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【TPP交渉の行方シリーズ53】TPP特別委員会報告その1 - 情報公開せずに急ぎ過ぎるTPP審議―ノリ弁当のままでは審議できず-16.04.20

<久方振りのTV中継中の質問>
 アトランタ合意後、秋の臨時国会でTPPの審議をすべきところ、珍しく召集されず、それでは閉会中審査(予算委員会)でということになったが、残念ながら、農業問題も含め全く議論が深まらなかった。年明けて通常国会の代表質問、予算委員会でもあまり取り上げられなかった。
民主党は1月19日に中間報告で「国益に沿っていない」として、TPP協定に反対していくことを明らかにしたが、その後の代表質問で岡田代表は一言も触れず、日本農業新聞も酷評した。
 こんな状況だから私の出番も全くなかったが、4月18日(月)、TPP特別委員会で久方ぶりのTV入りの質問をした。「なぜあなたが質問に立って追及しないのか」とお叱りを受け続けていたので、たった30分だが、全国の皆さんに顔向けできホッとした次第である。時間が短かったため、次の機会に深めた議論をしないとならないと思っている。次期国会への継続審議になるかもしれないので、今回、私の主張を丁寧に報告する。

<拙速な審議>
 私は質問の冒頭に、15分冊の英文協定、その日本語訳5分冊、法案3冊を右側のパネルの裏に高く積んだ。TV中継では11時のニュースが入ったため、一般視聴者に理解していただけなくて残念だったが、TPP協定の内容がいかに膨大かを視覚的に見せるためである。私は霞が関30年、永田町13年、ずっとこのような仕事をしてきたが、これだけ、分厚い資料は前代未聞であり、それを4月中に採択して衆議院を通そうなどというのはありえないと考えている。
 最近の似た大きな協定+国内法の事例としては、1993年にWTOウルグアイ・ラウンド(UR)とその関係法、1996年に国連海洋法条約とその関連法の審議が行われた。幸か不幸か私はいずれもかかわりを持った。前者は農水省経済局国際部にいて交渉にかなり関与し、後者は水産庁企画課長(兼海洋法対策室長)として指揮をとっている。そして、今回は国会議員としての関与である。
WTO特別委員会は56時間37分、海洋法関連は12時間17分(総理入りの連合審査を含む)審議している。 海洋法は、日本が中国・韓国漁船に200海里内から出ていってもらうためのものであり、デメリットはなかったが、WTOは農業に大きな痛みが生じるという点では、TPPと瓜二つであった。海洋法は役所のまとめ役(手前味噌だが私)と自民党の調整役・与謝野馨政調会長代理のコンビで手続きを進めたため、さっと通すことができた。私はWTOの審議時にはOECD代表部勤務でパリにいたが、TPP同様にかなりすったもんだしただろう。

<分厚い資料を読みこなしてから審議すべし>
 石原TPP担当大臣に分厚い資料を読んだかという嫌味の質問をぶつけたところ、一通り目を通したという答えが返ってきた。私は全部読んだと言いたいところだが、『桜の木』など大事なことをしているので、半分ぐらいしか読んでいない。関係議員がざわついた。これから同僚議員は、具体的条文を例に引いて質問すると息巻いている。
 アメリカのライアン下院議長(共和党若手、将来の大統領候補)は、「読んでもいない貿易協定について私自身の立場を答えることができない」として、TPPへの判断を留保している。アメリカの国会議員の中には、こういう謙虚で正直で責任感のある者がいるのである。ちなみに先日来日したノーベル経済学賞受賞者のステグリッツ教授は6000ページの英文を読破したのはほとんどいないだろう、と皮肉った(2016.3.20ブログ参照)。

