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2017年1月20日

【トランプシリーズ3】(全3回連載)「最終消費地(アメリカ)で最終製品(自動車)を造れ」はパリ協定に通じるーグッズ・マイレージを少なくすべしー18.1.20.

<地球に優しい生き方を求めて>
 私が創り上げた言葉に「地産地消」「旬産旬消」という言葉がある。食べ物は地のもの、旬のものを食べるのが一番よいという昔から言われていることを四字熟語にしただけである。輸送や保存に伴う無駄なエネルギーを使わなくてすみ、新鮮で健康にもよいということである。
 世界中で「地球環境に優しい生き方」が求められている。その延長線上でパリ協定ができている。産業で排出されるCO2も多いが、もう一つ問題なのは輸送に伴うCO2の排出である。地球環境に優しい生き方の一つは、ものを運ぶ輸送距離をなるべく少なくすることである。つまり例えて言えば、農場と食卓の距離を短くすることである。それが「食」(Food)の「地産地消」なのだ。

<地産地消・旬産旬消からグッズ・マイレージへ>
 それを定量的に説明するものとして、「フード・マイレージ」という概念を使い、更に「木」と「物」にまで広げ「ウッド・マイレージ」「グッズ・マイレージ」という言葉も創った。英語で言うとそれぞれ「Food」「Wood」「Goods」で韻を踏んでいる。輸送距離×重量で表せる。この考えは、私は、2001年5月18日の朝日新聞の論壇で明らかにした。
 ところが今、送電ロスや再生可能エネルギーということもあり、エネルギーの世界でも「地産地消」が使われている。つまりはその国の国民が必要とするものは、なるべくその国で造るほうが地球環境に優しいのだ。
 「グッズ・マイレージ」は世界のルールとして長らく定着してきた「国際分業論」や「自由貿易」と対立する概念である。

<長野には軽薄短小しか存在しえず>
 グッズ・マイレージにおける輸送距離の短縮は自然に実現されている。例えば長野県は、軽薄短小の製造業しか存在しえない。重厚長大型産業があるとしたら、長野自動車道や中央道は石炭や鉄鉱石、大型機械を運ぶ車でいっぱいになってしまう。そして製造コストが増加し、輸送に伴うCO2に排出量も増える。
 その反対に日本の輸出系企業は、全て海岸に立地している。別の機会にブログにするが、東京湾、伊勢湾、大阪湾の大半が輸出系企業に占領されている。日本は海岸の個人所有を許さないにもかかわらず、埋め立てては大企業に明け渡してきており、輸出系企業はこれだけ優遇されてきたのである。
 これも理にかなっている。なぜかというと日本の製造業は材料を輸入し、それを加工し輸出して生きてきたわけであり、内陸に工場を造るよりも海岸に造ったほうがいいに決まっているからである。日本国内の輸送コストが著しくゼロになるからだ。

<最終消費地で最終生産するのが最も合理的>
 さて問題の自動車である。日本で車を造ってアメリカに輸出するのは、エネルギー効率が悪い。輸送船のスペースを多くとり、空気を輸出し運んでいるようなものだからだ。車も消費地のアメリカで造るのが理に適っている。日本企業がアジアに工場が移転する理由として低賃金ばかりが取り沙汰されているが、中国が消費地であり、その近くで最終製品を造るのが一番コスト的にも有利だからだ。
 そこへ1994年に、NAFTAによりアメリカ、カナダ、メキシコに貿易上の国境がなくなり、関税がゼロとなった。となるとメキシコ人労働者の低賃金に目を付けた企業が、メキシコに工場を建て、その商品をアメリカに輸出し出した。まさに典型的「迂回輸出」である。GMのメアリー・バーラCEOが「我々の原則は車の消費地での生産だ。生産の海外分散は避けられない」と言い訳しているが、正しいことなのだ。ところが問題は中国工場が中国向けなのに対して、メキシコの工場はメキシコ向けでなく、アメリカ向けであり、この点を誤魔化している。

<パリ協定、グッズ・マイレージに沿うトランプの政治介入>
 これに対してトランプはがアメリカ人に車を買ってもらいたいのなら、アメリカ人を雇用して、アメリカで造れ、と正面から怒りを表す。私のグッズ・マイレージ論からみれば、もっともな理屈なのである。サンダースも求めたことでもある。
 トヨタが1月9日、デトロイトの自動車ショーで、「今後5年間で100億ドル(1兆1200億円)の投資をする」と発表した。トランプの正論に従った朝貢外交ならぬ「朝貢投資」である。日本の製造業界は輸出からアメリカでの現地生産、しかも部品も含めての現地生産を拡大していくしかない。これが、グッズ・マイレージを少なくし、輸送に伴うCO2排出を抑えるというパリ協定の順守にもつながっていく。当のトランプはパリ協定に冷たく、まだ気付いていないだろうが、アメリカ国内で生産しろという主張は、まさに「環境の世紀」にふさわしい新しい基本概念なのである。
 トランプの主張が全部正しいとか、私もすべて納得すると言っているのではない。例えばパリ協定に反対する姿勢や銃規制反対は私からみるといただけない。しかし、「アメリカで売る物はアメリカで現地生産せよ」というトランプの主張は、実は輸送に伴うCO2を削減するというパリ協定の本旨にも沿っているのである。

