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【TPP交渉の行方シリーズ39】 オバマの執念の勝利、TPAが上・下両院を通過 -これで結着とみるのは早計-15.06.29

<僅差のTPA成立>
  アメリカ議会の反TPPの動きに最後の望みを託したが、我々にはよくわからないアメリカ議会独特の議決方法により、TPA(いわゆるファスト トラック授権法)が上・下両院で通ってしまった。残念至極である。
  念のためにおさらいしておくと、下院は前後にTAA(貿易調整授権法)と切り離したTPA単独の採決は賛成218、反対208で、1回目のTAAとセットの時(219対211)とほぼ同じ僅差だった。上院は、採決の動議が賛成60、反対38でぎりぎりの可決、もしもう1人が反対なら採決されないというまさに薄氷(票?)を踏む可決である。TPA法自体は賛成62、反対37でほぼ変わらず。TPA法案の提出から約2ヶ月、何度もつっかかってやっと成立した難産の法律である。

<オバマの逆転勝利>
 これでオバマ大統領に送られ、署名するだけとなった。ただ、オバマはかねてから、TPAとTAAは揃わないと署名しないと述べており、TPA単独で署名すると約束違反となり、更に国民の信頼をただ失うことになる。しかし、TPAが通れば、民主党がTAAに反対する理由はなく、TAAもすぐ通すので、オバマは約束どおり2つの法律を同時に署名することになるだろう。アメリカも今回の一ヶ月を越えるTPAを巡る議会の動きは国民の関心を呼び、オバマと共和党側に民主党、労組、環境派に勝利したと報じている。
 今までもFast Trackの授権法はもめにもめてきたが、今回は歴史に残る見苦しいプロセスを経ての成立である。オバマ大統領の指導力の低下を物語る攻防だった。

<審議・採決のルールは日米ともに複雑でわからず>
 アメリカ議会の仕組みは、千葉明氏の『なぜアメリカでは議会が国を仕切るのか?』を熟読したところで、完全に理解することは不可能である。日本の国会のわけのわからぬ日程調整、形式的な審議拒否といつの間にかの再開、突然の強行採決等も外国からみたらチンプンカンプンだろう。10年余国会議員を続けてきた私でもよくわからない。議会の仕組みは日米両国ともどっちもどっちなのだ。

<議会が本格的に議論して採決する民主主義国アメリカ>
 アメリカには上院の採決に移る動議(cloture)が60票で、本物の採決は50票(半分)でいいこと、全く無関係の2つの法律をセットで通すこと(乗り物に載せて通すことをもじってa trailer bill と呼ばれる)等、日本にはない仕組みである。ただ、党議拘束がないことに象徴されるように、アメリカの議会は日本の形式が先行する国会と比べ、本格的に議論をし、きちんと採決することがよくわかった。

<既に始まっている16年大統領選>
 最終段階で、16年の大統領選を睨んだ動きがみられた。私は、先のブログ(15.5.21「TPAで揺れ動くアメリカ議会」)で、ヒラリー・クリントンの動向が注目されると書いた。下院の院内総務(前下院議長)ペロシがTPP・TPAに反対を明確にすると、大統領候補への指名を控えたクリントンはたまらず賛成できないことを明らかにした。独立系のサンダース上院議員が反TPPを唱え、支持を急速に拡大中だったからだ。これが民主党の反対増の理由の一つになった。

<共和党に優位に傾く今回の民主党の分裂>
 三権分立の徹底しているアメリカでは、大統領が議会に働きかけることは滅多にない。しかし、今回はオバマは電話の説得ばかりでなく、自ら国会に乗り込んで説得に当たったり、ホワイトハウスでのバーベキューパーティと、なり振りかまわなかった。ただ、票の移動(swing)がほとんどなかったところをみると、あまり効果はなかったようだ。
 それよりもTPAを通す原動力になったのは、多数党になった共和党のマコネル上院院内総務やライアン下院総務委員長の連携プレーである。底流には、TPA・TPPで民主党内の分裂を起こし、大統領選を優位に持ち込もうという思惑が見え隠れする。
 オバマがTPPを遺産(Legacy)にしたいと正直に言っており、2期目の業績作りに必死なのだろう。そして、自分の業績を残さんとする振る舞いの陰で、16年大統領選で共和党に塩を送ってしまっているのだ。

<他の10ヶ国は簡単な妥協はしない>
 その点は、日本も似通っている。安倍首相が大宣伝した3本の矢にめぼしいものがなく、もうTPPぐらいしか残っていない。焦ってまとめようとしているのは、日米両大国であり、他にNZが急いでいるぐらいである。Daily Newsは、チリ、ペルー、シンガポールの大使がTPP交渉の早期妥結に疑問を投げかけていると報じている。日本同様に農産物関税問題を抱えたカナダは、10月に総選挙を控えている。オーストラリアは、アメリカに砂糖の農産物関税の撤廃を迫っているものの、アメリカには妥協する気配がみられず、またISDSは反対のままであり、すぐ最終決着するとはとても思えない。ベトナムとマレーシアは、知的財産権等で譲る気配はない。

