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【TPP交渉の行方シリーズ34】 アメリカでTPP、TPAに反対する仲間 ‐ アメリカの反対者の理由を検証する ‐ 15.05.01

 TPPは日本では2012年秋から大問題になった。アメリカではつい最近、オバマ大統領が2期目の遺産(legacy)と言い出すに及び、日本と同じ国政の重要課題になっている。ただ、その国民への浸透度合いは、多様な価値観のある広大な国であり、日本と比べて相当薄い。しかし、やっとアメリカ議会も地方自治体(州政府、市)も国民一般もその酷い内容を知り、騒然としだしている。その反対の理由が日本とは多少異なるところもあるので、この際順不同で紹介しておく。

<民主党国会議員>
 レビンをはじめとする製造州(ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア、イリノイ等)選出の民主党下院議員が採決の鍵を握る。彼らの反対の理由ははっきりしている。NAFTAがアメリカの雇用を相当喪失させたことから、以後一貫して自由貿易協定には反対している。また、彼らが為替操作条項等を入れろと迫り、秘密交渉に反対していることは別稿で述べたので省略する。
 最近俄然脚光を浴びているのが、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ)である。民主党の左派の代表であり、「ISDSは、環境団体や労働団体にも与えられていない保護を国際的企業に与えて、アメリカの規制を骨抜きにする」と、後に触れる共和党のTea Party(茶会)と同じことを主張し、強烈な反対論をぶっている。この左右両派の強調はunholy alliance(いかがわしい同盟)と呼ばれ、TPP法案の行方を大きく左右している。
 最近では、民主党の16年の大統領選のヒラリー・クリントン候補に対して、TPPについて賛否を明らかにせよと迫っている。ヒラリー候補の人気は、国務長官時代のメールの公私混同や外国人からの違法献金等で攻撃に晒され下がっている。 夫のクリントン大統領がNAFTAを導入し、何回もファストトラックを取ろうとしていたし、上院議員時代はもともとニュー・デモクラッツと呼ばれる南部諸州のビジネスフレンドリーなグループの一人だった。ヒラリーがオバマと違うことをアピールしてTPP反対を打ち出せば、民主党の賛成勢力は総崩れとなる。逆だとウォーレンが浮かび上がってくる。今後のヒラリー候補の態度が注目される。
 デローロ下院議員(女性、コネチカット)は、「議会は、私たちが代表している人々の雇用や賃金のために戦う責任を負っている」として、地道にTPP反対の活動を続けている。情報公開後の条文も読了している。また、下院院内総務のペロシ議員(女性、カリフォルニア)も、レビンの対案を支持し、原案のTPAには反対している。2人も女性であり、やはりTPPは相容れないのだろう。 
 男性では、リード元上院院内総務(ネバダ)は、最初から絶対反対を貫いている。なお、ユッカマウンテンの使用済核燃料の最終処分場建設にも待ったをかけた張本人である。
 他にシューマー上院議員(ニューヨーク)は、時期院内総務といわれ、スタベノウ上院議員(ミシガン)とともに為替操作禁止を強く主張し、TPAに反対している。

<共和党の保守派>
 Tea Party(茶会)はもともと自由貿易推進派である。ところが、ISDSが国家主権を損ねているということで、とても受け入れようとはしない。アメリカ政府、州政府等が外国企業から訴えられ、賠償金まで支払わされることを保守派が許すはずがない。ウィキリークスが最終条文を入手し、今国民の前に晒され、ますます反対が大きくなっている。
 オバマは、移民に対して軟弱な態度を取り、カナダからのパイプラインも環境上の理由から反対しており、いずれも茶会グループと対決している。こうした問題について、議会に対して拒否権を発動すると脅している。他にも突然のキューバとの国交回復もやはりあまりよく思っていない。オバマは強権を発動する尊大な大統領として、元々共和党の保守派からは相当嫌われている。そうしたことから、オバマにこれ以上の権限、すなわちTPAを与えることなどもっての外ということになる。
 ジョーンズ下院議員(ノースカロライナ)は、下院ではTPA反対が日増しに大きくなっていると自信を深めている。
 この件については2013年10月21日の予算委員会で安倍首相に「あなたは本当の保守ではない。TPPに反対する私こそ本当の保守だ」と言って追及した。保守派の漫画家のこばやしよしのり氏はTPPも原発も反対であり、それを本業の漫画で主張している。日本の政治家・学者が支離滅裂なのに、論理が一貫しており見事である。羨ましいことに、アメリカには論理的な政治家、学者が多いのだ。
 それから蛇足になるが、上述のTPP反対の女性弁護士たちはこよなく自国を愛し、自国ががたつくことをおそれている。そういう意味では彼女たちこそ真正保守かもしれない。

