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日本の社会をぶちこわす、労働者派遣法の改悪  - 世界で一番ビジネスがしやすく、労働者がしいたげられる国 - 15.06.21

 6月25日、1週間前に久方振りの押しくらまんじゅう(?)が行われた厚生労働委員会の重要案件、労働者派遣法が、緊急上程で本会議にかかったものの、民主党等野党は採決に応じず退席のまま衆議院を通過し、参議院へ送られることになった。

<揺らぐ日本の安定基盤>
 今日本の仕組みが大きく揺らいでいる。その代表が安全保障体制である。他に秘かに進行しているのが度々触れてきた農村地域社会の崩壊である。都市部は大丈夫かというと、そうではなく孤独死に代表される「無縁社会」が静かに進行している。教育分野では子供たちも反乱をおこしていじめが続く上に、「子供の貧困」も大きな問題になりつつある。すべて戦後70年間の間に日本の安定と発展の礎になった仕組みである。
それにもう一つ日本株式会社を支えた安定的雇用が危機に瀕している。

<日本の発展の原動力は農村地域社会のルール>
 1980年日本の高度経済成長の最盛期、エズラ・ヴォーゲル教授の『Japan as Number One』がアメリカでもベストセラーとなった。あまり知られていないが、私の記憶では日系の学者ジョージ大内の『Theory Z』も読まれた。その中では日本の繁栄は日本株式会社、すなわち日本全体が団結してやっていることにあると書かれていた。よく見られた日本論の一つである。企業が、日本の農村地域社会をそのままあてはめたような終身雇用、年功序列、滅私奉公が高度経済成長の原動力だと指摘していた。
 1976-78年ワシントン大学留学中に立ち読みした University Book Store の日本コーナーの本も衝撃的であった。タイトルすら覚えていないが、社会学者が日本の繁栄は大半が転勤族サラリーマンになって定住性を失った時に終わる、と予測していた。そして今日本は定住者が減り、人の「過剰流動性」が問題になる時代に突入している。つまり、猛スピードで土から離れつつあるのだ。

<日本株式会社は実はワーク・シェアリング共同体>
 かつては一生その会社で働き途中でやめる人は少なかった。家畜ならぬ社畜といわれ、転職などまれであった。給料は高度経済成長ということもあって、徐々に上がって行った。会社が苦しい時は、ボーナスなしで給料を下げてもみんなで頑張り、うまくいったらまた給料が上がるといったことが当然行われてきた。苦しい時はボーナスなし、給料の遅配にも耐えて一丸となって頑張った。今風に言えばワーク・シェアリングである。新卒者の3分の1が3年以内に転職するなどといわれる昨今と比べると隔世の感がある。

<労働者派遣法は「正社員ゼロ法案」>
 この美風がいつの頃からか壊れ始めた。時を同じくして派遣労働という耳慣れぬ言葉が聞かれるようになり、最初は通訳等特殊な技能を持った人だけに許されていた。それがいつの間にか専門26業務から製造や事務といった一般の労働者にも広げられたが、最長3年という期限がつけられていた。低賃金や契約期間の切れ目で雇い止めの問題が起きやすかったからである。
 ところが今改正ではこうした業務区分をやめ、3年の期間制限も撤廃される。そして企業が労働組合の意見を聞き、3年ごとに人を交代させれば、ずっと派遣労働者だけにしておけることになる。労働者側からみると、ポストを3年で変えれば、定年までずっと同じ会社で働き続けることができる。後者を文字って「生涯派遣」ないし「一生派遣」と呼ばれる。本改正で、派遣労働の臨時的、一時的原則が崩れ、派遣労働すなわち非正規雇用が一気に拡大するおそれがある。つまり「正社員ゼロ法案」とも言えるのだ。
 こうした不備を少しでも是正するために「同一労働同一賃金法」が同時に成立したが、派遣社員の6割以上が年収300万円未満の現実はそう簡単に変えられそうもない。

<残業代ゼロに続く金銭解雇>
 この後に控えているのはホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ法案)である。決して日本語にせず、英語のままで通している。なぜかと言うと、日本語にするとすぐに酷い内容が理解されてしまうからである。ホワイトカラー(事務職)だけに適用され、ブルーカラー(現場労働者)は別だと言い訳しているが、過労死が問題になる中、残業代も出さずに働かせようというものである。
 その次は金銭解雇、すなわち2年分の年収を払えばいつでもクビにできる恐ろしい仕組みである。それを労働者が自由に自分にあった職を選べるようにするとか、『労働の流動性』を高めるといった美名の下に着々と改悪が進行中である。

<TPPの隠された狙い>
 これが実はTPPにもずっと関連している。2008年アメリカのバシェフスキー通商代表が、P4国に対して労働と環境と投資と金融を入れるならアメリカも入りたいと申し出て、TPPが本格化している。
 アメリカが労働にこだわるのはなぜか。発展途上国は児童労働、長時間労働、婦女子労働等の、不正労働により低賃金になり、その低賃金に下支えされた安い商品がアメリカにどんどん輸入されてきている。それを阻止するために先進国と共通の労働条件にしなければならないというのがアメリカの大義名分である。いわゆるソーシャル・ダンピングへの対抗であり、環境も緩いエコ・ダンピングに対するものだと主張している。

<アメリカ企業のための世界で一番ビジネスのしやすい国>
 そういう側面もないわけではないが、実は本音は違うところにある。
アメリカの企業が日本の企業を買収し、経営権を握ったところ、日本のきちんとした労働保護法制にビックリ仰天したのである。給料は簡単に下げられないし、クビになどとても出来ない。これでは買収した意味がないということに気が付き、日本にも労働法制の緩和を要求し始めたのである。それを一気に実現する手段が、TPPの労働分野の協定である。拙著『TPPはいらない』で連合こそTPPに大反対すべきだと警鐘を鳴らした理由がここにある。
 安倍首相は、日本を「世界で一番ビジネスのしやすい国」にと、吹聴して回っているが、もっと簡単に言えばアメリカの金融資本や企業が、日本の企業を買収して自由に操れるように労働法制を緩和することなのだ。つまりTPPを先取りしているのが一連の労働法制の緩和なのだ。

<労働者がしいたげられる国>
 このままいくと数10年後には日本の大手の企業のほとんどを外国人社長が占め、日本人は低賃金で働かされ、挙句にはさっさと自由にクビにされ、外国人労働者に取って替わられているかもしれない。つまり日本がいつの間にか「労働者がしいたげられる国」になってしまうおそれがある。
 厚労省の担当課長が労働者を物としてしか考えないような発言をし、物議をかもした。従業員の人件費といいつつ実はその辺の機械と同じように、いつでも代えられる消耗品ということになってしまっている。「企業は人なり」という言葉が死語になりつつある。それを象徴するのが今回の労働者派遣法である。その結果わりを喰うのは弱者である労働者に他ならない。

<TPA法案の行方はわからず>
 悲しいことに、海の向こうでも6月19日、下院でTPA法案がTAA法案から独立して採決され218対208の僅差で通過し、上院に送られることになってしまった。一旦は、7月末までに採決すればいいなどと決められたのに、この急展開である。しかし、きちきちの党議拘束がかかり、揉めても形式的となり馴れ合いのみられる日本の国会審議と異なり、こちらは最後までどうなるかわからない。かくなる上は、TPP阻止はアメリカの民主主義的な議会に期待するしかない。