« 2015年6月 | メイン | 2015年8月 »

2015年7月21日

【集団的自衛権シリーズ7】安倍首相の自己陶酔・高揚は許されず -岸・安倍家のお家の事情で国政を動かす危険- 15.07.21

<内も外も抗議だらけ>
 7月15日、一週間前にはいくらなんでも少しは先延ばしするだろうと思われていた安保関連法案が強行採決された。我々民主党は赤と青の「強行採決反対」と「アベ政治を許さない」の2週類のビラを持って第一委員会室に乗り込み、反対の示威活動を行った。久方振りの揉めた国会となった。
 原発再稼動反対、TPP反対に続き、外で夜遅くまでデモをして反対を唱える人々がいた。
 抗議の意味を明確にするため、翌16日の本会議では、討論の後、採決に応じず退席した。当然のことである。戦後70年続いた平和が崩れていく分岐点になるかもしれないからだ。維新も自分の法案の採決をした後退席したので、政府法案は自公の与党だけの採決となった。
我々が反対する理由は山ほどある。しかし、何よりも恐いのは、安倍首相のあまりにも強引なやり方である。

<ますます民主党的総理化する安倍首相>
 私は、2013年10月21日、臨時国会の予算委員会の1日目、安倍首相に30分間質問した折、「くれぐれも民主党的総理にならないように」と結んだところ、委員会室はどっと沸いた。一部の同僚議員から、どういう意味か尋ねられた。私は、安倍首相が民主党の菅・野田両首相と同様に、国民の声も聴かず、国益も無視して、格好のよいこと(安倍首相にとっては、憲法改正、自衛隊の海外派遣)に血眼になることを危惧したからである。
 そして、15日の得意満面な顔をみせられ、相変わらず抽象的な答弁を聞くにつけ、2年後の今は予想以上にひどい状況になっていることに戦慄を覚えた。安倍首相は、反対が大きくなればなるほど高揚感が高まり、自分は歴史に残る難しい仕事を成し遂げたと悦に入っている。政治を自らの趣味に重ね合せているのである。

<首相の劣化>
 日本国民は、ここ数代続けて、パフォーマンスを最優先して政治を行うとんでもない政治家を総理にしてしまった。政治の劣化が叫ばれて久しいが、中でも首相の劣化が一歩先を行っている。
消費増税など民主党のマニフェストにも、野田首相の代表選出馬の公約にも全く見当たらなかった。しかし、前任の菅首相が言い出した消費増税にすぐ飛びついた。難しい政治的課題を自らが手がけて実現するという見栄がそうさせたのである。どういう社会を築くかは二の次であり、目前の業績作りしか目に入らなかった。
 野田首相は次にTPPの内容をよく知らないにもかかわらず、TPPも手掛けるという野心を抱き始めた。TPPに絶対反対の私は、こうした野田首相の見え透いた魂胆が手にとるようにわかった。このことは既にブログ(13.2/6「野田首相解散前TPP交渉参加表明報道」)にしたので、長々繰り返さない。

<最後っ屁で欲張ろうとしたTPP>
 私は11年秋、TPPの見通しを尋ねられると、「野田首相は政権を投げ出すようにTPPに参加するようなので、なるべく長続きするように必死で野田政権を支えている」と皮肉っぽく答えていた。
 それが、12年11月9日の読売新聞の夕刊で明らかになった。「野田首相解散決意、TPP交渉参加」という記事だ。42人から私の携帯に電話があった。私の言った通りになったからである。ところが、数日後枝野経産相がそう簡単にはいかないと言い始めた。アメリカ側から、レイムダック状態の野田政権が総選挙に負けたならば、国民がNOといったことになり、TPP交渉に参加出来なくなるので受け入れない、と言ってきたのだろう。
 つまり、野田首相は消費増税といい、TPPといい、目の前にある重要な課題を自分が片付けると粋がったのだ。

