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2017年07月26日

治山治水は国政の基本 -九州豪雨被害拡大は手入れ不足の山の流木が原因- 17.07.26

 地球温暖化防止のためのパリ協定ができた。しかし、事態はもう手のつけられない状況にまで進んでいる。昨今の異常気象の常態化、つまり大荒れの気象が当たり前になったことがそれを物語っている。7月6日の福岡県朝倉市の24時間降雨量は、545.5ミリと観測史上最大だった。梅雨前線に湿った空気が流れ込み、積乱雲が次々と生まれる「線状降水帯」がもたらしたゲリラ豪雨である。

<流木が被害拡大の元>
 洪水の被害を拡大させたのは、川が氾濫した水だけでなく、一緒に流れてきた流木である。正確にはわからないが、福岡県は流木を推計20万t超と発表した。
 被災地の山にはスギやヒノキが植えられていたが、太さ50~60cmに育った木が根っこごと流された。途中の木や土手に引っかかり、水流をせき止め、氾濫を助長させた。橋があると、そこに溜まりその橋をも壊してしまう。猛威を振るったのは水ばかりでなく、一緒に流されてきた材木や木の根や枝だった。
 だから、千曲川河川事務所ではいつも中洲に繁茂するニセアカシア等の木の伐採に余念がない。流木が引っかかり、水流を止め、堤防決壊の原因になる怖れがあるからだ。

<カラマツの功罪>
 長野県には、前号【「千曲川源流登山 -川上村の美しいレタス畑と好対照の放置された山林-」(17.7.20)】で触れたとおり、いたる所にカラマツが植わっている。私の祖父も、私の生まれる前から大学資金の足しにと、カラマツを植えておいてくれた。私は芽吹きの時も紅葉の時も美しさを見せるカラマツに親近感を抱いている。今や信州の景色を代表する一つになっている。
 しかし、折角の祖父の心遣いも、私の教育資金になることは全くなかった。1951年の丸太の自由化、1964年の製材の自由化で、安い外材が大量に入ってきたために日本の山の木は手入れ賃にも満たないくらい暴落し、放置するしかなくなってしまった。コメ1俵の価格は全盛期の2万6000円から今や2分の1以下の1万円そこそこに下がっているが、材木は4分の1以下である。採卵鶏は大規模養鶏で乗り切り卵価はほぼ同じ価格で推移し、物価の優等生と呼ばれる。しかし、急峻な斜面ばかりの林業には為す術がなかった。

<ヒョロ長い木が流木になる怖れ>
 私のカラマツ林は、開墾されリンゴ畑に変わったが、川上村のカラマツ林は健在だった。しかし、登山口から歩いて1時間の所は、当然下枝刈りや間伐は行われていない。私の体と同じようなヒョロ長い木が茂る(いわゆる線香林)ばかりで、下草はほとんど生えていない。手入れが行き届かない人工林は、太陽光が地面に達するのを妨げるため、地盤は脆くなる。ここに九州豪雨並みのゲリラ豪雨がきたらすぐ土石流となり、カラマツも流木となり一緒に流されることになる。更に増えた鹿が、また森林荒廃に拍車をかけている。山の無残な姿はなかなか人目に触れない。だから、いくら警鐘を鳴らしても届きにくい。たまに森林の奥深くに入ると、その荒廃振り、危うさが否が応でも目に入ってくる。私はすがすがしい空気を吸いながら、長野で将来予測される大土石流災害のことが頭の中から離れなかった。これを防ぐのはまさに政治家の責任である。

<間伐材も流木の元凶>
 我が長野県は8割(106万ha)が森林であり、民有林の人工林(33.2万ha)のうち、カラマツが52%、スギ17%、ヒノキ15%と針葉樹がほとんどである。
 まず、当面は手入れをすることである。森林税もその費用に充てるべきだ。間伐し、陽が地面に当たるようにして、大雨にも強い山林を造らなければならない。
 次に、切り捨てられている間伐材の問題である。残った成木すら採算が合わないのだから、間伐材などに手間をかけても一文にもならないことは明らかである。持ち出すのに手間とお金がかかり過ぎて赤字になるため放置される。これが流木の元となり、下流に大被害をもたらすことになる。

<山の木を売れるようにするのが地方創生に一番の近道>
 強い森を造るには、雑木林つまりその地の木がベストである。それでは採算が合わないとしても、5m針葉樹を植えたら5mは地の木を残すという混交林という手法もある。自然の木を残しておけば、熊や猪や猿や鹿が里に下りることも少なくなる。そこには野生動物の餌があるからだ。
 民主党政権時代、林政には相当力を入れた。当時、菅直人代表代行にせがまれて、ドイツの黒い森(シュヴァルツヴァルト)へ視察に行き、「森と里の再生プラン」の作成に生かした。農業再生プランに次ぐものであるが、私は野党時代に民主党のとりまとめた政策の中で、最も出来がよいものと自画自賛している。今風に言えば、地方の活性化(地方創生)は山の木を売れるようにすることが一番の近道である。
 ところが、獣医学部の新設とかばかりに血眼になっている。原点を忘れているのである。
 その中で、切り捨て間伐材は許さず有効活用すべしとされ、政権奪取後、直ちに実行されたが、自民党政権となりまた元に戻ってしまっている。

<長野市のWebサイトで薪愛好者に呼びかける>
 ただ長野市のような中核都市だと、ちょっとした工夫で薪愛好者に森林整備の手伝いをしてもらうことも可能である。
 支持者訪問をしていると、環境意識が高くログハウスに住み、薪ストーブという家によく出くわす。今はリンゴ畑の廃園により生ずる薪とか、上述の千曲川河川事務所のニセアカシア等に頼っているが、いずれ底を尽く。そこで長野市役所の林業担当者が、間伐材が転がっている山林をホームページ(Webサイト)で知らせ、長野市内の薪を必要とするサラリーマンに週末、薪を調達しに山へ入ってもらうことである。大半の人たちはチェーンソーばかりか、薪割り機まで持っている。地方自治体が山林所有者と薪を必要とする人たちの仲介をするだけで経費はほとんどかからず、メリットは双方にある。
 こうして森林の中に転がっている間伐材がなくなり、流木の元も少なくなり、いざ伐採の時も丸太の搬出が容易になる。大雨の時の流木防止にもなり一石二鳥である。

<政治の要諦は今も治山治水>
 公共事業も道路に流れ、河川がないがしろにされてきている。ここは原点に帰って治山治水に力を入れるべきである。
 つまり国の安全は、何も軍事安全保障だけで守れるものではない。日本にはその前に自然災害がやってくる。もっといえば、脱原発も避難しなくてもすむように予め手を打つというという点で治山治水の延長にある国土防衛である。美しい日本に安心して住めるようにするのが政治の要諦である。