<日本の甘い観測>
 日本のマスコミは、下院のTPAとTAAのセットでの否決にびっくりしたものの、上院でTPAが再び可決されると、一斉にすぐTPPがまとまるかのような予測記事を書いている。2010年、TPPが何物かわからない時から五大全国紙はTPP推進のオンパレードであり、相変わらず同じ主張を続けている。甘利担当相も「8月以降に(TPPの大筋合意が)ずれ込むことは想定していない」と、7月中の閣僚会議の開催、夏休み前結着という希望的観測を述べている。

<アメリカでは反TPPの動きが活発化>
 2010年秋、内容も知らない菅首相が突然所信表明でTPP推進を言い出し、ISDの知識もない野田首相は自らの業績作りのためにTPPを強行し、TPPが国民の知るところとなった。しかし、その後、例の秘密交渉約束でほとんど内容が開示されず、反対の気勢をそがれたままである。
 一方、アメリカは日本と5年遅れでTPPが急激に国民の目にとまるようになった。加えてウィキリークスが得意(?)の情報漏洩で大活躍、すっかり汚名を挽回中である。これにより関心のある国民は、TPPの内容を日本とは比較にならないほど分かるようになった。アメリカで今まででもこれだけもめたのである。今後アメリカでは、あらゆるグループや階層で反TPPが深く進行していくに違いない。

<注目される16年選挙>
 民主党支持者は、下院のTPA賛成者を「恥の殿堂」(Hall of Shame)として顔写真入りで掲載し、上院の13人の賛成者も同様にネット上で嘲笑の対象とされている。多分、16年の選挙で多くが議席を失うに違いない。
 私はこの1年で、自民党の新人議員よりもアメリカの国会議員の名前のほうが多く覚えることになった。誰が賛成し誰が反対しているか目を凝らしてアメリカの情報を追ってきたからである。かくなる上は、このネットの顔写真入りページをとっておいて、16年秋の選挙時に当選をチェックしてみようと思っている。アメリカの選挙による民主主義の証しを見たいからである。

<焦る日本は国益そっちのけ>
 日本や他の10ヶ国は、交渉権限のないアメリカ政府(USTR)と交渉を進めてきたのである。URでも他の重要な通商交渉でも交渉の始まる前にきちんとFast Trackを獲得したアメリカ政府が交渉に当たってきた。米政府がFast Trackを失った時は、アメリカは交渉を中断したし、日本やEUも交渉に応じなかった。また逆に、Fast Trackの期限に振り回されて、交渉妥結を急いだ。
 それを今回は、今頃になって一夜漬け(にしては2ヶ月もかかった)の議会承認でやっとまともになっただけである。EUが入っていないためか、完全にアメリカになめられているのである。
 甘利TPP担当相は、心配する農民を尻目に、「日米間ではそれほど深刻な課題は残されていない」と交渉は妥結寸前のごとく述べている。14年春のオバマ訪日時の交渉で大方結着が着いているとしたら、政府、自民党はまた嘘の上塗りである。
 他の10ヶ国は簡単には最終合意の提案をしない中、日本のみ焦るのは愚の骨頂である。じっくり様子を見るべきである。

<韓国の二の舞を踏む日本>
 今後アメリカ議会は、オバマ政権の交渉に関して相当深入りして下手に妥協、すなわちアメリカの譲歩はさせないであろう。従ってライアン下院総務委員長(共和党)は、議会がより交渉に影響を与えることになるといい、ペロシ前下院議長(民主党)も、圧力をかけて続けると明言している。事務レベル(もしくは政府レベル)で、日本の米の例外をかなり認めたり、牛肉関税の存続を認めたりしていても、議会が再交渉を求めてくる可能性がある。
 このことは米韓FTAが先刻承知済みである。2007年に締結したFTAにアメリカ議会がクレームをつけ成立したのは、4年後の2011年である。その間に韓国は数々の妥協を強いられている。

<協定成立後も妥協を強いられる日本>
 更にそれをいいことに、今回のTPAはFast Trackの授権法といいつつ、内容は大きく変わっており、法律のタイトル自体が変わっている(15.4.24ブログ 「フロマンの格好付に手を貸した深夜の日本協議」参照)。
 第6節(貿易協定の履行)の(b)項で、「大統領が本法に従って通知または協議することを怠り、または拒否した場合、貿易権限手続きの利用を否認するための方法と手続きを規定する。この決議によって、両院は協同で行動し、貿易権限手続きを手早く撤回するこを可能にする」と明確に権限剥脱を規定している。TPPがめでたく成立したとしても、後から議会から修正を迫られるおそれは、米韓FTA以上に高くなっている。

 TPPは日本には百害あるのみである。
 私は、今この時点でもTPPから脱退すべきだと思っている。