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農業・農村の実態からかけ離れたアベノミクス農政 -規制改革推進会議の「二人羽織」法案で現場が混乱するだけ-17.04.13

 4月5日、民進党のトップバッターとして農林水産委員会の質問に立った。農水省提出8本の法律のうち1番重要な「農業競争力強化支援法」の審議で、4月6日には農水委を通り、11日の本会議で野党の反対するなかで衆議院を通過してしまった。多勢に無勢で数の力はいかんとも覆しようがない。

<事業統合と新規参入と逆方向を向く「支離滅裂」法案>
 この法律はいわゆる安倍農政の延長線上にあり、2015年の農協改革の流れに沿っている、いわく、日本農業の競争力を高めるため、農業資材業界と農産物流通業界等(農林水産省はこの等には食品加工業界も含まれると説明)の事業再編と事業参入を進めるというのだ。構造的に不況に陥っている業種や縮小しかない業種について事業再編がよく行われる。そんな状況にある業界はあまりないのに、肥料業界と飼料業界を例に、多数の中小企業が多すぎるので再編せよという。そこで、事業参入の例として、4社(クボタ、井関、ヤンマー、三菱マヒンドラ)の寡占状態にある農機具業界だけがあげられる。ところが他の業界がどうなのか皆目わからない。例えば、米流通業界なり製粉業界(小麦)なりが一体どっちにあたるか皆目わからないのだ。つまり、二方向を追う「支離滅裂法案」である。

<何を目指しているのかわからない「ピンボケ」法案>
 肥料価格が韓国と比べて高く、銘柄数も倍近くあるから、事業再編が必要という。牛肉の質で値段が違うように、肥料にも質の違いがある。同じ成分で比べたら、日本の肥料は肥料効果が高いから価格も高くなる。それだけのことだ。
 韓国は気候はそれほど大きく変わらない。それに対し日本は北から南まで長く、土壌条件もバラエティに富んでいる。作物も50年前のようにコメが半分以上を占めることはなく、青果物を筆頭に少量多品種生産が行われており、それに合わせた肥料も多くに銘柄になっていただけのことだ。それを政府が介入して統合させるというのは「ピンボケ法案」以外の何物でもない。

<ついに稲作まで機械化>
 米は八十八手の手間がかかり、小麦と比べて機械化するのはむずかしいといわれていた。しかし、持ち前の研究熱心と培われた技術により、いつの間にか田植え機、バインダー、コンバインと見事に機械化に成功した。といっても1960年以前では耕耘も馬や牛に鍬を引かせていたし、田植えは一斉に並んで手で植えていた。田の草取りも農機具といえば「ゴロ」と呼ばれる畝間を転がす手押しのものぐらいだった。かくいう私は牛の鼻の緒を引き、爪の先に泥をつめて、田んぼに這いつくばって草取りした最後の世代である。だから機械化による労働力の削減は痛いほどわかる。

<一気に機械化が進んだ1990年代>
 東京オリンピックの前後に、ガーデン・トラクターとか豆トラとか呼ばれ、リアカーを引っ張るとともに田畑を耕耘する小さなトラクター兼耕耘機がどこでも使われるようになった。その後、高度経済成長の波に乗り、日本の農機具は急速に売り上げを伸ばした。1977年には約7700億円の出荷額のピークに達した。その後は下降するばかりで推移している。それでも1980年代以降も、コマツ、豊田機械、本田、石川島芝浦(現シバウラ)の大手がトラクター等農機具を造っていた。ところが1990年代前半までにすべてが撤退し、現在のクボタ、井関、ヤンマー、三菱マヒンドラの4社体制が出来あがった。日本の農業が規模拡大を果たした専業農家と、兼業農家に二極分化してしまったからである。

<一人よがりの「お節介」法案>
 トラクター、田植え機、コンバインでみると4社の供給割合は1980年代で7~8割になり、1990年代以降は9割以上を占めている。肥料業界とは違う方向に動いたが、それぞれが得意な関連業界や中小企業に部品を発注したりして、やはり農民の細かい注文に応えている。いってみれば自動車業界と同じような産業構造になっている。それを国がバックアップして新規参入させるというのである。もしも農業が成長産業で儲かるならとっくに新規参入企業が増えている。衰退している産業相手では儲けも少ないから新規参入がなかっただけの話だ。
通常、法案化がなされるのは、国民なり農民なり業界なりから強い要請がある場合である。ところが、関係業界からそういう声が少しも聞こえてこない。それを上から目線で一人よがりの「お節介」法案なのだ。

