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【TPP交渉の行方シリーズ36】【安倍農政批判シリーズ10】昔若気の至り、今傲りと卑屈の極み ‐農業・農民を馬鹿にし、国益を損ねた安倍米国議会演説‐ 15.05.15

<安保法制で威勢がよすぎる安倍節>
 安倍首相のアメリカ議会での演説の一部が問題視されている。安保法制を夏までに完成させるといった希望・意欲を述べたことが、国会軽視だ、国民軽視だというのである。そういえばそうかもしれないが、安倍首相が弁明しているとおり、アメリカで初めて発言したのではなく、ずっと言い続けてきたことである。あれこれ注文ばかりつけていたのでは、外国で前向きな発言ができなくなってしまうが、一国のトップの一言はそれだけ重みがあるということだろう。
 安倍首相は長期政権になんなんとしているのであり、今後一層細心の注意を払ってもらいたいと思う。

<トンデも発言はむしろ農業部分>
 ただ、そういって弁護しておいてなんだが、私は問題の発言はむしろ農業関係部分にあり、これこそ我が国の農業・農民を侮辱し、国益を損ねるとんでもない演説と指摘せざるをえない。そして安保法制発言と異なり、国内では農産物5品目は守ると言いながら、アメリカでは全く逆のことを言って媚びているのである。
 その全文を下記に表す。

強い日本へ、改革あるのみ
 実は…、いまだから言えることがあります。
 20年以上前、GATT農業分野交渉の頃です。血気盛んな若手議員だった私は、農業の開放に反対の立場をとり、農家の代表と一緒に、国会前で抗議活動をしました。
 ところがこの20年、日本の農業は衰えました。農民の平均年齢は10歳上がり、いまや66歳を超えました。
 日本の農業は、岐路にある。生き残るには、いま、変わらなければなりません。
 私たちは、長年続いた農業政策の大改革に立ち向かっています。60年も変わらずにきた農業協同組合の仕組みを、抜本的に改めます。

<自虐規制史観から自虐農業史観に飛躍して国益を損ねる>
 安倍首相は野党党首時代、菅首相がダボス演説において「第3の開国」と発言したのに対し、「自分の国が閉ざされていると自ら言う首相がいるか」と批判した。もっともなことである。ところがその安倍首相が「日本を世界で1番ビジネス活動をしやすくするため、自分は厚い岩盤規制を砕くためのドリルの刃になる」とあちこちで言っては、菅首相と同じ間違いをしている。私はこの矛盾を予算委員会において、安倍首相が日本の第二次世界大戦に反省することを自虐史観と批判することに対して、「日本が規制だらけの国と決めつけるのは『自虐規制史観』を持っている」(2014年01月31日)と釘を刺しておいたが、今回のアメリカ議会演説でも改まることがなかった。
 そして、今回はそれに加えて、こともあろうに熾烈な農産物関税交渉の相手国アメリカに対して、『自虐農業史観』を披露してしまったのである。これでは国会決議は守れるはずはないし、国益を著しく害しているといわねばならない。

 安倍首相のいう「若気の至り」の国会座り込みは、私の記憶にも残っている。今は亡き農林族議員のMM.コンビ(農水省では松岡利勝、松下忠洋両農林族議員を親しみを込めてこう呼んでいた)を中心に若手議員が国会正門前に座り込み、この姿がフィナンシャルタイムズ紙の一面に掲載された。本人の告白どおり、その中の1人に若き安倍晋三議員もいたのであろう。

<売米(コメ)、売農業・農村発言はアメリカを喜ばすだけ>
 「はっと息をのむ美しい日本の田園風景は死守する」という安倍首相のアメリカ議会演説は、日本の農業は国の基礎であり、これを守るためにはアメリカにも譲歩してもらわなければいけないと訴える絶好機だったのである。TPAに反対し、TPPにも反対する与党民主党の議員は、理解を示して拍手しただろう。ところが全く逆の屈辱的発言、怒り心頭に達する裏切り発言である。アメリカ農業団体は、これでいくらでも譲歩を勝ち取れると拍手喝采し、夜は美酒に酔いしれたであろう。

