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2015年05月25日

【政僚シリーズ3】橋下徹市長政界引退宣言にみる政治家の出所進退 -潔い「去り際の美学」を示してほしい- 15.05.25

<潔い政界引退>
 5月17日、大阪都構想をめぐる住民投票が僅差で反対多数となり、7年半にわたって繰り広げられた「橋下劇場」政治は一段落した。橋下大阪市長は、不利と伝えられた事前の世論調査結果を得意の土俵際のパフォーマンスにより巻き返しを図ったのか「賛成多数にならなかったら政界を引退する」と発言して無党派層取り込みを図った。
 結果は、大阪市民が大阪都(大阪市がなくなること)を受け入れるところにならず、橋下市長は、選挙前の約束どおり、即座に政界引退表明をしている。しかし、差は僅か1万700票余だった。そうした中、この潔い出所進退は見上げたものである。笑顔で記者会見するあたりは、政治生命を堵けたという大阪都構想も、所詮ゲーム感覚でやっていたのかもしれないが、これで完全に政治の世界から身を引くのだとしたら心より歓迎したい。小泉首相ばりの劇場型政治で振り回されるのはあまり好ましくないからである。

<納得できる地方行政の効率化>
 橋下大阪市長の言い分のうち、地方分権の重要性を訴える部分、特に政令市と道府県のダブりを解消すべしという点はよく理解できる。ただ、従軍慰安婦を巡るどぎつい発言や、脱原発を唱えて格好いいことを言っていたかと思ったら、いつの間にかころっと寝返って、大飯原発の再稼動を容認したりする政治姿勢は、とても私の許容範囲を超えていた。
 記者会見で、「7年半税金で好き勝手させてもらったことに感謝する。私利私欲の弁護士に戻る。民主主義はすばらしい」といつもの橋下節が炸裂した。橋下市長が認めるとおり、大阪都構想のメリットが十分に大阪市民に浸透しなかった。また、その手法が性急すぎることも否定される原因の一つとなった。
 政治はプロセスも大切だが、もっと重要なのは結果である。大風呂敷を畳み、消え去るのが当然である。

<芸術家の華も10年、演技者たる政治家の華も10年>
 政治家の出所進退で印象に残っているのは、同じエコロジスト仲間の中村敦夫元参議院議員の「国会議員たるものそんなに長くやれるものではない。政治も演技であり、一流の演技を続けられるのはせいぜい10年くらいだ」という指摘である。芸術家もいつかは人によって違うが、10年ぐらいが旬の時で、それ以降は惰性でやっているだけだという。中村さんは、「こんな消耗する仕事(政治家)を20年も30年もやっている者の気がしれない。いい加減にやっているからできるのだ」と笑いながら言ってのけた。そして、俳優10年、キャスター10年の後、参議院議員10年(2期12年)の予定が、2期目の当選がかなわず引退した。その後俳優に戻り、今も朝ドラの『まれ』の頑固じいさんの役で健在である。

<欧米社会の政治のトップは2期8年が常識>
 そういえば、いつぞやアメリカの大統領の政治歴を調べたところ、ジョンソンとフォードの2人(若い大統領の補佐役の副大統領から大統領になった)を除き、15年~16年の政治生活の後に大統領になっている(「米・仏にみる国のトップの資格と選び方」(11年8/23)別表「歴代アメリカ大統領の前歴・職歴」)。中村さんの指摘どおり気の張る政治、まして世界を動かす超大国のトップはそれほど長くやれるものではないと得心した。
 欧米社会では2期8年が大統領なり首相の任期になっている。あのプーチンですら2期8年大統領をやり、その後メドベージェフに渡し、また復帰している。日本の知事や市長の多選がひどすぎるのだ。橋下弁護士が政界に転じて7年半、飽きっぽい有権者も離れつつあるようであり、丁度いい潮時かもしれない。

<理解に苦しむ居座り元総理>
 首長が長過ぎるのとは正反対に、日本のトップはくるくる変わりすぎである。そのせいか、かつては元首相の衆議院議員がごろごろいた。ところが小泉首相が中曽根・宮沢両大先輩に引導を渡した後は少なくなった。羽田首相は、二大政党制を目指す政権交代を見届けて引退した。海部首相のように落選して政治生活を閉じている人もいる。
 それに対し、細川・村山・小泉・福田・鳩山の5人の首相は、次の衆議院選挙で引退している。従って今は元首相の国会議員は、自民党では麻生副総理1人、民主党には菅・野田の2人がいる。消費税増税やTPPだとやはり大風呂敷を広げて自らの功名に走り、日本に初めて訪れた二大政党制を崩した張本人であり、橋下大阪市長以上に退陣してしかるべき政治家である。2人とも顧問か懲罰委員会ぐらいしか居場所がない。余力があるなら元首相として院外で活動してもらったほうがずっと世の中のためになる。好例が、細川・小泉の2人の元首相の脱原発運動である。

