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仏教国・共産主義国ベトナムのジレンマ-中国とアメリカのバランスの上に生き抜こうとするしたたかさに学ぶ― 17.06.02

 初めて訪れたベトナム、たった2泊3日で会合の連続。クタクタに疲れての帰国だったが、新鮮な気持ちでベトナムをみることができ、得るものは大きかった。

<ASEANでTPPに真先に手を挙げたベトナム>
 TPPは、2010年から交渉が開始されたが、ASEAN諸国はアメリカを警戒して参加しようとしなかった。なぜなら、成長を遂げてきたものが、1997年のアメリカのヘッジファンドがうごめいたアジア通貨危機でせっかくの稼ぎを皆もっていかれたという苦い経験があったからだ。マレーシアも当初は斜に構えていた。そうした中、ベトナム1国だけが敢然と当初の加盟国として名乗りを上げた。アメリカの念頭になかった参加国であった。

<中国への警戒がTPPを後押し>
 8月には米・加・墨のNAFTA(北米自由協定)の再交渉が始まる。カナダ・メキシコも隣の大国には、一種独特の愛憎半ばの感情を抱いている。つまり仲良くしつつ、取り込まれまいと必死で独自性を保っている。
 ベトナムもアメリカ以上に傍若無人な巨大隣国の中国に対して、それこそ複雑な感情を抱いているに違いない。ベトナム戦争で枯葉作戦にまで踏み切ったアメリカを憎む気持ちが強いことは想像に難くない。ところが、それを殺してまでアメリカがリードするTPPに入ろうというのだ。
 まず、1000年の中国支配がある。更にベトナム戦争中のどさくさに紛れて西沙諸島を奪われ、今や滑走路まで造られてしまった。ベトナム戦争終結後には、中国が56万人の軍を投入した中越戦争(1979年)もあった。今またすぐ目の前の南沙諸島まで進出され、近隣5ヶ国も領有権を主張し、争いの元になっている。このような隣の大国を警戒していることは手に取るようにわかる。

<アメリカの「核の傘」が必要なベトナム>
 日米同盟でいつも言われる「核の傘」ではないが、ベトナムこそ中国に対抗するために、アメリカの後ろ盾も必要とし、その証になるTPPに参加しているのである。
 日本では、TPPの全容が明らかになるにつれ、TPPの経済にもたらす効果がいくら過大に計算してもそれほど大したことがないと明らかになった。すると、推進派は慌てて、いや実はTPPはやたらと拡大する中国に対抗する包囲網のために必要だ、という尤もらしい理由を挙げてきた。実は、このことがそのまま当てはまるのがベトナムである。

<1億人に近付く人口大国だが、農業人口が半分の国>
 どこの発展途上国に行っても通ずることだが、空港や幹線道路は先進国に見劣りしない。ところが、一歩街の中や農村に足を踏み入れると格差が歴然としている。
 TPPの閣僚会合で訪れた所でいえば、インドネシアのバリ島(デンパザール)も同じだったが、2人乗りどころではなく、若者が4人乗りまでした日本製バイクが道路を埋め尽くしていることに驚かされた。まだ年端もいかない3、4歳の子供が前と後ろを帯でつながれもせずに同乗しているのだ。後ろの幼児が眠って後ろにコケたりしないかと車中から世話をやきたくなった。
 日本の高度成長期も同じであり、農村から若者が大挙して大都市に流出し、それが国の発展の原動力になっているのがよくわかる。

