« 2016年10月 | メイン | 2016年12月 »

2016年11月29日

【TPP交渉の行方シリーズ67】農協改革に見る政策決定の猿芝居・茶番劇化- 農業団体はTPPの呪縛と自民党からの脱却を -16.11.29

<「田舎のプロレス」対「都会の猿芝居」>
 TPP特別委員会の強行採決にみる揉めごとを、萩生田官房副長官は「田舎のプロレス」と称し、山本農林水産大臣の強行採決を巡る失言と同様に陳謝させられている。本案の審議をお願いしている内閣の要として誠に不謹慎極まりない。田舎のプロレスは『できレース』で、全てシナリオができ上がっていて、パフォーマンスでやっているだけという意味だという。私は、野党の筆頭理事、塩谷委員長に詰め寄ったが、TVのニュース番組でみた地元の皆さんは、背が高いから目立ったかやせこけた体で全く迫力不足、安倍総理に嫌味の質問をしているのと違い全く似合わないと酷評された。それに対し、かく言うご本人がプロレスに向いているような体格なので、なおさらジョークが効いたのだろう。そういえば官房副長官は東京の選挙区であり、田舎や真剣に戦っているプロレスラーを馬鹿にしているようにも聞こえる。失礼な発言である。
 もし、国会で強行採決阻止のために委員長席に抗議で詰め寄ることを「田舎のプロレス」と言うのであれば、今回の農協改革を巡るドタバタ劇こそ、いつもと変わらぬ永田町の猿芝居・茶番劇と言ってしかるべきである。

<規制改革推進会議と農林部会で併行した作業>
 TPPでは透明性の確保を求められている。しかし、交渉自体が秘密のまま行われて、交渉経緯も4年間国民の前に全くさらされないというのは全くの自己矛盾である。それに対して今回の農協改革をめぐるこの2週間余のできごとは『公開できレース』とでもいえ透明すぎるが故にその卑しい思惑も透けて見える。
 11月7日、安倍総理の出席の下、政府の規制改革推進会議が開かれ、「『攻めの農業』の実現に向けた「農協改革の方針」ペーパーが提出された。安倍総理も「私が責任をもって実行してまいります」と特別出演(?)している。それを受けて、規制改革会議農業ワーキンググループが11月11日に突然支離滅裂な意見発表、それに対して与党自民党が激怒。
 そもそも2015年10月、農政に全くタッチしたことのない小泉進次郎を、当代一の人気政治家というだけで農林部会長に据えるところからして芝居がかっている。政府与党は、その知名度や清新なイメージを活用(悪用?)して国民の関心を呼び、農政改革を推進するという形をとった。普段はほとんど農政のことなど扱わない全国紙が、自民党農林部会の出来事や小泉部会長の地方行脚を記事にするようになった。観客が拡がったのである。そのお膳立ての上に行われたのが、今回の一連のパフォーマンスである。

<馴染みの大根役者-政府・与党・農業団体の揃い踏み>
 小泉農林部会長自らが座長を務める農林水産業骨太方針策定PTでは、生産資材価格が高すぎるという農民の不満に目をつけ、引き下げるための方策を検討していた。ところがいつの間にかそれが農協改革、なかでも全農改革にすり替わってしまった。そこに同時併行で検討を進めていた規制改革推進会議が、かなり酷い高目のビンボールを投げた。いわゆる無理筋である。中野吉實全農会長は「承諾できない」とすぐ反応。それに対して与党が出てきてことごとく押し返す。困った農民が無理筋を押し返してくれた自民党に感謝して、一定の評価をする。全中の奥野会長に至っては、「我々のいうことを聞いていただいた」と感謝している。
 いつもと変わらぬ、与党がいかに頼りになるかということを演出するための連続劇なのだ。そして、やれ骨抜きだ、いや小泉部会長が頑張った、ベテランが落とし所を見つけた・・・と、かまびすしい論評が続く。それに振り回されて将来がますます不安になるのは、哀れな農民である。農協は自分たちの組織であり、農民こそが中心になっていなければならないのに、霞ヶ関と永田町が現場そっちのけで農協のあり方をねじ曲げ、将来の農業を危うくし、農民のやる気を奪っているのである。

<偏った規制改革推進会議メンバー>
 せっかくTPPを金科玉条とされる与党の皆さんには、TPP流でいこう。
 TPPの透明性の確保という観点からすると、まず問題になるのは会議の委員の構成である。どのような人たちを選ぶかということは大問題である。これが極めて不透明に官邸の思うがままに官邸の意向に沿う人たちだけが選ばれ、そういう偏ったメンバーだけで提言が決定されている。
 労働関係の審議会は経営者側が三分の一、労働者側が三分の一、中立が三分の一となっているのと大違いである。私が長らく担当してきた農政審議会でも生産者から全中の会長は当然入り、財界から経団連の会長とか経済同友会の有識者等が入り、消費者代表として主婦連や日本生活協同組合などから入る。つまりいろいろな人が集まって決めていくというものである。それに対して産業競争力会議や規制改革推進会議は、言ってみれば御用学者、御用経営者といった類いの歪んだ人たちだけがメンバーとなっている。