<不可解な日本が承認を急ぐ理由>
 参加12ヶ国のGDPの85%以上となるアメリカと日本が揃って承認し、最低6か国以上承認した60日後でないと発効しない。加盟国は、アメリカの審議がいつ始まるか不明のため、最も急いでいる国の一つであるNZですら、発効は早くとも2年後だと踏み、承認を急ぐ気配が見られない。承認したのはマレーシア1国のみである。
 そうした中、日本だけが承認と国内法の制定を急ぎまくって独走中である。安倍政権は安保法制でもTPPでも大暴走している。今、国内法を審議している国は1国もない。つまり、他の国々はまじめに協定の内容をじっくり検証しているところだ。それを13年7月に一番遅く交渉に参加した日本が、一番急いでいるのは拙速としか言いようがない。
 WTO関連法の場合は、URそのもののEU提案、アメリカ提案、事務局の妥協案等が主要な時点で国民にも国会議員にも明らかにされていた。それをTPPはずっと秘密交渉にしており、我々に情報公開されたのはつい最近、日本語訳は年が明けてからである。英文に一番なじみがないのは日本であり、全文を理解するのに一番手間がかかるはずだ。つまり、日本こそ一番時間をかけて準備してかからなければならない国なのに、一番急いでいるのである。ちぐはぐなことこの上ない。

<誰のための協定か>
 オバマ大統領は、21世紀のルールを書くのはアメリカであって中国ではない、と大見得を切ったが、ステグリッツ教授が”The rules are written by US corporation for US corporation. (TPPのルールはアメリカの企業によりアメリカの企業のために書かれている)”と指摘したとおり、国民のためのものとはなっていない。一握りの大企業がビジネスをしやすいようにルールを決めたのである。だから、TPP交渉を始めたクリントン元国務長官も、一部の大企業のためのものだと反対している。

<日本語がないがしろにされる>
 もともと短い質問時間で聞けなかったが、日本語が正文になっていないことも大問題だ。前述のとおり、GDPの多寡が発効の要件の基礎とされている。ところが正文にするかどうかでは、日本は完全に無視されている。
 英語圏は73.5%、日本語圏は16.4%、スペイン語圏は6.2%、(カナダを英仏半分ずつと仮定して)フランス語圏3.2%なのに、英語、スペイン語、フランス語が正文で日本語は含まれていない。どうも交渉過程で要求すらしていないようだ。つまり、日本はのっけから軟弱な交渉しかしていない。途中から交渉に参加したので要求できなかったと言い訳がでてくるが、それはカナダも同じだ。日本はただ入れてもらうことに、そして早めに妥協して成立させるためにだけ交渉しており、国益を守る気概には甚だしく欠けていたのである。

<憲法で日本語にこだわる安倍首相の矛盾>
 安倍首相は名うての憲法改正論者だ。理由の一つが、そもそも英語で書かれた原文を翻訳したアメリカの押し付け憲法だからというものだ。私もいろいろな機会に直に聞いている。曰く、1946年2月1日、毎日新聞が松本烝治担当大臣の2つの案をスクープした。激怒したマッカーサーが、ホイットニー民政局長とケーディス次長を呼び、自分たちで作ると言って、25人の委員によって8日間で作られたものがもとになっている。だから、日本語で日本の自主憲法を作るのだ。
 私もこういう主張が理解できないわけではない。しかし、権兵衛が種を蒔いてもカラスが種を蒔いても育てばよいのではないか。つまり、立派な憲法として定着していれば、出自にそれほどこだわる必要はない。
 しかし、安倍総理が日本語にこだわるというなら、前述の正文問題についても、憲法同様に安倍総理自身がこだわるべきものであり、再交渉してでも日本語を正文にすべきである。

<英語で押し付けられるアメリカのルール>
 TPPは、日本人の権利・義務に変化が生じるものであり、日本の国会議員がかかわる必要がある。それを占領もされてないのに、アメリカの条文を鵜呑みにしているだけでは、憲法以上にアメリカのものをそのまま受け入れていることになる。
 特許の条文にはアメリカの特許法の条文がそのまま使われている。だから、アメリカはTPPを承認しても、全て一緒くたにした実施法だけですむ。日米の言語格差は巨大すぎる。