<見事な優等生対応>
 前号の連絡のとれた者の中で有識者として名前が上ったのがハノイ国立大学法学部のジャオ(発音に自信なし)教授である。他に、長野県のリンゴを輸入したいと私の事務所に相談にきたチャンさんにも関係者を紹介してもらい、やっと日程が組めた。週末なのに農業開発省の担当局長、前農業開発大臣でベトナム共産党の重鎮も時間を割いてくれた。
 (アメリカの要求に応じて国営企業規制を緩和し、その見返りにアメリカの繊維製品の関税を引き下げたのに、それを失うと大打撃になるのでは、という私の質問に対して。)
 アメリカが入ってくれたほうがよいのは明らかだ。だからTPPでの日本のリーダーシップに期待する。繊維産業の利益が減ることは仕方がないが、その分他の分野で補うしかない。
 交渉担当者は、大きく譲歩した素振りをみせているが、国営企業改革はアメリカに言われなくてもすべきことであり、交渉の犠牲になっていない。
 ただ、ベトナムは農業人口が半分以上を占めており、7割が農村で生まれ育っている。畜産をはじめ農業全体が零細で、オーストラリアやNZの農産物が押し寄せたら困るのは日本と共通である。TPPは、弱い立場の産業国への配慮が必要だ。日本の優れた農業技術の移転を是非お願いしたい。
 「アメリカ軍の傘」については、学者の間では当然議論はあるが、政府は公言していない、と無難な答えだった。

<APEC主催国として成功させたいという切なる願い>
 川崎研一政策研究大学院教授のGTAPモデルがTPPの経済指標として使われる。12ヶ国の中で最も効果が大きいのがマレーシア(23.48%)で2位がベトナムで、GDPを17.69%押し上げるといわれる。ところがアメリカ抜きのTPP11となると、ベトナムの場合の効果は約半分の10.39%に下がってしまう。ちなみにマレーシアは20.65%とそれほど下がっていないが、アメリカ抜きは意味がないと最も声高に主張している。
 
 それに対して、ベトナムは苦しい立場なのか、あるいは一党独裁というお国柄か、抑制がきく発言・主張が目立った。一つにはアメリカへの気兼、配慮である。加えて今年はAPECの主催国であり、うまくまとめ上げたいという願望があり、TPP11で対立構造を造ってもらっては困るという本音も垣間見えた。

<大国に翻弄されながら、したたかに生き抜く外交>
 ベトナムは、大国の狭間で国際政治の大きな動きに翻弄されながら、必死で生き残るという際どい外交を強いられてきているのだ。だから、アメリカ一辺倒で、アメリカの言うことを聞き、そのとおりにしていること以外に外交政策が存在しない日本よりずっとしたたかである。
 例えば、今回はアメリカにすり寄っているが、中国が高飛車に出た時は、すぐさま珍宝島の衝突等で中ソ対立が続くソ連に接近してバランスをとった。まさに敵の敵は友の典型である。1984年私が土壌研究者と訪ソした折、サンクトペテルブルクの土壌博物館にベトナムの大きな土壌マップがあったのに驚いた。東欧諸国と同じく友好国の一つになっていたからだ。(その場に全く同じ大きさで日本の土壌マップがあるので、なぜかと聞いたところ、第二次世界大戦時に日本を占領した場合に備えて作ったもの、という答えが返ってきたことにはもっとびっくりした。それがそのまま保存されていたのは何のため?)

<心が和んだ有機農業と田園風景>
 乱開発のない見事な田園風景には心がなごんだ。この点では日本のほうが遅れている。ただハノイでバイクに乗る人たちは、皆ヘルメットを被っていることに感心したが、一方暑いのに、大きなマスクをしなければならないことを同情せざるをえなかった。大気汚染がひどく、ワイシャツの袖も襟も1日で真っ黒になった。幼少の頃ハノイで育ったチャンさんも、水質汚染の凄まじさに嘆息を漏らしていた。日本の50年前と同じなのだ。環境保全の面でも日本の経験を伝えなければなるまい。
 チャンさんの気配りで、22日(月)の午前には、ハノイのすぐ近くのハイズオン省(Hải Dương)政府を訪問。私の関心のある有機農業現場の視察もできた。残念だったのは、持っていった私の日本土産が払底し、健気な有機農家に渡せなかったことである。
 日本人よりも総じて背が低い。しかし、顔つきはほぼ同じで、皆勤勉、将来は決して暗くない。頑張れと声をかけたくなる農民であり、国である。

(参考)5月24日 経済産業委員会 篠原 孝 質問資料>