<気になるワンポイントリリーフ発言>
 ただ気がかりなのは、「自分のような政治家は、ワンポイントリリーフでいいのだ。私は7年半自分なりにやれることはやってきた。政治家冥利につきる」という思わせ振りなセリフである。
 私からすると、大衆受け狙いの演出の臭いがしてならない。なぜなら、あれだけ大阪都にならなければ大阪は沈むばかりだと言っていたのに、記者会見では自分のことばかりで、少しも大阪の将来に関するフレーズは聞こえてこない。ひょっとすると元々大阪都構想などどうでもよく、前述のようにやたら敵を造って政治ゲームを楽しんだだけではないかと疑いたくなる。茶髪とサングラスの目立ちたがりの弁護士が、TVの人気者に飽き足らず選んだのが、政治の世界だっただけかもしれない。今回の住民投票は、橋下徹の人気投票ではなかったが・・・。

<二度目の嘘はあるまじき>
 一部マスコミは、既に安倍首相が内閣改造で民間大臣に任命して、政界復帰などと報じている。維新の会の松野頼久新代表も、23日に「政治家をやる目的がなくなった。また『これだけはやらなければならない』という目的が見えた時、戻ってくる可能性がある」と希望的観測を述べている。
 来年の参議院選挙に合わせて、安倍首相からの懇請を口実に「国政レベルでは憲法改正という私の仕事が残っている」とか言って政界にまた復帰してくるシナリオも考えられないではない。平成の時代のTV番組の申し子で、独特の弁舌とキャラで政界の風雲児に昇りつめたのだ。周りが放っておかない可能性もある。大阪府知事選も2万%ないと煙に巻きながら出馬している前科もある。
 しかし、これだけ好き勝手に日本の政界、特に関西政界を翻弄したのである。去る時は鮮やかに去ってほしい。やることがなくなった政界にしがみつく元首相や政策が失敗したり、選挙に負けても責任をとらない政治家に、「去り際の美学」の見本を示すべく、政治ばかりでなくTVのレギュラーにも出ることなく、ごく普通の弁護士として余生を過ごしてほしいと願っている。

2015年05月24日

【TPP交渉の行方シリーズ38】【政僚シリーズ2】 西村内閣府副大臣のTPP情報公開撤回の怪 - 勇み足は出身省経産省のカラーに由来する - 15.05.24

 情報公開については、既にブログに書いたが(TPP交渉の行方シリーズ27 「情報開示に取り組み始めたアメリカと頬被りする日本」15.04.20)、アメリカでは3月18日、フロマンUSTR代表、ルー財務長官等が民主党へ説明に赴き、そこで議員達の袋叩きに合い、大幅な情報公開を約束した。この件について他でも色々議論されたが、私も強く問い質すことにした。

<西村副大臣は情報公開要求につれない答弁>
 しかし、いかんせんTPP担当大臣は甘利大臣であり、内閣府委員会でしか質問できない。だめと分かりつつ、私の所属する経済産業委員会に甘利大臣を呼び出せないかと筆頭理事を通じて掛け合ったが、叶わなかった。そこで仕方なく、副大臣なら他委員会に呼び出せるというルールに従い、50分間たっぷり、TPP、なかでも情報公開について西村副大臣に質問した。
 ところが、西村副大臣はアメリカでも大々的に情報公開をしている訳ではない、日本とアメリカは事情が違うので、一概に同じようなことはできない、となかなか慎重な答弁振りであった。それに対し、私は、情報公開をしなければ日本でも何も進まない、アメリカと日本とで不平等ではないか、ときつく追求した。4月15日のことだ。