<1回目の失敗に学んだ安倍首相>
 安倍首相は、民主党の総理と異なり、何をやりたいかを明確にしていた。07年、教育だ憲法改正だと言っていたが、国民の支持が得られず、参院選挙に大敗北して政権の座を去った。ところが2回目の今は、学習効果もあり慎重に事を運んでいる。国民の支持を得るには、一にも二にも経済だと気付き、景気回復の期待感を一身に受けることになった。「アベノミクスの三本の矢」というまやかしのフレーズを使って、国民を引き付けることに成功。円安となり輸出企業は史上最高収益をあげている。その結果支持率も上がった。

<「解釈改憲」は違憲と同義>
よく言われてきたが、2013年の参議院選挙を過ぎれば、安倍首相の本来の目的である憲法改正に着手するといわれていた。最初に手をつけたのは憲法96条の改正(衆・参3分の2の賛成による発議を2分の1にする)という姑息な手段であった。それが頓挫すると、解釈改憲の実現に向けて走り出し、14年7月1日、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行った。安保法制国会になると思われた秋の臨時国会を吹き飛ばし、15年4月には日米防衛協力指針(ガイドライン)を先にまとめてしまい、その後に法案審議に入った。6月、憲法調査会で3人の憲法学者に憲法違反だと言われ騒然となったが、私は少しも驚かなかった。なぜなら、解釈改憲の名のとおり、解釈でもって改憲しているのであって、憲法にそぐわないということは最初からわかっていたからだ。

<岸・安倍家のお家の事情で7月15日採決>
 安倍首相は後は自らの道をまっしぐらである。非常にこだわりの強い総理であることがわかる。13年12月26日、突然靖国神社に参拝した。政権発足1年後である。アメリカに失望したとか、文句を言われるのをわかりきっていてながら、平気で参拝する人なのだ。だから、尊敬する祖父岸信介首相が退陣した7月15日というのは、安倍首相にとって大事な日なのである。60日ルールの適用にもまだ余裕があるのだから採決を数日は延ばすだろうと言われていたが、私は、安倍首相の性格からして、岸・安倍家の由緒ある日(?)を変えるはずがないだろうと思っていた。
 案の定、国民を無視し、国会を無視して安保関連法を強行採決した。多分祖父の仇をとったとでも思って悦に入っているのだろう。しかし、一国の命運を岸・安倍家のお家事情で決められてはたまらない。

<今があるのは一旦退却したお蔭>
 安倍首相はかなり調子に乗り過ぎである。安倍首相が今あるのはなぜか。
 1期目07年の参院選では、農業者戸別所得補償のために、1人区で6県しか勝てず、23県が非自民となった。これにより衆参のねじれ現象がおこり、法案が通らなくなった。本当にお腹の調子が悪かったのかは知らないが、ともかく08年1月、突然辞任した。つまり形成悪いとみて退却した。後任の福田首相は衆参ねじれにより国会運営に苦慮し、小沢との大連立に走ったが失敗し、1年で辞任した。
 戦争もそうであるが、ひたすら前に前に出るだけでは失敗することが多い。安倍首相は賢明な判断をし、退却したからこそ今がある。ところが正面から答えない答弁とか、ゴリ押しとかの術はかなり学んだようだが、2期目の今、前回うまくいった一旦は引くことの重要性を忘れてしまったようである。

<再びリターンマッチの時を迎えている>
 先週公表された共同通信の世論調査では支持率が10ポイント下がり、不支持率が支持率を14ポイントも上回った。安倍首相が本当に自分の目的を達したいのであれば、今回も潔く一度退却し、出直す必要がある。新国立競技場の撤回でお茶を濁そうとしているが、そんな小手先のことでは国民はだまされまい。
 内容のおかしさは、私は今更くどくど指摘するまでもない。自衛隊の海外派遣を自由にするという集団的自衛権の行使はとても容認できない。アメリカが攻撃されただけで、日本に対して攻撃の意図もない国を攻撃できるというのは、専守防衛から大きく逸脱する。明らかに憲法違反であり、民主党が対案を出して済むものではない。TPP、原発再稼働と同じく大反対する以外にない。