<SNSリテラシーの高いアメリカ国民が選んだツイッター大統領>
トランプは、前号でも述べたとおり40代からいずれは大統領を狙う男と言われていた。それを多分もっと経験を積んでからと自重しつつ機をうかがっていたのだろう。そして中曽根と同じく自らの大統領の姿を思い描いていたに違いない。140文字のツイッターは無謀な思い付きのようにみえるが、緻密な戦略の下に練り上げられていると思われる。ルーズベルトはラジオで訴え、ケネディはテレビで訴えたものをトランプはツイッターを活用し出した。
そしてアメリカ国民は、クリントンになびいた既存のメディアではなく、このツイッターを読み、サンダースを押し上げ、トランプを大統領にしたのである。アメリカ国民の高いSNSリテラシー故にTPPも葬り去られることになったと私は深く感謝している。

<五大紙は戦前と同じ間違いを犯している>
 それにひきかえ、日本はどうか。TPPをやみくもに迫った一周も二周も遅れた政府や経済学者もそうだが、社会の木鐸たる新聞各紙のリテラシーの低さを指摘せねばなるまい。
 何度も指摘したが。2010年秋、TPPの内容もわからない段階から全国紙は盲目的にTPPを礼賛してきた。そして、ほぼ潰れた今もTPPにこだわり、一斉にトランプ攻撃である。ただの一紙もトランプの主張に一理あることを認めていない。あまりにも一方的、短絡的である。
 タイトルで主張の大半がわかるので、ここに記しておく。

日経 1/5「車の生産網寸断招くトランプ流の手法」、1/7「米国での雇用貢献を評価せよ」、1/8「危険な保護貿易主義の拡大を防げ」

朝日 1/9「企業たたきのおろかさ」、1/13「トランプ氏は質問にきちんと答えよ」

毎日 1/6「歴史の転機 政治とネット ゆがみの是正に英知を」、1/9「トヨタにも圧力、世論の力で阻止したい」、1/13「メディア差別は許されぬ」

読売 1/7「現実を無視したトランプ発言」、1/13「事実誤認に基づく対日批判だ」

産経 1/5「経済再生 保護主義の阻止へ覚悟を 民間も「稼ぐ力」を競い合え」、1/7「トヨタへの介入 経済歪める「恫喝」やめよ」、1/13「保護主義加速を懸念する」

 私が唯一納得したのは、毎日1/6がトランプの勝利をSNSのもたらしたものだと指摘し、日本でも橋下徹が先行していたことに触れたことだけである。私が、日本企業のNAFTAを活用(悪用)した迂回輸出の事実を説明したが、読売(1/13)はこの事実をどうとらえているのだろうか。朝日が、アメリカ人の雇用を拡大し、賃金を上げ、薬価を低くし、アメリカ国民のくらしを豊かにしようとしているトランプの真摯な姿勢に何の理解も示していない。メディアのリテラシーが著しく欠けているのである。
 これでは、戦前の大本営発表に酔いしれて、戦争に突き進むのを止められなかったのと同じである。徒に外に向かって噴出するのは、軍事でも経済でも慎むべきなのだ。それがわかっていない。

<トランプの主張を受け入れる覚悟が必要>
 トランプの主張は、一見とんでもない暴論のようにみられているが、意外と一理あるものもある。例えば、際どい日韓の核保有容認や米軍駐留経費の負担増も、日本は自主独立路線を歩むべきという立場からすれば考えられないわけではない。この際今までアメリカ頼みで疎かにしてきた日本の安全保障をどうするか、原点に立ち戻って考えるきっかけにしたらよい。
 他に変わったところでは、議員の在職年数制限も説いていた。これまた、日本のメディアは全く取り上げない。あまり未熟な議員ばかりだと困るが、長すぎる政治家もいただけない。既存の政治家を無能呼ばわりして、ビジネス界から政界に打って出たトランプからすると当然の主張である。私は、日本でも永年勤続表彰を受ける在職25年が潮時と思っている。これなどもアメリカで率先して実現し、日本に見本を示してほしいと願っている。

<頭の中を「初期化」してトランプに対応すべし>
 今は、古いパソコンに入力された、行き過ぎた自由貿易主義・グローバリゼーションは、一旦完全に「初期化」し、全く新しい理念に基づいて考え直すべき時である。この点については、私のブログ( 「TPPシリーズ6.自由貿易・国際分業論を捨てグッズ・マイレージの縮小を-11.11.5」「限界集落→崩壊集落、限界市町村→崩壊市町村 -デトロイト破綻が教えるTPPの悪影響- 13.08.20」 )等で、なぜそうかを読み取っていただきたい。少なくとも私はトランプの言うことが、胸にストーンと落ちてくる。
 今も変わらぬ記者会見の子供じみた対応は、確かに教養溢れる方々には受け入れられまいが、アメリカ庶民はきれいごとに飽き、格差こそ是正しアメリカ国民を再び豊かにしてほしいと願っているのである。我々もこの背景をしかと胸に刻みこみ、心してかからなければならない。
 あと数時間でトランプは第45代アメリカ大統領となる。トランプの政策に真剣に向き合う覚悟が必要である。

2017年1月19日

【トランプシリーズ2】(全3回連載) トランプのトヨタ・メキシコ進出批判に三分(以上?)の理あり -トランプのアメリカ第一主義は、「アメリカ国民第一主義」-17.01.19

