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【TPP交渉の行方シリーズ56】 トランプ氏は病める超大国の申し子か-制度疲労を起こしているアメリカの制度は日本に合わず 16.05.10

 5月の連休の5日間、日米(韓)国会議員交流会議に参加のため、ワシントンD.C.で過ごした。お金のない私は国会議員になって初のゴールデンウィーク出張であり、ワシントンD.C.は5年振りである。日本とうって変わってずっと雨ばかり降っていた。

<トランプ氏の指名確実に>
 その間に共和党のトランプ氏の大統領候補指名がほぼ確実になった。3日、インディアナ州予備選も勝利し、最後まで残っていたクルーズ上院議員も撤退宣言したからだ。
 当初、泡沫候補とみられていたトランプ氏がここまでのし上がるとは誰も予想できなかったに違いない。多くの国民が既存の政治なり、今の支配層に不満と不信を抱いているからである。前述したが、民主党のサンダース上院議員に対する支持も根は同じ所にある。貧富の差の拡大等をはじめとして、国民がアメリカはどこかおかしいと思い始めているからである。

<嫌われ者同士の初物候補>
 全く政治経験がない大統領候補の指名は1952年のアイゼンハワー大統領以来のことである。アイゼンハワーは軍の高官だったが、トランプ氏は民間の不動産王である。一方、民主党の大統領候補にほぼ確定したクリントン元国務長官も女性としては初である。こちらはファーストレディ・上院議員と典型的なエスタブリシュメントである。どちらがなっても珍しい大統領となる。
 一方、両方とも相当嫌われていることが共通している。特にトランプ氏は黒人、知識層、移民、女性の拒否度が高く、その反面白人男子の低所得層の熱狂的支持を受けている。クリントン氏は、あまりの上層階級臭さが逆に嫌悪の対象となっている。両方ともある意味でいびつな候補であり、11月の大統領選はどっちかが熱狂的に支持されるのではなく、「どちらかよりはましか」という選択しかできないようだ。その意味ではちょっと寂しい選挙戦である。

<TPPはダメ協定>
 政策について、トランプ氏の主張で私が一番最初に関心を持つのは当然TPPである。当初からTPPはダメ協定、とけなしている。基本的にトランプ氏の主張は保護主義であり、アメリカのことを最優先し“America first”と連呼している。アメリカは、日本、中国、メキシコと貿易戦争に負けている、もっと強くならなければならないと主張し、その延長線上でTPPもアメリカが譲りっぱなしだというのである。私などから見ると、日本こそアメリカのいいなりになり、協定を結んでいるとしか思えないが、トランプ氏の目から見ると、全く逆の協定だというのだ。
 5日CNBC-TVのインタビューで、大統領になったら再交渉すると明言した。「再交渉には一切応じない」と強がりを言い続けた甘利元担当相は、何と言うのだろうか。更に、日本を先走ってTPPを承認してしまったら、一体どう対応するのだろうか。

<根底にある反グローバリズム>
 この根底には、“グローバリゼーション”に対する強烈な反対が秘められている。つまり、自由貿易協定なり移民なり、外国との絡みで国民自身が恐怖を感じているのであり、いってみれば自分の国の、あるいは自分自身の“アイデンティティ”が壊されるのではないかということを心配している。私は日本にもこれがあって当然だと思うが、お人好しなのかどうか、ほとんどこうした危機感がみられない。
 世界全体を見渡してもこのような傾向が現れており、フランスの国民戦線ル・ペンの反移民政策、あるいはイギリスのEU離脱もこの範疇に入るかもしれない。

<剛速球の日本の安保だだ乗り論>
 二番目が最近急にクローズアップされてきた日米安保問題である。自分の国の防衛は自分の国ですべきであって、アメリカに守ってもらっている日本、韓国、独、サウジアラビア等は米軍駐留費の全額を負担しろ、という荒っぽい主張である。
 私と同時期にアメリカに滞在した石破地方創生担当相は、日米安保条約の認識が欠けている、米軍の日本駐留は何も日本の防衛のためだけではなく、アメリカの世界戦略の一環だ、と当然の反論を述べていた。ただ、どこまでがアメリカのためであり、どこまでが日本のためという線引きが難しい。だからトランプ氏のような考え方もあってもおかしくはなく、一概には否定しえないと思っている。
 トランプ氏のこの主張は大統領選に出馬してからの思い付きではなく、30年前に新聞広告も出すほどご執心の主張である。日本の防衛のあり方について波紋を投げかけるものであり、日本の集団的自衛権を巡る議論の一環として考え直してみる必要がある。

