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2016年11月07日

【TPPの行方シリーズ64】 日本の政策に介入を許すTPP(パート1) -正文でなく、議会も介入、為替操作で難癖- 16.11.07

 ずっとあちこちで言い続けてきたが、重大な問題の一つは、政策立案面で日本を相当歪める条約であるということである。農業、食の安全とか医療とかいう個別の政策の問題ではなく、そもそも日本の行政・政治を捻じ曲げることになるということを最後に指摘したい。

<日本語が正文になっていない>
 まず、本当にダメな協定で日本はやられっぱなしだということが如実に表れているのは、日本語が正文になっていないということである。
 TPPはGDPの85%以上を占める国が批准しないと発効しない。だから、65%のアメリカ、17%の日本、それにカナダかオーストラリアが承認しなかったら発効しない。そして12カ国の半分の6カ国の承認。通常の発効要件は加盟国数だが、GDPの85%といった要件は珍しいことである。国数でで半分としても、大国が入っていなければTPPの実効性が得られないからであり、極めて現実的な発効の要件である。
 最近ではパリ協定も、55カ国とCO2の総排出量の55%以上を占める国が批准した時に発効されると決められている。キリバスとかモルジブといった小国が多数加盟しても、CO2排出大国が加盟しなかったら実効性が得られないからである。この55%以上という要件は、パリ協定の議論の中で日本が唯一具体的な提案をした項目である。その発想の原点はTPPのGDPの85%によったものではないかと思っている。

<GDP 85% とCO2排出量 55% という発効要件>
 ところが正文のことになると全く違ってしまう(表「GDPと正文」)。
 英語圏のGDPが73.5%で1位、2番目が日本で16.4%、3番目がスペイン語圏(メキシコ・チリ・ペルー)で6.2%、フランス語はカナダのケベック州(同国の半分もないのだけれど、半分と仮定しても)3.2%で4位である。
 ところが2位の日本の16.4%をほったらかしにして、英語とスペイン語とフランス語が正文となっている。ここに混乱が生じる。訳の間違いもあり、18ヶ所も間違いが見つかったということで問題にされている。今後解釈に問題が生じた時に日本文では勝負にならず、英語によらなくてはならなくなる。屈辱的なことである。
 細かくは議論していないが、サイドレターと称される日本とアメリカで結んだ二国間の約束事も、多分英語が正文で日本語は正文になっていないのではないかと思う。これをいうと、もともと法的拘束力はないという言い訳が予想される。日中漁業交渉とか日露漁業交渉で協定ができた場合は、両方の言語が正文になっているが、TPPがらみのものは英語だけが正文で日本語のものは仮訳となっている。国の体面上も問題だが、実務的にはもっと問題である。

<課題だらけのTPP仮訳>
 今国会において、外務省から協定の3ヶ所の誤訳と18ヶ所に及ぶ説明書の間違いを詫びてきた。議院運営委員会で釈明が行われ、膨大な資料の印刷し直しはなしで了とした。しかし、正文でないことによる問題はやはり多少あるようである。
 TPPについてアメリカから的確なアドバイスをいただいているトーマス・カトウ弁護士から、TPP協定文の誤訳ついていろいろ指導をいただいた。今回その一部もそのまま紹介する。
 まず、日本語訳文は正文でないため、あくまで仮訳であり、単なる資料にすぐないというのが外務省の見解である。つまり、解釈で揉めたりしたら条約上は結局は英文に戻らねばならないということだ。具体的な例として、投資の第9章で ① shall(しなければならない)は義務規定なのに「する」とされている箇所が多くある。 ② For greater certainty(念のために)が訳されていない箇所が多くある。 ③ その他95ヶ所の誤訳あり、と指摘している。
 3番目の明らかな誤訳に、permit(○許可する・×認める)、enforcing(○執行し・×強制し)、denying party(○否認する側の締約国・×当該締約国)、endorsed(○推薦した・×承認した)等を挙げている。

