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2016年4月27日

【TPP特委報告4-番外編】 環太平洋造山帯に原発があるのは非常識‐チェルノブイリ30周年の日に川内原発停止・廃止を考える- 16.04.27

 4/18(月)、熊本地震の余震が続く中、2回も延期になったTPP特委の審議が行われた。私の質問時間はもともと40分と少ないうえに、災害関係を中心に質問するということで、10分削られ30分に短縮された。その中で震災がらみも質問せよというのが国対の方針、用意した質問を更に削らないとならなかったのでとても言い尽くせなかった。そこで、私が原発との関連で言わんとしたことを以下に述べておきたい。また、30年前の4月26日は、チェルノブイリ原発事故が起きた日であり、我々は原発のあり方について一考するのに丁度よい日に当たる。

<活断層だらけの日本には原発適地はなし>
 日本では、よく原発施設の直下に活断層があるかどうかが問題になる。しかし、地震は何も活断層の上だけで起こるわけではなく、数10Km離れていても大きく揺れる。今回の地震は典型的な断層地震である。紀伊半島から四国を通って佐田岬まで続く中央構造線断層帯の延長に九州がある。それは別府万年山断層帯、布田川断層帯、日奈久断層帯と連なり、九州を分断するかたちとなっている。そして九州の真ん中でエネルギーがたまり、大きな横ズレが発生して、最大震度7という大きな地震につながった。
 日本にはそこら中に2000以上の活断層があり、いつそれらがズレるかわからない日本には原発適地はない。

<アメリカ西部の原発は2ヵ所4基のみ>
 アメリカには100基余の原発があるが、ロッキー山脈の西側には、カルフォルニアのディアブロ・キャニオンとアリゾナのバロ・ベルデの2ヵ所に計4基しかない。そしていずれも40年寿命で廃炉というルールにのっとって稼働期限が決められており、2027年にはすべてなくなることになっている。アメリカでは環太平洋造山帯では、地震が起こるのは当然で、そんな所に原発があってはならないというのが常識である。95%以上の原発は地震のないロッキー山脈の東側にしかない。日本に50基もの原発があるのは、地質学者からみると信じ難いことだという。

<原発事故に備えて分散設置するアメリカ、金に目がくらんで集中する日本>
 それからもう一つ、アメリカの原発リストをみると、3基ある原発施設は2カ所だけであとは2基が普通である。つまり多くあると事故になった場合に大事故になるのでわざと分散させている。ところが、日本では3基以上が大半であり、柏崎刈羽には7基もある。2基しかないのは敦賀、川内、志賀、島根等少数である。受け入れ市町村が地元にもたらされる諸々のうま味につられ、次から次と新規増設を認めてきたからである。事故のことなどおかまいなしだった。
その点では福島第一(6基)と第二(4基)に分かれていたのは不幸中の幸いだった。もし同じ場所に10基あったら、もっと大変な事態になっていただろう。考えただけでもぞっとする。

<最終処分議連事務局長として世界の地下処分場を視察>
 14年9月、私は増子輝彦参議院議員(民)、富田茂之衆議院議員(公)とともに、世界の高レベル放射性廃棄物の最終処分場視察に赴いた。我々は議員連盟を創り、この問題を定期的に議論してきている。私はその議連の事務局長である。原発廃止しても使用済み核燃料の最終処分場は必要であり、原発推進するにももっと必要である。だから河村建夫、山本拓両衆議院議員のような推進派もこの議連のメンバーである。この点では呉越同舟している。
この時は、ドイツのゴアレーベン地下研究所(岩塩)、スイスのモン・テリ岩盤研究所(粘土地層)と2か所の地下処分場を視察、アメリカのワシントン州ハンフォードでかつて埋設された廃棄物を再整埋して処分のやり直しをする現場も視察した。

<1世紀前の断層地震の名残りを視察>
 そうしたスケジュールの中に、カルフォルニア大学のローレンス・バークレイ国立研究所が入っていた。そこで地質学的に最終処場の適地はどこにあるかについて説明を聞いた後、数時間かけて訪問したのがサンフランシスコ北のかつての牧場の柵が残った公園である。フォールト・トレイル(断層路)と名付けられた自然探究路もあったが、人もまばらだった。
 1906年、1300kmにわたって続く巨大なサンアンドレアス断層のズレによりカルフォルニア大地震(M8.3)が発生した。それにより牧場の柵が6m近くズレているのが、一目でわかる場所だった。我々に凄まじい断層のズレを起こす大地震の恐ろしさをわからせるための半日視察だった。