<捏造される与党の後押し>
 議論の進め方もとてもではないがデュー・プロセス(適正な手続)を踏んでいるとは思えない。今回も上記のメンバーが会議と称して思いつきの羅列の放談会をし、それを聞いていた役人が議論もされていないことまで盛り込んで過激な案を出した。農協側があまりの出来の悪さに激怒するのは当然である。11月21日には農協関係者も1500人が集まり、反対のノロシを上げた。二階自民党幹事長も参加し、代表者の意見に耳を傾けた。長野県選出の国会議員も、その夜地元長野県から上京した雨宮農協中央会長はじめ各農協の組合長と懇談した。
 こうした一連の動きを受けて、政府(規制改革推進会議)と自民党の双方が着地点を探し、とりまとめ役で抜擢された小泉農林部会長が板挟みで苦しんだとされる。それでも、やっとこさ与党側にかなりなびいた形が見えてくる。それを踏まえて今度は与党側が中心になってペーパーをまとめ大団円を迎えるというものだ。この間に農水省が黒子として動き、そのペーパーも25日(金)にはでき上がったようである。そして、28日には規制改革推進会議に戻され、政府に上がり29日に農政の柱なるものが政策決定がなされる。

<いつもの同じワン・パターンのシナリオ>
 三権分立が徹底しているアメリカでは大統領の諮問機関が勝手に物事を決めてそれを公表し、それに与党が噛み付き妥協がはかられ、政策が最終的に決められる、などということは絶対に許されないことなのだ。
 選挙で有利になるように「やはり政府与党は頼りになる」という印象を与えるシナリオが描かれる。三谷幸喜や宮藤官九郎のような面白いシナリオならよいが、いつものワン・パターンの猿芝居・茶番劇である。いくらなんでもこれだけ繰り返されると(15年の農協法改正時も同じ)、農民にもそのいやしい魂胆が丸見えとなり、農政不信が増すばかりである。こうしたことがいつまでも通用すると思ったら大間違いである。もし、農業団体や農民の中でまだ気付かない人がいるとしたら、是非よく見極めてほしいと思う。

<目を覚ませ農業団体>
 元々TPPに対する中長期的対策ということで農協改革が行われているが、肝心の農民の手取りを高くすることが欠落し、農協潰しに変身している。企業がそしてアメリカ資本が農業商社ともいうべき全農を目の敵にしているのが見えてくる。6兆円を超える食料・農業ビジネスを自ら手掛けようというのである。また、農協に金融をさせないという提言も農林中金や共済の100兆円を越える資金を民間市場に吐き出させんとする企てにつながっており、ここにもTPPの影がつきまとう。
 ただ、こんな横暴なことがまかり通るのは、元はといえば一にも二にも、与党があまりにも大きくなりすぎて、野党の声が小さいからである。その意味で、我々民進党の責任も重い。
 TPPも発効の見込みがほぼ消えたのであり、政府・与党の農協脅しのネタはもはや消え去ったのだ、もうそろそろ農業関係団体は自民党ベッタリの振る舞いをやめる時が来たのではないか。さもないと、組織が潰され、農民も泣くことになる。

2016年11月24日

【TPP交渉の行方シリーズ66】的外れな規制改革推進会議の農協改革意見-TPPとともに葬り去るべきトンチンカンな意見-16.11.24

<TPP委員会が加盟国の政治・行政を動かすおそれ>
 TPPは、日本でもアメリカでもあたかも「(自由)貿易協定」のように扱われている。日本では特に農産物貿易自由化により、農業がますます窮地に陥ると問題にされている。
 しかし、TPPは30章からなる史上最も広範囲の条約(協定)であり、もっともっと酷い条約なのだ。私が予算委員会で「イギリスのEU離脱とアメリカ国民の国際化疲れは同根で、自国優先(トランプのいう America First)、自国のことは自国で決める、国際化は二の次だ」と指摘すると、安倍総理は「EUはブリュッセル、EU代表部が物事を決めすぎるからイギリスは嫌ったが、TPPはずっと緩い協定」と応じた。ところが実際は違う。
 その典型例が、TPP委員会と各章に関係して20近く設置される小委員会(ex. 農業貿易に関する小委員会、規制の整合性に関する小委員会等)である。どうなるか全く決められていないが、12カ国はこれらの委員会からあれこれと注文をつけられるはずである。そこには、アメリカ企業の意見が大きく反映される。そして、それに従わされるという悪循環が懸念される。つまり、日本の行政が、TPPによって大きく歪められるということだ。この混乱が大方の人には気づかれないでいる。

<財界農政はまだましだった>
 ところが実はその姿は今の日本でも垣間見られる。内閣に設置される総理の経済の諮問機関である。産業競争力会議や規制改革推進会議が各省の行政にあれこれと注文をつけている。図式も同じである。農政は、農政審議会で農政のあるべき姿を検討してもらい、それを参考に農政が推進されてきた。ところが、1980年代、第二臨調で3K(米、国民健康保険、国鉄)に切り込むと、外から食糧行政、医療保険制度、国鉄に注文がつけられた。この中で国鉄は分割民営化され今日に至っている。
 これに乗じて、経団連、経済同友会、日経連等がやたら農政提言を出した。それに沿って前川レポート(1986年)なるものもまとめられ、農業補助金の削減や農産物の自由化が行われた。つまり、外部からの「財界農政」が“幅”を利かせた。私は大臣官房企画室で3年もその反論を書き続けた