<TPPで揉めた原産地規則>
 2015年8月オアフ島の閣僚会合は、すんでのところでまとまらなかった。日本では、NZが乳製品で法外な要求をしたからだとまことしやかにいわれている。それもあったかもしれないが、本当の要因は日米でほぼ合意に達した原産地規則(Rule of Origin・RO)に対し、メキシコがカナダと手を組んで承服しなかったからである。
 ROとはTPP加盟国内の部品の割合が何%以上ならその国の製品として認めるというルールであり、NAFTAでは60~62.5%近くと定められている。日本企業はそれだとタイ、インドネシア、シンガポール、韓国、中国等多くの非加盟国に部品工場があり、TPPの関税引き下げの恩恵に浴さないため、低くしないとならなかった。ところが、メキシコの場合大半が日本とアメリカの企業なので、ROはいくら高くても問題なかった。

<メキシコがアメリカの職を奪っている厳然たる事実>
 その時にメキシコのグアハルト経済相は世界第4位の自動車輸出国だと胸を張った。事実、国別自動車輸出額でみると、ドイツ(1642億ドル)、日本(985億ドル)、アメリカ(684億ドル)に次いで、メキシコ(547億ドル)が4位、カナダ(470億ドル)が5位を占めている。何のことはない、NAFTAの下メキシコとカナダに自動車工場を分散した日本とアメリカの自動車企業がアメリカ向けに輸出しているにすぎないのだ。上位3位はすぐにわかっても、4、5位は世界の車通でも知らないことであり、誰もメキシコ車などと思っていない。2015年のメキシコからNAFTA域内への輸出総額は、NAFTA前の93年と比べ7.2倍に増加し、米の3.6倍、加の2.5倍を大きく上回っている。
 トランプがNAFTAを邪悪な自由貿易協定で、アメリカにとっては災難だというのもよくわかることだ。

<トランプの「ツイッター砲」にも三分以上の理あり>
 日本ではトランプのわずか4行(140字)の「ツイッター砲」は理不尽この上ないと思われている。盗人にも三分の理があるといわれるが、私は五分以上の理があると思っている。
 メキシコ移転すれば35%の国境税などというが、WTOのルールでは、関税は理由もなく上げられない。ましてフォードだ、トヨタだと狙い撃ちすることもできない。トランプの脅しはルール上制度的には実現し難いが、大方のアメリカ人の共感を呼んでいる。他にもボーイング、ロッキード・マーチンの2大航空機メーカーにもコストダウンの注文をつけている。トランプの「ツイッター砲」は大統領就任前だけの手法かもしれないが、イスラム教徒の入国禁止と異なり理があるので、さすがの大企業も反論できずにいる。今後のトランプ政権の出方にもよるが、世界一の権力者アメリカ大統領の理のある指摘を無視するわけにはいかず、並みいる大企業も次々と協力姿勢を打ち出し始めた。

<製薬業界にもかみつく>
 一連のトランプの発言からもわかるとおり、大企業の利益を損ねてまでトランプはアメリカ国民の利益を第一としている。例えば私がTPPを巡って再三にわたり指摘してきた、製薬業界の卑しい魂胆についても厳しく指弾している。公共事業の拡大や大幅減税を期待していた向きには、全く逆の記者会見であり、関連企業の株価は敏感に反応し、かなり下落した。
 アメリカの1人当たり医療費が日本(38万6,000円)の3倍弱の102万円になる理由の一つが高薬価である。この点について、1月11日の記者会見では例のトランプ流の口汚い言い方で、概ね次のように述べている。
 「製薬会社は殺人の罪を犯しているにもかかわらず、罰せられておらず、政府に多額の費用を負担させている。このため薬価の改革を進める。
 また、海外へと生産拠点を移す動きが加速しているが、国内に回帰させる必要がある。世界最大の医薬品の買い手であるにもかかわらず、適切な価格設定がされていない。業界は大きなロビイストを抱え、大きな影響力を持っている。新たな入札制度を導入し、数十億ドル削減する」。

<高薬価に嘆く国民のために薬価を下げる「アメリカ国民第一主義」>
 アメリカでは薬品の価格が大幅に値上げされ、議会でも問題となり製薬業界が批判されている。私は日本がTPP交渉に参加したブルネイからシンガポール、バリ島、シドニーと数回関係会合に民主党代表として同行した。日本からは農業関係者が大勢押しかけたが、アメリカからは製薬業界が大半だった。実はTPPを最も促進したかったのが製薬業界である。そして、TPPに大きな影響力のあるハッチ上院財政委員長にも巨額の献金をしている。だからTPPの生物製剤(バイオ医薬品)のデータ保護期間を12年にすることに猛進した(【TPP交渉の行方シリーズ42】アメリカが薬の特許にこだわる理由-アメリカの対日最大輸出品は医薬品と医療機器-15.08.07 他43.45も参照)。 
 トランプはそうしたことをすべて承知し、その巨大な製薬業界を記者会見で攻撃し、国民の医療費を下げんとしているのである。企業の利益よりもアメリカの国民の生活を最優先していることが伺える。