<珍しい内閣委と農水委の連合審査>
 それともう一つ農水委、外務委、経産委、内閣委との連合審査の提案である。日豪EPAはほっといたら外務委員会でしか審議されず、さっさと通ってしまう。ところが、日本農業を守るための決議は農林水産委員会で行われている。そこで、昨年秋、私が汗をかいて日豪EPAについて、外務委と農水委の連合審査を行っている。今私は筆頭理事等の役職ではないが、前例を示して(というよりも、正確には若手理事の尻を叩いて)、連合審査を設けるよう働きかけた。その結果、変則的ではあるが農水委と内閣委の連合審査が実現し、やっと甘利大臣を引っ張り出すことができた。私が20分間、甘利大臣にも同じように情報公開についてのみ重点的に質問をした。別途前国会でも提出した情報公開法(議員立法)も提出した。手中的に攻め立てたことが功を奏して、思わぬ成果となって現れてきた。

<西村副大臣の有頂天記者会見>
 その後、5月の連休にアメリカに行ったという西村副大臣が、いきなりTV画面に登場した(5月4日午後3時45分)「テキストへのアクセスを認める方向で検討したい」と、日本もアメリカと同じように国会議員に情報を開示するという記者会見をしているのだ。多分、USTRがアメリカと同じように秘密を守って公開するのであれば仕方ない、と話し合いがついたのだろう。
 ただ、私はこれを見てびっくり仰天しつつ、これでもう実現できなくなるであろうとガックリした。なぜなら、この手の良いことは、甘利大臣が太っ腹で英断を下したとうやうやしく記者会見を開いて公表するのが筋である。それを副大臣が外国で得意になって記者会見などするのは、ルール違反である。心配したとおり、やはりアメリカにいる間(5月7日ロサンゼルス)に発言を全面撤回してしまった。見苦しい限りである。

<日本のルールからはずれる勇み足>
 5月の連休明けの農林水産部門会議で、内閣府の担当者を呼んだところ、担当官はけんもほろろに副大臣発言を全否定したのである。私は「正直な西村副大臣を擁護してやらなければ可哀想ではないか。甘利大臣がいくらダメだと言ったとしても情報公開するほうが正しいのだから」と一応擁護した。西村副大臣も4月15日には防御的な答弁に終始したものの、忸怩たるものがあったのだろう。それが気が軽くなったワシントンで一気に噴出してしまったのだ。甘利大臣だけでなく、菅官房長官も怒りだした。5月12日に農水委の理事会でいくらお詫びをしても後の祭りである。西村副大臣のやり方は、日本の組織の論理からすると大きく外れる。紛れもない勇み足ないし越権行為であり、批判されてしかるべきである。

<緩やかな組織の経産省>
 一口に霞が関の役人といっても、それぞれの役所によって違った役人ができあがる。例えば経産省はスタンドプレーを許す役所である。エネルギー行政などはきちっとしてもらわなければならないけれども、一般的に、民間企業がしっかりしているので、役所は花火を打ち上げていればいいというところもある。才気煥発な役人が出来上がっていく。そういった役所で長年過ごしているとそのカラーが出てきてしまう。
 それに対して財務省の予算、厚生労働の年金、農林水産省の米等は、何事も国がきっちりやらなければならない仕事であり、役人は黒子に徹し軽はずみな発言はできない。そういう仕事ばかりしていると自ずと慎重な役人ができあがる。10年も20年もその役所にいると、国会議員になっても、その母なる役所のカラーをそのまま背負ってきている者が多い。

<管理職未経験が初歩的ミスの遠因>
 西村副大臣は、経産省で14年しか勤めていない。それに加えて、政治家になろうとして飛び出た人である。一般的な経産省の役人以上に、目立とうとするのはやむをえない。その癖がでただけのことなのだ。
 この件は今後の政僚シリーズで詳述するが、霞が関の政策決定システムを肌で感じて身につけるには、やはり○○課長の経験が不可欠である。西村副大臣が気難しい関係者の多い課の課長職を経験していたら、多分こんな初歩的ミスはしなかったに違いない。

<スキャンダル以上に追求すべきTPPの秘密性>
 明らかに閣内不一致であり、厳しく追及されてしかるべき大問題である。TPPは問題ばかり協定であるが国会議員にはもちろんのこと国民にもTPPの内容を知らしめないというのはこの情報公開の世の中に、時代錯誤も甚だしいものである。重要品目の関税引き下げ等について内容が知られたら、とても受け入れられるものではないことが暴露されるからであろう。
 また、12ヶ国のルールを共通化しようというものだが、アメリカだけが国会議員に協定文を見せ、日本では見せないというのはそもそもTPPの本旨にもどることになる。つまりで出しからして不平等なのだ。のっけからこれだけISDS等についてもアメリカだけが特別扱いされるのが目にみえてくる。
 このウルトラ秘密性は閣僚のスキャンダル以上に徹底して追及してよい問題である。ところが、西村副大臣に釈明をさせるだけで罷免要求もせずに尻すぼみに終わってしまったのは残念至極である。