<農政を歪める安倍総理直轄の諮問機関>
 ところが、時代は変わり、今や官邸の下に設置された総理の私的諮問機関に素人が据わり、私から見るとかなりでたらめな提案を出し放題であり、それにより農政を歪めている。「一強多弱」が自民党だけでなく、政府の中でも官邸が「一強」になっているとよく言われるが、その極みが、今回の農協改革意見にみられる。規制改革が泣く、「規制ゴリ押し」である。政府・与党一体で取り組んできた資材価格引き下げが、いつの間にか農協改革にすりかわってしまった。
 規制改革推進会議には農政のプロは皆無であり、その中に設けられた「農業ワーキンググループ」には多少専門家もいるが、かなり感覚のずれた方々が大半である。安倍内閣の特徴として、集団的自衛権を審議する機関に容認論者ばかりを集めたように、結論を誘導するのに都合のいい者ばかりに偏ることが挙げられるが、ここでも同じ悪例がみられるである。
 11月11日、TPPが度重なる強行採決により衆議院を通過した翌日に、「農協改革に関する意見」が公表された。規制改革推進会議のメンバーは、国民からどのように負託されたのだろうか。何の資格もない人たちの暴論の寄せ集めでしかない。
 私も今までこの種の提言は農政に限らずいろいろ見てきたが、その内容たるや杜撰極まりなく、とても素直には読めない内容となっている。思い切ったことをやるという功名心に走る関係者が、思いつくままに放言しているとしか思えず、まじめにやれと一喝したい。
 一般の皆さんにその内容を詳細に説明してもわからないと思うが、少し拾ってみる。

<支離滅裂な提言>
× 1. 購買事業は、そもそも農民が生産資材メーカーの言いなりにならないため、農協という組織で予約注文を受け、協同購入する形で交渉力を持って少しでも安く農民に売るために始められた。それを「生産資材メーカー側に立って手数料の拡大を目指している」と、JAが組合員に代わって購買しているという協同組合の本質を見誤っている。生産資材が高いという農民の不満を、あたかも購買事業を悪者にして農民を味方にせんとする悪い魂胆が見える。
 私が30年前の昔とった杵柄で反論するならば、例えば農機具でいえば、世界中に輸出している車と同じように少しでも安くていいものを生産してほしい、と農機具メーカーに注文をつけるべきなのだ。

× 2. 全農に対し「製造業における購買の達人と呼ばれるような外部のプロフェッショナルを登用すべし」という。TVの料理番組の見すぎなのであろう。変な用語で全農の職員は購買事業に精通していないと決めつけている。まるで子供だましである。

× 3. 更に飛躍して、「全農は購買契約の当事者にはならず、情報、ノウハウ提供に要する実費のみを請求すべし」と、全農に仕事をやめろと命じている。そんな情報は肥料、農薬、農機具等の生産資材メーカーが、自らの製品をきちんと説明するのが先である。そして高い原因は、本元のメーカーにあることを忘れている。

× 4. 農産物販売でも、「1年以内に委託販売(農家から生産物を委託されて販売していること)を廃止し、全量買取販売すべし」としている。そうなると全農は売れるものしか買い取らず、多くの農産物は買い叩かれ、買い取ってもらえないものが大量に出現する。今はやりのKPI(成果目標)まで入れて、JAグループの自主改革をないがしろにしている。

<政僚ばかりが跋扈する霞ヶ関の官僚>
 もう例示するのをやめるが、「第二全農」「組合費勘定の廃止」等、思いつきとしかとれないようなものが目白押しである。もう一つ狙い撃ちされている指定生乳生産者団体制度の原則廃止も根拠のないものとなっている。
 こんな支離滅裂な意見に対して、農林水産省は省を挙げて反論すべきだと思うが、そういう風になっていない。官邸肝いりの機関の提言にものを申してはならないとなりつつあるようである。「政僚シリーズ」で、各省幹部の人事を内閣(官邸)が決するという改悪が、日本の官僚制度に「死」をもたらすと警告したが、それが今起きつつあるのである。(政僚シリーズ①日本の官僚制度の危機 ―官邸のいいなりの「政僚」(政治的官僚)が跋扈する霞が関―14.08.24)
 安倍官邸の暴走は、安保法制やTPPばかりではなく、政策を担う官僚制度の中にまでみられている。政治というよりも官邸の言いなりにしかならない政僚ばかりになり、与党ですら総理・総裁に何一つまともな意見を言えなくなりつつある。国民に選ばれた国会議員も野党は圧倒的少数派、これでは間違った政治・行政に対するブレーキや歯止めがますますなくなるばかりである。日本は金正恩独裁体制ならぬ、アベ・ジョンウン体制かと見間違うばかりである。