2017年07月19日

千曲川源流登山 -川上村の美しいレタス畑と好対照の放置された山林- 17.07.19

<「仕事のし方改革」が必要>
 私は、相当政治活動に専心してきたと思っている。数年前の週末になるが、記者から資料を頼まれ、それを用意したところ取りに来ないので、土曜日に部屋のドアの取っ手に資料をかけて渡せるようにしておいた。記者が玄関の防災センターで「篠原孝事務所へ」と言ったところ、「ああ、あのいつも1番遅くまで仕事をしている方の部屋ですか」と言われたという。妻には効率の悪い仕事をしているだけだ、と馬鹿にされている。「働き方改革」ならぬ「仕事のし方改革」が必要だと思っている。

<体力づくりは山歩きに行き着く>
 国会議員には永田町の仕事の他に地元との往復もある。この繰り返しでは体もまいってしまうので、健康を考えてスポーツをすることも考えた。地元のソフトボールチームにも入っているし、最近は野球チーム「民進カチマス」にも入った(この様子は前原誠司のツイッターを参照されたい)。テニスもそこそこやっていたし、秘書の1人がテニスができるというのでやり始めたが、2人とも下手くそだし時間がとれずに練習もできないのでやめた。
 そこで、近所の山巡りに参加することにした。元々知らなかった山々を知ることができ、結構楽しんでいる。その延長線上で今回は、高校の同級会(19会)の主催する千曲川源流登山に参加することにした。

<整然と耕された見事なレタス畑>
 朝5時半起床で車をとばして登山口に向かった。その両側に見えてきたのが、整然と植えられたレタス畑だった。荒れ果てた草だらけの畑が1枚もなく、真剣に生産に取り組む姿勢に心が晴々した。マルチ栽培だったが、なんと道路脇の花もマルチで覆われていた。一行の一人が、あの花も栽培しているのではないかと勘違いするほどきれいだった。
 今や日本全国で休耕地が多く、その面積は埼玉県に匹敵するといわれている状況の中で、川上村は畑をフル活用していた。平地でレタスが獲れ終わった頃にちょうど出荷できるようになる。真夏で食欲がなく、サラダが食べたいという時に丁度合っていたのである。温室による促成栽培の反対の抑制栽培である。エネルギーも何もいらない、ただ、海抜1000m前後の高地で冷涼な気候のなせる業である。

<気掛かりは連作障害>
 同じ物を作り続けると連作障害が起こる。この問題を解決するには、クロルピクリンによる土壌消毒が必要だが、やはり一面レタスではいずれ疲弊していくであろう。また、このような野菜を作り続けるには、有機質の肥料が必要である。つまり畜産の堆肥が必要なのだが、牛が草を食んでいる場面は見かけなかった。
 山に入ると、まだ芽吹きの季節が続いており、本当にすがすがしい限りだった。鳥が沢山鳴いていた。バードウォッチングだけでなく、鳥の鳴き声を聞いて当てたりするバードリスニングもあっていいと思う。森の鳥ではウグイスぐらいしかわからないが、ともかく、かなりの種類の鳥が鳴いていた。

<山のテッペンまで植えられたカラマツ>
 登山道はほぼ千曲川の流れに沿っていた。源流を辿っていくとその途中、きちんと整備された山林もあれば、全く線香林になっているカラマツ林もあった。どこもよくこんな急斜面に植林したなと驚かされる。我々の祖父母の世代が戦争中に荒れ果てた山に、戦後になってせっせと植えたのである。苗は軽いから山のテッペンまで運んで植えられるが、育った木をどうやって切り出して運ぶのかは考えていなかったのだろう。今、伐採期になったが、運び出すのにコストがかかりすぎ、採算がとれなくなり放置されたままである。

<久方振りに見た適地の白樺>
 登るにつれて白樺が見え、ある程度の高さになるとダケカンバになった。白樺は長野県の県木であるが、非常に繊細で長野の北部では海抜800~1100mぐらいでしか生育できない。小学生が国会見学に来て、県木の庭園を通るが、「長野県の木だけが温室ならぬ冷室が必要だ。冷室がみんなの寄附でできれば生育できる」「6年くらい経つとみんな枯れてしまう。だから他の都道府県の木は2本ずつしか植えられていないのに、いつも跡継ぎが必要なので白樺だけが3本も4本も植えられている」と冗談を交えて説明している。

<ゴミがゼロの山道は日本人のモラルの高さの象徴>
 登山には相当時間がかかった。私は常日頃支持者訪問で足を鍛えているから大丈夫だと言っていたが、やはり山道の坂道は石ころが多くて歩きにくく、疲れは倍加する。それでも登りはそこそこに簡単であった。盛りを過ぎたシャクナゲがあちこちに自生していた。
 ほとんどゴミがゼロなことにつくづく感心した。プラスティック、ティッシュ、空き缶のようなものは何1つ落ちていない。山を愛する人々のモラルは完璧で、自分のゴミは勿論のこと、その辺りに置かれていたゴミまで持って帰るのであろう。日本人の環境美化のモラルは世界に誇ることのできるレベルに達している。

<カラマツ林がいつか流木のもとになる懸念>
 九州で集中豪雨があったが流木が問題となった。カラマツ林は枝刈りもされず間伐もされていない。細い、いわゆる線香林が密集しており、カラマツの下には陽が入らず、何ひとつ他の植物が生えていない。コメツガ、トウヒ、ダケカンバ等他の原生林のところには柏木や雑草が生えているのと好対照である。今よくいわれる局地的豪雨(ゲリラ豪雨)などに見舞われたら一発でカラマツの山は崩れ、大量の流木を生み出す惧れがある。おまけに殖えすぎた鹿の食害もあり、森林は相当脆弱になっている(この対策については別途提案する)。

<千曲川源流で思い切り飲んだ水の美味しさ>
 そのうちに千曲川の源流に到着した。その頃はそれほど疲れていなかった。時刻は11時45分、登山口を出てから5時間近く経っていた。本当にチョロチョロと水が湧き出ていた。その水をしこたま飲んだ。これ以上飲めないぐらい飲んだ。これがずっと慣れ親しんだ千曲川の源流であると思うと感慨もひとしおである。
 山歩きのベテランの久米、土屋の両リーダーから、ここで引き返すか、急坂を登って甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)を目指すか尋ねられた。まだ余力があったので、即座に上を目指すと返答した。甲州(山梨)、武州(埼玉)、信州(長野)の頭文字(?)をとったという3県の県境にそびえる山(海抜2,475m)である。
 途中ちょっと雨がパラついたが、暑すぎもせずちょうどよい天候だった。皆行儀がよかったのだろう。山頂は晴れていた。ただ、残念ながら雲がかかっており、民進党の将来の見通しと同様に視界不良で富士山を眺めることはできなかった。雲がなければ、百名山のうち43座も見ることができるという。その頂上では、旅館で用意しておいてくれた美味しいおにぎり2つを頬張り、お湯を沸かし、持っていった味噌汁を飲んだ。格別に美味しかった。

