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【トランプシリーズ3】(全3回連載)「最終消費地(アメリカ)で最終製品(自動車)を造れ」はパリ協定に通じるーグッズ・マイレージを少なくすべしー18.1.20.

<地球に優しい生き方を求めて>
 私が創り上げた言葉に「地産地消」「旬産旬消」という言葉がある。食べ物は地のもの、旬のものを食べるのが一番よいという昔から言われていることを四字熟語にしただけである。輸送や保存に伴う無駄なエネルギーを使わなくてすみ、新鮮で健康にもよいということである。
 世界中で「地球環境に優しい生き方」が求められている。その延長線上でパリ協定ができている。産業で排出されるCO2も多いが、もう一つ問題なのは輸送に伴うCO2の排出である。地球環境に優しい生き方の一つは、ものを運ぶ輸送距離をなるべく少なくすることである。つまり例えて言えば、農場と食卓の距離を短くすることである。それが「食」(Food)の「地産地消」なのだ。

<地産地消・旬産旬消からグッズ・マイレージへ>
 それを定量的に説明するものとして、「フード・マイレージ」という概念を使い、更に「木」と「物」にまで広げ「ウッド・マイレージ」「グッズ・マイレージ」という言葉も創った。英語で言うとそれぞれ「Food」「Wood」「Goods」で韻を踏んでいる。輸送距離×重量で表せる。この考えは、私は、2001年5月18日の朝日新聞の論壇で明らかにした。
 ところが今、送電ロスや再生可能エネルギーということもあり、エネルギーの世界でも「地産地消」が使われている。つまりはその国の国民が必要とするものは、なるべくその国で造るほうが地球環境に優しいのだ。
 「グッズ・マイレージ」は世界のルールとして長らく定着してきた「国際分業論」や「自由貿易」と対立する概念である。

<長野には軽薄短小しか存在しえず>
 グッズ・マイレージにおける輸送距離の短縮は自然に実現されている。例えば長野県は、軽薄短小の製造業しか存在しえない。重厚長大型産業があるとしたら、長野自動車道や中央道は石炭や鉄鉱石、大型機械を運ぶ車でいっぱいになってしまう。そして製造コストが増加し、輸送に伴うCO2に排出量も増える。
 その反対に日本の輸出系企業は、全て海岸に立地している。別の機会にブログにするが、東京湾、伊勢湾、大阪湾の大半が輸出系企業に占領されている。日本は海岸の個人所有を許さないにもかかわらず、埋め立てては大企業に明け渡してきており、輸出系企業はこれだけ優遇されてきたのである。
 これも理にかなっている。なぜかというと日本の製造業は材料を輸入し、それを加工し輸出して生きてきたわけであり、内陸に工場を造るよりも海岸に造ったほうがいいに決まっているからである。日本国内の輸送コストが著しくゼロになるからだ。

<最終消費地で最終生産するのが最も合理的>
 さて問題の自動車である。日本で車を造ってアメリカに輸出するのは、エネルギー効率が悪い。輸送船のスペースを多くとり、空気を輸出し運んでいるようなものだからだ。車も消費地のアメリカで造るのが理に適っている。日本企業がアジアに工場が移転する理由として低賃金ばかりが取り沙汰されているが、中国が消費地であり、その近くで最終製品を造るのが一番コスト的にも有利だからだ。
 そこへ1994年に、NAFTAによりアメリカ、カナダ、メキシコに貿易上の国境がなくなり、関税がゼロとなった。となるとメキシコ人労働者の低賃金に目を付けた企業が、メキシコに工場を建て、その商品をアメリカに輸出し出した。まさに典型的「迂回輸出」である。GMのメアリー・バーラCEOが「我々の原則は車の消費地での生産だ。生産の海外分散は避けられない」と言い訳しているが、正しいことなのだ。ところが問題は中国工場が中国向けなのに対して、メキシコの工場はメキシコ向けでなく、アメリカ向けであり、この点を誤魔化している。

<パリ協定、グッズ・マイレージに沿うトランプの政治介入>
 これに対してトランプはがアメリカ人に車を買ってもらいたいのなら、アメリカ人を雇用して、アメリカで造れ、と正面から怒りを表す。私のグッズ・マイレージ論からみれば、もっともな理屈なのである。サンダースも求めたことでもある。
 トヨタが1月9日、デトロイトの自動車ショーで、「今後5年間で100億ドル(1兆1200億円)の投資をする」と発表した。トランプの正論に従った朝貢外交ならぬ「朝貢投資」である。日本の製造業界は輸出からアメリカでの現地生産、しかも部品も含めての現地生産を拡大していくしかない。これが、グッズ・マイレージを少なくし、輸送に伴うCO2排出を抑えるというパリ協定の順守にもつながっていく。当のトランプはパリ協定に冷たく、まだ気付いていないだろうが、アメリカ国内で生産しろという主張は、まさに「環境の世紀」にふさわしい新しい基本概念なのである。
 トランプの主張が全部正しいとか、私もすべて納得すると言っているのではない。例えばパリ協定に反対する姿勢や銃規制反対は私からみるといただけない。しかし、「アメリカで売る物はアメリカで現地生産せよ」というトランプの主張は、実は輸送に伴うCO2を削減するというパリ協定の本旨にも沿っているのである。