 参議院では民主党も全員参加でもっと具体的な法整備の不備を指摘して、議論を深めてもらいたいと思っている。

2015年7月11日

悩める特許の帰属  「社員の発明は会社のもの」となり、中村修二教授の意に反す -15.07.11-

<ノーベル物理学者中村教授の問題提起>
 特許の世界など一般の皆さんには馴染みのない世界である。しかし青色発色ダイオード(LED)を発明して自分の勤めていた会社を訴えて、特許の権利は自分にあると物議を醸した中村修二ノーベル物理学賞受賞者は誰でも知っている。この一件を契機として経済界は、発明者主義から法人帰属へ改正を経済産業省に要望し出した。
 日本では明治の時代から発明した個人に特許は帰属することになっていた。だから中村教授はその権利を主張しただけのことである。2005年、日亜化学工業と和解が成立し、8億4400万円の支払いを受けた。そして、今回の改正は、企業の要請を全面的に受け入れて法人帰属にするというものである

<アメリカは発明者帰属>
 世界を見渡してみると当然アメリカは個人に帰属することになっている。ただ、アメリカは契約社会であり、企業と個人の間で契約がきちんとなされていて、全く発明者にだけ100%帰属するわけではない。実際にはその企業に行って仕事をしながらその企業の研究開発費で研究してきた場合は企業に帰属することになっているという。

<特許・商標等を無視する中国にも一部の理>
 特許の世界というのは意匠権、実用新案権等も含め人工的な世界であり、馴染みにくい。例えば中国はこのようなことにほとんど関心を持たず、無視してやっていたが、やっとそうしたことは許さないという社会になってきている。中国のインチキ商標で松阪牛の「阪」を「坂」にして、いかにも高級肉らしく売っている。それからリンゴを青森リンゴと日本の地名を付けそのまま売っている。これらは明らかに商標権の違反であるが何とも思わない。今も横行しているのかどうか知らないが、昔はまるっきりデザインの似た「GUCCI」の革製品が中国では平気で安く売られていた。
 こういったことは枚挙にいとまがない。逆の側からすると「同じように真似して作ってどこが悪い」ということになる。後述するように、私はこっちの考えに与したい気持ちも持っている。中々悩みが深い問題である。

<時代に逆行するかもしれない法人帰属>
 私が経産委員会で問い質したのは、滅私奉公の時代でもなく終身雇用の時代でもなくなってきている今、法人帰属というのは逆なのではないかという疑問である。つまり会社が命、社畜と呼ばれるくらいの奉仕をしていた時は法人帰属でいい。
 しかし、転職情報誌が氾濫し、多くの若者が平気で転職する時代であり、個人すなわち発明者主義が時代の流れではないかと思う。ただ一つの発明でいい製品ができるということは少なくなり、総合力でできあがるとしたら、法人帰属のほうがいいのかもしれない。

<なんでもアメリカに合わせる必要はない>
 それからもう一つは何でもアメリカに合わせようとすることが問題である。TPP交渉では、知的財産権のことも秘密で行われているから分からないが、特許権はアメリカでは25年という。アメリカは特許で稼ごうという魂胆がみえみえである。アメリカに合わせようというのであれば、アメリカの発明者主義にしておいた方がTPPに入っていく場合でも自然ではないかと思うが、どうもそうなっていない。
 私はまた大勝軒を例にして(ブログ2015.4.19)述べたが、全く違う考え方があるのではないかということを指摘したところ、皆し~んとして聞き入っていた。
 後で触れるが、これは新しい技術を開発した時の二つの生き方で「オープンクローズ戦略」(オープンは特許を取って公開し、特許料を取る/クローズは絶対に秘密を明かさずに自分のところだけで作り続ける)のどちらでもない生き方である。つまり、大勝軒の山岸社長は完全な「超オープン」で、特許も取らずに50人の弟子に全ての技術を伝授するということをしており、日本はむしろこのやり方の方が向いている、と特許に冷や水を浴びせた。