<TPPの影が忍び寄る農協改革>
 アメリカは企業と個人の存在が中心で、協同組合など認めない国である。だから、郵政や国民健康保険を目の敵にして攻撃してきた。前者では300兆円の金を民間に吐き出させんとしたが、次の標的が農協である。全農と共済を狙って、信用事業を営むJAを3年後に半減するなどという癖玉もぶつけている。TPPの次は農協と国民健康保険を解体し、アメリカの金融資本が手を出そうとしている。こんな悪巧みには絶対にはまってはならない。
 今回の意見に、農家所得の増大の考えがほとんど出てこない。当初の資材価格の引き下げに辛うじてその匂いがしたが、今や農協解体しか見えてこない。
 TPPはアメリカの外圧(トランプ)で何とか喰い止められそうだが、農民や農協は素人の無責任な農協改革意見も出てきて、二重苦三重苦を強いられている。
 今度はこのヘンチクリンな動きを止めなければならない。

2016年11月16日

【TPP交渉の行方シリーズ65】トランプ大統領でTPPは漂流か死か-グローバル・格差に疲れたアメリカ国民の選択-16.11.16

<トランプ大統領の出現>
 10月8日のSuper Tuesday(米大統領選挙)に、アメリカ国民は大方の予想を裏切ってトランプを大統領に選出した。アメリカ独特の選挙制度で、総得票ではクリントンのほうが僅かに(0.2%)上回っているが、本当に僅差でトランプに決定した。トランプ President Electは10月、「大統領に就任した日にTPPから離脱する」と発言するなど、当初からTPPに反対してきている。
 だからこそ、安倍政権は遅くとも11月8日までには衆議院を通したいと、いつも通り日程ありきの国会運営を強行したのである。ところが、当初目指した10月28日採決が延び、途中11月4日が取沙汰されたが、山本有二農水相の2度目の発言により再び延期された。我々野党は山本大臣の下ではとても採決に応じられない、と断固反対した。私もあまり様にはなっていなかったが、採決時には大臣席に詰め寄り強行採決に反対した。

<タイミングの悪い11月10日の本会議採決>
 実は11月4日は、パリ協定を承認する本会議が予定されていたが、議院運営委員会で詳細を協議中に突然TPP特別委員会を開会し、強行採決してしまった。国会で長年にわたり築き上げられてきたルールを踏みにじるものだった。議長や議院運営委員長も知らされないままの強行採決だった。政府・与党内のことであり、我々野党には本当のところはよくわからないが、察するにいつもの官邸のゴリ押しだろう。
そのため11月8日(火)の本会議ではパリ協定のみが採決され、TPPの採決は10日(木)に延期された。ところが、日本時間の9日、アメリカ大統領には、TPPから離脱すると断言するトランプが選出されてしまった。それにもかかわらず、政府・与党は我々の猛反対を尻目に、衆議院本会議でTPPの強行採決を断行したのだ。我々は農相不信任案を提出し、TPPの反対討論をして退席し、採決には応じなかった。
 多勢に無勢の中で我々がいくらもがいても阻止できなかったTPPが、海の向こうで阻止できる動きが生じたのである。まさに天啓と言わねばならない。

<安倍総理の意地のTPP強行採決>
 次期大統領トランプが決定した後の衆議院でのTPP強行採決は、まるで喧嘩を売っているようなものであり、私には信じられない。安倍総理は、日米は普遍的価値で結ばれているとタカをくくっているが、日米同盟は最初からぶつかり合うことになってしまった。政府・与党は口を合わせて、日本がTPPを承認してアメリカに早期承認を促すと言っていたが、11月9日、マコネル共和党上院院内総務は、オバマ大統領の任期中のいわゆるレイムダックセッションにおいて、TPPを審議・採決することはない、と断言し、オバマ政権幹部も含めもうTPPの年内審議入りはないとしている。となると、日本は安倍総理の意地で全く意味の無い審議・採決を行っていることになる。

<木村太郎とマイケル・ムーアのトランプ勝利予測>
 アメリカのマスメディアや調査機関は押しなべてクリントン勝利を予想していた。トランプの勝利を予想したのは、私の知る限りでは、「シッコ」等でアメリカの社会問題を映画にして訴えているマイケル・ムーアと木村太郎がいた。もう一人10月19日にはいつもアメリカの適格な情報を提供してくれる、トーマス・カトウ弁護士が、アメリカメディアがこぞってクリントン有利の世論調査結果を報じているが、実体とかけ離れており、トランプとの差はそれほどなく拮抗していると知らせてきてくれた。
 日本時間11月9日、私はTPPの残務処理の中、CNNをつけっぱなしにして選挙速報を見守った。その激戦ぶりは1980年以来の友人で、当時NHKのワシントン支局長だった手嶋龍一がヘトヘトになって報じたブッシュ(息子)とゴアの接戦(2000年)を彷彿させた。総得票数で上回る候補が敗れたのは4度目という。
 そういえば、イギリスの世論調査も残留派が多数となっていたが、結果は逆だった。そもそも、卓上電話に頼る大手マスコミや世論調査機関の調査はあまり役立たなくなったのではないか。

<トランプ大統領と英のEU離脱との類似性>
 クリントンの勝利は、西海岸のIT産業の盛んなカリフォルニア等と金融中心の東海岸のニューイングランドに限られ、通常は民主党の金城湯池の錆びついた地帯(Rust belt/中西部の五大湖周辺の工業地帯)もイリノイ、ミネソタ以外はトランプが勝利した。Swing State(揺れる州)と呼ばれ、選挙の勝敗を大きく左右するオハイオやペンシルバニアとフロリダではトランプが勝利した。つまり、アメリカのど真ん中がトランプを勝利に導いたのだ。この図式は金融が中心のロンドン市民が残留を選び、北イングランドやウェールズが離脱を選んだイギリスと似ている。世界の2大新自由主義の本家が、全く違った逆の方向に動き始めたのである。農村地帯や地方の疲弊という点で参院選の東北・甲信越の民進党の勝利とも似通ってくる。