<心も体もリフレッシュ>
 登りよりも下りが大変なのはわかっていたが、今回はそれを思い知らされた。朝6時50分に毛木平を出て、帰ったのが17時30分で約11時間もかかった。足がパンパンになりながら戻った。ところが、わきを流れる水はそれほど増えていなかった。これが下流の中野や飯山になると相当な分量になり、日本一の大河となる。
 たまには下界(政界)のことも忘れて大自然に接しないと心も体も衰えていく。都議選の総括といった雑事(?)が進行中だが、私は故郷の信州で一息つかせていただいた。

2017年07月12日

羨むべきJEFTA・TTIPに対するEUの基本戦略-日本の経済外交は自国の金儲け以外の理念はゼロ― 17.07.12

<交渉が中断したままのTTIP>
 太平洋をまたぐTPPは頓挫したのに対し、大西洋をまたぐTTIP(Transatlantic Trade and Investment Partnership)は一体どうなっているのか。これが私の今回のブリュッセル行きの関心事の一つであった。結論を言うと、TPPはアメリカの離脱で完全に死んだのに対し、TTIPは一応まだ生き残っているが、前途は多難のようだ。
 オバマ政権が対応力を失ったことと、それに続く自由貿易協定に反対するトランプ政権の誕生により2011年9月以来、交渉は中断している。ロス商務長官は二国間協定だから進めてもいいと発言しているが、ナバロ国家通商会議議長は、EU は28カ国が加盟国であり、マルチと同じだからといって乗り気でない。ライトハイザーUSTR代表は、早くとも9月のドイツの総選挙の後、今年の年末だと、どうとも取れる発言を繰り返すだけで態度は不鮮明である。閣僚クラスとしては最後になった公聴会でも、再三にわたり議会と相談するとしか答えていない。トランプはというと、パリ協定ほど完全に触れていないわけではないが、あまり触れていない。ということは、どう扱うか悩んでいるということなのだ。

<EUは確固たる理念の下に交渉>
 こうした中で、EUの態度は明確である。カナダ・EU・FTA(CETAと略称している)を締結していることからわかるとおり、何もFTA・EPAに背を向けているわけではない。ただ、どういうFTAにするかについては確固たる基本戦略を持ち、死守するもの、譲らないところが明確であり、交渉がかなり予測可能なのだ。日本のすぐ妥協する交渉姿勢と比べると見事である。
 例を挙げると、ISDSである。TTIPでもJEFTA(前述したようにJapan EU Free Trade Agreement としてこのように略称されている)でも一切認めておらず、JEFTAでは常設の仲裁裁判所の設置と二審制を求めている。かねてから、世銀の下の公平性を欠く仲裁人や一審制の問題が指摘されていたが、まさにその正論に応えたものである。
 私は長らく農業問題の国際的な仕事に携わってきた。EUの交渉官には各国のうるさい要求に応じなければならず、大変だなあと同情してきた。しかし、裏を返せばいろいろな利害がある加盟国の意見をまとめるには皆の納得する論理が必要であり、それがためにEUの主張はいつも筋が通っていることに気付くようになった。今回の様々な主張もその線に沿っている。それに対し、独裁国家の(?)ような国の主張は、その独裁者に振り回されどこか歪んでいるような気がしてならない。つまり歪められているのは、加計学園がらみの獣医学部の新設だけではなく、実は国際交渉こそ取り返しのつかない歪んだ対応がなされているのだ。

<ISDSはこぞって大反対>
 我々は、二人の欧州議会議員とのアポイントを取ろうとしたが、ストラスグルグで議会中のため、その代理と2つのNPO(ヨーロッパ共同調査機関、ヨーロッパ消費者連盟)等と意見交換したが、いずれもいの一番にISDSは受け入れられないと明確に主張した。議会側は専ら国家主権の侵害を問題とし、NPO側は食品の安全や環境規制に対してアメリカ企業が次々に訴える可能性を指摘し、絶対に受け入れないと強調した。この姿勢はJEFTAでも貫かれ、TPPに入っているから盲目的に同じ主張を繰り返すだげの日本側と対立し、全く決まっていない。それにもかかわらず「大枠合意」した称している。大切な一章が抜けたまま合意というのは、あまりにもひどい説明である。

<米英FTAが先行する可能性もある>
 こうした中、行き過ぎた自由化、国際化にブレーキをかけた米英の2国には大胆な動きも見られる。イギリスはまだ形式的にはEUの一員であり、離脱交渉を始めたばかりであり、独立して貿易交渉をやる資格はない。
一方トランプ大統領は、多国間協定を嫌い、今後は二国間協定で貿易赤字を解消していく方針を明らかにしている。そしてEUについても、貿易黒字の大きいドイツをユーロを操作して黒字を溜め込んでいると批判し2国間交渉で解消しようとしている。一国だと黒字が続くとその国の通貨が高くなるのに、ドイツは統一通貨ユーロに守られてその調整が働かず、ますます黒字を貯めこんでいると批判を強めている。だから米独の二国間交渉が必要だという理屈である。しかし、当然のことながら外交窓口はEUであり、ドイツが交渉相手になることはない。そこで関係者の間で話題になっているのが、米英の二国間交渉である。
 イギリスは食の安全についても厳しいEUの基準にはそれほどこだわっていない。BSEの苦い経験から消費者の姿勢は厳しいが、政府はアメリカと同様に“Sound Science”(科学的根拠)を重要視しており、アメリカと歩調を合わせてられる国である。こういってはなんだが、やはりアングロサクソンの血は似通っており、国家戦略でも似てくるようだ。こうしたことから、まず米英で合意を成立させ、それを引っ提げてEUに向けていく戦略である。JEFTAをもとめて、アメリカを揺さぶるというもっともらしい戦略の逆である。
この点、JEFTAもイギリスも加盟国の前提で合意しており、イギリスの離脱が実現した暁には、事務的な調整が必要であり、日英EPAも必要になってくる。

 他に私が興味を抱いたのに2点ある。
<略称はやめようという提案は日本人にはピタリ>
 1つはJEFTAの略称である。二国間協定の場合、ほぼ決まって自国を先に出して使う。例えば米韓FTA、韓国では韓米FTA、アメリカでは米韓FTAである。ところが、EUではJEFTAと日本を先に出している。理由はEJFTAでは発音しにくいので、JEFTA(ジェフタ)にし、EUカナダFTAもCETA(セッタ)と略称している。
 ところが、ドイツのショイブレ蔵相が、略称を安易に作るのはやめるべきだと主張している。理由は、国民が略称ではわからず、国民への説明もしにくく、従って国会承認も得られにくいからだ。もっともな正直な主張である。我々アルファベットに馴染みが薄い国民には尚更のことである。

