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【トランプシリーズ2】(全3回連載) トランプのトヨタ・メキシコ進出批判に三分(以上?)の理あり -トランプのアメリカ第一主義は、「アメリカ国民第一主義」-17.01.19

<TPPで揉めた原産地規則>
 2015年8月オアフ島の閣僚会合は、すんでのところでまとまらなかった。日本では、NZが乳製品で法外な要求をしたからだとまことしやかにいわれている。それもあったかもしれないが、本当の要因は日米でほぼ合意に達した原産地規則(Rule of Origin・RO)に対し、メキシコがカナダと手を組んで承服しなかったからである。
 ROとはTPP加盟国内の部品の割合が何%以上ならその国の製品として認めるというルールであり、NAFTAでは60~62.5%近くと定められている。日本企業はそれだとタイ、インドネシア、シンガポール、韓国、中国等多くの非加盟国に部品工場があり、TPPの関税引き下げの恩恵に浴さないため、低くしないとならなかった。ところが、メキシコの場合大半が日本とアメリカの企業なので、ROはいくら高くても問題なかった。

<メキシコがアメリカの職を奪っている厳然たる事実>
 その時にメキシコのグアハルト経済相は世界第4位の自動車輸出国だと胸を張った。事実、国別自動車輸出額でみると、ドイツ(1642億ドル)、日本(985億ドル)、アメリカ(684億ドル)に次いで、メキシコ(547億ドル)が4位、カナダ(470億ドル)が5位を占めている。何のことはない、NAFTAの下メキシコとカナダに自動車工場を分散した日本とアメリカの自動車企業がアメリカ向けに輸出しているにすぎないのだ。上位3位はすぐにわかっても、4、5位は世界の車通でも知らないことであり、誰もメキシコ車などと思っていない。2015年のメキシコからNAFTA域内への輸出総額は、NAFTA前の93年と比べ7.2倍に増加し、米の3.6倍、加の2.5倍を大きく上回っている。
 トランプがNAFTAを邪悪な自由貿易協定で、アメリカにとっては災難だというのもよくわかることだ。

<トランプの「ツイッター砲」にも三分以上の理あり>
 日本ではトランプのわずか4行(140字)の「ツイッター砲」は理不尽この上ないと思われている。盗人にも三分の理があるといわれるが、私は五分以上の理があると思っている。
 メキシコ移転すれば35%の国境税などというが、WTOのルールでは、関税は理由もなく上げられない。ましてフォードだ、トヨタだと狙い撃ちすることもできない。トランプの脅しはルール上制度的には実現し難いが、大方のアメリカ人の共感を呼んでいる。他にもボーイング、ロッキード・マーチンの2大航空機メーカーにもコストダウンの注文をつけている。トランプの「ツイッター砲」は大統領就任前だけの手法かもしれないが、イスラム教徒の入国禁止と異なり理があるので、さすがの大企業も反論できずにいる。今後のトランプ政権の出方にもよるが、世界一の権力者アメリカ大統領の理のある指摘を無視するわけにはいかず、並みいる大企業も次々と協力姿勢を打ち出し始めた。

<製薬業界にもかみつく>
 一連のトランプの発言からもわかるとおり、大企業の利益を損ねてまでトランプはアメリカ国民の利益を第一としている。例えば私がTPPを巡って再三にわたり指摘してきた、製薬業界の卑しい魂胆についても厳しく指弾している。公共事業の拡大や大幅減税を期待していた向きには、全く逆の記者会見であり、関連企業の株価は敏感に反応し、かなり下落した。
 アメリカの1人当たり医療費が日本(38万6,000円)の3倍弱の102万円になる理由の一つが高薬価である。この点について、1月11日の記者会見では例のトランプ流の口汚い言い方で、概ね次のように述べている。
 「製薬会社は殺人の罪を犯しているにもかかわらず、罰せられておらず、政府に多額の費用を負担させている。このため薬価の改革を進める。
 また、海外へと生産拠点を移す動きが加速しているが、国内に回帰させる必要がある。世界最大の医薬品の買い手であるにもかかわらず、適切な価格設定がされていない。業界は大きなロビイストを抱え、大きな影響力を持っている。新たな入札制度を導入し、数十億ドル削減する」。

