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【TPP交渉の行方シリーズ37】TPAで揺れ動くアメリカ議会  - 知れば知るほどTPPの反対が増えているアメリカ - 15.05.21

 私がアメリカ議会の採決を予測したのは、連休前(4月28日【TPP交渉の行方シリーズ33】TPA法案の行方を予測する)。下院の否決に期待したが、その前に上院でも既に大混乱に陥ってしまった。予想外のことである。

<民主的な議会ルール:討議拘束なし、審議入りに60%の多数決>
 アメリカの議会は、日本と比べ格段に民主的である。何よりも党議拘束がなく、個人個人の議員が自ら判断して賛否を決める。
 まず、いくら反対があっても審議に入るかどうかから採決に入る。そのためには上院では6割すなわち60票が必要である。審議入りぐらいはスムーズにいくと高をくくっていたら、賛成52、反対45と民主党から1人しか賛成せず、審議入りできなかったのだ。

<早すぎる反対の狼煙(のろし)>
 大半の人は、上院でさえこれだから、下院が通るはずがないと思っただろうが、私は全く逆で、反対の兆しが早すぎるというのが実感であった。つまり、何でもありのアメリカの議会は、TPA推進派(つまりはTPP推進派)が猛烈な巻き返しをしだし、その軍門に下る者が続出したりする恐れがあるからである。気がついた時には遅すぎるとなること、もっと先に通過しそうにないことがわかるのが理想なのだ。最初からこれだけ揉めると、オバマ大統領(ホワイトハウス)、共和党の自由貿易推進論者、農業団体、医薬品企業、金融・保険会社等が、金にものをいわせてロビー活動をしだすことが目に見えているからである。オバマ大統領は、10人の民主党議員をホワイトハウス呼び出すなど、与党分断工作を行った。

<強烈な巻き返しで上院は審議入り>
 案の定、翌日(5月14日)には、マコーネル共和党上院院内総務とワイデン民主党財政委員会筆頭理事の間で、TPAとTAA(貿易調整支援法)を併行審議するという妥協が成立し、審議入りのための採決が行われ、賛成65、反対33で可決し審議が始まることになった。今回は民主党から13人が賛成に回ったことになる。アメリカの場合も日本と同じく本会議で何日も審議時間が伸びることはなく、30時間以内と決められている。審議入りには60票必要だが、可決には50票ですむので、上院の採決が決まったと同然である。早速私の懸念通りになってしまったのだ。

<6月以降の下院が鍵を握る>
 ただ、先は全く不透明である。
 まず、上院でも次々と新しい修正案が出され、更に修正が行われる可能性もある。修正協議が整うと、再び採決が必要となり、また混乱が予想される。そこに今週末から月末まで休暇が入ってくる。従って、5月中にTPAが上院を通過する見込みはほとんどなくなった。となると、問題はやはり下院である。審議入りは6月以降とみられるが、レビン修正案等が手ぐすねひいて待っている。

<急浮上する為替条項問題>
 日本にとっても他の締約国にとっても、為替操作条項という大きな問題が急浮上している。前述の両党の折衝で、為替操作条項がきつい表現になって取り込まれたのだ。これを新たに突きつけられると、他の国はおいそれと署名できなくなる。何でもアメリカの言いなりの日本でも5/15日の説明会では、為替操作条項が入ったらTPPに入らないと明言しているくらいで、もうTPPはご破算である。AIIBは運営が不透明だとして日米ともに参加しないが、為替操作条項こそ、とてつもなく不透明であり、とても容認できるものではない。
 TPAなしのアメリカは何を言い出すかわからず、16~25日のグァムの首席交渉官会合も、各国が妥協するとはとても思えない。

<円安で史上最高収益をあげる輸出企業>
 為替操作条項が具体的にどのようなものかは、既に過去2回のブログ(【TPP交渉の行方シリーズ31】TPPに入った為替(通貨)条項15.04.24、【TPP交渉の行方シリーズ34】 アメリカでTPP、TPAに反対する仲間 15.05.01)で説明しているが、ここにより具体的な紹介をしておく。為替は常に変動するが、何をもって操作とするか全くわからない。安倍総理になり、1ドル78円くらいだったのが今や1ドル120円の円安。関税に換算すると40%ぐらい下がったのと同じとなり、輸出企業は大儲けである。トヨタが日本企業では初めて2兆円を超える史上最高の利益を上げたのも、とてつもない円安のおかげなのだ。事実として、日本(企業)は円安で大儲けしており、アメリカが怒り狂うのは無理もない。円安のお蔭だけで日本車をはじめとする日本製品がどんどん輸入され、関連する国内企業が立ち行かなくなり倒産し、労働者が失職し…となって日本に文句を言いたくなる図式は手に取るようにわかる。

<為替操作には賛否入り混ざるアメリカ>
 これを日本政府の為替操作だと誰がどのように判定するのか。
 明らかに日本政府が為替市場に介入している明白な事実があるならば対抗措置もとれるが、いくらアメリカでもそうはいくまい。しかし、そこはしたたかなアメリカである。学者・研究者は、外貨準備高の額で指定できるような仕組みを編み出し、日本が自動的に対象国とされてしまうかもしれない。
 為替操作条項にはイエレンFRB議長、ルー財務長官等いわゆる通貨マフィアはこぞって大反対である。オバマも拒否権を発動するかもしれない。更に通貨は大切な国家の権限であり、国家主権を重視する保守派はこぞって反対することになる。ただ、かつては中国、韓国、今は日本の為替操作がけしからんと騒いでいる者も実は保守が多いのだ。その結果、民主党ばかりでなく共和党も大きく割れ反対する者が更に増えることになる。

<ウォーレン対クリントン>
 クリントン大統領がNAFTAを推進し、ヒラリー・クリントン元国務長官は、TPPでは微妙な立場に晒されていることは別のブログ(【TPP交渉の行方シリーズ34】 アメリカでTPP、TPAに反対する仲間 15.05.01)で述べた。オバマは「TPPは中小企業や労働者のためになると説明していく」と述べ、クリントンは「どんな貿易協定でも雇用を生み出し、賃金を引き上げを安全を守る必要がある」と抽象論を述べるにとどまっている。
 それに対し、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ)は、「TPPがそんなによい協定というなら、今すぐTPP交渉の内容を公開すべきだ」ともっともな皮肉をぶつけている。

<夏休みまでにはまとまらず>
 ウィキリークスがISDS関連の最新協定文を流したこともあり、今アメリカでもTPPは広く国民の知るところとなりつつあり、反対者がふえつつある。
 他にも人身売買等人権問題も入れろ、○○を入れろと多くの修正案が出され収拾がつかなくなる恐れがある。そして修正案が整うと再び採決が行われ、上院と下院と違う法律になり日本と同じく両院の協議会が開かれるが、大体まとまらず、そのまま夏休みに入るというのが今のところの大まかな予想である。
 また、新聞報道によると、閣僚会合を5月中にはやらないことが決定されたようである。