<膨大になりすぎる最近の国際協定>
 また、ショイブレ蔵相は、TTIP等は膨大な内容を含み、国際協定としては複雑になりすぎているので、もっと簡略化して交渉すべきだとも主張している。
 私は16年秋のTPP特別委員会では、野党の筆頭理事として、TPPがあまりに膨大な内容なのでテーマごとに6〜7回の参考人質疑をし、その上でテーマごとにもっとじっくり審議すべきと主張したが、ただただ承認を急ぐ政府と日程闘争にこだわる民進党の間で妥協が成立せず、僅か30時間しか審議されなかった。

<もっと細分化した議論が必要>
 こうしたことを回避するためにも、貿易に的を絞り、また知的財産ならそれに絞ってそれぞれの協定としてするのがベストである。なぜならば、国内法は一本ずつ審議されるのに対し、国民の権利・義務に関係する国際協定が、一部の外交官僚の手に委ねられ、全て一緒くたに一回で国会承認されるといいうのは、あまりにも乱暴だからだ。
 トランブの主張する多国間協定よりも二国間交渉というのも、こうしたマルチの訳のわからない複雑な交渉では国益を守れないということから発していると思われる。ショイブレ蔵相の慧眼に脱帽するとともに、国際的協定のあり方について考えさせられた。

2017年07月11日

JEFTA(日EU・EPA)は政治的合意そのもの-獣医学部で畜産振興のふりをしつつ、JEFTAで酪農を痛めつけている大矛盾-17.7.11

 私はTTPを必死に追いかけてきた。もちろん日EU・EPAも気になったが、やはりアメリカの強引なやり方が許せないばかりでなく、日本の軟弱な対応に腹が立ち、TPPファーストで日EU・EPAは二の次だった。
 しかし、今回、TPP11のハノイ出張と同様に極めてにわか仕立てでのブリュッセル出張となった。7月5〜8日まで滞在し、例によって4グループの関係者と意見交換したが、その席でJapan-EU Free Trade AgreementがJEFTA(ジェフタ)と呼ばれていることを初めて知った。たぶん日本ではほとんど使われていないだろう。

<政治的合意でしかない「大枠合意」>
 7月6日、仰々しく安倍—ユンカー(EU委員会委員長)、安倍−トゥスク(EU理事会議長)の二国間首脳会談が行われ、日本得意の「大枠合意」(agreement in principle)が成立したと日本の新聞は大きく報じた。TPPについても途中「大筋合意」というわけのわからない言葉が使われたが、今度は「大枠合意」。ただ、英語は同じ agreement in principle である。前者は、あとは細部の詰めを残すだけなのに対し、後者は、例えばISDS(投資家国家間紛争手続)条項の章の一つが全く合意していない。従ってJEFTA合意と言えない代物である。だからであろう、現地の新聞なり、欧米の主要紙はほとんど取り扱わなかった。これほど対照的なことは近年では珍しい。
 つまり、EU側は本当の合意と見ておらず、日本の安倍首相が政治的パフォーマンスで合意をアピールしたいがために、強引に「大枠合意」と言い出したに過ぎないと見なされているのだ。その意味では、JEFTAの「大枠合意」はTPPの「大筋合意」よりもずっとタチが悪い。

<政治的パフォーマンスに利用されただけのJEFTA>
 その証拠に、EU側は発効は早くとも19年と言い放っており、急いだ安倍総理もそれを認めている。最終的にはEUは28カ国の国会承認が必要だが、関税部分の発効には欧州議会の承認で十分なのだ。だからJEFTAもTPPと同じように、強引な国会運営で他国に先がけていの一番に国内手続きを終了させ、早々と発効できるというのにさっぱり急ぐ気配はない。よくわからないが、EUが絶対応じないISDSをはじめ、基本的な合意に達していないことが多いからだ。
 だとしたら、一体何のために急いだか。実績を財界にそして国民に大袈裟にアピールすることしか考えなかったからだろう。外交はもともとどこの国でも政治的パフォーマンスに使われやすいが、安倍首相の乱用は目に余るものがある。真の国益などどこかへ吹っ飛んでしまっていることがわかってくる。それにもかかわらず、安倍首相は自らを自由貿易の旗手として悦に入っている。

<したたかなEU外交に翻弄された日本>
 外交の世界では、EUのしたたかさは有名である。ある時は筋を通して絶対に譲らない。昔からのもので言えば、成長ホルモンを絶対に認めないことであり、今で言えば、ISDSの拒否である。しかし、一方ではとても理屈に合わないようなことは、加盟国がてこでも動かないからと泣き言を言い続け、徹底的に抵抗してそれを通してしまう。だからアメリカは11ケ国宛てのTPPは強引にまとめられても、EU1カ国が相手なのに少しも前に進められないでいる(次号で詳述)。
 EUは、イギリスが離脱し、自国ファーストを掲げる右翼勢力が台頭するなどEUをないがしろにする風潮が生まれつつある中、引き締めのためにも何らかの成果がほしかった。TTIPが暗礁に乗り上げる中、組しやすい日本が早速餌になり、まんまといいようにあしらわれて妥協を強いられたのが、今回のJEFTA大枠合意である。ここでまとめたいという点ではまさに日本とEUの利害が一致したのである。

<時代遅れの自由貿易信仰>
 日本での関心も、TPPに比べてずっと低い。いつも突出して問題になる農産物でも、チーズ等乳製品とワインが問題になるくらいで大騒動にはなっていない。TPPで免疫ができたせいかもしれない。つまり、いくら農民が反対しても全く耳を貸さずあとから予算をつけて誤魔化すだけだと諦められている。しかし、せっかく消費量が伸びているチーズの関税が下がるとなると、高級志向の消費者はフランスやイタリアのブランド品に群がる可能性が高く、日本の酪農家は気が気ではあるまい。
 自由貿易ばかりが罷り通る訳ではないとアメリカがTPPから離脱する中、日本は進んで関税ゼロに突き進んでいる。世界が反グローバリズムに動き、自由貿易のあり方が疑問視されているのに、やはり日本は時代遅れである。21世紀なのに、また20世紀の論理で動いているだけだ。格差が生まれ、若者や中間層が政治に失望し、アメリカではトランプを生み、フランスではマクロンを生んだ。底流には「自国ファースト」が公然と前に出てきている。それなのになぜ我が日本国だけ違うのか。これでは国民がついていけなくなるのは当然である。