<イギリスもアメリカもグローバリゼーションに疲れてきた>
 正文は、形式的な問題とも言えるが、実際に問題となるのは、日本が政策をキチンと自ら決められなくなってしまうのではないかという心配である。
 「国際化疲れ」(global fatigue)というのがあって、あまりにもグローバリゼーション、グローバリぜーションと言ってきた事に対して世界が疲れ始めている。そのことが噴出したのがイギリスのEUからの離脱であると安倍総理に指摘した。それからアメリカ国民も疲れてきていて、TPPとかいうものよりも自分たちのことを考えてくれという声が大きくなり、その民意を汲んだサンダース上院議員は初めから大企業に都合のいいルールばかりだとTPPには大反対である。サンダースのあまりの勢いに対抗するべく、TPPを始めたクリントン自身が「今のTPPは私の目指したTPPではない」として、「雇用も増えない、賃金も上がらない、安全保障のメリットない」として反対しだした。
 トランプはハナっから「こんなダメ協定は誰が受け入れるか」と徹底的に反対している。つまり、アメリカ国民もイギリスもグローバリゼーションに疲れきり飽きがきたのである。それを日本は遅れて今頃喜んで「TPPだ、TPPだ」と騒いでいるのは、世界の潮流から大きく外れていることになる。
 安倍総理が「EUはブリュッセルに本部があって、いろいろ決めているから、イギリスがそれを嫌がったが、TPPは単なる協定だ」と言い訳をした。しかし、TPPはそんなになまっちょろい協定ではない。

<アメリカ議会がTPPの内容をチェック>
 1番目には外堀に属することだが議会が注文を付けてくることである。再交渉に応じないというけれど、その前にアメリカ議会はCERTIFICATION(証明)により、各国をチェックしてくる。(表「アメリカ国内法におけるサーティフィケーション規定の具体的内容」)
 TPA(貿易促進権限法)106条にimplementation of trade agreement と、タイトルは通商協定の実施となっているが、そのG項に「大統領は協定の締約国について協定の効力が生ずる30日前までに、協定の規定のうち協定の効力発生の日に効力が生ずるものについて、当該締約国が遵守のために必要な措置をとったと判断した旨を議会に対し書面で通知する」とある。よくわからない文章であるが、要は日本なり加盟国がTPPを守るという確証が得られなければ批准の意味はなく批准させないというのである。

<為替操作という難癖>(表「アメリカの為替操作国指定問題」)
 そして、2番目にもう一つ新しく入ってきたTPPの枠外の横槍が為替操作(currency manipulation)の問題である。これはかつて中国が不当に元を安くし、輸出攻勢をかけていることに関して盛んに言われたことである。日本の場合は市場に任せてあり、そんなことはほとんど言われたことがなかった。ところがTPPに絡み、あるいは日本の過度な円安に対してアメリカの議会からTPA法案の審議の過程で、日本を意識して導入を求める意見が続出した。
 私が直接経験したのは、閣僚会合でオーストラリアのシドニーに行ったところ、レビン下院議員が来ており、意見交換をしたが、専ら為替操作のことについてまくしたてていた。ミシガン州、デトロイトを抱える自動車工業地帯の下院議員である。

<2016年の為替報告書>
 最近この法律ができあがった。要件は3つ。 1.対米黒字が年間200億ドルを超える 2.年間の経常黒字が対GDP比3%を超える 3.年間ネットの外貨買いがGDP比2%を超えることが継続的に続いていくときに介入していく。
 この3要件を満たした国には是正に向けた政策実施を強く促すため、積極的な関与政策を開始するということである。典型的な例が報復関税である。そして3つの要件のうち、任意保険を満たす国が監視リストに名を連ねることになっている。
 2016年の為替報告書によると、3要件を満たす国はなく、日本は2つ要件を満たし、監視リスト入りしている。対米黒字が676億ドル、対GDP比経常黒字が3.7%とそれぞれ200億ドルと3%を超えている。ただ、純為替介入はゼロであり、これは全く要件を満たしていないので、今のところ為替操作にはなっていないが、こういう難癖をつけられる可能性がある。もっともアメリカからみれば一時78円くらいであった為替レートが118円と40円も上がるということは、関税を40%下げたことと同じで、アメリカがこうしたことを言い出すことはいたしかたないかもしれない。