<川内原発は当然停止すべき>
 1995年の阪神・淡路大震災(M7.3)や2014年の長野県北部地震(M6.7)は断層地震である。前述のように、将来地震が起こるおそれのある活断層は2000以上存在する。今2004年の新潟中越沖地震と同じように地震が910回を超え、震度5以上が17回も数えている(4/26午後6時まで)。気象庁は何ヶ月も続くかもしれないと警告している。つまり100Kmを超える地震活動帯ができ、九州を真っ二つに引き裂くように動いている。
 これが南の川内原発に伸び、更には東の伊方原発にもつながるかもしれない。地震がこれ以上広がらないと確認されるまでは、少なくとも川内原発を停止すべきである。仮に科学的、技術的に大丈夫だとしても、福島原発から5年しかたっていないのであり、住民の不安を和らげるために止めるべきである。これが政治的配慮というものだが、それもしようとしない政府の傲慢さは、私には信じ難いことである。
 田中原子力規制委員長は「科学的根拠なし」と言っているが、福島の事故は科学を超えた想定外ですましておいて、いまさら科学を信じろというのはピントがズレている。

<地震で壊れた原発近辺からの避難は不可能>
 30年前チェルノブイリ原発事故の後、従業員の街プリピャチでは、理由も知らされずに住民が次々と避難させられた。そして二度と帰ることはなかった。2011年4月、私はその廃墟に立っていた。
 私は熊本地震の映像を見て、もし原発事故が起きたら崖崩れで寸断された道路や崩れ落ちた橋等の中で、どう逃げるのか心配になった。逃げられないならとりあえず屋内退避といわれても、多くの人が余震が恐ろしくてとても家の中には入れず、屋外駐車場の車の中で過ごしていている。つまり大地震が原発を襲ったら、日本では避難計画など紙切れになってしまうということである。

<偏る安倍総理の安全保障観>
 安倍総理は、日本人の生命と財産を守ると安全保障政策に力を注ぎ、安保法制を強行採決までしている。ところが、どうも日本の安全を守るといつつ、あらぬ方向にばかり偏っており、本当の安全はないがしろにされているとしか思えない。例えば食料安全保障である。軍事ばかりに気が向く一方、TPPでも地方や農村が疲弊してしまうことを少しもかえりみず、農業生産力の低下などどこ吹く風である。
 国民が身近で身の危険を感ずるのは、地震、雷、火事、親父ではないが、第一に地震や台風と言った自然災害だろう。21世紀の日本には、その前に原発事故による放射能汚染がある。

<原発事故こそ最大の危険>
 国民は福島第一原発事故の恐怖を忘れていない。人生観を変えるできごとだった。日本は戦争に敗れたわけでもないのに、3%以上の国土が避難地となり当分人が住めない土地になってしまった。一時は16万人もが避難をしいられた。今、熊本地震でも6万人の方が避難生活をしいられているが、地震が収束次第一刻も早く復旧作業に取り組み、元の生活を取り戻せるよう私も微力ながら尽力したい。しかし、原発事故で汚染された地域は、チェルノブイリの30Km圏内と同じように何十年も戻れなくなるおそれがある。
 災害に備えればいいという人がいるが、今回の熊本地震でもわかるとおり、いつどこで突然大地震がおこるかわからない。火山列島・地震列島日本では防ぎようがない。アメリカの地質学者ではないが、地震の巣窟日本に原発が50基もあるのは正気の沙汰ではない。

<原発廃止で世代責任を果たす>
 日本の安全を考えたら、地震のような災害を阻止できないのだから、原発を廃止する途しか残されていない。だから2人の元首相、細川 護熙、小泉純一郎は原発の即時廃止を主張している。日本の行く末を思ってのことである。ドイツのメルケル首相もドイツの国土の汚染を嫌い、ドイツ人の健康をそこねるわけにいかないから、原発廃止の決断を下したのである。我々の世代の都合で汚染された国土を後世代に残すのは無責任極まりない。(私が2012年『原発廃止で世代責任を果たす』を上梓した理由がここにある)
 もし、安倍総理が本当に美しい国日本を守り、日本人を愛するなら、原発廃止以外の途はない。そして、総理の先輩小泉元首相が重ねて述べているように、安倍総理にこそできる決断なのだ。