<TPP水準などに合わせる必要がないのに大妥協>
 日本は何よりもTPPを優先していたが、ほぼ同じころすなわち2013年4月に日・EUの交渉が始まっている。例によっていつも年末が近くなると年内合意の掛け声が掛けられたが、いつも置いてけぼりだった。それが、TPPが頓挫した途端、いつの間にかアベノミクスの三本目の矢の中心に躍り出てしまった。国家戦略特区による規制改革で、成長産業をと威勢のいいことを言っているが、それが腹心の友を優遇する加計学園の獣医学部では、経済成長につながるはずがない。国民もその胡散臭さをお見通しである。だからどうなるかわからないが、形だけは大きい日・EUEPA(JEFTA)が必要になってくる。
 日本は相変わらずの農業の切り捨てである。四国にいくら獣医学部を新設したところで、畜産の振興になるまい。片方でチーズ関税の引き下げを譲り、豚肉もTPPと同じように譲りまくっているのだ。TPPはそもそも関税をゼロにすることで始まった交渉である。ところが、日・EUはそんな約束で始まってはいない。TPP水準にこだわる理由はないのに、その水準におさまれば御の字という風潮が生まれた。私には信じられないことである。

<透けて見える下手くそなシナリオ>
 ほとんど実を結んでいないその場しのぎの安倍経済外交の極みが、今回のJEFTAといえる。加計学園は安倍首相の直接指示はなく、専ら「忖度」で動いたということだが、JEFTAは安倍首相が何としてもまとめろと指示をし、バタバタとまとまっていった。
 日本でずっと事務レベル協議を続け、6月30日と7月1日には、EU側からマルムストローム通商担当委員とホーガン農業委員が来日して日本側と協議したものの、まとまらなかったという。それではということで岸田外相が5日にブリュッセル入りし、再交渉し6日の首脳会談につなげ、安倍首相のリーダーシップにより最終合意に至ったという、手の混んだ演出を行っている。あまりにも底が丸見えのシナリオである。
 7月上旬の読売と朝日の世論調査結果は、こんな誤魔化しが通用しなくなったことを如実に示している。内閣支持率が30%台に落ち、逆に不支持率は50%前後に増えている。嬉しいことに国民もやっと覚醒してくれたのである。

2017年07月05日

小池・都民ファーストの大勝利が民進党に示唆すること-信頼に足る受け皿があれば国民は自民・安倍政権など支持しない-17.07.05

 東京都議会議員選挙は、大方の予想をはるかに上回って、都民ファースト(以下「都民フ」)が大勝利した。公明党はいつものとおり1人の落選者も出さなかったが、都民フも島部で1人落選しただけで、49議席を占め圧勝である。(無所属6人を追加公認し、55議席となっている)自民は過去最低の38議席に達するかどうかなどと、今思えばかなり楽観的な予測が述べられていたが、よもや公明党と同じ23議席とは誰しも思わなかっただろう。
 自民の敗因は、あちこちに書かれているとおり、驕りである。可哀想なことに都政は築地・豊洲問題ぐらいで、争点はもっぱら国政問題となり、自民党候補は後ろから鉄砲で打たれどおしで、多くが討ち死にしてしまった。同情を禁じえない。

<安倍内閣の高支持は消極的理由のみ>
 東京都民の多くは、とても危うい安倍・自民党政権には日本の将来を任せられないというシグナルを送り出したのだ。安倍内閣(首相)の支持率は、6月下旬の世論調査では軒並み10ポイント以上近く下がったが、それでも40%前後を維持している。第1期政権と合計すると、5年目を過ぎている長期政権としては異例である。
 しかしその理由は、世論調査にも如実に表れているように、他に代わるべきものがないからである。実に4割近くが理由としてあげている。まず、自民党内に人材がいないこと、そして次に何よりも野党第1党・民進党が全くだらしなく、とても政権を託せる政党と思われていないからである。

<都市民が見切りをつけた驕れる自民党政治>
 そこに出現したのが小池・都民フである。大阪の橋下・維新、名古屋の河村・減税日本に続く、大都市の不満の受け皿である。前者は大阪都構想や行財政改革を掲げ、後者は減税一本である。但し、今は両方とも色褪せてきているが、都民フはその成り上がるスピードといい規模といい、前2者をはるかに凌いでいる。
 つまり、都民に限らず日本国民は、ずっとダラダラ続いてきた古い自民党政治にはもう何の魅力も感じていないのだ。それは民主党が躍進した2007年の参院選と2009年の衆院選と2回の国政選挙でも明確に示されていた。そして10年後の2017年の今も、実は底流には同じ流れがあることがわかってきた。

<民進党こそ大敗北>
 10年前、そして3年3ヶ月の民主党政権は、09年には民主党に対する期待は大きく膨らみ、いや膨らみ過ぎていた。そしてその期待に応えられないどころか、期待を裏切り、国民は失望に変った。都議選の大敗北は、何も自民党だけではない。もっと深刻な敗北者は、野党第一党の民進党である。
 野党第一党として、加計学園・森友学園で何度も攻めに攻めた。国民もやっと安倍政権の美辞麗句ばかりの政策に飽きがくると同時に、危険を感じ始めた。しかし、民進党は代わるべき受け皿にはならず、7議席から更に2議席減らし、5議席となった。直前の離党組が都民フの推薦を受け、そこそこ当選しているという言い訳が聞こえてきそうだが、誰も聞く耳を持たないだろう。現職8人を含め16人が相次いで離党届を出し、後に都民フに推薦してもらっている。泥舟から逃れ始めたのである。
 4年前、7~8選挙区で共倒れとなり、45議席から15議席に減ったが、今回は更に減った。一方、共産党は17議席から2議席伸ばして19議席。得票数も共産党77万票(13.83%)に対し、民進党は39万票(6.89%)と半分にしか達せず、前回の69万票(15.83%)と比べて半減した。民進党は都民からは、ほぼ完全に見捨てられたのである。

<野党共闘は一方的に共産党に譲るしかなくなる>
 もしこの結果から次期衆院選の民進・共産の野党共闘を考えるとしたら、東京にある25の小選挙区は、都議の議席数の按分比例だとしたら、共産党19選挙区、民進6選挙区であり、得票数の按分比例でも共産17に対し民進は8となる。ちなみにこれを自・公に当てはめると議席数では半々となり、得票数では自民16・公明9となる。このような平穏な共闘が組めるかどうか疑問だが、共産・公明とも主張できる立場にある。
 さて、候補者は上述で落ち着くとして、衆議院選の議席はどうなるか。7月4日の東京新聞は都議選の票をもとにしてすぐに試算している。小選挙区は都民フ13、自民11、公明1 比例代表区は都民フ7、自民4、共産3、公明2、民進1となる。つまり、民進党は合計42議席ある東京で比例でもたった1人しか当選できないことになる。