2015年05月21日

【TPP交渉の行方シリーズ37】TPAで揺れ動くアメリカ議会  - 知れば知るほどTPPの反対が増えているアメリカ - 15.05.21

 私がアメリカ議会の採決を予測したのは、連休前(4月28日【TPP交渉の行方シリーズ33】TPA法案の行方を予測する)。下院の否決に期待したが、その前に上院でも既に大混乱に陥ってしまった。予想外のことである。

<民主的な議会ルール:討議拘束なし、審議入りに60%の多数決>
 アメリカの議会は、日本と比べ格段に民主的である。何よりも党議拘束がなく、個人個人の議員が自ら判断して賛否を決める。
 まず、いくら反対があっても審議に入るかどうかから採決に入る。そのためには上院では6割すなわち60票が必要である。審議入りぐらいはスムーズにいくと高をくくっていたら、賛成52、反対45と民主党から1人しか賛成せず、審議入りできなかったのだ。

<早すぎる反対の狼煙(のろし)>
 大半の人は、上院でさえこれだから、下院が通るはずがないと思っただろうが、私は全く逆で、反対の兆しが早すぎるというのが実感であった。つまり、何でもありのアメリカの議会は、TPA推進派(つまりはTPP推進派)が猛烈な巻き返しをしだし、その軍門に下る者が続出したりする恐れがあるからである。気がついた時には遅すぎるとなること、もっと先に通過しそうにないことがわかるのが理想なのだ。最初からこれだけ揉めると、オバマ大統領(ホワイトハウス)、共和党の自由貿易推進論者、農業団体、医薬品企業、金融・保険会社等が、金にものをいわせてロビー活動をしだすことが目に見えているからである。オバマ大統領は、10人の民主党議員をホワイトハウス呼び出すなど、与党分断工作を行った。

<強烈な巻き返しで上院は審議入り>
 案の定、翌日(5月14日)には、マコーネル共和党上院院内総務とワイデン民主党財政委員会筆頭理事の間で、TPAとTAA(貿易調整支援法)を併行審議するという妥協が成立し、審議入りのための採決が行われ、賛成65、反対33で可決し審議が始まることになった。今回は民主党から13人が賛成に回ったことになる。アメリカの場合も日本と同じく本会議で何日も審議時間が伸びることはなく、30時間以内と決められている。審議入りには60票必要だが、可決には50票ですむので、上院の採決が決まったと同然である。早速私の懸念通りになってしまったのだ。

<6月以降の下院が鍵を握る>
 ただ、先は全く不透明である。
 まず、上院でも次々と新しい修正案が出され、更に修正が行われる可能性もある。修正協議が整うと、再び採決が必要となり、また混乱が予想される。そこに今週末から月末まで休暇が入ってくる。従って、5月中にTPAが上院を通過する見込みはほとんどなくなった。となると、問題はやはり下院である。審議入りは6月以降とみられるが、レビン修正案等が手ぐすねひいて待っている。

<急浮上する為替条項問題>
 日本にとっても他の締約国にとっても、為替操作条項という大きな問題が急浮上している。前述の両党の折衝で、為替操作条項がきつい表現になって取り込まれたのだ。これを新たに突きつけられると、他の国はおいそれと署名できなくなる。何でもアメリカの言いなりの日本でも5/15日の説明会では、為替操作条項が入ったらTPPに入らないと明言しているくらいで、もうTPPはご破算である。AIIBは運営が不透明だとして日米ともに参加しないが、為替操作条項こそ、とてつもなく不透明であり、とても容認できるものではない。
 TPAなしのアメリカは何を言い出すかわからず、16~25日のグァムの首席交渉官会合も、各国が妥協するとはとても思えない。

