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【TPP交渉の行方シリーズ40】企業献金が後押ししたTPA採決‐TPAを巡る大企業対一般国民の対立構造が明確化‐15.07.07

<政府・マスコミ一体となった暴走が続く危険>
 米議会で、TPAが通過したことから、甘利TPP担当相も「7月中に(2カ国)閣僚会合で合意する必要があり、それは可能だ」「日本としては8月以降に閣僚会合がずれ込むことは全く想定していない」「日米両国にはそれほど深刻な問題は残されていない」と、全く有頂天である。それに調子を合わせて、安倍官邸大本営に加担しっぱなしの翼賛5
大紙は、こぞって、これで交渉に弾みがかかり、一挙に妥結に向かうといった提灯記事を書いている。
 日本の5大紙は案保法制については、意見が分かれ健全性を保っているが、自由貿易、規制改革といった、すたれた経済成長至上主義を金科玉条とする5大紙は、今も目を覚ます気配が感じられない。ただ、産経だけが「TPP交渉楽観できず 貿易自由化に高いハードル」と珍しく少々違った報道振りなのが目を引いた。

<せっかくの表現の自由も霞むだけ>
 私は、こうしたワンパターンの論調をみるにつけ、「全員一致の決議は無効である」と警鐘を鳴らした山本七平を思い出さずにはいられない。TPP推進派が見本とするアメリカであれだけすったもんだしているTPPに、我が国の5何の大紙が疑問を呈そうとしないのは危険極まりないことである。満州へ、東南アジアへと突き進み、大失敗をやらかした戦前の日本がだぶってくる。マスコミも政府の暴走をとめることなく、お先棒担ぎをしていることに気付かないのだ。
 自民党の「文化芸術懇話会」の問題発言を契機に、言論の自由、表現の自由の大切さが改めて再認識されているが、TPP・TPA報道にみられるような一方的報道では、せっかくの「自由」を駆使しているとは思えない。日本はどこか狂ってきているのかもしれない。

<TPAによりたがをはめられたオバマ政権>
 しかし、実態は残念ながら、日本の思う方向にはすすまない。アメリカと歩調を合わせTPPを急いでまとめたいと思っているのは、日本だけである。豪・NZ、シンガポールはまとめたいと思っても、アメリカの今後の動きには懐疑的なのだ。
 日本の楽観論はTPAで交渉権限を授権されたのだから、オバマ政権がTPPをまとめるために、妥協のカードを安心して切ってこれるだろうという勘違いに依拠している。議会は形式的には、一括承認(up or down approval)しかできないことになっているが、前号で指摘したように、実はいつでも交渉権限を剥奪できる仕組みになっている。重みを持つのは実は後者のほうなのだ。
 つまり、オバマ政権の手にした交渉権限は手枷足枷のものにすぎず、少しでも議会の気にそぐわない交渉内容が知らされるや、そこで止められるという危ういものである。もっと言えば、交渉権限を与えたふりをして、逆にたがをはめたのが今回のTPAなのだ。さもなければ、共和党がおいそれと賛成するはずはない。

<強硬な主張をぶり返すアメリカ>
 日本の表面しかなぞらない論調は、共和党のほうが自由貿易推進派が多いから賛成し、労組に支持されて職を失うことを懸念する民主党が反対した、と通俗的な解説をしているが、アメリカの政治はそんなやわなものではない。例えば、TPAは「農産物関税は撤廃か、アメリカ以下に引き下げる」などと規定しており、これを受けたフロマンは以前より倍加させた無理難題をふっかけてくるかもしれない。日本の国会議決とアメリカのTPAには完全にそごが生じている。もしも中間でめでたく合意が成立するとしたら、日本は国会決議に、そしてアメリカは法律に違反していることになる。
 このTPAにより、オバマ政権は交渉で軟化することなど絶対にできないように、議会から監視されることになったのだ。従って、今後アメリカは、今まで以上に強硬は主張を繰り返してくることになる。アメリカがまとめるために妥協してくるなどということはまずありえない。