<新しい党に生まれ変わり、受け皿となる>
 ただ、今回の都民フの思わぬ躍進は、民進党にも一縷の望みを示している。つまり、自民党に代わるべき受け皿と認められれば、政権交代への途が拓けてくるということなのだ。その点を引責辞任した松原仁都連会長が、端的に次のように述べている。
 「自民党に対する国民の怒りの受け皿になれなかった。明快な敗北だ。5議席で一定の評価を出すようでは政権奪還する政党にはなりえない。敗北を認識するところから党勢を立て直さなければならない」。まさにその通りである。
 さすればどうすべきか。
 首都決戦で全く存在感を示せなかった民進党は、政党として終わったのだ。再生のためには3年3ヶ月の民主党政権の負の遺産は、私が2012年12月の大敗北直後から指摘しているように、(12年総選挙総括・民主党再生シリーズ13.02.05~13.2.22まで11回連載)完全に捨て去らなければならない。それを明確に国民に示して、全く新しい政党として再スタートしなければ、社民党と同じように消えていく運命にある。

<負の遺産を抱えた古い顔は消え去るべし>
 私は下野以来終始一貫して社民・生活はもちろん、経験と知恵と腕力を兼ね備えた小沢一郎と亀井静香までウィングを拡げた大野党統合に動いてきた。しかし、私の力は及ばず、なかなか実現しなかった。2016年やっと維新とだけ合流し、党名が変わったものの、中途半端なままである。自民党の補完勢力に成り下がった大阪維新は除外して、今でも大野党統合すべきである。小池・都民フは、都議会では5議席しかない民進党など目に入らないだろうが、国政は違う。もし都民フが国政進出してくるならば、大同団結して対自公に立ち向かっていくべきである。
 そして、何よりも負のイメージだらけの民主党色から脱するためには、象徴的古い顔は、次期衆院選では公認せず、民進党から出ていってもらうことである。小泉純一郎は、2人の大御所中曽根康弘と宮澤喜一を切り、新生自民党を演出している。党運営も、民主党政権を失敗に導いた負のイメージのある顔ぶれは一旦全員退いてもらい、全く新しい陣営で出直すことである。

<民進党の再生は地方・農村からしかない>
 民主党はかつて「1区現象」と呼ばれ、典型的な都市政党だった。しかし、愛知県のような例外はあるが、大阪でも東京でも今は全く支持が得られなくなりつつある。それに対して、逆に農村部は今も民進党を見捨てていない。2016年の参院選の32の1人区での勝利は、東北5県と甲信越(山梨・長野・新潟)、三重、大分の11県だったのがその証拠である。農民は民主党の農業者個別所得補償をやめ、デタラメなアベノミクス農政に走る自民党に敵意を示しているのだ。
 民進党の再生は、農村地域、地方から進める以外にない。東京もいってみれば一地方である。安保法制だ、特定秘密保護法だ、共謀罪だと国はかまびすしいが、国民はもうこうした路線に辟易している。もっと地域住民のことを考えた地に足のついた政治を望んでいるのである。
 我々民進党も、国政レベルでも小池・都民フに見習い「国民ファースト」を掲げ、地方から反旗を翻していくべきである。

2017年07月03日

【加計シリーズ6】 読売新聞の限度を越えた偏向報道 -新聞(マスメディア)の本務は権力の監視・抑制ではないか- 17.07.03

 私はTPPに関する五大紙の盲目的「TPP推進」の論調にずっとクレームをつけ続けてきた。山本七平ではないが、ユダヤ教では「全会一致の決議は無効」というのに、日本の全国紙の経済部は、グローバリズム、経済成長、競争原理、規制緩和・・・といった20世紀の古い価値観に完全に汚染されてしまったようだ。アメリカがTPPから離脱してもまだ揃ってTPPに固執していることが異様に映る。

<新聞も加担して戦争に突き進んだ日本>
 戦前の新聞は地方紙を含め、戦争に加担する記事のオンパレードになってしまったが、幸いにして今回は大半の地方紙がTPPに反対した。地方の疲弊がよくわかるからである。
 原発については、朝日、毎日が反対の立場であり、読売、サンケイ、日経が推進、そして東京新聞は絶対反対である。私は新聞によって主張・論調が異なって当然だと思っている。アメリカが離脱してもまだTPPに固執していることに情けなくなる。

<健全性を喪失した読売新聞>
 さて、今回の加計問題である。
 規制改革という大義名分を振りかざす安倍首相を擁護する新聞があってもよいし、それがいつものとおり読売新聞でも、相変わらずだなと思うだけで違和感はない。普通マスコミの役割は時の政権のチェックになるのだが、新聞・テレビ(マスコミ)=政府批判 というのは、あまりにもワンパターンすぎる。多様な考えがあってもよい。
 しかし、加計問題なかんずく前川前次官の読売の扱いは、首相の政治権力の行使が腹心の友にエコひいきが過ぎたのと同様に、酷すぎた。順を追って検証してみる。

<(1)出会い系バー通い(5/22)記事は、ゲス報道>
 前川前文科省事務次官(以下前川前次官)が、出会い系バー通いをしているという記事が、5月22日の読売に突然掲載された。大半の国民は何のことかよく意味がわからなかっただろうが、読売は3日後(25日)の朝日新聞や同日発売の週刊文春で、加計学園を巡り官邸がかなり圧力をかけて行政が歪められた、という前川前次官の記事を掲載するのを察知した上での、いわば事前の先制攻撃だった。書き方も露骨だった。「売春や援助交際の交渉の場になっている」と、あたかも罪を犯したがごとき記述である。
 26日の会見で菅官房長官は「教育行政の最高責任者が、そうした店に出入りして、小遣いを渡すようなことは到底考えられない」と批判した。読売の記事にそのまま呼応したのである。これでは、前川前次官の証言潰しのために官邸が事前に読売にリークしたと疑われても仕方あるまい。
 読売は明らかにマスメディアの良心、すなわち政権とは一定の距離を置いて監視・批判していくという基本姿勢を捨ててしまったのだ。

<憲法改正で安倍首相と歩調を合わせても何もおかしくない>
 私は、憲法改正について安倍首相と単独インタビューをし、それを国民に知らせた記事(5月3日)は批判に当たらないと思う。安倍首相が国会答弁に事欠いて「読売新聞に書いてある、ぜひ熟読していただきたい」と余計なことを言ったために批判されたが、悪いのは読売ではなく安倍首相である。新聞は社会の窓であり、国民の関心を政治家に伝えることも必要なら、逆に政治の中味をわかりやすく国民に示すのも大事な使命だからだ。読売新聞はずっと憲法改正を主張してきており、それを展開しているだけだ。