2016年11月06日

【TPP交渉の行方シリーズ63】 アメリカの太刀持ち・露払いに成り下がった安倍政権 ‐長期的支援に立つなら次期大統領と歩調を合わせる‐ 16.11.06

「本内容は16年10月30日に作成」

<10月31日までの国対政治報告>
 10月26日の宮崎の地方公聴会の後、報告をしていないので今回報告する。その後、いろいろ世の中は動いている。10月27日(木)午前に、「農業と食の安全」の2つのテーマの参考人質疑が行われ、私は「食の安全」で質疑に立った。強行採決だといわれていた28日午後には、積み残しの野党の一般質疑が行われ、私は1時間弱質問に立った。28日の強行採決は一応回避された。本会議後のテレビ入りの質疑が終わった後、変則的だが31日月曜日午前中には、3回目の参考人質疑「ISDと知的財産権」が行われ、私はこちらも質問に立ち、午後は2回目のTV入りの質問をした。この一連の動きの後、今日その途中で、明日11月1日、午前の一般質疑と午後2時間ほど年金法の本会議が行われた後に採決のための委員会を開きたいという申し出があったが、当然のことだがこれを拒否している。
 今のところ、最近毎日していることだが、次の日程協議をしながら審議をするかたちになった。そして10月30日の今日、私はまた夜遅くひとりで議員会館に残り、このブログを書いている。国会で繰り広げられるこれらの日程調整のことは、このブログに書いても何の足しにもならないので、私の考えているTPPについての続きを報告したいと思っている。

<2人の大統領候補が反対するTPP>
 外交は相手のあることであり、政権交代しても基本方針は変えるべきではない、とよく言われる。それだけ長期的視点に立って考えなければならないことだろう。
 よく知られるとおり、クリントン、トランプ2人の大統領候補ともTPPに反対している。トランプは最初からであり、クリントンは同じ民主党のライバルだったサンダーズも大反対だったこともあり、途中から反対し出した。そして、2人に絞られてからトランプもクリントンも大統領になる前もなってからも反対すると明言するに至っている。つまり、新大統領はどちらがなってもTPPは反対なのだ。

<未承認は再交渉覚悟という屁理屈>
 一方、TPPの発効要件は半分の6か国とGDPの85%以上、つまり65%の米国と17%の日本が承認しなかったら発効する見込みがつかないことから、マレーシアを除き、他の加盟国はアメリカの様子見である。特に国内法を整備し終えた国はない。アメリカにひっくり返されてから、再び国内法を改正させられてはたまらないと考えるからだ。それを1国日本のみが承認と国内法を同時にやろうとやたら急いでいる。
 そして、安倍総理以下が大言壮語している。曰く、アメリカの承認を促すためにも一刻も早く承認する必要がある。大江審議官にいたっては、日本が早く承認しないと日本が再交渉を覚悟したと受け止められる。そして今、政府がこれを大合唱し始めている。後付けの屁理屈でしかない。それならば、承認しない他の国々は皆再交渉を覚悟しているとでもいうのか。

<オバマと共に退陣するのか、東京オリンピックまでするのか>
 安倍首相は、日米同盟が最も重要と言いつつ、2人の次期大統領候補が反対するTPPを日本が先駆けて承認するのは、いかにも問題である。なぜかというと、安倍総理はオバマ大統領がレガシー(遺産)としてこだわっているからといって、それに同調するかのように承認を急いでいる。もし安倍総理が一緒に退陣する覚悟があるならわかるが、自民党の総裁任期を長くして、2020年の東京オリンピックを総理として迎えたいとしていることと大きく矛盾する。次期大統領は2016年から2020年まで在任するのであるし、安倍総理の切望する任期と符合する。
 安倍総理がそういうことを言うので、自民党の皆さんも日本が率先して承認したらアメリカが追従すると思っているが、アメリカはそんな軟な国ではない。日本が抵抗した方が、日本が困っている分アメリカが有利だということになり、へそ曲がりのトランプはそちらの方を評価するかもしれない。私が “NO!TPP”バッジをつけ、“STOP!! TPP”ネクタイをつけてアメリカに行くと、きまって日本にもTPP反対論者がいるのか、という人たちに遭遇した。だから日本は承認してしまったら、やはり日本にだけ相当メリットがあるのではないかと疑われることになる可能性のほうが高い。

