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【TPP交渉の行方シリーズ51】TPP阻止もアメリカ頼みの悲しさ -甘利TPP担当相の辞任は当然か?- 16.02.10

 民主党は1月、『突貫作業でTPPは支持できない、問題あり』の中間報告をまとめた。

<民主党はTPP反対を明確化>
 遅い対応だが、12年末の総選挙のように推進などと愚かなマニフェストを作っていた時と比べるとかなり「まし」になった。とはいえ、さっさとTPP批准反対と明確に打ち出していけばいいのに、まだ腰が引けている。しかし、我々反対している者の努力と3回の選挙の大敗北に懲りて、さすがの上層部も方針として反対していくことはほぼ決めている。どうしても打ち出せないのは、例によって幹部のなまくらな姿勢故である。
 私がカナダのバンクーバーに出張中の1月19日に中間報告をまとめたのは、一つには1月25日の岡田代表の代表質問に備えるためでもあった。ところが、質問は32に及ぶ政策項目に触れたというのに、14年秋の閉会中審査の予算委員会と並んで再びTPPに一言も触れなかった。
 2011年の秋にTPPを巡り大議論をした折、当然岡田代表(当時は役職なし)は賛成、私などは反対。その時賛成したので、今も反対するのはイヤらしい。私は反TPPを明確に打ち出していけば、2007年ほどではないにしろ32の1人区でかなり勝てると思っているが、いくら進言しても動こうとしない。

<私の海外出張中に閣僚スキャンダルが飛び出すジンクス?>
 ところが、私のバンクーバー滞在中(1/15~22)に、またもや週刊文春(1/21発表)で現職閣僚・甘利明経済財政相のスキャンダルが暴露された。14年秋に私がシドニーのTPP閣僚会合に出張していた時には、西川公也農水相の何のことはないスキャンダルがなんと3つの週刊誌に掲載された。今回は甘利TPP担当相のあっせん利得罪も立件されんとする大スキャンダルである。閣僚として重さと罪深さでは前回の比ではない。私は、日本の新聞のコピーをバンクーバーで読みながら、これは辞任しかないだろう、と直感した。週刊文春の記事は凄まじい内容だったが、甘利大臣はそれにもかかわらずスイスのダボス会議に出張した。

<甘利大臣辞任は当然>
 日本的な決着として、甘利大臣はずっと交渉担当だったのだから、せめて2月4日のニュージーランドでの署名会合を花道に退陣と思いきや、予算委員会が始まる前の1月28日の記者会見で涙を浮かべながら辞任してしまった。
 私は、この交渉をまとめることだけしか念頭になくて担当し、交渉で国益を守るための最後の努力もせずに行司役に徹した、などとのたまう甘利大臣は、それだけで辞任に値すると述べてきた。それにもかかわらず、日本のマスメディアは逆に難しい交渉をまとめた功労者などともてはやしていた。

<50万円を平気で胸にしまう政治家が国益を追求するか>
 私はこうした論調に歯ぎしりしていたところだった。残酷なようだが、こういうのを「天網恢々疎にして漏らさず」というのだろう。農民を不安に陥れ、国益を無視してTPP交渉をまとめるという功名心に走った甘利大臣に天罰が下ったともいえる。
 私は、ひたすら妥協するだけだった交渉経緯を徹底的に糾弾して辞任に追い込むべきと思っていた。14年秋の臨時国会では、私は農林水産委員会の筆頭理事として、西川大臣の県庁勤め時代の不起訴案件などを国会で取り上げなかった。しかし、甘利大臣は許すわけにいかなかった。
 大臣室で50万円を平然ともらい「いい人ばかりと付き合っていては選挙に勝てない」と開き直る政治家が、日本の国益を賭して必死で交渉していたとは農民でなくとも信じまい。一事が万事なのだ。

<再びアメリカ頼りのTPP粉砕>
 日本では、TPPの署名は終わったし、後はTPP特別委員会で条約(協定)の批准と関連法の成立を待つばかりという雰囲気である。後任に石原伸晃元幹事長が就き、甘利辞任の日に認証式も済ませている。安倍首相は代表質問の答弁でかばう素振りをしながら、影では電撃辞任で潔さを示して国民を騙すシナリオを描いていたに違いない。石原新大臣は予算委員会でにわか勉強の成果よろしく荒っぽい答弁の最中である。最悪の妥協をした甘利前大臣がいなくなり、何もわからない石原新大臣の核心からはずれっぱなしの答弁に納得するわけにはいかない。
 日本では、いくら国会で頑張っても多勢に無勢、最後は多数決で可決されてしまう。そして、TPA法案が通らないかもしれなかったのと同じく、TPP粉砕の頼りはまたもやアメリカである。そして、なんと幸運なことに今回も希望がないわけではない。