<トランプの「アメリカ国民第一主義」対安倍の「企業第一主義」>
 日本では薬価は国が関与し中央社会保険医療協議会で決められているが、アメリカでは製薬会社が自由に決められる。また、アメリカの健康保険は、半分以上が民間の保険会社との契約になっており、入れないいわば弱者が、オバマケアの下、メディケア(政府 高齢者)、メディケート(州政府 弱者)に入っている。ある病気に対しては、この薬を使うといったことが製薬会社と民間保険会社の契約で決められているが、トランプは政府の行うメディケアに入札を取り入れ、高いものを使わないようにしようというものだと推測される。つまり、トランプの「アメリカ第一主義」は「アメリカ国民第一主義」なのである。しかし、残念ながら日本のマスコミはこのことについて大きく触れることがない。
 それを安倍総理は日本を世界で一番ビジネスのしやすい国にしたいとのたまい、国民生活を犠牲にせんとしている。言ってみれば、安倍総理は「企業第一主義」なのだ。トランプが大企業利益ばかりに貢献するNAFTAやTPPを敵対視するのは、国民生活を考えているからである。アメリカ国民を豊かにすることが、アメリカを偉大な国にするための前提条件だとわかっているのだ。「国力」ばかりに関心がいく安倍総理と違い、トランプは「国民力」をより重視している。見事というしかない。

<政治で歪んだ経済合理主義を是正>
 これら一連の「アメリカ国民第一主義」に対して、経済学者はすぐアメリカの消費者が高い車を買わされることになり、国民第一ではないとか反論する。例えば、フォードの小型車「フュージョン」の生産をメキシコからミシガン州に戻したら1台当たり1200ドル(14万円)高くなると計算している。しかし、アメリカに雇用が増え賃金が上がれば少々高くなった車も気にせずに買える。やはり低賃金なり格差をほっておいて自由貿易、関税ゼロというのは歪んでいる。
 どこかで調整が必要だが、トランプはそれを「政治」でやろうとしている。そして、アメリカ国民はそこに期待してトランプを大統領に押し上げたのである。TPPに走る政治は、政治ではなく経済合理性とやらを後追いしているだけだ。政治は国民のため、なかんずく弱い立場の人たちのためのものでなくてはならない。日本もトランプを悪の権化のごとく扱うのはやめて、むしろ素直に見習うべきなのだ。商売に「政治介入」はむずかしいなどと一斉に批判されているが、トランプはまさに政治で大企業本位の経済の仕組みを国民本位に改革しようとしているのだ。

<対中強硬姿勢の延長線上で日本も標的に>
 中国に対して強い口調で輸出しすぎと批判し続けてきた、ナバロ・カルフォルニア大学教授(「米中もし戦えば」の著者)を新設する「国家通商会議」のトップに据えた。商務長官に鉄鋼業界に関わりのある投資家のロス、USTR代表には1984~85年の日米鉄鋼交渉で日本を自主規制に追い込んだライトハイザーと、対外的に(特に中国に対して)強硬路線を築ける人材を配置している。通商政策も安全保障も大きく転換することは間違いない。サマーズ元財務長官は「アメリカの資本主義を永遠に傷付けかねない」と批判しているが、トランプは歪んだ資本主義を根底から変えようとしているのであり、既存の経済人に理解されまい。
 世界も日本もトランプ大統領になれば、選挙期間中の過激な発言も現実路線に転換すると期待する向きがあったが、見事に裏切られた。トランプはまさに満を持して筋書き通り歩み出したのである。大統領に就任したら、日本にも為替操作国に指定などもっと強烈なボールが飛んで来るかもしれない。アジア太平洋に力を注ぐというオバマ・クリントンのリバランス政策と異なり、明らかに「力による外交」を打ち出している。何しろ中国製品に45%の関税をかけると言い続けてきたのである。日本は全く違った価値観で動くトランプの底力を甘く見てはならない。

2017年1月18日

【トランプシリーズ1】(全3回連載) 雇用の拡大と十分な賃金確保のためのトランプ砲撃 - 「アメリカで売る車はアメリカで造れ」という当然の主張 - 17.1.18

 この1週間、日本の各紙は、トランプのトヨタ・メキシコ工場批判を大きく扱っている。いずれもトランプけしからんという論調であり、日本側に反省の色はなくトヨタないし日本の肩を持つものばかりである。しかしあまりに短絡的である。

<トランプの切なる願いは「せめてアメリカで生産した車を売れ」>
 トランプは、1月20日の就任式に向けアメリカを再び偉大な国にする、という公約の実現の第一歩として製造業を再び復活させ、雇用を拡大せんとしている。16年12月6日、同じ経営者の孫正義ソフトバンク社長と会い、4年間で500億ドル(5兆6千億円)の投資により5万人の雇用を拡大する約束を取り付けているのもその一環である。11日の5ヵ月振りの記者会見では、「神が創造した最も偉大な雇用創出者となる」と大見得を切っている。
トランプはアメリカ国民に何よりもGM・フォード・クライスラー(正式にはFCA)のアメ車を使ってほしいのだ。それがままならず、日本車にするにしても、せめてアメリカの工場で生産した車にすべきだと言っているだけだ。これもアメリカの雇用を奪ったNAFTA(北米自由貿易協定)は見直す、という選挙期間中の公約を実現せんとしているにすぎない。突然根も葉もない荒唐無稽なことを言い出したわけではない。日本の政治家と異なり、全力で約束したことを果たそうとしているのだ。