<既存政治家に飽きたアメリカ国民>
 アメリカ国民は、グローバリゼーションに飽き飽きして疲れたのであろう(Global fatigue 国際化疲れ)。TPPに絶対反対を唱えるサンダースとトランプを支持し、トランプを大統領に選んだ。拡がる格差にも怒ったのだろう。トランプはおかしいし、危険だとわかりつつも、ウォール街の金融資本からも資金援助を受け、30年近くもアメリカ政界を動かしてきたクリントンへの拒否反応のほうが強かったようだ。イギリス国民が何かとEUが牛耳ることに嫌気がさして離脱したのと同根である。

<国民の声を聴かない政治家が消えていった>
 トランプは17人の共和党の候補者の中では泡沫候補と目されていた。共和党主流派がどんなに叩いても、しぶとく国民の支持を得て勝ち残ってきたのである。父と兄を大統領に持つジェブ・ブッシュも、将来有望なクルーズ、ルビオも次々と消えていった。国民は既存の政治家を嫌ったのである。民主党でも最低賃金15ドル、公立大学の無償化、日本並みの国民皆保険制度等を主張し、何よりもTPPには絶対反対を標榜したサンダースの快進撃があった。このため、国務長官時代にTPPを推進したクリントンも「私の目指したTPPではない」という言い訳をしてTPPに反対せざるを得なくなった。
 TPPは自由貿易協定をはるかに超える条約である。しかし、アメリカでも日本でも貿易問題が中心に議論されてしまった。そして大統領選では、TPPによる自由貿易協定が是が非か大きな争点になった。アメリカの政治家は国民の声に率直に耳を傾けたのである。

<変節した政治家も敗れ去った>
 ところが、日本では情報開示がされず、国民には内容が知らされていないため、徐々にTPPに賛成か反対かよくわからない者が増えた。民意はもっと内容を知らせてしっかり議論しろというのが国民の声だった。ところが、政府与党はこの声を聴こうとせず、11月10日、本会議でも強行採決した。
 クリントンも「大統領になった後でもTPPに反対する」と約束した。しかし、トランプはどうせ口先だけで大統領になったらTPPを認めるとクリントンを批判し続けた。ウィキリークスで明らかにされたメールで、国務長官時代のTPP賛成の立場が明らかにされた。国民は最初から絶対反対のトランプを選んだのである。国民はよかれ悪しかれ変節は認めない。

<反省なき政治家は国民を振り回す>
 前節と矛盾する。しかし、クリントンは正直にTPPはダメだと、自分の考えを変えたのだ。私は10月17日(月)の質疑で、安倍総理に自分の考え方を変えたことがないかと尋ねた。その時にクリントンの例と、政治の師と仰ぐ小泉元総理がかつての原発推進から原発廃止に必死に取り組んでいることを挙げた。しかし、294議席に胡坐をかく安倍総理は反省がないようである。
 「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します」としながら、政権に就くや否やTPP交渉に参加し、消費増税は2度も再び延長しないと訴えながら、新しい判断だと平然と違うことを言い出す。すみません間違っていたということは決して言わない。
 そして、今、TPPから離脱するトランプ大統領に決まったのにTPPを強行している。まるで日本軍の失敗と同じである。一度決めたら後戻りできない悪い体質であり、無謀な強行に振り回されて、国民は奈落の底に突き落とされるかもしれない。

<世界の潮流に敏感な政治家が残っていく>
 アメリカの政治は、中道右派(共和党主義)と中道左派(クリントン)と、極右にみえるトランプと極左のサンダースに分けられる。しかし、後者はアメリカ国民の格差・極左に対する不安、移民への反感、既存政治家への不満を受け入れ、反グローバリズムの声に敏感に反応したのである。数々の公約は実現できないと言われたが、片方は大統領になってしまった。
 
 日本の政治家は、どうも一周遅れの政策を追っているようである。世界の大潮流を見誤ってはなるまい。

2016年11月09日

【TPP交渉の行方シリーズ64】日本の政策に介入を許すTPP(パート3 最終)-ISD提訴で脅して政策を歪める- 16.11.09

 そして最後に最も問題なのがISDあるいはISDSである(表「ISDの関係指標」)

<日本からみのEPA・FTAとISD>
 これについてはいつも言訳がなされる。日本は既に14本のEPA・FTAの内、オーストラリアとフィリピンを除き12本ISDが入っている(表「ISDを含む日本のEPA・FTA」)。日本が仲裁裁定したことは一度もない。だから安心だという。これは発展途上国等がクーデター等で進出した日本企業の工場を奪ったりすることに対して用意されたものであり、裁判制度も確かでない国に対してのものである。それならば先進国同士ならばいらない話だということで、オーストラリアは強行に反対し続けている。だから日豪EPAにも入っていない。ただ幸いなことに日本が提訴されたことは一回もない。