<将来有望な輸出産業になると見込まれる農機具業界>
 ここでも韓国との比較がなされ、高いといわれるが、当の韓国農民は少々高くても故障が少なく、長持ちし、サービスも行き届く日本の農機具を買っている者も多い。肥料同様、質が違うのである。
 アジアの近隣諸国で同じ日本のように稲作の機械化が進んでいる国はない。従って稲作関係は国際比較はしにくく、割高になっていることは事実である。農産物輸出ばかりが宣伝されているが、農機具業界は稲作関係の輸出市場が拡大していくことが見込まれる有望産業である。

<兼業機会を作り出すための農機具購入>
 小さい耕地面積しかない兼業農家が年に2~3日しか使わない高い農機具をなぜ買うのか。いつも聞かれることである。農作業には適期があって、作業は集中する。だから、農業収益でとても採算が合わなくとも農機具を揃えざるをえない。およそ経済人とはいえない行動をとる。
 これは農家が農業だけで収入や家計を考えているのではなく、農家全体として考えているからである。つまり、兼業機会を作り出すために、兼業収入をつぎ込んでまで農機具を買い揃えたのである。
 少々学術的になるが、このことを生産費の調査でみると見事に説明できる。一時肥料をしのいで農機具費が生産量の最大の割合(30%前後)を占めた。ところが、労働費を農機具費の合計は約60%強とほぼ一定している。ということは労働時間を大幅に短縮できる農機具は、労務費を下げるために使われたともみれる。つまり兼業農家の高価な農機具の購入は、農業労働時間を少なくし、兼業機会を得るためのものだったともいえるのである。

<時代遅れの「規模拡大編重」法案>
 農業は、日本の産業構造の変化に合わせて見事に対応し、農民は農村地域社会に住み続け、地域の安定に貢献してきたのである。それを我が国の農政は口を開けば規模拡大の大合唱で、兼業農家に農業をやめてもらい、農地の専業農家への集積を叫び続けている。しかし、中山間地域では大区画は無理である。まだ長野県のように果樹・野菜が中心だと2夫婦が揃っていてもせいぜい2haが限度である。新潟の平野部ならば、何10haの稲作も可能だが、それでも田植え期や稲刈り期が集中しては農機具が間に合わないため、わざと多品種にしなければならない。農業とはお天道様と付き合いながら地道にやらなければならない産業であり、いつでもどこでも誰でも機械で大体同じ物を造れる工業とは違うのである。
 それにもかかわらず農水省は農業だけでモノを見て、兼業農家を追い出し専業農家だけを優遇しようとしている。農家全体が豊かになることも農村社会全体が活性化することも忘れているのだ。

<現場と乖離した規制改革会議の「二人羽織」法案>
 私が反対する1番の理由は、本法案が農林水産省の官僚が考えたものでも与党の自民党・公明党が考えたものでもないことにある。官邸に設けられた規制改革推進会議が注文をつけていやいや出来上がったものである。いわば「二人羽織」法案である。もっといえば農林水産提出ではなく、規制改革推進会議提出法案なのだ。目的は一つ、農協、特に全農から、農業生産資材の仕事を奪わんとする悪い意図があるだけだ。

<農業所得増大を忘れた「羊頭狗肉」農政>
 農機具でみると、農業資材は他の資材と比べてそれほど占有率が高くない。しかし、全農は農民の立場に立って、寡占状態になった農機具業界と交渉して、少しでも安く提供するのに大事な役割を果たしてきたのである。もし全農がなければ、もっと高い農機具を買わされていただろう。それを全農に代わって企業がもっと強欲に農民を儲けの種にせんとする邪悪な法案なのだ。
アベノミクス農政は農業所得を減らし、経済界に儲けさせる「羊頭狗肉」農政である。