<農業の世界に特許は不要>
 それから農業の世界では「隣り百姓」といわれており、隣りの枝をひとつ折り、隣りの種籾をもらって新しい技術なり品種が広まっていく。日本は江戸時代の青木昆陽の「甘藷」も3年で全国に広まったと言われている。今でも農業界では先進地視察が引きも切らない。つまりノウハウや技術は共有して持つものである、というのが一般的なのだ。こういった考え方は時代遅れと言う人もいるが、私はむしろ最も合理的なことだと思っている。
 職務発明についてのことだが、農林水産省の筑波の研究者も特許などという感覚はあまりない。それは時代遅れでよくないことだと言われるかもしれないが、彼ら研究者に言わせると当然のことだと思われてくる。つまり国から給料はもらって好きな研究をさせていただいている。それで研究成果が出たら、一時も早く皆に使って欲しい、自分の研究成果を役に立てて欲しいと願うのが先であって、特許を取って自分がお金儲けをするというような考えは更々ないのである。私は極めて健全な倫理観ではないかと思う。

<URの頃のBHNの考えは妥当>
 それが恵まれた人、つまり農林水産業の分野でいえば一人の農家や漁家が研究開発できるわけではない。世界中でも公的機関が研究をしている。だからその国のもの、その地域のものという観念で、個人のものではない。つまり特許の世界は造り上げられた人工的世界であり、一時も早く公開していくのは当然ではないかと思っている。一人が独占したりしてお金を取り続けるのは良くないと思っている。 
 ウルグアイ・ラウンドの頃に「Basic Human Needs(BHN:基本的人間必要)」という言葉が使われた。知的財産についての議論をし始めたところ、医療と食糧は人間が生きていく上で絶対に不可欠で、BRICS(Brazil, Russia, India, China, South Africa)等発展途上国はBHNは特許の例外にすべきではないかという主張をした。20数年前ではあるが、私はもっともだなあと思っていた。

<特許を重視しすぎるのは得策にあらず>
 エイズでみると、この問題が明らかになってくる。エイズの薬は特許があるがために高くて、発展途上国では手が出なかった。特許が切れると一気に安くなり、ジェネリック医薬品のお蔭で多くの患者が救われることになった。
 私は、あまり特許、特許と声高に主張することには賛成できない。研究開発意欲を企業に持たせることは大切だが、それで財産を稼ぐとか儲けるというのは邪道である。特許の見返りは、研究開発費が賄えてそこそこ利益が出たぐらいでよいのではなかろうか。そういう点では、私は筑波の農業系の研究者の倫理が真っ当であると思っている。

2015年7月10日

信越トレイル紀行-飯山駅で下車して自然の山里歩きを楽しんでほしい-15.07.10

<衆第一のヌシ>
 永田町にばかり長くいると、なかなか気が晴れないことが多い。私はゴルフはやらないし大酒を飲むわけでもない。国会議員はよく情報収集と称して夜な夜なあちこち飲み歩いているが、私はお誘いがあれば加わる程度ですましている。だいたい議員会館で12時まで仕事をし、宿舎へ戻り、朝8時からの部門会議に出るという毎日を送っている。よく知らないが、防災センター(夜間管理担当)では、一番遅くまで部屋にいる衆議院議員として有名(?)だそうだ。妻からは「能率悪いだけだ」と馬鹿にされ、「ゆう活」の観点からするとダメ人間だが、秘書も帰し、私一人なのでまあこれでいいだろうと観念している。

<地元のツアーに参加して地元の良さを知る>
 週末は金帰月来で地元である。小選挙区で当選してからこの3~4年のことだが、地元のいろいろなツアーや山歩きなどに参加している。一番の理由は、地元をもっとよく知りたいからである。ところが、名の知れた山に登るにしても、どうやって行ったらいいのかわからない。そういうときに市町村やNPO法人の主催によるツアーというのは願ってもないことだ。
 今シーズンも鬼無里の一夜山と中西山の登山、飯山市外様地区のモリアオガエルの見学、そして信越トレイルの山開きの4つに参加した。

150606ichiyasan.JPG
6/6「一夜山ふれあい登山」
150613nakanishiyama.JPG
6/13「中西山登山」
150614kaerunogakko.JPG
6/14「飯山市外様地区かえるの学校」
150705shinetsutrail.jpg
7/4「信越トレイル開き」