<前川攻撃は自由新報ならぬ「安倍新報」のそしりを免れず>
 しかし、ただ辞めたばかりの前次官のプライベートなことを、さも重大事件のように扱うのは度が過ぎている。恥ずかしくなったのだろう。6月3日、原口隆則社会部長名で言い訳記事が掲載された。言い訳しなければならない無様な記事だったからである。「次官在職中の私情にかかわる不適切な行動についての報道は公共の関心事であり、公益目的にかなうもの」と弁明している。いいでしょう。それなら、公共の関心事である加計問題を独自の取材(前川前次官の記事をこう称している)で掲載すべきだが、私が各紙の記事をずっと集めてみたかぎり、他紙と比べて圧倒的に分量が少ない。他紙がおしなべて1面で大きく扱っているのに、2面以下にちょっと書くだけという日も多い。読売の言葉を借りれば、まさに公共目的にかなった報道を怠っているのである。読売新聞は安倍政権の御用新聞化してしまったといえる。

<(2)「加計」の本質 規制巡る攻防(5/31)で見苦しいヨイショ>
 5月31日に「規制改革のために獣医学部の新設が必要」と、経産省出身の評論家岸博幸のかなり長めの文章を載せている。そればかりではなく、経歴に元経産官僚を入れ、役人OBであることを明示し、「前川発言に著しく違和感」とまで言わせている。前川前次官が本質を語っておらず「役人道」を外れているというのだ。「政治道」を大きく外れているのが官邸なのに、笑止千万である。加計問題は規制維持に固執する文科省と安倍官邸の攻防で、安倍官邸が正しい、というありきたりの論調である。あまりに露骨な支援記事に著しい違和感を覚えるのは私ばかりではあるまい。

<(3)規制改革の意義を丁寧に語れ(6/18)、と社説で安倍言い訳を繰り返す>
加計学園問題についても一貫して安倍首相、官邸を擁護し続ける読売は、ある意味立派というしかない。安倍首相がひたすら規制改革を叫ぶ(叫ばざるをえない?)ことを全面的に支持しているのだ。
 文系の学部新設は、金も設備も少なくて済む。臨床実習などなく、大講堂の講義で足りるからだ。それに対し獣医学部は6年間じっくりと獣医師を育成しないとならず、国費も相当投入される。だから需給を考えて規制してきただけのことだ。
 また、日本の畜産の衰退は、十分な獣医師がいなかったからとでも言うのだろうか。辻褄の合わないことを言うのはやめてほしい。
 国家戦略に結びつくライフサイエンスの研究という理屈はすっかり影をひそめ、今や獣医師が足りないからとばかり言い訳しだした。途中、各県でいかに獣医師が足りないかも読売だけが報じている。6/18の社説でも加戸守行前愛媛県知事の言を引用し、獣医師不足だとしているが、事実と全く異なる。前号(6/21)のブログで、山本地方創生相のいう挙証責任を農水省に代わりに示したと思う。

<(4)その他 あの手この手で加計学園、安倍首相のお先棒担ぎ>
 6/14 30面 加計問題、学部新設決定「正当」特区諮問会議民間議員5人が反論。
 「国家戦略特区の決定に不審の目が向けられる中、総理から獣医学部の新設を特に推進してほしいという要請は一切なかった」と、当たり前の弁明記者会見をしている。最初から結論ありきの会議は何のためかわからない。集団的自衛権の懇談会は認める派の委員ばかりにしていたが、私の予算委での指摘に対し、安倍首相は「空虚な議論を避けるため」と平然と答えている。同じように言いなりの都合のいい議員だけが選ばれているのである。客観的立場に立つべき諮問会議が安倍首相の意向ばかりを気にして決める「全自動忖度機」に成り下がっているために、わざわざ1時間半も言い訳しなければならなかったのだ。当然、読売は飛びつき、最も大きく報道した。

<6/16 2面 「特区制度の意義変わらず」は、内閣府を援護も逆効果>
 諮問会議の民間議員の言葉として、「これは総理の指示だ」と厳しい折衝を行なっていたとしても何ら不思議はない」と総理の意向すら擁護している。きちんとした政策論を通せずに、総理の指示を振りかざすのが折衝なのか。それを最初から加計学園ありきと、総理の意向だけで物事を進めるのは、虎の威を借りる狐でしかない。内閣府は和泉洋人首相補佐官といい藤原豊審議官といい、無能なヒラメ官僚ばかりが泳ぐ無用の長物と化している。
 一方読売新聞も上層部は、ひたすら安倍政権を守り続け、頻繁に会食し懐に入っているつもりで、マスコミの良心を失っている。日本一の販売部数を誇る読売新聞社に入社した、これから記者魂を発揮していこうとしている志の高い、若い記者が可哀想でならない。

2017年07月02日

【加計シリーズ5】 獣医師の地域・分野別の偏在は規制導入で解決 - 畜産業が傷めつけられ飼育頭数が減る中で、なぜ獣医師のみ必要なのか - 17.07.02

 安倍首相の獣医学部を巡る言い訳、格好付け、後付発言が飛び出した。獣医学部を3つ4つ造るというものであり、今までの方針をひっくり返すものだ。1校にしたのは、日本獣医師連盟が要請したからだと罪をなすり付けているが、順序が逆なことは明らかになっているというのに、また屁理屈を述べ始めた。

<お金のかかる獣医師の育成>
 その前に何でも市場原理が好きな山本地方創生相は50数年獣医学部の新設がなかったから質が落ちた、と迷言を吐き、獣医学会のひんしゅくをかっている。それでは、あちこちにできたアメリカの猿真似の法科大学院は法曹界の質を高めたのだろうか。まさに粗製乱造でピーク時74校の半分の34校しか募集しておらず、17校が廃止となっている。競争原理とやらの成れの果てで、大学を出たあと3年も学んで合格率がわずか2割である。あまたの若者にムダをさせていることになる。
 また、獣医学部同様になかなか新設が認められない医学部の質が落ちたのだろうか。全く違う文脈で新設するかどうか決められているのである。自由競争の世界が違うのだ。それを6年もかけてたくさん獣医師を作っておいて、その専門の仕事に就けなくても仕方ないでは済まされない。なぜなら、一人の育成にかかる費用が違うのだ。

<臨床実習が必要な学部はもとから少人数>
 最高学府東大2016年の募集人員でみると、法学部(文Ⅰ)401人、経済学部(文Ⅱ)353人に対し、医学部(理Ⅲ)は97人、獣医学科の定員はわずか30人である。この中間に工学部等理科系の学部がある。獣医学部は臨床実習のいろいろな教育施設が必要なのだ。だから、最初から需給関係を考えて定員が認められている。この単純な事実が首相も地方創生相もわかっていない。日本獣医師連盟が指摘するように、国際水準達成に向けた獣医学教育の改善には、教員を増やすなど別の手当が必要である。