 安倍首相のこの「売米(コメ)」、「売農業・農村」発言は前述の菅首相の第3開国発言や安倍首相の安保法制発言どころではない。今現に進行中の日米農産物関税交渉で、妥協しっぱなしであることを物語っている。その上でこれを秘密交渉とやらで、国民にも農民にも内密のまま最後までほっとかれてはたまらない。

<全く意味がなくアメリカが利するだけの農協改革への言及>
 施政方針演説で異例の力説した農協改革についても言及し、これまたアメリカの金融・保険業界をも喜ばせている。郵政の郵貯・簡保の次に担っている農協の貯金・共済を差し出さんばかりのささやきなのである。そこまでアメリカにサービスし、日本の農業や農村地域社会を壊そうとしているのか心配になってくる。 20年以上前が「若気の至り」だったというなら、今は「傲りの極み」といえる。そしてアメリカに対してはまさに鴨がネギを背負いかつへりくだり「卑屈の極み」を見せてしまったのである。これこそ野党・マスコミをあげて糾弾すべきことである。
 どこかでも触れたが、官邸では政務の首相秘書官も広報官も経産官僚であり、その歪んだ考え方がこういう時に露呈し、日本の行方を誤らせている。

<農業を見殺しにしてきたのは日本>
 日本の農業が衰えたのは、世上流布されている「農業過保護」とは全く逆で、農業を蔑ろにしてきたからなのだ。14年2月27日のTV入りの予算委員会質問の中で、この点をしてきしたところ、多くの方から励ましのメールをいただいたので、その概要を3月10日と3月14日のブログで報告した。今回は、その要旨を再掲し、誤りを正しておく。
 日本では農業は保護されてこなかった。EUは手厚く農業を保護し、アメリカも日本よりもずっと保護の度合が強い、だから、農村は生き残ったのである。

(日・韓・英・仏・独・米の6か国の比較)
① 農業予算の生産性(予算と比べて生産額がどれだけかという比較)
  日本が2.49と1番効率がよく、イギリスは1.28で6位(日本の2分の1)、アメリカが1.81で4位

② 一農家当たりの農業予算
  日本は9,200ドルで6番目で一番少ない。ドイツは48,100ドルで一番多く(日本の5倍)、アメリカは38,600ドルで5番目(日本の4倍)

③ 一農家当たりの直接支払額
  韓国が6番目で最も少なく、日本は5番目で3,100ドル、フランスが21,556ドルで1番保護水準が高く(日本の7倍)、アメリカは5,909ドルで4番目に高い。

 日本の予算の推移でみても、農業がいかにしいたげられてきたか一目瞭然である。1970年との比較と総予算に占める割合。
 これを日本の総予算に占める農林水案予算の割合の推移でみると、農業がいかにしいたげられてきたか一目瞭然である。厚生労働省の予算は1970年には8.9%だったが、2012年には31.8%と3.6倍に増えた。一方文科省は11.4%から5.8%と半減し、防衛省も7.2%から5.1%と3割減ったのに対し、農水省は11.5%から2.5%と5分の1に急減している。

<欧米諸国はこぞって自国農業を守っている>
 つまりアメリカが農業に強いのは、国が支えているからであり、ヨーロッパの農業がそれなりにやっていけるのもEUの共通農業政策が下支えをし、国が守っているからなのだ。
 それに対し日本は、農業を口先だけで、少しも守ってこなかったのである。だから若者も敬遠し、就業者の平均年齢が66歳になってしまったのである。そして、それでも何とかもってきたのは農協が下支えをしてくれたからである。この事実を安倍首相の言葉を借りれば、「プロパガンダ」「マインドコントロール」により「農業過保護」の誤ったイメージが定着してしまったのである。
 そして、この間違いをアメリカ議会演説でもしてしまったのだ。これは、安保法制どころの話ではない。まさに国を売った嘘の演説なのだ。

 連休明け安保法制を突然「平和安全法制」と名を替えて法案審議に入ったが、アメリカではTPAの議会通過が危うくなりつつある。天網恢恢疎にして漏らさず、強引すぎる日米首脳には天罰がくだりつつあるのかもしれない。