<韓国からみのEPA・FTAとISD〉
 韓国でも米韓FTAでISDが大問題になった。韓国も誇り高い国で日本以上に法曹界が、ISDは韓国の法制度を歪めるし、韓国の主権を侵害していると怒った。現役の裁判官がネットで批判を繰り広げた。そして一時は李明博から朴槿恵への引き継ぎで再交渉までしなければいけない、といった声まで起きたがその後尻つぼみとなった。2015年秋、シドニーのTPP関係会合に行ったついでに、キャンベラに赴きオーストラリアのTPP関係者との意見交換会臨んだ。丁度日豪EPAと韓国FTAの承認がかかった日であり、農相以外全党の責任者と懇談できた。豪が嫌がるISDは日豪には入っていない。韓国も嫌がるので入ってこないと思いきや、韓国のたっての要望によりISDが入ることになっていた。理由は何とも複雑で、韓豪に入っていなくてなぜ韓米に入っているのか、と再び問題になるので韓米の横並びで入れたほうが良いということになったらしい。韓国の何ともいえない微妙な立場を考えると同情を禁じえない。
 ISDはことほど左様に深刻な問題を引き起こしているのだ。ところが、ISDは日本の裁判は日本の裁判所で行うという憲法第76条に触れるというのに、不思議なことに、日本の法曹界には一部を除き全くといっていいほど動きがみられない。
 韓国は12本のEPA・FTAを締結しているが、ISDの条文が入っているFTAで付託案件はなくし、投資協定では3件が継争中である。ただ、もう既に韓国ではISDで訴えられることを想定し、萎縮効果(chilling effect)が生じつつあるという。

<世界の仲裁案件とアメリカの提訴案件>
 世界ではUNCTADの統計によると2015年末現在、696件が投資協定のもと仲裁裁定に上っている(表「国際仲裁の利用の状況」)
マルチの貿易協定で、真っ先にISDがきちんと盛り込まれたNAFTAでは、1994年~2016年の22年間の間に69件が裁定付託されている(表「NAFTAにおける仲裁付託案件」)。この内訳をみると、アメリカがいかにこのISDを悪用して各国に色々圧力をかけているかが明らかとなる。提訴案件はアメリカ50件、カナダ17件、メキシコ2件。被提訴はアメリカ17件、カナダ38件、メキシコ14件。つまり大半はアメリカがカナダ・メキシコを訴えているということになる。もっと象徴的なのはアメリカの敗訴0件、アメリカの勝訴が8件と、アメリカが我が物顔でISDを悪用している。

<ISOはアメリカか日本を狙う最終兵器>
 こうしたことからTPPが発効すれば目の上のタンコブの日本を標的に、アメリカ企業による日本の政策決定に対する提訴が続発することが予想される。なぜならば、アメリカの対人口比の弁護士の数は日本の15倍、世界一の訴訟社会である。弁護士を総動員して日本の政策を変えようとしてくるに違いない。

<カナダ企業がNAFTAのISDでアメリカ政府に1兆8000億円の損害賠償請求〉
 しかし、アメリカにもバチが当たりつつある。カナダのパイプライン会社がアメリカ政府のキーストンXLパイプラインの建設申請却下によって、損害をこうむったとしてNAFTA(北米自由貿易協定)のISD条項に基づき150億ドル(1兆8000億円)の損害賠償を求めたのだ。実際は30億ドル程度の損害にすぎないが、将来の逸失利益も算定しての高額訴訟である。 皮肉なことに、これはオバマ大統領が天然ガスを多く使うことは地球温暖化防止に反する、つまりパリ協定に反するということで大統領の権限によって却下したものである。オバマ大統領のいう2つのレガシー(パリ協定とTPP)がぶつかったのである。

<アメリカ法曹界に拡がるTPP反対>
 これをきっかけにアメリカの法曹界ではTPPのISD条項がアメリカの法的システムと相容れないとして、TPP反対が急速に広まりつつある。オバマ大統領のハーバード・ロー・スクールの指導教官のローレンス・トライブ教授もその先頭に立っている。TPP反対は一つは職を奪われるのではないかと心配するアメリカの労働者、もう一つはアメリカの法曹界に広まっている。いずれにしてもTPP反対の声が大きくなるばかりである。これが2人の大統領にも反対と言わしめていることを忘れてはならない。

<まじめな日本の役人への委縮効果>
 そして日本への悪影響は甚大である。ずっとアメリカと付き合ってきた日本の役人は、当然アメリカの考え方を伺って、日本の政策決定がしにくくなってしまう。
 この件の具体的な例として、10月28日のTPP特別委員会で私は高額・薬価問題で既に質問している。日本には特例拡大再算定、つまり薬の年間売上高が1,000億円を越えた薬は、それだけ売れていて儲けているのだから、翌年は薬価を安くしろというルールがある。日本の従順な企業ならそれを守るが、2015年に売上高ナンバー1は、アメリカのサイエンス・ギリアド社のハーボニーが占めた(表「2015年医薬品売上高ベスト10」)。1粒8万円、12週間飲み続けるとC型肝炎ウイルスが完全に消えるという効果絶大な薬である。高価と問題になったインターフェロンに代わる特効薬なのだ。日本に200万人いるといわれるC型肝炎ウイルス保持者にとっては救いの神になっている。その結果2015年第一位の売り上げを記録し、1,000億円を越えたので8万円から5万6千円に下げさせられている。

