« 【TPP交渉の行方シリーズ64】日本の政策に介入を許すTPP(パート3 最終)-ISD提訴で脅して政策を歪める- 16.11.09 | メイン | 【TPP交渉の行方シリーズ66】的外れな規制改革推進会議の農協改革意見-TPPとともに葬り去るべきトンチンカンな意見-16.11.24 »

【TPP交渉の行方シリーズ65】トランプ大統領でTPPは漂流か死か-グローバル・格差に疲れたアメリカ国民の選択-16.11.16

<トランプ大統領の出現>
 10月8日のSuper Tuesday(米大統領選挙)に、アメリカ国民は大方の予想を裏切ってトランプを大統領に選出した。アメリカ独特の選挙制度で、総得票ではクリントンのほうが僅かに(0.2%)上回っているが、本当に僅差でトランプに決定した。トランプ President Electは10月、「大統領に就任した日にTPPから離脱する」と発言するなど、当初からTPPに反対してきている。
 だからこそ、安倍政権は遅くとも11月8日までには衆議院を通したいと、いつも通り日程ありきの国会運営を強行したのである。ところが、当初目指した10月28日採決が延び、途中11月4日が取沙汰されたが、山本有二農水相の2度目の発言により再び延期された。我々野党は山本大臣の下ではとても採決に応じられない、と断固反対した。私もあまり様にはなっていなかったが、採決時には大臣席に詰め寄り強行採決に反対した。

<タイミングの悪い11月10日の本会議採決>
 実は11月4日は、パリ協定を承認する本会議が予定されていたが、議院運営委員会で詳細を協議中に突然TPP特別委員会を開会し、強行採決してしまった。国会で長年にわたり築き上げられてきたルールを踏みにじるものだった。議長や議院運営委員長も知らされないままの強行採決だった。政府・与党内のことであり、我々野党には本当のところはよくわからないが、察するにいつもの官邸のゴリ押しだろう。
そのため11月8日(火)の本会議ではパリ協定のみが採決され、TPPの採決は10日(木)に延期された。ところが、日本時間の9日、アメリカ大統領には、TPPから離脱すると断言するトランプが選出されてしまった。それにもかかわらず、政府・与党は我々の猛反対を尻目に、衆議院本会議でTPPの強行採決を断行したのだ。我々は農相不信任案を提出し、TPPの反対討論をして退席し、採決には応じなかった。
 多勢に無勢の中で我々がいくらもがいても阻止できなかったTPPが、海の向こうで阻止できる動きが生じたのである。まさに天啓と言わねばならない。

<安倍総理の意地のTPP強行採決>
 次期大統領トランプが決定した後の衆議院でのTPP強行採決は、まるで喧嘩を売っているようなものであり、私には信じられない。安倍総理は、日米は普遍的価値で結ばれているとタカをくくっているが、日米同盟は最初からぶつかり合うことになってしまった。政府・与党は口を合わせて、日本がTPPを承認してアメリカに早期承認を促すと言っていたが、11月9日、マコネル共和党上院院内総務は、オバマ大統領の任期中のいわゆるレイムダックセッションにおいて、TPPを審議・採決することはない、と断言し、オバマ政権幹部も含めもうTPPの年内審議入りはないとしている。となると、日本は安倍総理の意地で全く意味の無い審議・採決を行っていることになる。

<木村太郎とマイケル・ムーアのトランプ勝利予測>
 アメリカのマスメディアや調査機関は押しなべてクリントン勝利を予想していた。トランプの勝利を予想したのは、私の知る限りでは、「シッコ」等でアメリカの社会問題を映画にして訴えているマイケル・ムーアと木村太郎がいた。もう一人10月19日にはいつもアメリカの適格な情報を提供してくれる、トーマス・カトウ弁護士が、アメリカメディアがこぞってクリントン有利の世論調査結果を報じているが、実体とかけ離れており、トランプとの差はそれほどなく拮抗していると知らせてきてくれた。
 日本時間11月9日、私はTPPの残務処理の中、CNNをつけっぱなしにして選挙速報を見守った。その激戦ぶりは1980年以来の友人で、当時NHKのワシントン支局長だった手嶋龍一がヘトヘトになって報じたブッシュ(息子)とゴアの接戦(2000年)を彷彿させた。総得票数で上回る候補が敗れたのは4度目という。
 そういえば、イギリスの世論調査も残留派が多数となっていたが、結果は逆だった。そもそも、卓上電話に頼る大手マスコミや世論調査機関の調査はあまり役立たなくなったのではないか。