<内容を知れば知るほど反対が増える>
 あれだけ両院で行き来しもめたTPPは、多くの問題点を貿易円滑化及び取締の機能活動法案としてTPAから切り離し、7月7日の休暇あけの議論に委ねられている。このことはJC総研特別顧問(元農水審議官)木下寛之氏のブログにわかりやすい分析がなされている。例えば、移民法は変えないこと、地球温暖化等で義務付けしないこと。漁業補償金の撤廃、人身売買該当国は対象にしないこと(マレーシアがこれに当たり、今のところ問題となる)等が今後に残されている。
 TPAはTPPの承認手続きを細かく規定している。交渉の妥結から署名まで少なくとも数ヶ月を要する。議会に協定案を提出する90日前にUSTRのホームページに全文を公表することが義務付けられている。国際貿易委員会の経済影響分析も経なければならない。
 公表した段階で、上述のあらゆる階層の関係者から数々の疑問点が指摘され、多分多くの国会議員も国民も内容の酷さに気付くはずである。そして、そう簡単にUP(賛成)の票が集まるとは思えない。

<TPPを金で操るアメリカ大企業>
 アメリカのTPP推進派は、保険業界、金融業界、医薬品業界、そして農業界である。日本が参加した13年秋のブルネイ会合以来、私は大半の閣僚会合に、大した役にも立たないのに民主党の目付け役として参加してきた。日本からは国会決議を守らせんとする農業団体が大挙して押しかけ、アメリカからは医薬品業界が随行し、レセプションまで主催していた。
 アメリカでは「アメリカTPP企業連合」の構成員である世界一の医薬品メーカー・ファイザーやノバルティス、保険業のアフラック、金融のシティグループ等が、TPP推進議員への献金団体として名を連ねている。アメリカのネット上、民主党からTPAに賛成した19人の下院議員と13人の上院議員は、名指してこれらの企業献金と賛成議員の密着した関係を糾弾されている。

<企業献金が左右したTPA採決>
 こうした中、イギリスのガーディアン紙は、法案に賛成した、ベネット、マリー、ワイデンの3人の民主党上院議員は、2016年の選挙を控えており、1月15日から2ヶ月間に、集中的な献金を受けっとっていたことを報じている。また、中川昭一農林水産大臣と同じ頃にUSTRの代表だった共和党のポートマンは、TPPの代表的な推進議員であり、オハイオ州知事のストリックランドとの選挙を控え、ゴールドマンサックスやファイザーから多額の献金を受け取っていることを指摘している。
 他にも、金の政治への影響を調査するMapLight(2015年1月24日)が「貿易法を支持する業界が上院に反対する業界よりも9倍の献金」というタイトルのもと、マコネル(共 826万ドル)、ギリブランド(民 628万ドル)、ポートマン(共 601万ドル)、シューマー(民 590万ドル)、コーニャン(共 466万ドル)・・・10位 ハッチ(共 393万ドル)と上位10人を名指ししている。いずれもTPA法案をめぐって頻繁に登場する議員たちである。1位と10位の2人の共和党議員は、TPAの推進派の中心だった。
つまり、企業からの多額献金がTPA法案を可決させたのだ。
 こうした企業と政治家の癒着に対し、国民は黙っていまい。今後労組に加え、消費者団体、環境団体、宗教団等あらゆる市民派グループが、企業利益に動くTPPに反対し、こうした裏切り議員を追及していくことが予想される。大企業のためにアメリカ人の生活が脅かされると、国民レベルで反対運動が広まりつつある。

<大統領選を睨んだ共和党の戦術>
 オバマ、大統領自らが遺産としたいと正直に言い放って執心するTPPは、任期中に締結したいと必死で動くだろう。一度は見直しを誤って冷や汗をかいた共和党上院総務のマコネルは、「オバマ政権期で最も意義深い成果となるだろう」とオバマをおだてつつ、自画自賛している。しかし、共和党はすんなりTPPを認めるとはとても思えない。一旦は、TPAは通しても、死に体政権の功績作りには冷ややかな態度をとり続けるに違いない。その前に求心力低下をまざまざと見せつけたオバマ大統領に、根強い反対論者を抑え込めるかどうか、甚だ疑問である。
 TPAの期限は当面3年、延長して6年 2021年まで有効である。2016年に誕生させんとしている共和党大統領の功績にすべく、あらゆる手段を使ってオバマ政権下での軟弱な妥協を許すことはあるまい。
 そして、何よりもTPPが締結できないことを、民主党大統領のせいにして政権を揺さぶり、大統領選を有利に運ぶ算段である。夏までに決着をつけないと大統領選が始まるとTPAの採決を急がせながら、実はもう大統領選は始まっているのである。