<円安で史上最高収益をあげる輸出企業>
 為替操作条項が具体的にどのようなものかは、既に過去2回のブログ(【TPP交渉の行方シリーズ31】TPPに入った為替(通貨)条項15.04.24、【TPP交渉の行方シリーズ34】 アメリカでTPP、TPAに反対する仲間 15.05.01)で説明しているが、ここにより具体的な紹介をしておく。為替は常に変動するが、何をもって操作とするか全くわからない。安倍総理になり、1ドル78円くらいだったのが今や1ドル120円の円安。関税に換算すると40%ぐらい下がったのと同じとなり、輸出企業は大儲けである。トヨタが日本企業では初めて2兆円を超える史上最高の利益を上げたのも、とてつもない円安のおかげなのだ。事実として、日本(企業)は円安で大儲けしており、アメリカが怒り狂うのは無理もない。円安のお蔭だけで日本車をはじめとする日本製品がどんどん輸入され、関連する国内企業が立ち行かなくなり倒産し、労働者が失職し…となって日本に文句を言いたくなる図式は手に取るようにわかる。

<為替操作には賛否入り混ざるアメリカ>
 これを日本政府の為替操作だと誰がどのように判定するのか。
 明らかに日本政府が為替市場に介入している明白な事実があるならば対抗措置もとれるが、いくらアメリカでもそうはいくまい。しかし、そこはしたたかなアメリカである。学者・研究者は、外貨準備高の額で指定できるような仕組みを編み出し、日本が自動的に対象国とされてしまうかもしれない。
 為替操作条項にはイエレンFRB議長、ルー財務長官等いわゆる通貨マフィアはこぞって大反対である。オバマも拒否権を発動するかもしれない。更に通貨は大切な国家の権限であり、国家主権を重視する保守派はこぞって反対することになる。ただ、かつては中国、韓国、今は日本の為替操作がけしからんと騒いでいる者も実は保守が多いのだ。その結果、民主党ばかりでなく共和党も大きく割れ反対する者が更に増えることになる。

<ウォーレン対クリントン>
 クリントン大統領がNAFTAを推進し、ヒラリー・クリントン元国務長官は、TPPでは微妙な立場に晒されていることは別のブログ(【TPP交渉の行方シリーズ34】 アメリカでTPP、TPAに反対する仲間 15.05.01)で述べた。オバマは「TPPは中小企業や労働者のためになると説明していく」と述べ、クリントンは「どんな貿易協定でも雇用を生み出し、賃金を引き上げを安全を守る必要がある」と抽象論を述べるにとどまっている。
 それに対し、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ)は、「TPPがそんなによい協定というなら、今すぐTPP交渉の内容を公開すべきだ」ともっともな皮肉をぶつけている。

<夏休みまでにはまとまらず>
 ウィキリークスがISDS関連の最新協定文を流したこともあり、今アメリカでもTPPは広く国民の知るところとなりつつあり、反対者がふえつつある。
 他にも人身売買等人権問題も入れろ、○○を入れろと多くの修正案が出され収拾がつかなくなる恐れがある。そして修正案が整うと再び採決が行われ、上院と下院と違う法律になり日本と同じく両院の協議会が開かれるが、大体まとまらず、そのまま夏休みに入るというのが今のところの大まかな予想である。
 また、新聞報道によると、閣僚会合を5月中にはやらないことが決定されたようである。

2015年05月15日

【TPP交渉の行方シリーズ36】【安倍農政批判シリーズ10】昔若気の至り、今傲りと卑屈の極み ‐農業・農民を馬鹿にし、国益を損ねた安倍米国議会演説‐ 15.05.15

<安保法制で威勢がよすぎる安倍節>
 安倍首相のアメリカ議会での演説の一部が問題視されている。安保法制を夏までに完成させるといった希望・意欲を述べたことが、国会軽視だ、国民軽視だというのである。そういえばそうかもしれないが、安倍首相が弁明しているとおり、アメリカで初めて発言したのではなく、ずっと言い続けてきたことである。あれこれ注文ばかりつけていたのでは、外国で前向きな発言ができなくなってしまうが、一国のトップの一言はそれだけ重みがあるということだろう。
 安倍首相は長期政権になんなんとしているのであり、今後一層細心の注意を払ってもらいたいと思う。

<トンデも発言はむしろ農業部分>
 ただ、そういって弁護しておいてなんだが、私は問題の発言はむしろ農業関係部分にあり、これこそ我が国の農業・農民を侮辱し、国益を損ねるとんでもない演説と指摘せざるをえない。そして安保法制発言と異なり、国内では農産物5品目は守ると言いながら、アメリカでは全く逆のことを言って媚びているのである。
 その全文を下記に表す。