<トランプ大統領と英のEU離脱との類似性>
 クリントンの勝利は、西海岸のIT産業の盛んなカリフォルニア等と金融中心の東海岸のニューイングランドに限られ、通常は民主党の金城湯池の錆びついた地帯(Rust belt/中西部の五大湖周辺の工業地帯)もイリノイ、ミネソタ以外はトランプが勝利した。Swing State(揺れる州)と呼ばれ、選挙の勝敗を大きく左右するオハイオやペンシルバニアとフロリダではトランプが勝利した。つまり、アメリカのど真ん中がトランプを勝利に導いたのだ。この図式は金融が中心のロンドン市民が残留を選び、北イングランドやウェールズが離脱を選んだイギリスと似ている。世界の2大新自由主義の本家が、全く違った逆の方向に動き始めたのである。農村地帯や地方の疲弊という点で参院選の東北・甲信越の民進党の勝利とも似通ってくる。

<既存政治家に飽きたアメリカ国民>
 アメリカ国民は、グローバリゼーションに飽き飽きして疲れたのであろう(Global fatigue 国際化疲れ)。TPPに絶対反対を唱えるサンダースとトランプを支持し、トランプを大統領に選んだ。拡がる格差にも怒ったのだろう。トランプはおかしいし、危険だとわかりつつも、ウォール街の金融資本からも資金援助を受け、30年近くもアメリカ政界を動かしてきたクリントンへの拒否反応のほうが強かったようだ。イギリス国民が何かとEUが牛耳ることに嫌気がさして離脱したのと同根である。

<国民の声を聴かない政治家が消えていった>
 トランプは17人の共和党の候補者の中では泡沫候補と目されていた。共和党主流派がどんなに叩いても、しぶとく国民の支持を得て勝ち残ってきたのである。父と兄を大統領に持つジェブ・ブッシュも、将来有望なクルーズ、ルビオも次々と消えていった。国民は既存の政治家を嫌ったのである。民主党でも最低賃金15ドル、公立大学の無償化、日本並みの国民皆保険制度等を主張し、何よりもTPPには絶対反対を標榜したサンダースの快進撃があった。このため、国務長官時代にTPPを推進したクリントンも「私の目指したTPPではない」という言い訳をしてTPPに反対せざるを得なくなった。
 TPPは自由貿易協定をはるかに超える条約である。しかし、アメリカでも日本でも貿易問題が中心に議論されてしまった。そして大統領選では、TPPによる自由貿易協定が是が非か大きな争点になった。アメリカの政治家は国民の声に率直に耳を傾けたのである。

<変節した政治家も敗れ去った>
 ところが、日本では情報開示がされず、国民には内容が知らされていないため、徐々にTPPに賛成か反対かよくわからない者が増えた。民意はもっと内容を知らせてしっかり議論しろというのが国民の声だった。ところが、政府与党はこの声を聴こうとせず、11月10日、本会議でも強行採決した。
 クリントンも「大統領になった後でもTPPに反対する」と約束した。しかし、トランプはどうせ口先だけで大統領になったらTPPを認めるとクリントンを批判し続けた。ウィキリークスで明らかにされたメールで、国務長官時代のTPP賛成の立場が明らかにされた。国民は最初から絶対反対のトランプを選んだのである。国民はよかれ悪しかれ変節は認めない。

<反省なき政治家は国民を振り回す>
 前節と矛盾する。しかし、クリントンは正直にTPPはダメだと、自分の考えを変えたのだ。私は10月17日(月)の質疑で、安倍総理に自分の考え方を変えたことがないかと尋ねた。その時にクリントンの例と、政治の師と仰ぐ小泉元総理がかつての原発推進から原発廃止に必死に取り組んでいることを挙げた。しかし、294議席に胡坐をかく安倍総理は反省がないようである。
 「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します」としながら、政権に就くや否やTPP交渉に参加し、消費増税は2度も再び延長しないと訴えながら、新しい判断だと平然と違うことを言い出す。すみません間違っていたということは決して言わない。
 そして、今、TPPから離脱するトランプ大統領に決まったのにTPPを強行している。まるで日本軍の失敗と同じである。一度決めたら後戻りできない悪い体質であり、無謀な強行に振り回されて、国民は奈落の底に突き落とされるかもしれない。

<世界の潮流に敏感な政治家が残っていく>
 アメリカの政治は、中道右派(共和党主義)と中道左派(クリントン)と、極右にみえるトランプと極左のサンダースに分けられる。しかし、後者はアメリカ国民の格差・極左に対する不安、移民への反感、既存政治家への不満を受け入れ、反グローバリズムの声に敏感に反応したのである。数々の公約は実現できないと言われたが、片方は大統領になってしまった。
 
 日本の政治家は、どうも一周遅れの政策を追っているようである。世界の大潮流を見誤ってはなるまい。