<アメリカの太刀持ちになった日本>
 どうもアメリカとの関係を見ていると変なかたちになっている。今日は少し言い尽くせなかったけれども、安倍総理にアメリカとの関係を聞いてみた。まずアメリカは大相撲に例えるなら、いくら力は衰えたとはいえ「東の正横綱」であるが、日本はどのぐらいかと質問した。これに安倍総理はグダグダと言っていたが、まあ三役ぐらいだという答えだった。私は、GDPが世界第三位であるし、中国・EUが横綱だとすれば、日本は「大関」にはランクされるはずである。
 ところが、日本は東の正横綱であるアメリカの「太刀持ち」になってしまっている。安保法制でアメリカが戦争を始めたら、ノコノコ後を付いて行ける仕組みができあがってしまっている。

<被爆国としての矜持を忘れる>
 それからもう一つよくないのは、いつも繰り返されるアメリカへの追従である。その一つが、核兵器禁止条約の2017年からの交渉開始を求める決議案にアメリカと歩調を合わせて反対したことである。TPPではアメリカよりも先に承認して、議会の反対派を抑えて早く承認するとかなりのリーダシップを発揮せんと無理な姿勢をとっている。本当ならばその姿勢は良しとする。それならば唯一の被爆国として、核保有国と非核保有国の橋渡しのできる絶好のポジションにいながら、なぜひたすらアメリカに従うのか。これが疑問である。日本国民の大半が賛成すべきだと思うだろうし、反対したことに対する被爆者の落胆はいかばかりかと思うと残念でならない。

<国民は今国会成立を望まず>
 一方でTPPは急いでいる。そんなTPPを急ぐ国民の声はほとんどない。今日もまた共同通信の世論調査が発表された。「TPP慎重審議」66.5%、「今国会で成立される必要はない」10.3%であり、76.8%がTPPの今国会での成立に疑問を呈している。尤も同じ日に発表された日本経済新聞では、どうしてこう違った結果になるのかわからないが「TPPを現国会で承認」38%、「反対」が35%で拮抗ということになっている。こちらは3%だけ今国会で成立が多い。しかし、いずれにしてもそんなに急いでいないのである。

<アメリカの露払いでTPP承認を急ぐ>
 日本はやはりアメリカの御先棒を担いでいるしかない。先ほどの土俵入りに例えるなら、「露払い」も兼ねようとしているのではないかと思っている。つまり、TPPである。TPPを今や中国に対峙するために必要だということが盛んに言われるようになっている。最初はそんなことはあまり言われていなかったけれども、今そういうことをよく耳にする。軍事で後を追いかけ、経済では対中ロで露払いをする。太刀持ちと露払いの両方の役割を1人で演じようとしている。しかし、安倍総理はいみじくも三役(大関・関脇・小結)と言われた。関脇以下は太刀持ち・露払いはするが、大関は太刀持ちも露払いもしない。世界第三位の経済大国日本は、アメリカの露払いばかりするようなことは断じてしてはならないと思っている。

<アメリカの再交渉要求には、TPP脱退・破棄で応ずるべし>
 そして二言目には再交渉には絶対に応じないと強がりを言う。しかし、いつ「新しい(奇妙な?)判断だ」と言って平然と再び大妥協を繰り返し、国益を損ねるおそれがある。担保するものは何もない。今日は言うのはやめたが、アメリカがもし再交渉の要求をしてきたら、要求を蹴るだけでなく、トランプ同様に「TPPから脱退する」「TPPを破棄する」ということを国民に約束すべきなのだ。日本は核兵器禁止条約の2017年からの交渉開始を求める決議案にはアメリカに追従して反対し、アジアインフラ投資銀行(AIIB)でも、先進国の中でアメリカに並んで唯一入らない。日本はどうもアメリカの太刀持ち・露払い国家になってしまったようだ。