強い日本へ、改革あるのみ
 実は…、いまだから言えることがあります。
 20年以上前、GATT農業分野交渉の頃です。血気盛んな若手議員だった私は、農業の開放に反対の立場をとり、農家の代表と一緒に、国会前で抗議活動をしました。
 ところがこの20年、日本の農業は衰えました。農民の平均年齢は10歳上がり、いまや66歳を超えました。
 日本の農業は、岐路にある。生き残るには、いま、変わらなければなりません。
 私たちは、長年続いた農業政策の大改革に立ち向かっています。60年も変わらずにきた農業協同組合の仕組みを、抜本的に改めます。

<自虐規制史観から自虐農業史観に飛躍して国益を損ねる>
 安倍首相は野党党首時代、菅首相がダボス演説において「第3の開国」と発言したのに対し、「自分の国が閉ざされていると自ら言う首相がいるか」と批判した。もっともなことである。ところがその安倍首相が「日本を世界で1番ビジネス活動をしやすくするため、自分は厚い岩盤規制を砕くためのドリルの刃になる」とあちこちで言っては、菅首相と同じ間違いをしている。私はこの矛盾を予算委員会において、安倍首相が日本の第二次世界大戦に反省することを自虐史観と批判することに対して、「日本が規制だらけの国と決めつけるのは『自虐規制史観』を持っている」(2014年01月31日)と釘を刺しておいたが、今回のアメリカ議会演説でも改まることがなかった。
 そして、今回はそれに加えて、こともあろうに熾烈な農産物関税交渉の相手国アメリカに対して、『自虐農業史観』を披露してしまったのである。これでは国会決議は守れるはずはないし、国益を著しく害しているといわねばならない。

 安倍首相のいう「若気の至り」の国会座り込みは、私の記憶にも残っている。今は亡き農林族議員のMM.コンビ(農水省では松岡利勝、松下忠洋両農林族議員を親しみを込めてこう呼んでいた)を中心に若手議員が国会正門前に座り込み、この姿がフィナンシャルタイムズ紙の一面に掲載された。本人の告白どおり、その中の1人に若き安倍晋三議員もいたのであろう。

<売米(コメ)、売農業・農村発言はアメリカを喜ばすだけ>
 「はっと息をのむ美しい日本の田園風景は死守する」という安倍首相のアメリカ議会演説は、日本の農業は国の基礎であり、これを守るためにはアメリカにも譲歩してもらわなければいけないと訴える絶好機だったのである。TPAに反対し、TPPにも反対する与党民主党の議員は、理解を示して拍手しただろう。ところが全く逆の屈辱的発言、怒り心頭に達する裏切り発言である。アメリカ農業団体は、これでいくらでも譲歩を勝ち取れると拍手喝采し、夜は美酒に酔いしれたであろう。

 安倍首相のこの「売米(コメ)」、「売農業・農村」発言は前述の菅首相の第3開国発言や安倍首相の安保法制発言どころではない。今現に進行中の日米農産物関税交渉で、妥協しっぱなしであることを物語っている。その上でこれを秘密交渉とやらで、国民にも農民にも内密のまま最後までほっとかれてはたまらない。

<全く意味がなくアメリカが利するだけの農協改革への言及>
 施政方針演説で異例の力説した農協改革についても言及し、これまたアメリカの金融・保険業界をも喜ばせている。郵政の郵貯・簡保の次に担っている農協の貯金・共済を差し出さんばかりのささやきなのである。そこまでアメリカにサービスし、日本の農業や農村地域社会を壊そうとしているのか心配になってくる。 20年以上前が「若気の至り」だったというなら、今は「傲りの極み」といえる。そしてアメリカに対してはまさに鴨がネギを背負いかつへりくだり「卑屈の極み」を見せてしまったのである。これこそ野党・マスコミをあげて糾弾すべきことである。
 どこかでも触れたが、官邸では政務の首相秘書官も広報官も経産官僚であり、その歪んだ考え方がこういう時に露呈し、日本の行方を誤らせている。

<農業を見殺しにしてきたのは日本>
 日本の農業が衰えたのは、世上流布されている「農業過保護」とは全く逆で、農業を蔑ろにしてきたからなのだ。14年2月27日のTV入りの予算委員会質問の中で、この点をしてきしたところ、多くの方から励ましのメールをいただいたので、その概要を3月10日と3月14日のブログで報告した。今回は、その要旨を再掲し、誤りを正しておく。
 日本では農業は保護されてこなかった。EUは手厚く農業を保護し、アメリカも日本よりもずっと保護の度合が強い、だから、農村は生き残ったのである。