<古典的自由貿易にしがみつく鈍感な日本・トヨタ>
 トヨタに注文をつける前に、既にメキシコ進出を図らんとしていたフォードにツイッター攻撃をしている。それを受けフォードは16億ドル(1875億円)の投資計画を撤回し、ミシガン州で700人の雇用を確保すると恭順の意を示した。空調機器大手のキャリアも同調している。FCAも1月8日、ミシガン、オハイオ両州に計10億ドル(約1172億円)を投じ、約2000人の雇用を増やすと表明した。これに対しトランプはツイッターで「サンキュー」と素直に感謝の意を表している。
 それにもかかわらず1月5日、豊田章男トヨタ社長が「メキシコの計画は見直さない」と発表するから、トランプはすぐさま半日後に「アメリカに工場を造るか高関税を支払うかどちらかだ」と警告を発したのである。つまり1994年に発足したNAFTAを奇貨として、アメリカから仕事を奪い安い製品を売り続けるのはやめろ、と単純明快なことを主張しているにすぎない。2015年にはアメリカの貿易赤字は7456億ドル(86兆円)に達している。中国への対米貿易黒字の3672億ドル(43兆円、00年比4割増で、全体の5割に達する)には及ばないが、2位のドイツ(749億ドル)についで、3位の日本(689億ドル)、4位のメキシコ(607億ドル)に苛立つトランプからすると、やはりNAFTAは問題であり、それを引き継ぐTPPも認められないのは至極当然のことだ。

<日本はNAFTAのメリットを享受するばかり>
 メキシコ進出する企業は、メキシコの低賃金(アメリカの5分の1から6分の1)とNAFTAによるゼロ関税(日本からアメリカへの自動車輸出は2.5%の関税)の2つが魅力なのだ。これに対してトランプは、アメリカに売り込むなら、せめてアメリカで雇用拡大に貢献するぐらいのことはするのが礼儀ではないか、と正論をぶつけているにすぎない。日本流に言えば、「売り手(日本)よし、買い手(アメリカ消費者)よし、世間(アメリカ)よし」にしろということであり、何らおかしなことではない。だからアメリカの名だたる大企業もさしたる反論もできず、トランプのツイッター介入「口先介入」または「指先介入(?)」)に渋々従わざるをえなくなっている。

<続々とトランプに歩み寄るIT企業界>
中国のインターネット通販最大手「アリババ集団」創業者の馬雲氏は、1月9日、100万人を雇用拡大すると発言。1月10日にはブリヂストンがノースカロライナの工場に1億8千万ドル(210億円)の追加投資をすると発表している。また成長産業であるアメリカのIT大手も、アマゾンが物流拠点で10万人、IBMが技術者を2.5万人増やすと発表した。
 これを受けて日本企業の中でメキシコの生産台数が82万台と一番多い日産のゴーン社長は「NAFTAのルールが変わるなら、変えていく」と少々理解を示している。他に小林喜光経済同友会代表幹事も「メキシコはリスクが大きい」と認めている。
ところが、マスメディアや財界人、経済学者、評論家はトランプがおかしいと大合唱である。

<進んだ日本の自動車企業のアメリカ現地生産>
 1980年代日米通商摩擦はピークを迎え、300%の高関税をかけるスーパー301条が取り沙汰された。1990年日本はアメリカの貿易赤字1017億円の4割を占め、ソ連に代わるライバル国と目された。そのため一旦は輸出を自主規制して、その後は現場工場化を図り、今や日本車の北米生産率は75%近くに達している。トヨタはアメリカに過去の60年間に220億ドルを投資、10工場、1500販売網があり、13万6000人の雇用を推奨していると弁明している。2015年でみると、ホンダ(127万台)、トヨタ(126万台)、日産(96万台)、富士重工(31万台)、三菱自動車(5万台)、日野(1万台)と計386万台にのぼる。特にホンダは全生産台数453万台のうち、28%強をアメリカで生産しており、現地生産率では抜きん出ている。
 日本自動車工業会は、累計454億円をアメリカに投資し、150万人の雇用を創出したと発表しているが、この点についてはトランプは何も文句は言っておらず、歓迎している。

<NAFTAで加速したメキシコへのシフト>
 一方メキシコには、900社近くの日本企業が進出し、自動車メーカーでも日産の82万台を先頭にホンダ(20万台)、マツダ(18万台)、トヨタ(10万台)と続き、合計132万台(2015年)を生産し、大半がアメリカに輸出されている。4年前と比べて7割増となっている。21世紀に入ってからは、アメリカの現地生産からメキシコの「北米生産」に切り替えてきたのである。他に日本の自動車関連では、タイヤのブリヂストン、ガラスの旭化成・旭硝子等も進出しており、日本の自動車関連企業こそNAFTAの恩恵に浴しているともいえる。これがトランプがトヨタを標的にして「No Way(とんでもない)」と批判する理由である。

<アメリカもNAFTA以降はメキシコへ移転>
 これはアメリカのビッグ3も同じで、今や162万台も生産しており、まさにアメリカの中西部(rust belt)を錆びつかせている。この大半もアメリカ向けに輸出されており、日米独の3か国の企業を中心に200万台がアメリカに輸出されている。トヨタが126万台で13.6万人の雇用をというなら、22~23万人の雇用を奪っていることになる。これがNAFTAで500万人の雇用が失われたとされる理由である。
 今の日本風に言えば、メキシコ進出企業は賃金が6分の1の超非正規雇用者を合法的にメキシコの正規雇用者として使っている。メキシコ工場製の車をメキシコに売るなら許せるが、関税ゼロにことよせてアメリカに輸出し雇用まで奪うのは、アメリカ国民もトランプも許すところではない。
 