<AFL-CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議>
 4月末来日したトラムカAFL-CIO議長は、「悪い貿易は雇用を殺す」とTPA、TPPには絶対反対である。AFL-CIOはNAFTAが500万人の雇用を喪失したとして、TPPには強烈に反対している。TPP、TPAに賛成する議員には当面政治献金を差し止めして、反対運動におカネを使うと議員を締め上げている。このロビー活動はますます強固になっている。既に貿易調整支援を別途法案化することを勝ち取っているが、これくらいではとても満足しまい。
 何回も繰り返してきたが、日本の連合が何故同じような歩調を取らないのか、私には理解できない。

<アメリカ自動車工業界>
 これは言わずと知れた理由、日本から自動車の輸出攻勢をかけられては困るからである。

<市民団体パブリック・シチズンの仲間>
 環境保護、消費者運動、小規模農家(National Farmers Union)、宗教家等の市民グループにも反対運動が広がっている。
 ローリー・ワラック弁護士たちと私は、初めてTPPの会合に行ったブルネイ会合以降、閣僚会合のたびに情報を交換し合い濃密に付き合っている。もう一人、マレーシアとオーストラリアとジュネーブを股にかけて飛び回る女性の弁護士、サンヤ・スミス(Third World Network)がいる。日本で何回も「TPPを慎重に考える会」や「TPP阻止国民会議」で講演してもらっているNZのオークランド大学のジーン・ケルシー教授とともに、私にとっては大切な情報源である。
 彼女たちは生活の視点から見ているのであろう。巨大企業が市民生活をないがしろにするということを許さず、食の安全性、ISDS、健康保険、知的所有権等幅広い問題を追っている。多国籍企業のほしいままに決められているTPPを監視し、国民を守ろう(つまり国益を守ろう)とする価値観が私と全く一致している。アメリカの巨大医薬品メーカー、保険会社が日本の健康保険制度を攻撃しているということも岡目八目でよく分かるのである。彼女たちから教えられることは多い。

<市議会>
 アメリカは合衆国であり、普通なら国の取り仕切ることを州政府が行なっていることがよくある。植物検疫、動物検疫が典型である。その州政府あるいは市がISDSにより例えば日本の企業から訴えられ、賠償金を支払わされるということにやっと気が付き反対し出した。州議会ではまだないが、既に5つの市議会が反対決議を行なっている。早いのでは2013年10月29日マディソン市(ウィスコンシン)が最初で、最近では2015年2月17日にリッチモンド市(カリフォルニア)が、国がTPPを締結しても我が市は影響を受けないフリー・ゾーンにすると宣言している。
 また、3月30日にはシアトル市(ワシントン)が貿易の拡大により利益を受ける港湾倉庫労働者(沖中士)が多い港湾都市であるにもかかわらず、TPPはアメリカの労働者、農業者、環境に悪い影響を与えると、反対決議をしている。こんなことは日本ではとっくの昔にいろいろな市議会、県議会がしていることであるが、日本政府は地方の声を無視したままである。

<著名な経済学者>
 クリントン時代のコンサルタントをしていた2人の著名なノーベル賞受賞者、グルークマン、スティグリッツ、そして自由貿易論者のサックス、元労働長官ライシュ等が全てTPPに批判的である。スティグリッツは、来日した折も、TPPは特定企業のための「管理貿易協定」で、多くの国民を不幸にするだけだと批判している。
 それに対し、共産主義に代わり、日本でも世界でも最もタチの悪いイデオロギーとなった新自由主義学者は、相変わらず競争や経済効率を追及するだけである。自民党政権に重用される著名経済学者は押しなべてTPP推進で一致している。それに対し、日本人経済学者でノーベル賞に一番近いといわれた故宇沢弘文東大教授は絶対反対していた。やはり物の分かった学者は違うのだろう。

<129人の法律学者>
 日本ではほとんど報じられていないが、3月11日、129人の法律学者等が特にISDSは国家主権を踏みにじるとして、議会に書簡を送りつけた。日本でも「TPP参加交渉から即時脱退を求める大学教員の会」が結成されているが、主として経済学者である。韓国でも弁護士、法学者ばかりでなく裁判官も米韓FTAのISDSを屈辱的な条約だとキュダンし、李明博大統領に再交渉まで提案した。ところが、日本ではごく一部の弁護士が反対するだけである。

 アメリカでも日本と同じく、こういった声が大きくなり、下院でTPA法案が否決されることを願ってやまない。