<特例拡大再算定制度はISDの標的第1号か>
 もしもTPPが発効していたら、ギリアド社は黙ってはいまい。何故かと言うと、私の知る限りではギリアド社は2度新聞に一面全面を使った広告を出している。広告費も馬鹿にならない。ギリアド社からすれば営業努力によって売上を伸ばして1,000億円を越えたのにもかかわらず、儲けているだろうからといって政府が勝手に価格を下げろと命じるのは許し難いことになる。世界では社会保障(医療保険)にも直接関わるので、薬価の決定には国が関与している。しかし、アメリカは民間企業が決めている。TPPは何でもアメリカのルールに従えというのが基本原則だから、当然それに合わせるようにしろとISDではつっかかってくることになる。

<巨額の献金とすさまじいロビー活動でTPPを後押しする製薬業界>
 アメリカのロビー活動の中で、現在最も盛んにロビー活動しているのは製薬業界である。そして、TPPを最も真剣になって推進してきたのも製薬業界である。アメリカではハッチ上院財政委員長への巨額の献金が取沙汰されている。そのためにハッチ上院議員が強硬に生物製剤のデータ保護期間12年から8年への短縮に不満を述べているといわれている。
 私はブルネイ以来、甘利TPP担当大臣が交渉する閣僚会議に民主党代表として何度も行ったが、いつでもどこでも日本からは農業関係者、アメリカからは医薬品関係者が大挙して押しかけていた。医薬品関係者はシンポジウムまで開くという熱の入れようである。

<日本にも手を伸ばす薬品業界のロビー活動>
 医薬品業界は日本にもロビイストを常駐させている。ああ、あの人かと大半の国会議員は顔が思い浮かぶのではないかと思うが、日本人と同じように背が低く、すぐ我々国会議員の名前を憶え気軽に名前で呼んでくる。アメリカの製薬会社のトップが来日すると、議員会館のすぐ近くのキャピタル東急で盛大な歓迎レセプションが開かれる。国会議員に案内が行く。
 私は忙しいし、それほど関係が深くないのでめったに行かなかったが、閣僚会議に行って名刺を交換した関係で招待状が来るようになって、一度だけ行ったことがある。それほど大手の製薬会社ではなかったが、関係国会議員から元アメリカ大使、外務省・厚生労働省関係者等が大挙して出席していることにビックリ仰天した。アメリカは何事にも戦略的である、日本にもロビー活動の手を伸ばしてきている。

<これでは独立国家とはいえなくなる>
 アメリカは日本の政策に対して、まずTPPに入る前にあれこれ注文をつけ、二国間交渉で入場料をものにしている。例えていえば、BSE牛肉の要件緩和、自動車交渉での大妥協(2.5%の関税は15年間維持、トラックは25%にまま30年目に撤廃)等である。そして、2番目にTPP交渉でさんざんアメリカのルールを押し付ける。3番目は、TPP委員会を通じて常に日本の政策の変更を求める。そして最後の4番目はISDである。後から文句をつけるばかりで、国から損害賠償金をせしめよういうあくどさである。
 このように、日本が独立国家とはいえなくなるTPPに入るのは私は絶対に反対である。

2016年11月08日

【TPPの行方シリーズ64】 日本の政策に介入を許すTPP(パート2) -TPPの委員会が次々に注文-16.11.08

 次にTPPの条文に促した問題点を挙げる。
<予想されるTPP委員会の内政干渉>
 安倍官邸は今、日本の政策を思いのままに操っている。農政でいえば農政審議会ではなく規制改革会議や産業競争力会議である。そこには農政の専門家などいないのにあれこれ口出しをされて農政が歪められていく。
 それを今度はTPP委員会が日本国政府に対して、あれをしろこれをしろと注文をつけてくることになる。これも別表に示すが、その下に第2章の物品の貿易に関する小委員会、農業貿易に関する小委員会に始まり、SPS、TBT等、21の小委員会ができあがることになっている。この小委員会の構成等が問題である。つまり、いろいろな分野の小委員会が常に加盟国に注文を付けてくるということである。
(表「TPP協定及び再サイドレターの下で設置される委員会」)

<詳細がわからないまま発効し、更に見直される危険>
 その1番がTPP委員会である。第27章の2条に、発効後3年以内にTPPを見直す。その後は少なくとも5年ごとに見直すと書かれている。TPPが継続的に各国の政府の行政を縛る道具にもされることを物語っている。ここで見逃してはならないのは、発効後4年経たなければ交渉過程を明らかにしない、保秘義務である。
 今条文は明らかになっているが、長ったらしくわかりにくい官庁文学をいくら読んでみても、本当の狙いや意味することがよくわからない。その点わかりやすいのが、その条文に至る経緯がわかるペーパーなのだ。ところが、それは全く明らかにされず、尚且つ国会論戦でも黒塗り弁当とやらで少しも明らかにされていない。