(日・韓・英・仏・独・米の6か国の比較)
① 農業予算の生産性(予算と比べて生産額がどれだけかという比較)
  日本が2.49と1番効率がよく、イギリスは1.28で6位(日本の2分の1)、アメリカが1.81で4位

② 一農家当たりの農業予算
  日本は9,200ドルで6番目で一番少ない。ドイツは48,100ドルで一番多く(日本の5倍)、アメリカは38,600ドルで5番目(日本の4倍)

③ 一農家当たりの直接支払額
  韓国が6番目で最も少なく、日本は5番目で3,100ドル、フランスが21,556ドルで1番保護水準が高く(日本の7倍)、アメリカは5,909ドルで4番目に高い。

 日本の予算の推移でみても、農業がいかにしいたげられてきたか一目瞭然である。1970年との比較と総予算に占める割合。
 これを日本の総予算に占める農林水案予算の割合の推移でみると、農業がいかにしいたげられてきたか一目瞭然である。厚生労働省の予算は1970年には8.9%だったが、2012年には31.8%と3.6倍に増えた。一方文科省は11.4%から5.8%と半減し、防衛省も7.2%から5.1%と3割減ったのに対し、農水省は11.5%から2.5%と5分の1に急減している。

<欧米諸国はこぞって自国農業を守っている>
 つまりアメリカが農業に強いのは、国が支えているからであり、ヨーロッパの農業がそれなりにやっていけるのもEUの共通農業政策が下支えをし、国が守っているからなのだ。
 それに対し日本は、農業を口先だけで、少しも守ってこなかったのである。だから若者も敬遠し、就業者の平均年齢が66歳になってしまったのである。そして、それでも何とかもってきたのは農協が下支えをしてくれたからである。この事実を安倍首相の言葉を借りれば、「プロパガンダ」「マインドコントロール」により「農業過保護」の誤ったイメージが定着してしまったのである。
 そして、この間違いをアメリカ議会演説でもしてしまったのだ。これは、安保法制どころの話ではない。まさに国を売った嘘の演説なのだ。

 連休明け安保法制を突然「平和安全法制」と名を替えて法案審議に入ったが、アメリカではTPAの議会通過が危うくなりつつある。天網恢恢疎にして漏らさず、強引すぎる日米首脳には天罰がくだりつつあるのかもしれない。

2015年05月08日

【TPP交渉の行方シリーズ35】 AIIBの外交失敗をTPPで取り戻さんとするオバマ政権 ‐ 安倍政権は対中強硬、対米追従の極端外交を正すべし ‐ 15.05.08

<連休明けに政治は動く>
 日米首脳会談、そして池田勇人首相以来 54年ぶりの米議会演説という政治・外交ショーが終わり、連休明けの政治が始まろうとしている。
 そういえば、4年前は民主党政権で、私は菅首相に連休明けの打つ手を進言し、2011年5月10日にはそれが実行されていた。まだ4年しか経っていないが、今や民主党は弱小政党でしかなく、政権党にいたのはもうかなり前のような気がしてならない。
 今は、何をしようとしても実現には手間がかかる立場である。まして、外国がらみはもっともっと隔靴掻痒の感が否めない。
 しかし、日本国の政治家であることに変わりはなく、主張し続け、活動し続けなければならない。

 
<AIIBに不参加の理由>
 言訳と格好付けばかりの安倍外交の中でも、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を巡る動きは最も見苦しく映る。
 アメリカと共同歩調をとり、アジア諸国はもちろん、G7のヨーロッパ諸国も加盟する中、日米2ヶ国のみが参加しないことになった。運営の透明性が確保されていない。公正さに欠け、中国の思い通りにしかならない。日本の意向は無視される。環境破壊の恐れがある等、不参加の理由が並べられている。

<中国発のバスは乗らないのか>
 不思議なことに、経済界からもマスメディアからも、TPP交渉参加時の「バスに乗り遅れるな」という声がほとんど聞こえてこない。同じアジアのことなのに、アメリカ発(正確にはP4発)のバスには乗り遅れてはならないが、中国発は乗ってはならないのだろうか。日本以上のアメリカの同盟国のイギリスもG7の先陣を切って参加しているというのに、あまりの違いに驚かされる。
 TPPこそ、交渉過程からして不透明そのものである。それに対し、AIIBは、今後年8000億ドルに及ぶというアジアのインフラ投資のための国際機関である。アジア開発銀行(ADB)の年200億ドルではとても対応できないことは明らかであり、することははっきりとわかっている。得体の知れないTPPとは全く別物である。