2016年4月26日

【TPP交渉の行方シリーズ55】TPP特別委員会報告その3 反TPPの象徴 鎌谷一也氏 ‐二大政党制には与野党から農協系比例候補出馬が必然‐16.04.26

 政府・自民党はやたらTPPの審議を急いだ。理由の一つにTPPを参議院選の焦点にしないために、その前の国会で決着を着けようという悪い意図があった。しかし、今その悪巧みは消え失せようとしている。
 私はこの間に秘かに反TPP候補を野党から建て戦おうと画策していた。まずはふさわしい候補者だが、全国の反TPPの農民等に納得していただける適任者はそんなにはいない。

<各県別名刺の束から選定>
 幸い、私は1980年代の中ごろから、途中パリ勤務の3年間を除き、全国各地に講演に訪れていて農業関係者と多くの知人が数多くいた。そうした中から次の条件にあてはまる者を必死で選んだ。私の癖で名刺交換した人たちの名刺を、県別に揃えてとってあった。三日月大造氏の滋賀県知事選時にその名刺のコピーを持って馳せ参じたところ、奥村展三前衆議院議員から「これは私が県議に当選した頃に付き合った重鎮県議で大半が亡くなっている」と笑われた。1980年中盤ぐらいからとってあったからだ。

  ① 60才前後(民進党は若ければいという感じで選んでいるが、政界には私はその世界できちんと経験を積んだ者が必要だと思っている)。
  ② 一番影響を受ける畜産関係者
  ③ 農協組織の経験者(民進党は特に一匹狼なり、非組織人が多く、どうも組織的対応のできない者が多い。自民党の山田俊男参議院議員(元全中専務)と次期選挙立候補予定の藤木真也氏(元農協青年部トップ)への対抗という意味もある)

<即断即決の玄葉選対委員長>
 そしてくどきにかかったのが、鎌谷一也鳥取畜産農協組合長(63才)である。鳥取2区の湯原俊二元民主党衆議院議員と埋橋茂人長野県議等にも手伝っていただきながら接触し、話を進めてきた。玄葉光一郎選対委員長にも面接してもらい、公認の内諾も早々と取り付けていた。玄葉選対委員長が話の分かる民主党執行部なのが幸いした。

<立候補への理解を求めて国会中継で一押し>
 もっと早く結論を出したかったが、予想した通り最後は周りの人たちの理解、了解がなかなか得られなかった。私が目をつける人は、地元にもなくてはならない人なのだ。そこで丁度よくTPP特別委のTV中継入りの審議が重なったので、その場で反TPPの象徴的候補だという念押しをして、関係者の皆様に了解をいただく一助にすることを考え付いた。予定の4月8日(金)には、地元の専務も話を聞きたいと上京した日だったが、19年振りTV中継中の退席となり、更に15日(金)は熊本大地震で延期、実現したのは18日(月)になった。
 私は、TPPに関して安倍農政がいかに農民には不信の目で見られているかを、日本農業新聞の直近のモニター調査を使って問い質した。TPP不安9割、影響過小評価8割、経営悪影響6割、安倍農政不満9割と相当評判が悪い。そして、夏の参院選には、75.3%が「与野党の勢力が拮抗」することを望んでいた。
 私は、この人たちの希望を叶える比例区の候補者を立てないとならず、今回の国会中継を見て周りの人たちがしょうがない、そのとおりだと思っていただけることを願ってここでやらせていただいている、と結んだ。

<やっと漕ぎ着けた出馬記者会見に>
 そして、20日めでたく衆議院第2議員会館で出馬記者会見という運びになった。途中は省くがかなりの時間とエネルギーを要した。これが例の「さくらの木」構想の根回し(これについては別途記述する)、TPP審議等と重なっていたため、この数カ月本当にてんてこまいだった。一方で、せっかく決まった長野4区の公認候補者が、共産党等の協力が支持者の理解を得られない、というとって付けた理由で突然公認辞退することになった。困ったことだが、この一件を比べても候補者選定は本当に大変なことを身に染みて感じた次第である。

<まさに現場を知る反TPP候補>
 さて、ここで私の熱望した鎌谷一也氏を簡単に紹介したいと思う。
 小柄でガッチリした体格、いかにも山陰の農村育ちという雰囲気が漂う風貌。1953年生まれで農業を手伝いながら、野山を駆け回って成長。地元の小・中・高校を出て、京都大学理学部地球物理学科卒。それが故郷に戻り、信連勤務20年後、鳥取畜産農協に転じ、2004年組合長として辣腕を発揮、売り上げ額を12億円から23億円に倍増させた。まさに土着の農業者、農協人である。一般の総合農協ではなく、専門農協のトップとして、畜産関係者の間ではかなり前から知られた存在である。