<SNSリテラシーの高いアメリカ国民が選んだツイッター大統領>
トランプは、前号でも述べたとおり40代からいずれは大統領を狙う男と言われていた。それを多分もっと経験を積んでからと自重しつつ機をうかがっていたのだろう。そして中曽根と同じく自らの大統領の姿を思い描いていたに違いない。140文字のツイッターは無謀な思い付きのようにみえるが、緻密な戦略の下に練り上げられていると思われる。ルーズベルトはラジオで訴え、ケネディはテレビで訴えたものをトランプはツイッターを活用し出した。
そしてアメリカ国民は、クリントンになびいた既存のメディアではなく、このツイッターを読み、サンダースを押し上げ、トランプを大統領にしたのである。アメリカ国民の高いSNSリテラシー故にTPPも葬り去られることになったと私は深く感謝している。

<五大紙は戦前と同じ間違いを犯している>
 それにひきかえ、日本はどうか。TPPをやみくもに迫った一周も二周も遅れた政府や経済学者もそうだが、社会の木鐸たる新聞各紙のリテラシーの低さを指摘せねばなるまい。
 何度も指摘したが。2010年秋、TPPの内容もわからない段階から全国紙は盲目的にTPPを礼賛してきた。そして、ほぼ潰れた今もTPPにこだわり、一斉にトランプ攻撃である。ただの一紙もトランプの主張に一理あることを認めていない。あまりにも一方的、短絡的である。
 タイトルで主張の大半がわかるので、ここに記しておく。

日経 1/5「車の生産網寸断招くトランプ流の手法」、1/7「米国での雇用貢献を評価せよ」、1/8「危険な保護貿易主義の拡大を防げ」

朝日 1/9「企業たたきのおろかさ」、1/13「トランプ氏は質問にきちんと答えよ」

毎日 1/6「歴史の転機 政治とネット ゆがみの是正に英知を」、1/9「トヨタにも圧力、世論の力で阻止したい」、1/13「メディア差別は許されぬ」

読売 1/7「現実を無視したトランプ発言」、1/13「事実誤認に基づく対日批判だ」

産経 1/5「経済再生 保護主義の阻止へ覚悟を 民間も「稼ぐ力」を競い合え」、1/7「トヨタへの介入 経済歪める「恫喝」やめよ」、1/13「保護主義加速を懸念する」

 私が唯一納得したのは、毎日1/6がトランプの勝利をSNSのもたらしたものだと指摘し、日本でも橋下徹が先行していたことに触れたことだけである。私が、日本企業のNAFTAを活用(悪用)した迂回輸出の事実を説明したが、読売(1/13)はこの事実をどうとらえているのだろうか。朝日が、アメリカ人の雇用を拡大し、賃金を上げ、薬価を低くし、アメリカ国民のくらしを豊かにしようとしているトランプの真摯な姿勢に何の理解も示していない。メディアのリテラシーが著しく欠けているのである。
 これでは、戦前の大本営発表に酔いしれて、戦争に突き進むのを止められなかったのと同じである。徒に外に向かって噴出するのは、軍事でも経済でも慎むべきなのだ。それがわかっていない。

<トランプの主張を受け入れる覚悟が必要>
 トランプの主張は、一見とんでもない暴論のようにみられているが、意外と一理あるものもある。例えば、際どい日韓の核保有容認や米軍駐留経費の負担増も、日本は自主独立路線を歩むべきという立場からすれば考えられないわけではない。この際今までアメリカ頼みで疎かにしてきた日本の安全保障をどうするか、原点に立ち戻って考えるきっかけにしたらよい。
 他に変わったところでは、議員の在職年数制限も説いていた。これまた、日本のメディアは全く取り上げない。あまり未熟な議員ばかりだと困るが、長すぎる政治家もいただけない。既存の政治家を無能呼ばわりして、ビジネス界から政界に打って出たトランプからすると当然の主張である。私は、日本でも永年勤続表彰を受ける在職25年が潮時と思っている。これなどもアメリカで率先して実現し、日本に見本を示してほしいと願っている。

<頭の中を「初期化」してトランプに対応すべし>
 今は、古いパソコンに入力された、行き過ぎた自由貿易主義・グローバリゼーションは、一旦完全に「初期化」し、全く新しい理念に基づいて考え直すべき時である。この点については、私のブログ( 「TPPシリーズ6.自由貿易・国際分業論を捨てグッズ・マイレージの縮小を-11.11.5」「限界集落→崩壊集落、限界市町村→崩壊市町村 -デトロイト破綻が教えるTPPの悪影響- 13.08.20」 )等で、なぜそうかを読み取っていただきたい。少なくとも私はトランプの言うことが、胸にストーンと落ちてくる。
 今も変わらぬ記者会見の子供じみた対応は、確かに教養溢れる方々には受け入れられまいが、アメリカ庶民はきれいごとに飽き、格差こそ是正しアメリカ国民を再び豊かにしてほしいと願っているのである。我々もこの背景をしかと胸に刻みこみ、心してかからなければならない。
 あと数時間でトランプは第45代アメリカ大統領となる。トランプの政策に真剣に向き合う覚悟が必要である。