<民主・共和両党の上位2人ともTPP反対>
 アメリカの大統領予備選は2月1日のアイオワ州の予備選で火蓋が切られたが、予想通り混戦模様である。民主党はサンダースが予想以上に善戦し、クリントンに0.2%差に迫った。一方、共和党はトランプが圧倒的に優勢というマスコミや世論調査の予想の中、党内きってのタカ派のクルーズが1位となり、トランプが2位になる番狂わせとなった。
 政治が混乱すると大衆は右や左の極端に流れるという好例がアメリカでも出現した。サンダースは自ら社会民主主義者と名乗り、格差是正を前面に出し、若者のアンチ・ワシントン(既成政治家)の支持を広く受けている。最低賃金時給15ドル、公立大学の授業料無償化等を掲げ、TPPは大企業のためにしかならないとして、最初から大反対である。クリントンも自分の求めた水準ではないとして反対している。
 一方、右のクルーズ、トランプともにISD等の軟弱な規定を嫌い、もともと反対している。トランプは例の調子で、シボレーは東京で1台も走っていないのに、日本は何百万台もアメリカに輸出している、我々を犠牲にして他国を豊にするバカげた協定だ、と大反対している。
 かくして、アイオワ州の両党の1、2位4人ともすべてTPPに反対している。

<共和党重鎮も審議促進の意思なし>
 これではいくらオバマ大統領が自分の2期目の遺産(legacy)として年内の批准を目論んでも、そうは問屋がおろすまい。2月2日、オバマ大統領は野党共和党指導部に早期承認を求めた。それに対しマコネル上院院内総務は、TPPの審議は大統領選後への先送り意向を示している。また、かつてTPA法案を支持したハッチ上院財政委員長も議会で承認されるには何年もかかると冷たい態度である。
 アメリカでは国際貿易委員会(ITC)の経済的影響の分析結果が5月中旬に提出され、その後にしか審議に入れない。しかし、7月には夏休みに入る。一方大統領選は佳境に入っていく。ずるいやり方をして大統領選後の交代前の旧議会での一挙承認もありうるが、やはり新しい議員でなければ公正を欠く。どう見ても17年以降でないと審議されまい。
 さらに次々期大統領選に照準を合わせたライアン下院議長は、当初はTPPの審議に応ずる気配をみせていたが、今や慎重な姿勢に転じている。

<日本の政治の信用を低めた甘利金銭スキャンダル>
 日本では、甘利大臣の辞任はTPPの国会審議・批准にそれほど大きな影響を与えないとタカを括った見方が一般的だが、他国は日本の成り行きを注視しているに違いない。なぜならば、途中参加で何の具体的提案もせず、ひたすら妥協を繰り返してまとめることだけに腐心する異様な交渉者(甘利大臣)の姿勢は各国には奇異に映っていた。特にマウイ島でアトランタで大交渉国が行きながらろくに光章もせずにいることが不思議がられていた。
 そこに突然の金銭スキャンダルによる辞任は、驚き以外の何物でもない。TPP妥結へのこだわりの原因を、業界団体の「菓子折りの入った紙袋と封筒」の故と疑って見られている可能性が高い。
 いずれにしても、穢れた担当により決着をみたTPPが、清く正しいものであるはずがない。スポーツ界においては、ドーピングなど不正をして得た記録は取り消されている。国の命運を決するTPPの交渉の傍ら、大臣室で金を受け取っていたのだ。そして、秘書がフィリピンパブで接待を受けていたのである。交渉結果をすんなり認めるわけにはいかない。

<日本でも今国会の審議入りは認められず>
 安保法制は、アメリカの意のままに日本の自衛隊が海外に派遣され、戦争に巻き込まれるという危険をはらんでいる。しかし、アメリカが日本を攻撃する手段とはならない。ところが、TPPは日本から富を略奪する道具となる危険なものである。だからこそアメリカもきれいごとを言いつつ、日本を抱き込んだのだ。
 本文の日本語訳だけでも2000ページ、精査もろくにできずに2月4日に署名されてしまったが、これから数ヶ月かけて国会議員にも国民にもきちんと説明してもらわねばならない。学者・研究者に専門的に中身を吟味してもらいたい。内容も知らずにずっと提灯記事を書き続けてきた五大紙も2000ページという膨大な内容を読みこなし、自分達の主張の検証をする義務がある。それにはもっと時間が必要である。
 カナダの新政権が条文をしっかり検討する姿勢を見せていることを見習わねばならない。ずっと秘密交渉にしてきた異様な協定である。日本もそう簡単に審議させるわけにはいかない。
 また、いい加減極まりない影響試算もやり直させなければならない。