<同じ基本的価値を有する者>
 分類をすればば当然リベラル系である。学生運動にも身を置いたこともあり、勤務後も労働組合の役員も務めている。農協惻隠の労働組合「農団労」に所属、その点では私の政界入りのキッカケを作った、堀込征雄元衆議院議員や郡司彰参院会長(元農水大臣)と同じ系譜に属する。

 私のブログの読者は既にお気づきかと思うが、私と基本的価値観なり考え方をかなり共有する人物である。私はこうした時は、必ずしも私の趣味(?)に合った人だけを選んだりはしないが、今回は数ある名刺と、私の記憶に残る関係者から入念に選んだところ、こういう方に落ち着いただけである。

<京大理学部卒の変わった農協人>
 私が簡単な履歴を作っていたが、20日の記者会見には本人の肉声で綴ったわかりやすい履歴書を使った、現下の農政についての考え方も手持ち資料として私の手許に届いていた。並みの国会議員よりも農政の知識はずっと深く、それこそすぐに役立つ議員になれる人である。何よりも、鳥取の農業の現場でくるくる変わる農政、冷たい農政に翻弄され、日本の歪みをじっと見続けてきた人である。本人の履歴書に、星と語れる農民になると理学部に進んだとあるが、農政を腹の底から頼れる農民になったのである。
 ガッチリした体にピタリのアメフト部に入り、京大アメフト部全盛期のちょっと前に大活躍し、1年生で初のレギュラーに選ばれた。ところが、百姓の小倅がスポーツなどうつつを抜かしてはならないと退部、その後どう生きるか悩んで・・・とは本人の弁である。つまり、少しユニークな所のある人物である。どうでもいいことだが、この点も私と共通する。

<空論農政を粉砕するために>
 農政について、規制改革会議や産業競争力会議がそれこそ空理空論の思い付きを出し、それを政府が受け入れるというトンデモナイ農政がまかり通っている。1980年代前半には、経団連や経済同友会がやたら農政提言なるものを出し、農政を混乱させた。その当時は、それでも外部からの指摘だった。私は大臣官房企画室でそれに必死で反論を書いて抵抗し、3年もいさせられる羽目になった。それが、今口先だけの学者・評論家・経済人が政府内部に居据わって、中から変な声を発している。これに対し、生の現場の声をぶつけて農政をまっとうな姿に戻してもらわなければならない。

<反TPPの象徴的候補>
 今秋にはまたTPP特委が再開されるという。4月20日参議院のTPP特委設置は見送られたが、参院選後は設置されるだろう。207年には1人区23勝6敗で大量に我がサイドに農村の事情のわかる議員が結集した。ところが2013年には、1人も当選せず(平野達男は離党して当選)、参議院の民進党の農林議員が手薄になってしまった。これをまた元の姿に戻さなければならない。その一人が私が手塩にかけ擁立せんとする傑物 鎌谷一也氏である。

<9年越しの野党農協人候補>
 9年前の2007年の参院選で、民主党は29の1人区で、非自民23(うち民主18)対自民6と圧勝した。これにより、参議院は野党が多数となり、安倍政権は腹痛を理由に秋の臨時国会で突然辞任した。農業者戸別所得補償を掲げ、小沢一郎代表が田んぼや畑を背景に、農民に話しかける、いわゆる川上戦略を徹底した上での勝利だった。これが2009年総選挙の政権交代の引き金となった。
 しかし、比例区に農業側の代表を擁立できなかったことで小沢代表に一喝されることになった。私も薄々は気になってはいたし、すぐに慌てて人選に入ったが、例の名刺の束の中から電話しまくると「篠原さん、私が初めて会ったのは篠原さんがまだ30代の頃、私は組合長で55才。私も篠原さんも同じように齢をとって、今はもう後期高齢者」といった具合でうまくいかなかった。農業者であればと思ったが、今度は小沢代表が農協人でないとダメだとテコでも動かなかった。そして間に合わず、9年後の今やっと実現した。