<いただけない日韓核武装容認>
 ただ、日本や韓国も北朝鮮に対抗するため核武装しても構わない、という極論が飛び出すと少々ついていけなくなる。
 アメリカは日本が核武装することを極度に恐れている。だから、プルトニウムを貯め込むことに相当神経質になっている。別途報告するが、私は5日に会議を終えてから、日本の核燃料サイクルに疑問を呈するカントリーマン国務次官補とアクトン・カーネギー財団研究員と意見交換してきている。日本はまだ世界から見ると、何をしでかすか分からない不気味な国なのである。
 トランプ氏の米軍駐留費全額負担、日韓核武装容認は極論ではあるが、どの国も自分で守れ、という点については一理あり、反論しにくい面がある。

<経済政策はまっとうで受け入れられている>
 三番目の経済政策では金融規制を緩め、法人や個人の負担を軽減すべく税金を下げると、ビジネスに長年携わってきた不動産王ならではの主張もある。また、サンダース氏同様に大金融機関の解体、課税強化といった庶民の共感が得られる主張もしている。
 アメリカの庶民は、よくいわれる1%の大金持ちが99%の富を持っているということに、非常に反発している。特にトランプ氏の支持層で抜きん出ている白人低所得者層にその傾向が顕著である。ただ、予備選の後半は、大卒の43%、年収10万ドル(約1000万円)以上の34%の支持も得るなど、支持層を拡げたといわれている(エコノミスト誌)。
 他にパナマ文書に代表されるように、金持ちがきちんと税金を納めていないというようなことにも敏感に反応している。この延長線上で本社を海外に移したりすることについても反対している。だから、多国籍企業に有利なだけのTPPにも反対することになる。
 TPA(貿易促進権限)法案審議で噴出したが、為替操作問題についても、日本(や中国)が、円(元)を安くして輸出を増やしアメリカの仕事を脅かすと息巻いている。日本が意図的でないにしても、結果としてはその通りなので、国民にもすんなりと受け入れられている。

<影をひそめ出した暴言>
 キャンペーン前半には、メキシコ国境に万里の長城を造るとか、イスラム教徒は入国禁止といった過激な発言が目立った。しかし、さすが後半になるとこうした発言は少なくなった。バラエティ番組で10年近く進行役を務め「お前はクビだ」という名文句を流行させたトランプ氏は、大衆の心を掴む話術と話題作りに長けているのだろう。そういえば橋下徹前大阪市長と共通したところがある。
 兄がアルコール依存症であることから酒は飲まず、タバコも吸わないという。我々にはポッと出とうつっても、2000年にも大統領出馬せんとしており、すべて着々と準備してきていたのかもしれない。

<今さらほころび始めたアメリカの手法(TPP)を取り入れてどうなるのか>
 私はアメリカの色々な仕組みが色あせてきているのではないかと思っている。つまり、自由に任せれば何でもよい、というやり方が危機に瀕してきているのだ。それについて皆が気付き始め、それがトランプ氏あるいはサンダース氏の支持に繋がっている。
 その象徴がTPPである。TPPはアメリカの大統領候補誰一人として支持していない。TPPはアメリカのルールを日本に押し付けるための手段である。ところが本家のアメリカで一連の制度が働かなくなりつつあり、アメリカ国民からも見離されつつあるというのに、それを日本がわざわざTPPという協定まで結んで取り入れるのはどうかしている。

<アメリカの真似はもうよそう>
 アメリカの猿真似をして失敗した最近の例を挙げると、法科大学院がある。鳴り物入りでスタートしたが今は閑古鳥が鳴き、半分近くがつぶれんとしている。
 それよりも崩れかかっているのは、ひょっとしたら二大政党制かもしれない。共和党が7月の党大会に向けてトランプ氏を指名しないための検討に入ったと報じられている。アメリカ社会の分断を反映した、共和党の分裂である。やはりアメリカは病みつつあるのではないか。私がワシントンD.C.滞在中に、ライアン下院議長がトランプ氏を支持しないと発言し、その映像がしつこく流れていた。二大政党制の下で国民の多様な要求を実現していくのが難しくなりつつあるということである。
 日本が目指した二大政党制による政権交代も、今や安倍一強体制を生み、どうも日本には向いていないような気がしてならない。日本は、日本に合ったやり方を見つけ出す以外にない。