<ほったらかしにされる分野別獣医師の存在>
 「分野別獣医師推移」の表にみられるとおり、小動物診察(いわゆる犬猫病院)に携わる獣医師の割合が、1970年の10.3%から2014年には4倍の38.9%と急激に増えている。それに対し、産業動物診療(大家畜)は24.7%から11.0%と半減している。医師の分野にみられる診療科目別偏在(命にかかわる産婦人科、小児科、外科が減っている)と同じである。
 自由に任せていたら人間誰しも楽して儲かるほうに向いてしまう。医師の世界では、医療過誤で訴えられず、お金がたくさんもらえる道を選ぶ。かくして診療科目別・地域別の偏在が生じる。
 この解決は安倍首相や山本地方創生相の大嫌いな規制で是正するしかない。
 〔14.4.11 環境委員会資料(大学における獣医学部・学科等の在学者状況)〕

<医師の地域別、診療科目別偏在の解決策> 
私は医師の偏在の解決策について「思い切った地方創生策 具体編―B地方に医者を」(14.12.08 14年末選挙シリーズ8)で触れた。そして6月7日(水)の厚生労働委員会で塩崎厚労相を相手に質疑応答をした。関心のある方は、両方(前者は衆議院のビデオライブラリー)を見ていただきたい。
 かいつまんで言うと、3~5年、各人の人生設計に会わせて国家が指定した地域、すなわち過疎地で医療活動を義務づけることである。国家試験をして資格を与えているのだから、これくらいの義務を課してもよい(これについては別途詳述する)。なにせ安倍政権は何かと国民に言うことをきかせようとしているのだから、医師にこのぐらいの公徳心を持ってもらって何もおかしくない。なぜなら国家もかなり援助しているからだ。1つ大金をかけて学部を造るのではなく、今の人員で賄うほうが財政上もずっと合理的である。
 診療科目の偏在は簡単に言うと診察報酬を増すことで、それなりに改善される。

<ペット病院の獣医師にも地方で大家畜診療の義務を課す>
 獣医師も国家が相当お金を投資して育成し、国家資格を与えている。一生のうち、3~5年国の意向に従って(総理の意向で?)畜産業の盛んな地域で働いてもらうことだ。
最初からペットしか扱わないと決めて獣医学部に行っている者も多いだろうが、後々のためにも足らない大家畜の診察を経験させておくべきである。なぜなら今後予期せぬ人畜共通伝染病もありうる。また、BSE、口蹄疫、鳥インフルエンザといった家畜の伝染は日本も経験済みである。緊急対応が必要であり、いざという時にはその地域の獣医師を総動員し手伝ってもらわないとならなくなる。そのためにも予め現場を知ってもらっておく必要がある。
 2010年6月~7月、私は2ヶ月弱、口蹄疫現地対策本部長として宮崎県庁に陣取っていた。牛の殺処分は首の静脈に注射を打つ必要があったが、日頃からやり慣れている者でないと無理で、全国から大家畜の獣医師に援軍してもらった。この時に大家畜の獣医師不足は身をもって体験している。

<大家畜診療に当たる獣医師を給与面で優遇する>
 もう一つは給与の問題である。役所の人事は、入省年次をもとに行われる。大半の行政官は4年制大学卒である。行政にも獣医師は必要だが、6年制である。民間のペット医はいきなり高給をもらえるのに、国家公務員は…といった日本の制度上の問題がある。国際機関は大学と修士と学士をきっちりわけている。つまり、学歴社会なのだ。ところが、日本はon the job trainingで、自らの組織で教育するシステムであり、学んできたことをあまり評価しない。
 民間の現場では、獣医診療手当 ○○%増しとか工夫しているようだが、どうもきちんと定着していない。戦前はその道のプロや課長より給与も高くして遇していた「勅任官制度」があった。犬猫病院の獣医師の給与に合わせて高給で処遇すれば、足りない畜産動物診療や農林水産分野の公務員も増える。これこそ国家戦略ではないが、単純に獣医師を増やせばいいなどということなら諮問会議などいらない。そしてこうしたプロ・専門家を遇するという改革に抵抗勢力があるなら、それこそ「総理の意向」で断行したらよい。

<支離滅裂の安倍言訳発言>
 安倍首相の苦しまぎれの言訳もとても聞いていられない。この分野の権威の唐木英明東大名誉教授(加計学園の倉敷芸術科学大学元学長)は、「獣医学部の設置や入学定員の増加を自由化したわけではない」と擁護していたが、今やそれを言い出したのだ。おわかりのとおり、加計学園は、金にあかせて下村元文科大臣に取り入るばかりでなく(週刊文春7月6日号【下村文科相「加計学園から闇献金200万円」】)学界にも手を回していたのである。
 すぐわかることだが、安倍首相は1校にするというのも国家戦略諮問会議の決めたことで自分は命じてないと言いつつ、今度は自ら3~4校でもいいと公言している。矛盾も甚だしいと言わねばなるまい。
かくして、内閣府の政僚が権力をかさに各省に命じ、御用学者がろくに考えもせず、忖度だらけの結論を出し、それで物事が決められていく。こんな不透明で不公平な決定過程で物事を決められてはたまらない。これが前川前次官のいう「行政のゆがみ」である。
 6月30日、稲葉睦全国大学獣医学部関係者代表協議会代表が記者会見して、広く大学教育・研究を前提に導きかねない」と指摘している。

<昔の私の女性獣医師活用提案>
 なお私は、環境委員会(2014年4月11日)の獣医学部問題でいつものとおり提案型質問をしている。そのときに初めて知ったことだが、当時でも既に女性が相当の割合を占め、私立大学では女性の割合が上回っていた。私は鳥獣害対策のために都道府県に動物のプロの獣医師を採用してあたらせるべきであり、その際別に女性の職場を広くするため、優秀な女性を意図的に採用すべしと提案した。
 県に獣医師が多くいれば、家畜の伝染病が蔓延した時にも対応できることになる。自民党政権は威勢よく自然災害に備えて100兆円もかけて公共投資を行うという。しかし、災害は地震、台風、火事ばかりではない。病気もありうるのだ。そのときに備えて対応できる人材の育成と、緊急事態に対応するネットワークの構築はもっと大切である。だからといって、何十年に1回のことに何人も人をかかえるのは非効率だが、今は中産間地域の農民を悩ます鳥獣害対策という日常業務がある。
 このブログに前述の環境委と厚労委で使った資料を添付したので比較してみていただきたい。
 〔17.6.7 厚生労働委員会資料〕

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