<北信州の自然満喫の信越トレイル>
 信越トレイルといっても全国的知名度はほとんどない。故加藤則芳氏が心血を注いで構築したものであり、代表理事は小山邦武氏 元飯山市長が務めている。長野・新潟県境9市町村にまたがる関田山脈の尾根づたいを、南端の斑尾山から北端の天水山まで約80キロのコースであるが、当然一日では歩けない。そこで6つに分けて一日の行程(ワンディトレッキング)にしている。
 一般参加者は前の夜から泊まり、朝7時に集合、7時半から安全祈願をしてのトレイル開きの後に山歩きを開始する。私はフルには付き合えないので、土曜日は地元の日程をこなし、日曜の朝5時起床、5時53分の飯山線に乗り戸狩野沢温泉で下車して現地に集合。セクション4(戸狩温泉スキー場の一番上のとん平から関田峠まで)を私と千葉県から来た幼馴染の34歳の元気な若手2人組だけで、博識の優しいガイド(山川さん)の案内で、最も険しい10km弱を走破した。
 8時半から歩き始め、歩き終りが15時半。途中1時間弱の昼食と、ちょこちょこある小休止を除けば、ほとんど歩き詰めである。
 小雨も心配されたが、雨も降らずかといってかんかん照りでもなく、お喋りをしながらの楽しい一日であった。
 晴れていたら、日本海も見え年数日は佐渡島も眺望できるというが、今回は霧に覆われて見えなかった。

<ゴミ一つない自然の道> 
 まず感心したことを最初に挙げると、落ちていたゴミは、飴玉の包み紙とどこかからずれ落ちたのであろうきれいに折り畳まれたビニール袋の二つだけであった。私が拾ったところ、すぐに千葉の青年が袋を出してそこへ収めた。ブナ林の尾根に空き缶などを捨てる人が一人もいないというマナーの良さである。日本人はますます立派な国民になりつつある。
 ほかのセクションはもうちょっと多く、全体の参加者は約30名弱だそうだ。セクション4は健脚の人向きの一番登りが多くきつい行程だったが、私は、日ごろ週末ごとにどの秘書よりも歩き回っているので、同行者に迷惑をかける遅れなどなかった。
 お腹もぺこぺこになり、お昼は地元飯山産の米で作った非常においしいおにぎり2つを美味しく味わった。

<「雲の滝越え」と長野県側の豪雪>
 私の山登りの経験の中でも珍しいことがもう一つあった。左側が新潟県、右側が長野県、左側はずっと霧がかかっているのに、不思議なことに右側はまったく霧がない。尾根であればそこで別れているのはわかるが、そこそこ平らのところでも、新潟県側に30メートルくらい先からかかっている霧が長野県側に決して来ない。まさに自然が織りなす妙味である。
 山川さんの説明によると、風が吹いたりすると、尾根が筋を作りながら急激に越え見事だと言う。「雲の滝越え」と呼ぶのだそうだ。
 私はこれを聞いてふと思ったことがある。シベリア高気圧が、湿った空気を含んで日本の山脈に突き当たり、そこへ豪雪をもたらす。それならば一番の豪雪地帯が日本海側・新潟県側にあってもいいのに、ひと山越えた栄村なり飯山市が、人間が住むところでは世界一の豪雪地帯になっている。おかしいなと思っていたが、この雲の滝越えでわかるような気がした。
 つまり、湿った空気が、山に突き当たったことで速度が緩められる。そこで滝越えよろしく山をゆっくり越え、滞空時間が長くなることで大雪をもたらす。そして2回目に突き当たる山、志賀高原でパウダースノーになる。これが俄か科学者(?)篠原孝の分析である。

<眺望のできるところは木を切るサービスも必要>
 この信越トレイルはよくできていて、今回は、山の登山口までは車での送り迎えがある。5,000円のツアーガイド料で案内してもらえることになっている。
 今年3月14日、新幹線が飯山駅に止まるようになったが、乗降客は期待したほど増えていない。信越トレイル自体は健脚でないとなかなか縦走できない。「痩せ尾根」と呼ばれる、一歩足を踏み外すとちょっと崖をずり落ちそうな箇所もある。切り立った岩肌ということはなく、ずれても木に突っかかって谷底に転げ落ちるということはないが、高齢者向けの散歩コースではない。
 山川さんにも注文をしておいたが、千曲川の蛇行の景色などせっかくの絶景が、木が生い茂っているためによく見えない。ちょっと木の上のほうだけ切ればきれいな景色が見える。ヨーロッパの脆弱な緑と違って、日本の山々の緑は強靭であり、すぐ回復するので自然を痛めつけることにもなるまい。そういうビュースポットを数か所設けて一面景色を眺められるようにするのが良い。なぜかというと、スイスの山が楽しめるのは、農家との契約で木の生えていない牧草地を観光客が自由に歩けるようになっているからなのだ。