<小沢代表の正論に応えた結果>
 小沢代表からは、農水省OBが2人当選していたではないか、自民からも民主からも農政のできる比例区議員がいていい、農協界は4~5人分の票がある、と正論で叱責された。事実山田俊男氏はテレビの人気者舛添要一に次ぐ44万で2位当選。民主党候補の最低得票ラインが6万8千票だから、確かに数人分の得票だった。
 自民党公認の藤木真也氏に加え、民進党公認の鎌谷一也氏も2人揃って当選してもらい、日本の農政を正しい方向に導いてほしいというのが私の願いである。

2016年4月22日

【TPP交渉の行方シリーズ54】TPP特別委員会報告その2―TPPは明らかに国会決議違反―国会の判断の前に篠原孝が判定-16.4.22

<ウソ反TPPポスターに著作権はなし>
 2012年末総選挙で、長野一区では1枚も貼られなかったが、北海道、南九州、東北等で、やたらに貼られた「ウソつかない、TPP断固反対、ブレない―日本を耕す自民党」という悪名高いポスターがある。民主党がTPPを推進するという愚かなマニフェストを掲げていたこともあり、同僚議員はバタバタ討死してしまった。北海道は15人から2人に、九州は10人から2人に減ってしまった。
 私はこのポスターを提示し、まず馳浩文科相に選挙ポスターが著作権の対象となるかどうか問い質した。著作権は①保護期間が50年から70年になり、②親告罪(訴えがあって初めて罪を問われる)だったものが非親告罪(訴えがなくとも取り締まられる)となり、③日本にはない法定損害賠償制度(懲罰的で損害額を大きく上回る)といった大改正が行われる。②が問題で、日本のパロディ等の二次作品の創作意欲がそがれると問題視されている。ただ、非親告罪になるのは、市場目的を持つ海賊版等のみだと、一応歯止めがきいている。
 馳大臣は「個別の事案についてお答えする立場にない・・・」と、まるで刑事局長のようなお決まりの答弁だったが、4月7日のTPP特別委員会で安倍総理は、私はTPP断固反対と言ったことがないとか、知らないとか答えている。私は、少なくとも安倍自民党総裁は訴える資格がないと嫌味を付け加えた。

<次期総選挙で篠原ポスターとして二次使用?>
 ところで、このTPP断固反対、ブレない、を国会議員で一番ピッタリとやっているのは私ではないでしょうか。このNO TPPバッジ、STOP TPPネクタイをしてずっと反対しています。商業目的ではないため非親告罪にはならないようですので、この次の総選挙には一部手直しして私のポスターとして使わせていただきます。こう言ったところで、パネル持ちの小山展弘議員は、私のロゴマークにしている、鍬を担いで走る似顔絵イラストを「日本を耕す」の後に付け加えた。
 TVがどう映し出してくれたか知らないが、篠原さん本当にあのポスター使うんですか、と問い合わせが来たのをみると、私のパロディ(?)はちゃんと通じたようだ。政策ポスターとして本当に使っていいと考えている。

<関税撤廃、関税率削減にみる日米比較>
 牛肉の関税(38.5%)は2014年4月のオバマ大統領訪日時にTBSと読売新聞で報じられたとおり、16年目に9%に下げられることになった。内閣府はわざわざデマ報道だと記者会見までしたが、報道は事実であり、2015年10月の決着の1年半前には既に合意が成立していたのである。数寄屋橋ジローという鮨屋でオバマ・安倍会談が行われたが、文字通り手を「握って」握り鮨を食べていた(鈴木宣弘東大教授の多用する冗談)。だから、甘利大臣はマウイ島でもアトランタでも「行司役に徹する」とか呑気なことを言って、日本の国益の追求をしなかったのである。行司役は、藩基文国連事務総長やグロアOECD事務総長のすることであって、各国の交渉担当大臣のすることではない。

<ガソリン自動車は何十年、水田は何百年>
 牛肉は、まず1年目に11%も下げて27.5%にしたあと、16年目まで徐々に削減して10年目に20%、16年目に9%にすることになっている。セーフガード(輸入が急増した時に輸入制限できる)も、あまり働かないようにされてしまっている。
 これに対し、日本の攻めるべき自動車は、アメリカの関税がもともと2.5%と低いが、牛肉と違って関税引き下げ開始は16年目で撤廃は25年目。トラックにいたっては25%の関税が30年そのままで、30年後に撤廃。誠に気の長い話だ。30年後にガソリン自動車は消えているかもしれないというのに、何と悠長な約束か。
 それに対し、水田は100年前にもあったし、100年後もある。同じ尺度で考えてはならない。つまり、農業こそ100年の単位で考えるべきものであり、自動車と違うのだ。それを取引の材料としている。閣僚の中では平均寿命だとすると、30年後も生き残っているのは丸川珠代環境大臣だけであり、他の男性閣僚は全員80歳以上で生き残っていないと嫌味を付け加えた。牛肉と比べて明らかに譲り過ぎである。