<アメリカ外交の大失態>
 アメリカのほうがずっと素直である。シンクタンク戦略国際問題研究所は、AIIBへの不参加を外交上の大失態とし、オバマ政権はそれをTPPで取り戻そうと必死になっている、と指摘している。TPPを日米共同の対中包囲網として進めるべきだという論者もいたが、AIIBで日米が完全に包囲される形となった。日米同盟と違い、TPPは軍事同盟ではない。AIIBもIMF、世銀、ADBと同じ投資のための国際機関にすぎない。アメリカの進めることには盲目的に従い、中国に対しては何でもかんでも絶対的強硬路線をとる安倍政権は、アメリカ以上にズレた外交的失敗を繰り返している。領地紛争を抱えるフィリピン、ベトナムも参加し、韓国、豪州、台湾といったアメリカと軍事関係の緊密な国々も入っている。それを日本がただ1国参加していないのだ。

<イギリス以上にアメリカに追従する哀れな日本>
 私は日本が中国と一線を画して日本の判断で独自路線を歩むのなら、それはそれでかまわないと思っている。最近の中国の思い上がりに対して毅然とした態度で臨んでも、とやかく言われる筋合いはない。しかし、「周辺国が中国に従属する16世紀型の再現」(ラッセル国務次官補)といった、アメリカの時代がかった対応に引っ張られているだけだとしたら、それこそアメリカ以上の大失態に他ならない。もともと中国にもアメリカにも同じように堂々と対応すべきなのだ。それはアメリカに対しては卑屈、中国に対しては傲慢が過ぎるのだ。
 AIIBの設立ももとはと言えば、IMF改革が行われ中国の出資比率をアメリカ、日本に次いで3番目にすることが決められていたのに、アメリカ議会の反対で先延ばしになっていることにも起因している。また既存の機関が新興国投資を渋っていることから、AIIBへの期待が高まるのは当然である。2020年には中国のGDPは日本の3倍になると予測されており、中国は金融投資の重要性に気付き、新興国が中国マネーに期待し、他の先進国が経済的利益の分け前にあずかろうとするのは当然のことである。

<アメリカ発のTPPのほうがずっと危険>
 アメリカは意地になり大失態を覆い隠すためにTPPをさっさとまとめようとしている。さもなければアジアにおける中国のリードを許してしまうと恐れているからだ。訪米時に発した日米共同ビジョン声明では、全文の一割以上をTPPに割き、両大国がいかにTPPを重視しているかを力説した。付加えてAIIBを意識して「日米両国のリーダーシップは、TPPを通じた貿易及び投資、開発協力を含む」と牽制した。
 日本がそのアメリカにばかり歩調を合わせるとしたら、それこそ二重に国を誤らせることになってしまう。AIIBで動くのは、カネだけである。それに対し、TPPはヒト、モノ、カネが国境を越えて動き、日本社会に定着した制度を崩壊させることが目に見えている。国民生活が脅かされてしまうのだ。
 近隣諸国の社会基盤の整備に貢献せんとするAIIBに背を向け、日本の社会的基盤を根底から覆すTPPにのめり込むのはあまりに愚かな外交である。AIIBに慎重になり立ち止まったのなら、TPPにこそ立ち止まって考えていき、全く逆の行動をとろうとしている。矛盾以外の何物でもない。

<FTAAPに向け、日米中が協力すべき>
 日米両政府は、TPPには前のめり過ぎ、AIIBにはつれなさすぎるという異様な態度をとっており、アジアで2大国が孤立しつつある。両極端な対応が著しく不自然にみえる。どこかが歪んでいるのである。両国とももっと冷静にならなくてはならない。
 そういえばAPECでは包括的で質の高い経済連携の強化を目指すFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)の実現こそがコンセンサスになっている。AIIBもTPPもその一手段にすぎない。中国抜きでアメリカと日本だけでは実現できず、アメリカと日本抜きの中国だけでもFTAAPは達成できない。
 日米ともにAIIBに参加するかわりに、TPPも一時中断して中国を入れるべく、もっと緩やかなものにして出直したらよいのではないか。

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