<高薬価に嘆く国民のために薬価を下げる「アメリカ国民第一主義」>
 アメリカでは薬品の価格が大幅に値上げされ、議会でも問題となり製薬業界が批判されている。私は日本がTPP交渉に参加したブルネイからシンガポール、バリ島、シドニーと数回関係会合に民主党代表として同行した。日本からは農業関係者が大勢押しかけたが、アメリカからは製薬業界が大半だった。実はTPPを最も促進したかったのが製薬業界である。そして、TPPに大きな影響力のあるハッチ上院財政委員長にも巨額の献金をしている。だからTPPの生物製剤(バイオ医薬品)のデータ保護期間を12年にすることに猛進した(【TPP交渉の行方シリーズ42】アメリカが薬の特許にこだわる理由-アメリカの対日最大輸出品は医薬品と医療機器-15.08.07 他43.45も参照)。 
 トランプはそうしたことをすべて承知し、その巨大な製薬業界を記者会見で攻撃し、国民の医療費を下げんとしているのである。企業の利益よりもアメリカの国民の生活を最優先していることが伺える。

<トランプの「アメリカ国民第一主義」対安倍の「企業第一主義」>
 日本では薬価は国が関与し中央社会保険医療協議会で決められているが、アメリカでは製薬会社が自由に決められる。また、アメリカの健康保険は、半分以上が民間の保険会社との契約になっており、入れないいわば弱者が、オバマケアの下、メディケア(政府 高齢者)、メディケート(州政府 弱者)に入っている。ある病気に対しては、この薬を使うといったことが製薬会社と民間保険会社の契約で決められているが、トランプは政府の行うメディケアに入札を取り入れ、高いものを使わないようにしようというものだと推測される。つまり、トランプの「アメリカ第一主義」は「アメリカ国民第一主義」なのである。しかし、残念ながら日本のマスコミはこのことについて大きく触れることがない。
 それを安倍総理は日本を世界で一番ビジネスのしやすい国にしたいとのたまい、国民生活を犠牲にせんとしている。言ってみれば、安倍総理は「企業第一主義」なのだ。トランプが大企業利益ばかりに貢献するNAFTAやTPPを敵対視するのは、国民生活を考えているからである。アメリカ国民を豊かにすることが、アメリカを偉大な国にするための前提条件だとわかっているのだ。「国力」ばかりに関心がいく安倍総理と違い、トランプは「国民力」をより重視している。見事というしかない。

<政治で歪んだ経済合理主義を是正>
 これら一連の「アメリカ国民第一主義」に対して、経済学者はすぐアメリカの消費者が高い車を買わされることになり、国民第一ではないとか反論する。例えば、フォードの小型車「フュージョン」の生産をメキシコからミシガン州に戻したら1台当たり1200ドル(14万円)高くなると計算している。しかし、アメリカに雇用が増え賃金が上がれば少々高くなった車も気にせずに買える。やはり低賃金なり格差をほっておいて自由貿易、関税ゼロというのは歪んでいる。
 どこかで調整が必要だが、トランプはそれを「政治」でやろうとしている。そして、アメリカ国民はそこに期待してトランプを大統領に押し上げたのである。TPPに走る政治は、政治ではなく経済合理性とやらを後追いしているだけだ。政治は国民のため、なかんずく弱い立場の人たちのためのものでなくてはならない。日本もトランプを悪の権化のごとく扱うのはやめて、むしろ素直に見習うべきなのだ。商売に「政治介入」はむずかしいなどと一斉に批判されているが、トランプはまさに政治で大企業本位の経済の仕組みを国民本位に改革しようとしているのだ。

<対中強硬姿勢の延長線上で日本も標的に>
 中国に対して強い口調で輸出しすぎと批判し続けてきた、ナバロ・カルフォルニア大学教授(「米中もし戦えば」の著者)を新設する「国家通商会議」のトップに据えた。商務長官に鉄鋼業界に関わりのある投資家のロス、USTR代表には1984~85年の日米鉄鋼交渉で日本を自主規制に追い込んだライトハイザーと、対外的に(特に中国に対して)強硬路線を築ける人材を配置している。通商政策も安全保障も大きく転換することは間違いない。サマーズ元財務長官は「アメリカの資本主義を永遠に傷付けかねない」と批判しているが、トランプは歪んだ資本主義を根底から変えようとしているのであり、既存の経済人に理解されまい。
 世界も日本もトランプ大統領になれば、選挙期間中の過激な発言も現実路線に転換すると期待する向きがあったが、見事に裏切られた。トランプはまさに満を持して筋書き通り歩み出したのである。大統領に就任したら、日本にも為替操作国に指定などもっと強烈なボールが飛んで来るかもしれない。アジア太平洋に力を注ぐというオバマ・クリントンのリバランス政策と異なり、明らかに「力による外交」を打ち出している。何しろ中国製品に45%の関税をかけると言い続けてきたのである。日本は全く違った価値観で動くトランプの底力を甘く見てはならない。