※今回のブログ内容は、10月30日現在のものです。TPPシリーズの順番・内容が前後しますが、ご了承ください。

2016年11月05日

【TPP交渉の行方シリーズ62】 十分な審議が行われていない -山本農相の辞任が先- 16.11.05

<国民に理解不能な国対政治>
 11月3日、締めくくり総括質疑が行われ、1時間30分(90分)の内の66分間が野党民進党に割り当てられ、私が46分間、不承不承ではあるが質問することになっていた。しかしながら、新聞報道されているとおり、山本有二農水大臣の2度目の失言に対し、我々野党4党は山本大臣辞任を要求するとともに、このような大臣の下では採決に応じられないと委員会開会に反対した。与党は委員長職権で11月4日に行うことを決めたため、民進党は欠席することを決定した。
 4日は三笠宮殿下の斂葬の儀の日、パリ協定の発効日に合わせ本会議が予定されていた。反対なく全会一致の予定だった。10月19日の締切日に間に合わず、11月8日からモロッコで開催される締約会合には正式メンバーとして参加できない。それでもせめて発効日には通して面目を保つはずが、なんとそれを吹き飛ばし、TPP特委を開会した。変なルールばかりの「国対政治」は、いくら説明しても分かりにくいので、ここでは解説しない。しかし、国対・議運のベテランの佐藤勉議院運営委員長が知らぬ間に、TPP特委が突如開催されてしまった。前代未聞のことだ。

<相変わらずの審議未了のままの強行採決>
 我々野党は当然激怒し、委員会は欠席した。1時間30分の内、最後の維新の10分以外はいわゆる「から回し」でずっと審議なし。14時41分、野党の抗議中に始まり、16時11分、質疑終了。そこに我々野党議員達が採決阻止をせんがためになだれ込む・・・ という、いつもの見苦しい場面となった。
 その結果、「強行採決」でTPPはTPP特委が可決され、本会議にかけられることになった。ただ国会は不正常となり、来週どのように展開していくか不明である。政府与党は、11月8日火曜日の本会議でTPPとパリ協定の採決を予定しているが、野党は山本農相の辞任等が先を譲らない。
 嫌々ながらの質疑ではあるが、それなりに準備したものを無にするのも勿体ないので、皆様方に私の予定した締めくくり質疑の概要をお届けしつつ、TPPの問題点を明らかにする。

<理由もなく急ぐTPP承認>
 まずTPPとこの関連法案、これだけ巨大な法案を審議するのは前代未聞である。私は役人時代に水産庁企画課長として海洋法条約とその関連法を担当した。海洋法条約の内容も豊富だったが海の問題に限られ、200海里の設定等、日本が得を望んだ内容であり、反対はなかった。パリ協定と同じように意外と早く各国が批准し、発効が間近になったので慌てて国内法も整備し、条約も批准することになった。
 それに対しこのTPP関連法案は全く違っている。そんなせっぱ詰まった話はどこにもない。第一に、マレーシア1国だけが承認しているだけであり、他のどこの国もまだ国内法を整備していない。後は皆アメリカの様子見である。そのアメリカ大統領候補の2人がTPPはとても受け入れられない、と言っているのであり、発効は何年先になるかわからない。それなのに日本だけがやたら急いでいる。
 TPPは、保秘義務とやらで交渉内容が少しも明らかにされていない。政府は国会の論戦を通じて国民にTPPを丁寧に説明しなければならない。つまり、じっくりとメリットを説明し、野党の指摘する問題点に真摯に応える必要がある。それには、ゆっくりと腰を落ち着けて審議するのが一番である。それなのに政府は、おざなりな審議のまま立法府も一緒に承認し、明確な意思を示してアメリカに早期承認を促すというのである。