<日本の輸出は自動車でもっている>
 しかし、ひとたび日米貿易収支をみると、自動車で譲るのはむべなるかなといえないこともない。2015年、日本の対米輸出額は15兆円、アメリカからの輸入額は8兆円で、日本の貿易黒字は7兆円。ところが、それを自動車と自動車部品でみると、対米輸出は、それぞれ4.4兆円と2.8兆円。アメリカからの輸入はごくわずかで、合わせた黒字は6.4兆円と、対米貿易黒字の90%も占めている。
 こんなにたくさん輸入してくれている国に関税を下げてもっと買ってくれ、というのはあまり強く言えないのは当然であろう。ある程度の譲歩は仕方ない。(別表「日本とアメリカの貿易の現状」)

<為替操作非難が起きるもっともな理由>
 もう一つ注目すべきは、2010年の貿易黒字4.5兆円が、5年後に2.7兆円増えて7.2兆円になっていることだろう。1ドル88円が121円と33円の円安になったことで急増したのである。物量ではほとんど増えていないのに、為替レートの変動で対米貿易黒字が急増したのである。これだから、トランプ氏は、日本は為替操作していると言いがかりをつけ、クリントン元国務長官まで大統領になったらきちんとした処置をとる、と述べるに至っている。この数字をみるとアメリカ側の指摘を根も葉もないことと言い切るわけにはいかないだろう。逆に言えば、全く関税が下がらないことに対して日本側が静かなのは、33円の円安が関税を30%近く下げたと同じ効果をもたらしていることに他ならない。
 為替操作は、もともと1980年代の対日貿易赤字をはるかに凌ぐ対中貿易赤字におびえたアメリカが、安い元の中国を標的にして言い出したことである。それがいつの間にか日本に向けられ始めた。昨年、中国経済は減速し、二度にわたり元安の措置をとった。うがった見方をする経済評論家は、アメリカが中国と同じように日本を為替操作国と攻撃するようにわざと仕向けた、と解説した。つまり、日米分断である。為替操作は日本ではあまり問題にされないが、貿易赤字国には捨て置けない問題だ。

<農産物でも譲ってしまう日本の軟弱交渉>
 日本が、アメリカが自動車の大お得意先故に譲歩するとしたら、アメリカこそ農産物の大お得意先の日本に譲らなければならない。ところがそうは全くなっていない。
 やはり、為替レートには左右されるが、日本は2015年には1.8兆円もアメリカの農林水産物の輸入超過である。日本の人口は減っているのであり、食料消費量が増えるわけでもなく、もうこれ以上輸入量を増やせないのは明らかだ。そんなことをしたら、国内の生産を圧迫し、農村がますます立ち行かなくなる。それを前述のように大幅な妥協を繰り広げた。一方的譲歩といっても過言ではない。
 林経産大臣からも森山農水大臣からも聞き飽きたきちんと交渉した、国益を守ったというありきたりの答弁しかなかった。

<篠原の国会決議違反判定―全く守られていない>
 短時間なので、私はやり取りよりも国民・視聴者への説明に重点を置いた。
私は12年12月の自民党選挙公約「聖域なき関税撤廃」や13年4月の農林水産委員会の決議に照らした違反ぶりを×印で示して追及した。嘘つきポスターは5つの×。(別表 「政府・自民党は公約や決議を守れたか」参照)

【決議① 農林水産物の重要5品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。十年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと。(5つの×)】
 まず、除外はなく、例外のみ。つまり、重要5品目もほとんど手を付けられて完璧に守られた品目はない。米韓FTAでコメの16品目は除外していたのと大違いだ。(これは自明のことだが、翌日、玉木議員の質問で、初めて手を付けられていない無傷の品目がないことが大袈裟に取り上げられた。)
 再協議をすべきという決議などどこ吹く風、妥協しっぱなしのまま、逆に7年後に日本だけが米、加、豪、NZ、チリの5カ国と再協議を約束させられる始末である。つまり、7年後にさらに自由化されることを約束させられたようなものだ。

【決議⑥ 農林水産分野の重要五品目などの聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとすること。(5つの×)】
 悲しいかな聖域すらほとんどまともに守れていないのに、日本が怒って退席する交渉場面など全く聞こえてこなかった。まとめたいという一心で国益は外に追いやられていたのである。