<メキシコ不法移民への攻撃もアメリカ人雇用の確保のため>
 メキシコ国境の壁とトヨタのメキシコ工場批判は一見何の関連性もないようにみられる。しかし、この二つとも「すべてのアメリカ人が十分な報酬を受け、働く機会を与えられるようにする」というトランプの最大の公約を実現するための手段なのだ。
 私はメキシコの不法移民というと、まず石川好の『ストロベリー・ロード』(1988)を思い出す。いちご畑での過酷労働を不法移民や日本語を話せない日系移民に強いられたことを綴っていた。今アメリカには1100万人の不法移民がおり、完全に社会システムの中に組み込まれている。まさに非正規不法労働者であり、最低賃金もなんのその、超低賃金で働かされている。それは30年前にも同じだったのだ。アメリカは人権だ何だかんだときれいごとを言いながら、背に腹は代えられないと、不法移民を「必要悪」としてずっと黙認してきたのである。
 トランプは、これもアメリカのまともな雇用を奪っており、許し難いため選挙期間中には200~300万人の犯罪歴のある不法移民を強制送還すると喚いていた。真面目な正論である。だからこそアメリカ国民の支持を得たのである。アメリカの雇用の確保という点ではトランプの主張は選挙期間中から今まで一貫している。

<30年前も前から大統領の準備をしてきたトランプは中曽根に通ずる>
 不動産業で名をなしつつあったトランプは、1980年代ニューヨークの不動産を買い漁る日本企業を苦々しく見ていたに違いない。この時に抱いた日本企業への不信感・敵愾心は今日も拭い去られてはいまい。日本はこれを甘く見ている。
 またトランプは、かなり前から大統領を狙う男といわれ、準備をしてきている。1987年『トランプ自叙伝-不動産王にビジネスを学ぶ(The Art of the Deal)』は大ベストセラーになり、その名がアメリカ中に知れ渡った。四半世紀前の1988年にカジノやホテルのPRのために来日、外国人特派員協会で演説し、日米通商摩擦について、アメリカのお人好しな交渉を皮肉っていた。そしてアメリカに大きなガタが来るとトランプ節を吐いていた。その点では、日本の中曽根康弘と似たところがある。つまり、大統領になったらしようと思うことをかなり前から考えてきており、今それを一挙に吐き出しているのだ。

※ご要望がありましたので、このブログに記した日米自動車関係指数をまとめたものを公表します。
日米自動車関係指数

2017年1月12日

「丁酉」の年は大きな変化の年 -政界再編により安倍政権が終焉を告げるか- 17.01.12

<"NO TPP"バッジと"STOP TPP"ネクタイ>
 私の政治生活は2003年11月から14年目に入った。この間いろいろなことをしてきたが、2010年秋以降はTPPの粉砕が一つの政治目標だった。それが、今のところ思いがけない形でほぼ実現されようとしている。私は、2013年の春、山口県の参議院補欠選挙に出馬した平岡秀夫の応援に行った際に山口県農協中央会作成の"STOP TPP"ネクタイを購入して以来、お葬式以外ずっと"STOP TPP"ネクタイを締め続けてきた。それより前2012年、韓米FTA調査団長として訪韓した時に"NO FTA"バッジを見てから、日本でも"NO TPP"バッジを作り、ずっと胸につけてきた。こうして、私は首と胸でTPP反対を二重に武装して政治活動をしてきたことになる。この結果、別稿で触れたが「歩く反TPP」という渾名を頂戴することになった。

<1月20日は武装解除の日>
 実は、11月21日にトランプ大統領予定者がビデオメッセージで、「公約どおり大統領就任の日にTPP離脱を宣言する」と公言した時に、ネクタイもバッジも外そうとした。ところが妻に「安倍総理がトランプ大統領を説得する努力を続けると言っているから、まだわからないんじゃない」と口を挟まれた(というかハッパをかけられた)ので、続けることにした。かれこれ4年近く他のネクタイを全くしていないので、1月20日の武装解除の日が待ち遠しいかぎりである。

<「丁酉」の年は動乱の年>
 日本の政治を変えないとならない、とは政治家のよく吐くセリフである。私もその一人だ。今は安倍政治を変えなければならない。なぜか。あまりにも荒っぽいからである。今年の干支は丁酉。識者に言わせると「丁」は下から突き上げがある年、「酉」は騒ぎの多い年という。12年前の2005年は、小泉郵政解散、その12年前の1993年は55年体制が崩れ細川政権が誕生している。つまり動乱の年ということになる。
 その兆しは秋の臨時国会の終盤のカジノ法案の採決にもみられる。公明党の幹部(山口代表、井上幹事長、大口国対委員長等)と心ある議員が、連立与党であるにもかかわらず珍しく反対したことである。多分はじめてのことである。