<日本の早期承認はトランプ候補に好都合>
 それに対し私は10月17日の質問で嫌味な指摘をした。もし日本が早々と承認すれば、やはり日本にメリットがあるということで、トランプ候補にTPPは日本に有利でアメリカには不利な協定だと言わせてしまうのではないか。日本に民進党や私のような反対論者がいて、これはやるべきではない、と今国会も承認を見送れば、日本に不利益があることに気付き、それならばアメリカにもメリットがあると考え直し、トランプ候補も軟化するかもしれない、と皮肉を言った。最も許せないのは、このまま承認しないでいると、日本は再交渉を受け入れるシグナルを示すことになる、などという屁理屈である。バカなことを言うんじゃないと言いたい。では他の国は再交渉する用意があることを示すため、アメリカの様子見をしているのか。これは後付けの詭弁以外の何物でもない。

<戦後史上最大の協定と11本の関連法>
 いかに膨大かという例えで、サイドレター(付属文書)など含め英文で6千ページとか8千ページといわれている。私は前通常国会のTPP特委冒頭で、わざと英文13冊、日本文5冊を質問席に積み上げた。私の顔はかろうじて映る程度で、背の低い議員だったら顔が映らないぐらいの高さであった。これだけ膨大な内容のものは、私の霞ヶ関30年、永田町13年の経験の中でも見当たらない。ありとあらゆる経済関係を含む30章である。ただ、30章といってもわからないので、TPPを審議するのに必要な項目と必要日数を付け、それぞれ何日必要かということを付け加えた。(表「TPPについて審議すべき項目と必要な日数」)
 それに添って必要審議日数を計算してみると、医療・保険で1日、ISDで1日、食の安全で1日、政府調達0.5日、国有企業0.5日といった具合で、条約がらみで7.5日。農業はもうかなり議論したので入れていない。問題は11本のTPP関係整備法案である。安保法制も確かに多かったが、5法案であり安保法制とくくれるものであった。ところがTPP関係整備法案は、関税関係の法律が関税定率法、EPA申告原産法、知的財産法がらみでは著作権法、特許法、商標法。そして医薬品・医療法、公取法。農林水産関係で畜安法、糖安法、農畜産振興機構法、地理的表示法と全く関連のない11本の法律である。これらの法案をTPPと同じく真面目に審議するならば、例えば著作権法1日、特許法1日という形でやっていくと5.1日。両方で合計12.6日必要となる。

<長時間審議した法律>
 更に私は戦後の長時間審議した案件を表にしてみた。(表重要議案の審議時間」)
 今までの法案で一番長く議論したのが、民主党政権時代の社会保障と税の一体改革法であり、9つの法案を24日118時間35分審議している。2番目は小泉内閣の郵政改革法、3番目は2015年の平和安全法(第2次安倍内閣)、4番目が教育基本法(第1次安倍内閣)。5番目が政治改革法で20数年前の宮沢内閣の時である。安倍内閣で2つ、longest5に入っている。
 こうした中で私は、TPP特委のこの協定と11の法案は当然第1位にランクしてしかるべきだと思っている。安倍総理には「longest5に3つも名を連ねる名誉ある総理に何でならないのか。それだけ大事な法案を手がけている証拠だ、と言って褒めながら長い審議を促すつもりだった。10月31日にさわりの質問をしたが、安部総理は一向に聞く耳を持たなかった。
 今国会、11月1日現在までは35時間30分審議している。集中審議、すなわち総理が出席している審議は20時間30分、関係大臣のみの一般質疑が10時間。総理が出席している審議時間のほうが長いという委員会はまずないのではないか。前通常国会との合計58時間30分、そこに先ほどの12.6日分(約70時間)を加えると128時間で、私が言ったとおりに審議すれば一番長くかかる法案になる。
 ともかく、きちんと審議しないまま済まそうとしている点で、私はとても今の時点での採決は承諾することはできない。

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