハッチ上院財政委員長(共)、ワイデン筆頭理事(民)と
 ライアン下院歳入委員長(共)の3人によるTPA法案が上下両院に提出される
 (提出の前に公聴会が行われる変則的スタートで、
 民主党議員から猛烈に批判される)

 4/22
・上院の財政委員会で審議(mark up)され、20(共14、民6)対6(民6)で可決。
 (本会議で修正案が出され、長時間議論される可能性大)
・為替操作国に対抗課税などを課すきつい制裁を伴う為替操作条項は否決、
 別途法案としてTPA法案に付随される
・118本の修正案が出された。ハッチ委員長はそのうち12本を採決に付し、
  4件が認められ修正される。
 ①大統領貿易権限の人身売買ケース不適用
  (マレーシアをTPPに参加させない) (賛成16、反対10)
 ②米国イスラエル間貿易促進(賛成26、反対0)
 ③議会・政府間協議での製造業製品事項追加(全員賛成)
 ④“Buy American”を弱体化する貿易協定の禁止(全員賛成)

4/22
・下院歳入委員会でも25対13で可決、15の民主党議員で賛成は2のみ。
・実質的な審議は、為替操作法案の1本の修正のみ。24対14で否決
  (ただし本会議で再提案可能)。
・レビン筆頭委員(民、ranking member)の18修正案は、
  ライアン委員長が採決に付するのを拒否

 この後5月上旬は議会が休み、その後上下院の本会議での採決に向け、修正案をめぐり攻防が予想される。両院で可決されると大統領が署名して直ちに発効されることになる。それに対し、下院で否決されると廃案となる。

<最近のファストトラック法案の賛否>
 最近のファストトラック(一括承認条件)法案の採決の経緯を見ると以下のとおりである。

1993年 クリントン政権
  NAFTA法案を共和党の協力により可決、
  これ以降議会は総じてファストトラックの付与にためらう。

1998年 クリントン政権
  95.97、98年と3回にわたりTPAを求める。
  98年には共和党多数の下院で共71が反対、民171も反対(242)して否決、
  民は29しか賛成せず。

2002年 ブッシュ政権
  激しく争われ、2年間費やして215対214という1票差で可決された。
  5年後の2017年に失効。

2011年 オバマ政権・韓・コロンビア・パナマFTA実施法
  民17が賛成、FTAには民25賛成で成立。(注:民の15年TPA賛成は、17や25より下回る根拠)

2014年 オバマ政権化でキャンプ・ボーカス法案(2002年をほぼ踏襲)が提出
  民上院院内総務リードが反対、審議塩漬けで廃案。
  民201中賛成はたった8といわれる。下院院内総務のペロシすら反対。
  共和党も100人以下しか賛成せず。

 2007年にファストトラックが失効して以来、アメリカの政府は議会から通商交渉権限を与えられていない。もともとなかなか授権してもらっていないのが現実であり、オバマ大統領は今回TPA法案が否決されると、任期中にファストトラックをもらえない初めての大統領になるかもしれない。

<採決の前提条件、党議拘束なし>
 そうした中で、私がこれまでにアメリカの新聞、業界紙、TPPに反対するネットワーク等で入手した情報に基づいて、TPA法案の採決を予測すると以下のとおりである。(ただ、TPPを阻止するには残念ながらアメリカ議会がTPA法案を否決してくれることを願う以外になく、私の希望的観測が入ってしまっていることを承知でお読みいただきたい)
 まず、上下院の構成は上院100中、共54・民45・その他1、下院435中、共245・民188・その他2である。従って、TPP法案は日本のようにガチガチの党議拘束で野党共和党が全員賛成すれば簡単に通るのだが、アメリカ議会は民主的なのだ。

<上院は共和党の大半が賛成で可決の可能性>
 民主党の女性大統領候補の1人でもある Elizabeth Warren上院議員はISD等に絶対反対であり、filibuster (議事妨害 アメリカは質問時間の制限がないため、1人で何時間でも質問できる。反対者は審議を延ばし、採決を延ばすためにこの方法をとることができる)を使って抵抗するかもしれないといわれている。このフィリバスターを止めるには60が必要だが、民主党議員はフィリバスターを止めるのに賛成しないとみられ、ウォーレンの長時間質問が行われる可能性が高い。
 しかし、抵抗はそこまでで、共和党の反対者は多くとも茶会の5と製造業州(オハイオ、ペンシルバニア、ミシガン、イリノイ等)の約20のうちの数人に限られると思われる。民主党45のうち、TPA支持者は4分の1にすぎないとされる。委員会では12の賛否は6と6の半々に分かれた。
 こうしたことから票読みをすると、(共54―茶会5-製造業州10≒40賛成、民45―反対31(財政委員等)≒13 → 40+13≒53と)可決の可能性が高い。

<下院は相当僅差>
 問題は下院である。共和党245、民主党188と共和党が戦後史上2番目の圧倒的多数を占めている。可決には半数の218が必要。
 しかし、共和党の保守派(茶会62)は、国家主権(sovereignty)を重視し、ウォーレン上院議員と同様にアメリカ政府、州政府、市が、外国企業に訴えられるISDには反対である。これに雇用喪失を心配する製造業州の約52の中からかなりの反対者が出るとみられる。また、移民問題やキーストン・バイプラン問題で拒否権発効をちらつかせる尊大なオバマ大統領に、これ以上の権限を与えることを潔しとしない議員も多くいる。かくして60近くが反対に回るとみられている。
 一方、労働者、家族農業者、環境団体、消費者団体等を支持母体とする民主党は、大半が反対である。しかし、ビジネス重視するニューデモクラット41と財政支出縮小を唱えるブルードック14の2つのグループは、主張が共和党に近く、ここから数10の賛成が出るといわれている。ただ、レビンをはじめとして2011年に米韓自由貿易協定を支持した多くの長老議員たちも、ファストトラックには反対を表明している。従って、賛成は今のところ15人程度には達しないと見込まれる。こうしたことから票読みすると、(共245-60(茶会・製造州)≒185賛成、民賛成15→185+15=210)否決される可能性が高い。

<今後の修正協議とロビー活動の影響>
 ただ、農業界、保険業界、薬品業界等TPP推進派のロビー活動が繰り広げられており、賛成に回る者が出てくる可能性もある。
 この予測が崩れる第一の可能性は、オバマ政権が何が何でもTPA法案を通すために、民主党議員に大妥協して為替操作と貿易調整支援を大幅に認めることである。これにより懐柔された民主党がなだれを打って賛成に回る。アッという間に成立してしまう。
 そのかわり、日本はアベノミクスの唯一の成功である、円安誘導による輸出拡大が為替操作と判定され、制裁を受けることになる。これでは何のためのTPPかわからなくなり、アベノミクスの矛盾が露呈する。

<共和党保守派の寝返りもありうる>
 この予測が崩れるもう一つの危険は、共和党保守派が賛成に回ることである。
 その言い訳なり大義名分は、アメリカと日本だけが参加しないアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対抗するためには、日米が共同してTPPを成立させなければならない、というものである。オバマ大統領も「中国のような国ではなく、我々が世界経済のルールを書いているとはっきりさせないといけない」と、保守派の支持を得んとしている。
 非常に情けないことだが、日米が交渉すると二言目にはアメリカに守ってもらっている見返りに、日本が理不尽な妥協をしなければならないという、もっともらしいご託宣が出て来る。こうした交渉は、日米構造協議(2+2)でやればいいのであって、経済まで持ち込むことはごまかしである。もうこんな卑屈な交渉はやめにしなければならない。