<立派な公明党と堕落する自民党>
 真面目な創価学会の婦人部がバクチ法案を許すはずがない。政治家は支持者なり国民の声を汲んで行動しなければならず、反対は当然のことである。そうした点では与党自民党も賛成した3分の2の公明党議員も政治の王道をはずれ、迷走しているとしか言いようがない。
 TPPでは、自民党議員たった1人しか造反しなかった、全く情けない話である。大半が農政連の推薦を受け、6割以上は農業団体とTPPは反対するという政策協定に署名して当選してきており、重大な契約違反である。アメリカでは次の選挙で必ず厳しい洗礼を受ける。

<党議拘束はなくすべき>
 アメリカには100紙ほど大きな新聞があるが、全国紙ではなくいずれも地方紙である。いってみれば、全紙が信濃毎日新聞と同じ性格を有している。例えば、ワシントン州のシアトルタイムズは選挙前にはワシントン州選出の上・下院議員緒法案の賛否を詳しい表にして報道する。有権者はそれを見て自分達との約束を果たす採決をしているかどうかを見極める。そして投票するかしないかを決める。
 アメリカには党議拘束がない。だから民主党のオバマ大統領がTPPを自らの遺産にしたいというのに民主党の大半が反対し、共和党が賛成するという、ねじれが生じる。つまり、国会議員は党でなく投票してくれた有権者との契約こそ政治活動の軸となっているのだ。
 日本では党議拘束が有り、党が賛否を決めるので個人の名はほとんど出てこない。その点、公明党がカジノ法案を自主投票、すなわち党議拘束を外したのは異例のことである。こうなるとアメリカ同様に新聞では個々人の賛否が一覧表で報道された。

<恐怖心がはびこる安倍・ジョンウン体制>
 日本の政治家は自らの意思を明確にして政治活動をすべきである。ところが、自民党はほぼそれが許されなくなっている。官房副長官や幹事長として小泉政権を間近に見た安倍総理には、小泉郵政選挙における造反組に対する酷い仕打ちをよく覚えている。造反したら大臣や委員長になれないばかりではない。自民党から除名(除籍)され、刺客を送り込まれるかもしれない。つまり現状の小選挙区制度の下では党幹部が議員の生殺与奪をすべて掌握しているのであり、自民党議員は沈黙せざるをえない。だから、これを私はキム・ジョンウン体制ならぬ、安倍・ジョンウン体制と呼ぶ。

<自らの任期を延長する独裁国家日本>
 かつての自民党には与党としての自制が働いた。与党議員としての矜持もあった。しかし、それも今や昔のことになりつつある。民進党もだらしないことは恥ずべきだが、与党自民党も腐敗体質が漂い始めている。
 自民党総裁の任期は2期6年と決まっていたが、それを3期9年まで延長した。周りは媚安倍なり、総ごますり化している。あの強引なプーチンでさえ、大統領を2000~08年までの2期務めた後、一旦退き、4年間メドベージェフにやらせた後2012年に再び大統領になっている。一旦決められたルールは守っているのだ。それを自ら権力者の地位にありながら、その権力を握る期間を自ら延ばすという悪事をしだしたのである。これを独裁国家といわず何をいうのであろうか。

<決め方が杜撰で強引な民進党>
 民進はバラバラでまとまりがないと批判される。一面事実である。しかし、同じ政党の国会議員がすべて意見や政策が一致することなどありえない。むしろ、それはかえって不自然である。ただ異なる意見を乗り越えて融和を図っていく必要がある。民進党の問題は、いつも決定プロセスが不明確で強引なことである。だから、何を決めても不満が残る。
 きちんと決め、それに従わない者は厳しく処分すべきなのだ。私の自らの体験では、北澤俊美総合安全保障調査会長がまとめた、安全保障についての取りまとめは見事だったが、他はどうもビシッとしない。だから、TPPは見通しを誤り、原発廃止は決められないでいる。

<カジノ法案は悪例>
 その最たる悪例は、今回のカジノ法案に対する態度決定である。私は、大体は主要な意思決定の場に参加しているが、今回だけは他の業務が重なり議論の場にも参加出来なかった。何と衆議院の採決前に態度を決定できず、終わってからやっと反対をまとめるという失態を演じた。見苦しい限りである。そこに参議院の採決容認、修正可決で衆議院への差し戻しという、国民にはよくわからない対応が続いた。これでは多くの国民が民進党は賛成した、と誤解してもしかたあるまい。
 榛葉参議院国対委員長の責任が問われているが、ビシッと態度を決めきれない我が党全体の問題である。

<民進党は公明党とこそ政策が一致する>
 一足飛びに飛ぶが、民進党を政策が最も合致するのは平和と福祉の党公明党である。来るべき衆議院選挙に向けて共産党を含めた野党共闘ばかりが取り沙汰されているが、公明党を忘れてはならない。もっと言えば、苛々し、悶々としている自民党議員もいるはずである。強引すぎる安倍・ジョンウン体制の下、政界再編の時を迎えている。
 そんなことをいっても与党に安住した自民党議員が動くはずがないとか、与党の味を知った公明党は絶対に自民党との連立を解消しないとよく言われる。しかし、自民党と維新の党はお互いにすり寄り始めており、政界はちょっとしたことで揺れ動いていく可能性もある。
 私はそういう機会を見逃さず、政治をしかるべき方向に戻してしまいたいと考えている。来年の1月には、してやったりという年初ブログを書ければというのが私の初夢である。