<何の変哲もない「農山村の里歩き」も売りにする>
 その点小布施町は賢く、町中を散策するのにオープンガーデンと名付け個々のお宅の庭も散策できるようになっている。プライバシーの侵害との声もあったが、何か盗まれたという話も聞かない。つまり、都会のコンクリートの上しか歩いていない人たちには、田舎の何の変哲もないほっとする街並みを歩くことが新鮮なのだ。
 そういう点では、いきなり山道の散歩というのは年寄りには無理であり、畔道を歩いて、かつコンクリートではない土の道を歩けるようにしておくのが良いと思う。新幹線が開通して東京から2時間ちょっとで飯山駅に降り立つことができ、日本の原風景を見て楽しむことができる。

<高齢者には「土の上歩き」がお勧め>
 もう一つ気付いたことは、ずっとブナ林のふかふかした土の上を歩き続けたあと、里におりてきてぬかるみに置かれた板の上を歩いた時になにか変な感じを覚えた。最近50歳ぐらいになると膝が痛いという人が多いが、当たり前である。我々人類はつい最近まで柔らかい土の上しか歩いてこなかったのだ。それと、現代の日常生活では板やコンクリートの上しかあるいていないからである。つまり、我々の膝は柔らかい土の上用にしかできていないのだ。
 飯山は市政60周年を迎えるが、4万2,000人だった人口がご多分に漏れず過疎が進み、2万人台に近づいてしまっている。北陸新幹線開通を機会にたくさん訪れていただいて、なるべく多くの人に、北信州の自然を味わっていただき、何人かの人には移住してほしいと思っている。

以下 山川さんの説明で得られた「一口メモ」を参考までに紹介しておく
〇16の峠:長野県側から塩や海産物を求めて山を越したために、8つは新潟県側の集落名がついている。信越トレイルは、その峠を縦断しているが、それぞれの峠を歩くと、かつての村人の生活・文化や苦労も知ることができる。

〇越後女性の嫁入り:私の育ったところでも「嫁は在(田舎)から貰え」といわれているが、飯山では、峠の向こうからの嫁が好まれ、ある集落では半分以上の嫁が新潟側からきているという(田舎で育った人のほうが辛抱強く、よく働くと言うのが理由のようだ)

〇こしあぶら:最近山菜として脚光を浴びるも、セシウムを吸収する癖があり、少々敬遠されている。名前の由来は、秋の紅葉の時に薄く白くなり、網目がまるで油をこすのに丁度よいようにみえるから。

〇くろもじ:緑の茎に墨で書いた文字のような黒い模様が見られることから「黒文字」と呼ばれる。お茶菓子用の高級楊枝の原料。独特のにおいが好まれ、ちょっと焼酎に入れると1日後には高級ウィスキーの味になるという。

〇いわかがみ:春先の岩陰に小さなピンクの花を咲かせて登山者をなごませてくれる。葉がテカテカして光り、鏡のように見えるので「岩鏡」と呼ばれている。信越トレイルの中では、水分もたっぷりあるので葉がずっと大きい

〇山頂の葦:葦は川辺の湿地帯に育つ。ところが、北信州では8mの豪雪が残した水分があり、なんと山頂にも葦が這えている。(科学者篠原の解説)