【決議⑦ 交渉により収集した情報については、国会に速やかに報告するとともに、国民への十分な情報提供を行い、幅広い国民的議論を行うよう措置すること。(5つの×)】
 情報公開は、交渉経緯ペーパーの黒塗り(ノリ弁当)等でそのひどさが明らかになっている。従って、国会決議は守られていないというのが私の判定である。

 このほかに、国民皆保険制度と安倍農政への評価について問い質したが、前者は随所で述べているので省略し、後者は次回に報告する。

2016年4月20日

【TPP交渉の行方シリーズ53】TPP特別委員会報告その1 - 情報公開せずに急ぎ過ぎるTPP審議―ノリ弁当のままでは審議できず-16.04.20

<久方振りのTV中継中の質問>
 アトランタ合意後、秋の臨時国会でTPPの審議をすべきところ、珍しく召集されず、それでは閉会中審査(予算委員会)でということになったが、残念ながら、農業問題も含め全く議論が深まらなかった。年明けて通常国会の代表質問、予算委員会でもあまり取り上げられなかった。
民主党は1月19日に中間報告で「国益に沿っていない」として、TPP協定に反対していくことを明らかにしたが、その後の代表質問で岡田代表は一言も触れず、日本農業新聞も酷評した。
 こんな状況だから私の出番も全くなかったが、4月18日(月)、TPP特別委員会で久方ぶりのTV入りの質問をした。「なぜあなたが質問に立って追及しないのか」とお叱りを受け続けていたので、たった30分だが、全国の皆さんに顔向けできホッとした次第である。時間が短かったため、次の機会に深めた議論をしないとならないと思っている。次期国会への継続審議になるかもしれないので、今回、私の主張を丁寧に報告する。

<拙速な審議>
 私は質問の冒頭に、15分冊の英文協定、その日本語訳5分冊、法案3冊を右側のパネルの裏に高く積んだ。TV中継では11時のニュースが入ったため、一般視聴者に理解していただけなくて残念だったが、TPP協定の内容がいかに膨大かを視覚的に見せるためである。私は霞が関30年、永田町13年、ずっとこのような仕事をしてきたが、これだけ、分厚い資料は前代未聞であり、それを4月中に採択して衆議院を通そうなどというのはありえないと考えている。
 最近の似た大きな協定+国内法の事例としては、1993年にWTOウルグアイ・ラウンド(UR)とその関係法、1996年に国連海洋法条約とその関連法の審議が行われた。幸か不幸か私はいずれもかかわりを持った。前者は農水省経済局国際部にいて交渉にかなり関与し、後者は水産庁企画課長(兼海洋法対策室長)として指揮をとっている。そして、今回は国会議員としての関与である。
WTO特別委員会は56時間37分、海洋法関連は12時間17分(総理入りの連合審査を含む)審議している。 海洋法は、日本が中国・韓国漁船に200海里内から出ていってもらうためのものであり、デメリットはなかったが、WTOは農業に大きな痛みが生じるという点では、TPPと瓜二つであった。海洋法は役所のまとめ役(手前味噌だが私)と自民党の調整役・与謝野馨政調会長代理のコンビで手続きを進めたため、さっと通すことができた。私はWTOの審議時にはOECD代表部勤務でパリにいたが、TPP同様にかなりすったもんだしただろう。

<分厚い資料を読みこなしてから審議すべし>
 石原TPP担当大臣に分厚い資料を読んだかという嫌味の質問をぶつけたところ、一通り目を通したという答えが返ってきた。私は全部読んだと言いたいところだが、『桜の木』など大事なことをしているので、半分ぐらいしか読んでいない。関係議員がざわついた。これから同僚議員は、具体的条文を例に引いて質問すると息巻いている。
 アメリカのライアン下院議長(共和党若手、将来の大統領候補)は、「読んでもいない貿易協定について私自身の立場を答えることができない」として、TPPへの判断を留保している。アメリカの国会議員の中には、こういう謙虚で正直で責任感のある者がいるのである。ちなみに先日来日したノーベル経済学賞受賞者のステグリッツ教授は6000ページの英文を読破したのはほとんどいないだろう、と皮肉った(2016.3.20ブログ参照)。