2017年1月 1日

平成29年 地元各紙新年号への寄稿文 -16.01.01

各紙新年号への寄稿 『TPPとパリ協定の矛盾(北信ローカル様)』、『地方創生は地元の再発見から(長野経済新聞様)』、『TPPよりパリ協定(長野建設新聞様)』 を以下に掲載します。

『TPPとパリ協定の矛盾』 北信ローカル様(元旦号)
 
昨年秋の臨時国会はTPP国会と呼ばれた。一部の人は気が付いたと思われるが、もう一つ世界196ヶ国が参加した画期的なパリ協定も承認された。
 TPPはいつの間にか、何一つ具体策のないアベノミクスの三本目の矢(経済政策)の目玉にされてしまった。安倍総理はTPPは低迷を続ける日本経済を活性化させる原動力になり、GDPを500兆円から600兆円に増やす、と怪気炎を上げている。
ところが、パリ協定は真逆の方向のものである。このままいくと2100年までに地球の平均気温が2℃上昇し、気候が大きく狂い、地球に大混乱をもたらす。地球の温暖化防止のため炭酸ガス(CO2)の排出量を抑えなければならず、経済成長よりも地球生命全体の危機を救うことを優先しなければならない、という気高いものである。今よりも、お金よりも、将来世代のことを考えたものである。
 それに対して、TPPは20世紀型で、貿易量を増やし経済活動を活発化し、12ヶ国をもっともっと豊かにしようというものである。今だけ、金だけ、自分だけのものである。おまけに、日本社会の仕組みをアメリカ型に変える道具にされるおそれがある。
 世界に責任を持つ日本はどちらの方向を向くか分水嶺に立っている。国際的信用を維持し、日本国民の幸せを願うならば、日本は明らかに21世紀型の政策を選択すべきである。


『地方創生は地元の再発見から』 長野経済新聞様・建設タイムズ様(新春特集号・合併号)

 安倍政権のキャッチフレーズは次々と変わり、今何が目玉なのかわからなくなっている。そうした中、地方創生は担当大臣もいて、今も重点の一つのまま残っている。
 高度経済成長時代は、地方の活性化といえば落下傘企業に頼ることであった。全国各地の市町村が税制上の優遇措置も講ずるなど、工場誘致に血眼になった。今も各地に工場が建てられることがなかった工業団地の残骸がみられる。その代表が今や誰も触れなくなった苫小牧東工業団地(埋立地)だろう。
 ところが、今せっかく誘致した企業も、さらに安い人権費を求めて東南アジアや中国に移転してしまった。そして、今やっと地域に内在する、もとからあるもの(資源)に目が向けられるようになった。その一つが里山である。当代の人気評論家藻谷浩介が、そのものずばりの「里山資本主義の勧め」で身近な資源の有効活用を推奨している。他国に頼るTPPとは全く別の方向である。
 具体的な例を一つ上げるとしたら、間伐材の熱資源としての活用である。
 週末支持者訪問していると、庭先にきれいに積まれた薪を見ることが多くなった。私は嬉しくなって、どなたの趣味でこういうことされているんですか、と必ず尋ねることにしている。りんごや桃の畑を改植や廃園に伴って出てきた薪が多いが、遠い山から調達したものもある。前者はまさにエネルギーの地産地消だが、後者は薪の輸送によるCO2の排出を考えたらあまり賢いこととはいえまい。
近くの山々にいわゆる「切り捨て間伐」の木が眠っているはずである。地球環境に優しい生き方を実践しようと、信州材を使ったログハウスに住み、暖房は薪で賄っている者に、この木を使ってもらうことを考えたらよい。山林所有者にしても、扱いに困っているのだから、週末にサラリーマンが薪を求めて処分してくれるなら大歓迎であろう。省エネになり、山もきれいになり、何年か後の伐採の時もスムーズに搬出できる。やるべきことは行政なり森林組合のマッチングだけである。
 地方活性化は、小さなことから始まる。


『TPPよりパリ協定』 長野建設新聞様(新年号)

 私は過去数年、反TPPで活動を続けてきた。胸には"NO TPP"バッジ、ネクタイのデザインは"STOP TPP"と二つのグッズで武装して国会活動を続けてきた。つい最近まで知らなかったが、「歩く反TPP」という名誉あるあだ名で呼ばれていた。しかし多勢に無勢、秋の臨時国会で無惨にも承認されてしまった。
その一方でアメリカでは大統領就任の日にTPPから離脱する、と公言してきたトランプ大統領は誕生することになった。つまり発効の見込みがないのに日本がマレーシアについて承認し、国内法は真っ先に成立させている。ところが、アメリカのお蔭というよりトランプ新大統領のお蔭でSTOP TPPは実現した。
 私は国会議員になる前から、ずっと成長一辺倒の考え方に疑問を持ち続けてきた。同じ臨時国会で承認されたパリ協定は、炭酸ガスが増えてきて地球が温暖化していることから、成長を抑えてまで地球の環境を守ろうという高邁なものである。ところが日本はパリ協定の発効日前に承認できず、発効の見込みのないTPPの承認を急いだ。世界の環境団体からひんしゅくを買っている。米中が今手を握って、「責任ある大国」を目指しているというのに、日本は「今だけ、金だけ、自分だけ」と突っ走っている。このあたりで立ち止まりもっと謙虚にて生きていくべきではなかろうか。