2015年7月 7日

【TPP交渉の行方シリーズ40】企業献金が後押ししたTPA採決‐TPAを巡る大企業対一般国民の対立構造が明確化‐15.07.07

<政府・マスコミ一体となった暴走が続く危険>
 米議会で、TPAが通過したことから、甘利TPP担当相も「7月中に(2カ国)閣僚会合で合意する必要があり、それは可能だ」「日本としては8月以降に閣僚会合がずれ込むことは全く想定していない」「日米両国にはそれほど深刻な問題は残されていない」と、全く有頂天である。それに調子を合わせて、安倍官邸大本営に加担しっぱなしの翼賛5
大紙は、こぞって、これで交渉に弾みがかかり、一挙に妥結に向かうといった提灯記事を書いている。
 日本の5大紙は案保法制については、意見が分かれ健全性を保っているが、自由貿易、規制改革といった、すたれた経済成長至上主義を金科玉条とする5大紙は、今も目を覚ます気配が感じられない。ただ、産経だけが「TPP交渉楽観できず 貿易自由化に高いハードル」と珍しく少々違った報道振りなのが目を引いた。

<せっかくの表現の自由も霞むだけ>
 私は、こうしたワンパターンの論調をみるにつけ、「全員一致の決議は無効である」と警鐘を鳴らした山本七平を思い出さずにはいられない。TPP推進派が見本とするアメリカであれだけすったもんだしているTPPに、我が国の5何の大紙が疑問を呈そうとしないのは危険極まりないことである。満州へ、東南アジアへと突き進み、大失敗をやらかした戦前の日本がだぶってくる。マスコミも政府の暴走をとめることなく、お先棒担ぎをしていることに気付かないのだ。
 自民党の「文化芸術懇話会」の問題発言を契機に、言論の自由、表現の自由の大切さが改めて再認識されているが、TPP・TPA報道にみられるような一方的報道では、せっかくの「自由」を駆使しているとは思えない。日本はどこか狂ってきているのかもしれない。

<TPAによりたがをはめられたオバマ政権>
 しかし、実態は残念ながら、日本の思う方向にはすすまない。アメリカと歩調を合わせTPPを急いでまとめたいと思っているのは、日本だけである。豪・NZ、シンガポールはまとめたいと思っても、アメリカの今後の動きには懐疑的なのだ。
 日本の楽観論はTPAで交渉権限を授権されたのだから、オバマ政権がTPPをまとめるために、妥協のカードを安心して切ってこれるだろうという勘違いに依拠している。議会は形式的には、一括承認(up or down approval)しかできないことになっているが、前号で指摘したように、実はいつでも交渉権限を剥奪できる仕組みになっている。重みを持つのは実は後者のほうなのだ。
 つまり、オバマ政権の手にした交渉権限は手枷足枷のものにすぎず、少しでも議会の気にそぐわない交渉内容が知らされるや、そこで止められるという危ういものである。もっと言えば、交渉権限を与えたふりをして、逆にたがをはめたのが今回のTPAなのだ。さもなければ、共和党がおいそれと賛成するはずはない。

<強硬な主張をぶり返すアメリカ>
 日本の表面しかなぞらない論調は、共和党のほうが自由貿易推進派が多いから賛成し、労組に支持されて職を失うことを懸念する民主党が反対した、と通俗的な解説をしているが、アメリカの政治はそんなやわなものではない。例えば、TPAは「農産物関税は撤廃か、アメリカ以下に引き下げる」などと規定しており、これを受けたフロマンは以前より倍加させた無理難題をふっかけてくるかもしれない。日本の国会議決とアメリカのTPAには完全にそごが生じている。もしも中間でめでたく合意が成立するとしたら、日本は国会決議に、そしてアメリカは法律に違反していることになる。
 このTPAにより、オバマ政権は交渉で軟化することなど絶対にできないように、議会から監視されることになったのだ。従って、今後アメリカは、今まで以上に強硬は主張を繰り返してくることになる。アメリカがまとめるために妥協してくるなどということはまずありえない。

<内容を知れば知るほど反対が増える>
 あれだけ両院で行き来しもめたTPPは、多くの問題点を貿易円滑化及び取締の機能活動法案としてTPAから切り離し、7月7日の休暇あけの議論に委ねられている。このことはJC総研特別顧問(元農水審議官)木下寛之氏のブログにわかりやすい分析がなされている。例えば、移民法は変えないこと、地球温暖化等で義務付けしないこと。漁業補償金の撤廃、人身売買該当国は対象にしないこと(マレーシアがこれに当たり、今のところ問題となる)等が今後に残されている。
 TPAはTPPの承認手続きを細かく規定している。交渉の妥結から署名まで少なくとも数ヶ月を要する。議会に協定案を提出する90日前にUSTRのホームページに全文を公表することが義務付けられている。国際貿易委員会の経済影響分析も経なければならない。
 公表した段階で、上述のあらゆる階層の関係者から数々の疑問点が指摘され、多分多くの国会議員も国民も内容の酷さに気付くはずである。そして、そう簡単にUP(賛成)の票が集まるとは思えない。