<不可解な日本が承認を急ぐ理由>
 参加12ヶ国のGDPの85%以上となるアメリカと日本が揃って承認し、最低6か国以上承認した60日後でないと発効しない。加盟国は、アメリカの審議がいつ始まるか不明のため、最も急いでいる国の一つであるNZですら、発効は早くとも2年後だと踏み、承認を急ぐ気配が見られない。承認したのはマレーシア1国のみである。
 そうした中、日本だけが承認と国内法の制定を急ぎまくって独走中である。安倍政権は安保法制でもTPPでも大暴走している。今、国内法を審議している国は1国もない。つまり、他の国々はまじめに協定の内容をじっくり検証しているところだ。それを13年7月に一番遅く交渉に参加した日本が、一番急いでいるのは拙速としか言いようがない。
 WTO関連法の場合は、URそのもののEU提案、アメリカ提案、事務局の妥協案等が主要な時点で国民にも国会議員にも明らかにされていた。それをTPPはずっと秘密交渉にしており、我々に情報公開されたのはつい最近、日本語訳は年が明けてからである。英文に一番なじみがないのは日本であり、全文を理解するのに一番手間がかかるはずだ。つまり、日本こそ一番時間をかけて準備してかからなければならない国なのに、一番急いでいるのである。ちぐはぐなことこの上ない。

<誰のための協定か>
 オバマ大統領は、21世紀のルールを書くのはアメリカであって中国ではない、と大見得を切ったが、ステグリッツ教授が"The rules are written by US corporation for US corporation. (TPPのルールはアメリカの企業によりアメリカの企業のために書かれている)"と指摘したとおり、国民のためのものとはなっていない。一握りの大企業がビジネスをしやすいようにルールを決めたのである。だから、TPP交渉を始めたクリントン元国務長官も、一部の大企業のためのものだと反対している。

<日本語がないがしろにされる>
 もともと短い質問時間で聞けなかったが、日本語が正文になっていないことも大問題だ。前述のとおり、GDPの多寡が発効の要件の基礎とされている。ところが正文にするかどうかでは、日本は完全に無視されている。
 英語圏は73.5%、日本語圏は16.4%、スペイン語圏は6.2%、(カナダを英仏半分ずつと仮定して)フランス語圏3.2%なのに、英語、スペイン語、フランス語が正文で日本語は含まれていない。どうも交渉過程で要求すらしていないようだ。つまり、日本はのっけから軟弱な交渉しかしていない。途中から交渉に参加したので要求できなかったと言い訳がでてくるが、それはカナダも同じだ。日本はただ入れてもらうことに、そして早めに妥協して成立させるためにだけ交渉しており、国益を守る気概には甚だしく欠けていたのである。

<憲法で日本語にこだわる安倍首相の矛盾>
 安倍首相は名うての憲法改正論者だ。理由の一つが、そもそも英語で書かれた原文を翻訳したアメリカの押し付け憲法だからというものだ。私もいろいろな機会に直に聞いている。曰く、1946年2月1日、毎日新聞が松本烝治担当大臣の2つの案をスクープした。激怒したマッカーサーが、ホイットニー民政局長とケーディス次長を呼び、自分たちで作ると言って、25人の委員によって8日間で作られたものがもとになっている。だから、日本語で日本の自主憲法を作るのだ。
 私もこういう主張が理解できないわけではない。しかし、権兵衛が種を蒔いてもカラスが種を蒔いても育てばよいのではないか。つまり、立派な憲法として定着していれば、出自にそれほどこだわる必要はない。
 しかし、安倍総理が日本語にこだわるというなら、前述の正文問題についても、憲法同様に安倍総理自身がこだわるべきものであり、再交渉してでも日本語を正文にすべきである。

<英語で押し付けられるアメリカのルール>
 TPPは、日本人の権利・義務に変化が生じるものであり、日本の国会議員がかかわる必要がある。それを占領もされてないのに、アメリカの条文を鵜呑みにしているだけでは、憲法以上にアメリカのものをそのまま受け入れていることになる。
 特許の条文にはアメリカの特許法の条文がそのまま使われている。だから、アメリカはTPPを承認しても、全て一緒くたにした実施法だけですむ。日米の言語格差は巨大すぎる。

2016年4月18日

16.04.18 TPP特別委員会質問資料

 いつも篠原孝をご支援賜りありがとうございます。
本日、TPP特別委員会で篠原が質問に立ちましたところ、パネルの資料のご要望を頂戴しました。
つきましては、下記リンクに本日の質問資料を掲載いたします。

16.04.18 TPP特別委員会 篠原 孝 
質問資料1
質問資料2