<企業ばかりが有利になり、国民はずっと蚊帳の外>
 そうすると4年後に交渉過程が明らかになったとしても、発効後3年以内にTPPが見直されてしまえば、見直されたTPPが新しい条文になっている。つまり、4年後に元の条文や交渉過程など何の価値もなくなってしまうかもしれない。更に、3年以内にTPPを見直すときの交渉もまた秘密交渉になるだろうから、どうしてこうした条文になっているのかについては、永遠に国民の前には明らかにされないままとなる。情報開示の点からみてもTPPは史上最悪の協定である。
 海洋法でもウルグアイラウンドでも、○○国案、○○議長裁定案と、要所要所で交渉内容が明らかにされ、理解が得られるようになっていた。それが、TPPは保秘義務とやらでずっと黒のベールに包まれた協定なのだ。何故ならば、スティングリッツ教授の言うとおり、TPP is written by U.S. Corporations for U.S. Corporations.(TPPはアメリカ企業のためのアメリカ企業が書いたもの)が、バレバレになるからである。

<年々変わり巨大化するTPP>
 更に2番目、各章の中に今後○年後にすべきことが数多く書かれている。1番取りざたされているのは農産物関税について、7年後にオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、チリ、アメリカの5カ国の要請に基づいて、日本の農産物の関税の引き下げや関税割り当てセーフガードなどの適用について協議すると決められている(表「TPPの『何年までに・・』義務規定」)

 この類の条文があちこちに散見される。典型的な例が関税撤廃である。関税撤廃についても相手国からの要請があった場合は、関税撤廃の時期の繰上げをするために協議するとされている。海洋条約やWTOは決めたらそれをずっと守るという協定であるのに対して、TPPは常に変化を遂げる協定、つまり「生きている協定」(living agreement)なのである。これにより、のべつまくなしTPPを通じて関税の引き下げを迫られることになる。
 自動車についても5年後に日米の自動車貿易について協議すると定められている。政府調達の章でも、発効後3年以内に地方自治体の適用範囲の拡大のための交渉を再開すると書かれている。知的財産権については、もめた生物製剤について10年後に委員会の協議を行うこととされている。
 つまり、普通の協定の場合は、これで決まった、これを守っていこうということですむのに対して、次から次へと色々な注文を付けられて変わっていくということなのだ。

<食の安全は、貿易、投資の陰に隠れてないがしろにされる>(表「SPS・TBTにみる「食の安全」の主権侵害」)
 日本の政策決定がいかにTPPによって捻じ曲げられるかを、食の安全に関わるSPS(衛生と植物防疫のための措置)とTBT(貿易の技術的障害に関する協定)の条文に則して示してみる。
 まず両方とも小委員会が設置される。他の条約と違うところは、小委員会で、食の安全のためにルールを決めるのではなく、次々に貿易の自由化、投資の自由化になるように食の安全基準の緩和を押し付けられるということである。これが第一の問題。

<予防原則は実行できず>
 次にSPSの9条に「科学および危険の分析(risk analysis)」という項目がある。これは、新しい安全基準を設けようとしても、科学的証拠を求められ導入が難しくなるということである。ヨーロッパは「疑わしくは使用せず」の予防原則が徹底している。それに対して典型的な例でいうとGMO(遺伝子組み換え)の表示義務をつけようとしても、安全性については世界では決着がついておらず、科学的にどこの国でも証明できない。となると、日本がGMOについて表示義務を求めることはできなくなってしまう。これは、現行のルールからすると大きな後退である。

<外国企業が次々と注文をつける>
 また、この他に審議の過程で明らかにされた肥育ホルモン剤、酢酸メレンゲステロール、塩酸ラクトパミン等を使用した牛肉や豚肉を日本が輸入禁止しようとしても、科学的根拠を示せないとできないことになってしまう。EUは厳然と拒否し、成長ホルモン剤等の未使用証明書付しか輸入していないが、日本はこうしたことができるとはとても思えない。こうしている間に日本人はいわば、アメリカ、オーストラリア、カナダ等の「ドーピング肉」をこれでもかと食べさせられている。大量に食肉を輸入する日本は、いろいろな成長ホルモン剤等が人間にどのような影響を与えるかを実験できる「モルモット国家」になりつつある。
 次にSPS13条をみると「透明性を確保するために利害関係者や外国に意見を述べる機会を与えよ」と命じている。こうなると輸出国やあるいは外国の食品関係の企業からあれこれ意見を言われ、日本が独自に安全基準を設けようとしてもほとんどできなくなってしまう。政府はこれに対し、パブリックコメントは「今でも外国企業の意見も受け付けている」と言訳する。13条はパブリックコメントなどで済む話ではないのに完全にごまかしの答弁をしているのだ。

<ついに外国企業がルール作りに参画>
 しかし、こういう言訳もできなくなるのがTBT4条である。透明性確保のために「利害関係者に企画・作成・参加を認める」とあり、意見を言うだけでなく、外国の企業が安全基準の作成に自ら参加して骨抜きにされてしまう可能性が大きくなるということである。これで、日本のモルモット列島化がますます進むことになる。
 更にTBTの10条では「情報を提供し技術的協議を要請できる」とあり、他の国が日本に対してこの基準はどうなっているのかと提示するように注文をつけられ、それでおかしければ協議を要求できるという。こうして常に外国企業の注文に晒されることになる。
 つまり結論は、日本1国では何も決められず、食の安全基準が歪みっぱなしになるということである。

 1  |  2  | All pages