<TPPを金で操るアメリカ大企業>
 アメリカのTPP推進派は、保険業界、金融業界、医薬品業界、そして農業界である。日本が参加した13年秋のブルネイ会合以来、私は大半の閣僚会合に、大した役にも立たないのに民主党の目付け役として参加してきた。日本からは国会決議を守らせんとする農業団体が大挙して押しかけ、アメリカからは医薬品業界が随行し、レセプションまで主催していた。
 アメリカでは「アメリカTPP企業連合」の構成員である世界一の医薬品メーカー・ファイザーやノバルティス、保険業のアフラック、金融のシティグループ等が、TPP推進議員への献金団体として名を連ねている。アメリカのネット上、民主党からTPAに賛成した19人の下院議員と13人の上院議員は、名指してこれらの企業献金と賛成議員の密着した関係を糾弾されている。

<企業献金が左右したTPA採決>
 こうした中、イギリスのガーディアン紙は、法案に賛成した、ベネット、マリー、ワイデンの3人の民主党上院議員は、2016年の選挙を控えており、1月15日から2ヶ月間に、集中的な献金を受けっとっていたことを報じている。また、中川昭一農林水産大臣と同じ頃にUSTRの代表だった共和党のポートマンは、TPPの代表的な推進議員であり、オハイオ州知事のストリックランドとの選挙を控え、ゴールドマンサックスやファイザーから多額の献金を受け取っていることを指摘している。
 他にも、金の政治への影響を調査するMapLight(2015年1月24日)が「貿易法を支持する業界が上院に反対する業界よりも9倍の献金」というタイトルのもと、マコネル(共 826万ドル)、ギリブランド(民 628万ドル)、ポートマン(共 601万ドル)、シューマー(民 590万ドル)、コーニャン(共 466万ドル)・・・10位 ハッチ(共 393万ドル)と上位10人を名指ししている。いずれもTPA法案をめぐって頻繁に登場する議員たちである。1位と10位の2人の共和党議員は、TPAの推進派の中心だった。
つまり、企業からの多額献金がTPA法案を可決させたのだ。
 こうした企業と政治家の癒着に対し、国民は黙っていまい。今後労組に加え、消費者団体、環境団体、宗教団等あらゆる市民派グループが、企業利益に動くTPPに反対し、こうした裏切り議員を追及していくことが予想される。大企業のためにアメリカ人の生活が脅かされると、国民レベルで反対運動が広まりつつある。

<大統領選を睨んだ共和党の戦術>
 オバマ、大統領自らが遺産としたいと正直に言い放って執心するTPPは、任期中に締結したいと必死で動くだろう。一度は見直しを誤って冷や汗をかいた共和党上院総務のマコネルは、「オバマ政権期で最も意義深い成果となるだろう」とオバマをおだてつつ、自画自賛している。しかし、共和党はすんなりTPPを認めるとはとても思えない。一旦は、TPAは通しても、死に体政権の功績作りには冷ややかな態度をとり続けるに違いない。その前に求心力低下をまざまざと見せつけたオバマ大統領に、根強い反対論者を抑え込めるかどうか、甚だ疑問である。
 TPAの期限は当面3年、延長して6年 2021年まで有効である。2016年に誕生させんとしている共和党大統領の功績にすべく、あらゆる手段を使ってオバマ政権下での軟弱な妥協を許すことはあるまい。
 そして、何よりもTPPが締結できないことを、民主党大統領のせいにして政権を揺さぶり、大統領選を有利に運ぶ算段である。夏までに決着をつけないと大統領選が始まるとTPAの採決を急がせながら、実はもう大統領選は始まっているのである。